効率性や利便性を求めたさまざまな商品が安価で手に入る大量生産・大量消費によって、大量廃棄や環境への負荷という環境問題が広まるなか、「アップサイクル」という取り組みが注目されています。資源を計画的かつ持続可能に活用するアップサイクルとはどのような取り組みであり、どのようなメリットがあるのでしょうか。今回はアップサイクルについて、その意味や注目される理由、メリット・デメリットの解説と、アップサイクルに取り組む企業事例について紹介します。
アップサイクルとは?
資源の再利用やゴミの削減などの環境問題が重要視されている現在、「アップサイクル」というワードにも注目が集まっています。ここでは、アップサイクルの意味や今アップサイクルが注目されている理由について解説していきます。
廃棄される製品に付加価値を持たせて再利用すること
アップサイクルとは、不要になったものや廃棄予定の製品に新たな価値を持たせて再び製品として利用できるように生まれ変わらせることを指します。デザインやアイデアによって付加価値を加えることから「クリエイティブ・リユース(創造的再利用)」とも呼ばれます。
アップサイクル製品は30年ほど前からヨーロッパでは作られてきましたが、日本国内でもたとえば、廃棄予定の消防ホースや横断幕などに使われている端材、廃棄シートベルトの頑丈さや防水性を活かしたトートバッグや、大量廃棄が問題となっているビニール傘のビニールを用いたバッグなど、デザイン性の高いアップサイクル製品が生まれています。
アップサイクルが注目されている理由
なぜ今、世界各国でアップサイクルが注目されはじめているのでしょうか。その背景には大量生産や大量消費・大量廃棄によって引き起こされている環境問題があります。
2022年に世界人口は80億人を超え、2030年には85億人、さらに2050年までには100億人にまで拡大すると予測されています。さらに高齢化も進んでいくなかでは、資源の計画的で持続可能な方法を考えていかなくては、わたしたちの子孫の世代には資源の枯渇も避けられない状況になってしまいます。
大量廃棄の原因となる大量生産や大量消費の社会から、持続可能な社会への転換を図るためにもアップサイクルが注目されているのです。
アップサイクルとSDGsとの関係
廃棄予定の製品に付加価値を与えて生まれ変わらせるアップサイクルは、国連が掲げている持続可能な開発目標(SDGs)にも関連しています。このSDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された国際社会共通の目標で、2030年までの達成を目指し、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」を理念としています。アップサイクルは、大量生産・大量消費・大量廃棄をなくし、ごみの削減を目指すこととして、17の目標のうち、12「つくる責任、つかう責任」に該当します。
アップサイクルと似た言葉との意味の違い
これまでも環境問題やごみ問題が重要視されるなかで、「ダウンサイクル」、「リサイクル」などの似た言葉が使われています。似た言葉ではありますが、具体的にどのような意味の違いがあるのかを解説していきます。
ダウンサイクル
アップサイクルとは新たな付加価値を与えて製品を生まれ変わらせることですが、ダウンサイクルは文字通り、元々の製品よりも価値を落とした形での再利用方法を指します。具体的には古くなった衣類を雑巾にしたり、使用しなくなった車や自転車のパーツだけを取り出して再利用したりすることがダウンサイクルです。
リサイクル
アップサイクルは製品を一度資源に戻すことなく新たな製品として再生することを指しますが、リサイクルの場合は、廃棄予定の製品を一旦原料の状態に戻し、その原料から新たな製品を作ることを指します。ペットボトルを原料とした衣類や再生紙によるトイレットペーパーなどがリサイクルにあたります。
リメイク
リメイクとは、古くなった製品にアレンジを加えることを指します。アップサイクルと比較すると定義があいまいなところはありますが、リメイクの場合はアップサイクルのように付加価値を与えて元の製品よりも価値を高めるということを重要とはしておらず、元の製品よりも価値が下がることもあります。例えば、古着をバッグや小物として新たな製品として価値を与えることはアップサイクルと呼びますが、古着にワッペンや別の布を貼りつけたり、染め直したりすることはリメイクとなります。
リユース
リユースは、不要になった製品にアレンジを加えることなく、そのままや修理して使うことを指します。不要になった家電や家具、衣類などをフリーマーケットやフリマサイトで販売したり譲渡したりすることもリユースにあたります。リユースは資源活用ではありますが、新たな製品に生まれ変わって寿命が伸びることではありません。
リデュース
リデュースとは「削減する」という意味で、ゴミの量を減らしたり、製品を生産する際の資源量を削減したりする取り組みのことを指します。例えば、ペットボトルや空き缶などの排気量や資源量を削減するためにマイボトルを持ち歩いたり、プラスチックバッグではなくエコバッグを使用したりすることもリデュースにあたります。リデュースに取り組みながらも発生した不要な製品はアップサイクルやリユース、リサイクルなどに回すことが重要です。
アップサイクルのメリットとデメリット
不要な製品や廃棄予定の製品をアップサイクルすることは、環境的にも社会的にもメリットがある一方で、課題やデメリットもあります。ここでは、アップサイクルのメリットとデメリットについて解説します。
アップサイクルのメリット
アップサイクルのメリットとしては、下記のようなことがあげられます。
・原料を生産するために必要なエネルギーやコストが抑制できる
・リサイクルのように、原料に戻すために分解したり溶かしたりするエネルギーが不要となる
・原料に戻すための工場も不要なため、コストの削減ができる
・新たな付加価値の創造により、企業にとって新たな領域のビジネスチャンスにつながり、その技術を求める企業との新たな取引が増える可能性もある
・SDGsに関心を持つ層からの支持を得られるなど、企業のイメージアップにもつながる
アップサイクルのデメリットと課題
一方、アップサイクルのデメリットや課題には、下記のようなことがあります。
・アップサイクルは、廃棄や不要になったものを材料とするため、原材料の安定的な供給が見込めない
・アップサイクルの定着は、製品の廃棄の常態化につながることも考えられる
・アップサイクルに付加価値をつけるために新しい資源を使ってしまうと、本末転倒になるため、企業側のサプライチェーンの透明性(製品の生産・流通の一連の流れをどれだけ把握しているか)を高め、公開する必要がある
企業によるアップサイクルの取り組み事例
廃棄された製品、または廃棄予定の製品に付加価値を与え、新たな製品として販売している、企業でのアップサイクルの取り組みがあります。最後に、企業によるアップサイクルの取り組み事例について5例を紹介します。
不要なカラーコスメをクレヨンに(COSME no IPPO)
美容業界としてのゴミゼロを目指す「COSME no IPPO」では、家庭に眠っている不要となったカラーコスメを回収して、クレヨンへとアップサイクルするという取り組みをしています。日本各地から回収されたコスメにミツロウなどを混ぜて作るクレヨンは、箱ごとにクレヨンのカラーが異なる唯一無二という付加価値が与えられています。
参考:cosmenoippo(コスメノイッポ)|役目を終えたカラーコスメから生まれたクレヨン
(2025年2月時点)
廃棄されたビニール傘をバッグに(PLASTICITY)
「PLASTICITY(プラスティシティ)」では、その分解のしにくさからリサイクルが難しいとされるビニール傘のビニールをアップサイクル、バッグとして製品化しています。多くが焼却処分や埋め立て処理をされているというビニール傘を職人の手による丁寧な作業で新たなバッグという製品に生まれ変わります。
参考:PLASTICITY 公式サイト | ビニール傘を再利用するサステナブル 防水 バッグ レディース ブランド。(2025年2月時点)
野菜や果物の皮・芯をお菓子に(オイシックス・ラ・大地株式会社)
食品宅配サービスで知られる「オイシックス・ラ・大地株式会社」では、フードロス削減を目指す新ブランド「Upcycle by Oisix」を立ち上げました。なすのヘタをかりんとうのようにココナッツオイルであげたチップスや、有機バナナの皮を用いたジャムなど、環境負荷の低いアップサイクル商品を手掛けています。1製品あたりの食品ロス削減量を記載することで、消費者も削減効果を実感することができます。
参考:フードロス削減アクション(2025年2月時点)
廃棄された衣料をノートカバーに(コクヨ株式会社)
文具メーカー「コクヨ株式会社」が手掛ける「KOKUYO ME」は魅せる、コーディネートするなどのアクセサリーという価値を与えた文具シリーズです。多くが焼却ゴミとして処理される廃棄衣料に着目し、廃棄衣料をアップサイクルした素材を用いて、ノートカバーやポーチといった製品を提案しています。
参考:KOKUYO ME シリーズ|コクヨ ステーショナリー(2025年2月時点)
廃棄された楽器をインテリアに(島村楽器株式会社)
音楽教室や楽器販売を展開する「島村楽器株式会社」では、「楽器アップサイクルプロジェクト」を展開しています。小学校や中学校などから譲渡された廃棄楽器や部品を集め、提携する団体によってスタンドライトやテーブルといったインテリアにアップサイクルしています。さらにその利益の一部を活用して、国内外の子どもたちへ楽器の寄贈も行っています。
参考:島村楽器|全国展開を行っている総合楽器店(2025年2月時点)
まとめ
今回は、不要となった製品や廃棄予定の製品に付加価値を与えて新たに生まれ変わらせるアップサイクルについて解説しました。大量生産や大量消費、大量廃棄の社会から、持続可能な社会への転換を図るための取り組みであるアップサイクルは、原料を生産するために必要なエネルギーやコストも抑制できる、新たなビジネスチャンスでもあります。成功事例も参考にしながら、持続可能な社会づくりについて改めて考えてみてはいかがでしょうか。