時代とともに複雑化する市場の中で企業が成長し続けるには、企業が置かれている状況を客観的に分析して経営戦略に活かすことが大切です。
企業内外の状況を分析するフレームワークはたくさんありますが、中でも「ファイブフォース分析」は競合との競争を有利に進める戦略を立てる手法として注目されています。
しかし、「ファイブフォース分析はどのような分析方法なのだろう?」、「分析方法の具体的なイメージができない」と疑問を抱える企業の担当者も多いのではないでしょうか?そこで今回は、ファイブフォース分析の概要や含まれる要素、業種ごとの具体例を説明します。
先に具体例が知りたい方は、「ファイブフォース分析の具体例を紹介」の項目をご覧ください。
目次
そもそもファイブフォース分析とは?
ファイブフォース分析とは、他社との競争要素を分析し、将来的な市場の変化を予測しつつ、経営戦略を立てるためのフレームワークです。
ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル・ポーター氏が提唱した分析方法で、「フォース」とは「脅威」を意味し、自社を取り巻く環境で脅威となり得る要素のことを指します。マイケル・ポーター氏の著書「競争の戦略」では、経営するうえで欠かせない5つの要素が述べられており、これらを脅威や障害になり得る要因として分析するため、「5つの脅威」としてファイブフォース分析と呼ばれています。
なお、企業の現状分析を4つの観点で行うSWOT分析と呼ばれるフレームワークも存在します。ファイブフォース分析では一企業よりも業界や市場の状況における競争性などに着目しますが、SWOT分析では自社を取り巻く外部環境と内部環境を統合的に行います。それぞれ特性が異なる手法ですが、状況に合わせて必要なものを活用したり両者を連携して使ったりすることで、より細かな分析に繋げられます。
SWOT分析については、こちらの記事で詳しく解説しているので合わせてお読みください。
https://www.i-nobori.com/media/1317
ファイブフォース分析に含まれる5つの要素
では、ファイブフォース分析にはどのような要素が含まれているのでしょうか?ファイブフォース分析に含まれる要素は、次の5つです。
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
- 業界内競争
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
以下では、これらの要素について詳しく説明します。
買い手の交渉力
買い手とは、企業がターゲットとする顧客を指します。一般的な消費者だけでなく、取引先の企業が買い手になる場合もあります。
買い手の交渉力が強いと、次のような状態になります。
- より価格を下げるよう要求される
- さらに高い品質を求められる
たとえば、パソコンの購入を検討している顧客が「〇万円割引してくれたら購入する」、「追加のソフトウェアをインストールしてくれたら購入する」などの主張をする場合です。買い手の交渉に負けると値引きやサービスをしなければならないので、企業に残る利益が減ってしまいます。
それに対して企業側は「値付けの妥当性を説明する」、「顧客を限定しない」といった対策を取ることで、買い手の交渉に対抗しやすくなります。「商品の性能や相場に関してどれくらい知識を持っているか」のように、買い手が持つ情報量を把握しておくと、さらに有利に交渉を進められるでしょう。
売り手の交渉力
ファイブフォース分析における売り手とは、仕入れ先の企業のことです。
売り手の交渉力が高いと原材料などの仕入れコストが高くなるため、企業に残る利益が少なくなります。また、仕入れ値が高くなるぶん、商品やサービスの販売価格を高くしなければならないケースもあるため、企業によっては売上が伸び悩むかもしれません。
このような状況を回避するには、「より安価に仕入れできる取引先を選ぶ」、「仕入れの量を減らす」、「仕入れ先との契約を終了する」などの対策が考えられます。もし適切な仕入れ先が見つからなければ、事業運営に支障が出るでしょう。売り手と有利に交渉を進めるには、「あらかじめほかの仕入れ先を見つけておく」といった準備が必要です。
業界内競争
業界内競争では、競合他社をリストアップしてパワーバランスを比較しながら戦略を考えます。競合分析する際にチェックするポイントは、以下の項目が挙げられます。
- 競合企業の数
- 成長速度
- 事業運営にかかるコスト
- 従業員数
- 売上や利益
- 立地
- 商品やサービスの質や価格
- マーケティング手法
たとえば、「競合が品質のよいプリンターを安価に販売しているが、顧客数がそこまで多くない」という状況が把握できれば、「サブスクリプションサービスを導入して長期的なフォローアップを充実させることで顧客を囲い込む」のような戦略を考えられます。
また、「駅周辺や商業施設にはラーメン店が飽和状態となっている」ということが分かれば、「ラーメン店の出店が少ないエリアを選んで店舗を展開する」などの戦略を立案できるでしょう。
このように、競合とのパワーバランスや状況を比較しながら戦略を決めていきます。
新規参入の脅威
新規参入の脅威とは、業界内に新たな企業が参入することで競争が激しくなるリスクのことです。たとえば「ハンドメイド雑貨のオンラインショップを運営する」といった事業では、個人でも参入できることから「新規参入の脅威が高い」と言えます。一方、「クラウド型のビジネスツールを販売する」という事業では、ITに関する専門的なスキルが求められるため「新規参入の脅威が比較的低い」と言えるでしょう。
市場で長期的に売上を出し続けるには、新規参入しにくい状況を作り上げることが大切です。たとえば、「企業のブランド力や認知度を高める」「他社が真似できない技術力を身につける」「市場のシェアを独占して価格競争できない状況にする」といった方法が挙げられます。
しかし、近年は「インターネットやIT技術の発展」、「市場の多様化」などにより、思わぬところから競合が参入する可能性があります。たとえば、国内企業に参入の余地がなくても海外企業が参入してきたり、ほかの事業をしていた企業が競合を買収して新たな市場を作ったりすることなどが考えられるでしょう。そのため、新規参入の脅威に備えるには、市場の変化を常に注視することが大切です。
代替品の脅威
代替品の脅威とは、既存の商品やサービスが、ほかのものに代替されてしまう恐れのことです。代替品の脅威が強いほど、顧客がほかの方法でニーズを満たしやすくなるので、売上や集客を維持しづらくなります。一方、商品やサービスに独自性があれば代替品の脅威が弱まり、長期的に購入してもらいやすいです。
たとえば、以前は「本を購入したい」というニーズを持った人は、書店に行って商品を探すのが主流でした。しかし近年は、インターネットを利用して本を自宅に届けてもらったり、オンラインで読書ができたりするようになっています。このように、顧客が「書店に行かずに本を手に入れる」という選択ができる状況になると、書店は新たな戦略を考えなければなりません。
時代の変化に対応して売上を出し続けるためには、「購入前に本の内容を確認できる」「知人と貸し借りできる」のように、代替品にはないメリットを活かすことが大切です。企業が持つ独自性を活かした戦略を考えれば、市場で売上を出し続けられるでしょう。
ファイブフォース分析の具体例を紹介
ここまでは、ファイブフォース分析に含まれる要素について説明しました。ファイブフォース分析の理解を深めるには、業種ごとの具体例を知っておくことも大切です。
以下では、ファイブフォース分析の具体例を紹介します。
海外IT企業の分析例
海外の大手IT企業は、業界内でも高いブランド力を持っているため、スマートフォンや各種ソフトウェアで高いシェア率を誇っています。世界中で需要が高い製品を多数販売しているため、買い手の交渉力は低く値下げの余地がほとんどありません。
しかし、IT業界には多くの競合が存在するため、大手であっても常に代替品の脅威にさらされています。消費者に求められ続けるためには、継続的な改善と成長が必要です。また、より安価な製品を大量に生産できる中国が脅威になるため、新規参入企業の動向に注意しなければなりません。加えて、競合他社の値下げに対抗するためにも、今後は手頃な価格で商品やサービスを提供する戦略を考える必要がありそうです。
航空業界の分析例
国内の航空業界では、顧客がチケット料金について交渉できないので、買い手の交渉力は弱い状態だといえます。しかし最近は、料金比較サイトの登場によって代替品の脅威にさらされているため、適正な価格設定が求められています。
航空業界において、売り手の交渉力は高いと言えます。航空機に必要な部品などを製造する企業は少ないからです。もし、より品質の高い部品を安価に提供する企業が出てくれば、将来的に売り手の交渉力が下がるかもしれません。
また、格安航空の登場により、業界内競争は以前より活発化しています。割安価格で航空チケットが手に入るため、サービスやプランなどで独自性を出さなければ、競合に顧客が流れてしまうかもしれません。
自動車メーカーの分析例
国内大手自動車メーカーの場合、業界内競争が活発なので、いかに多くのシェアを獲得するかが重要です。しかし、大手自動車メーカーならではのブランド力や技術力を身につけているため、新規参入の脅威は低いです。
また、自動車部品を安価に提供する企業は世界中に多くあるため、売り手の交渉力は低いといえます。しかし、消費者が購入する際は「値引き交渉をする」、「高ければ別のメーカーを選ぶ」といった選択ができるため、買い手の交渉力は強い状態です。さらに、人口が首都圏に集中していることも考えると、今後は自動車を持たない人が増えるかもしれません。カーシェアリングや自動運転、新たな移動手段の開発など、時代の変化に応じた戦略を練る必要がありそうです。
ハンバーガーチェーンの分析例
ある大手ハンバーガーチェーン店では、「価格の安さ」、「提供スピードの早さ」を売りに事業を展開しています。買い手の交渉力や代替品の脅威は強いものの、うまく消費者のニーズに対応してきました。
新規参入の余地はありますが、すでに圧倒的なシェアを誇っているため、そこまで大きな脅威にはならないでしょう。しかし、「ファストフード業界」という特徴から、コンビニや牛丼チェーン、回転寿司チェーンなど、幅広い業者が競合になる可能性があります。ファストフード業界にはさまざまな事業が存在するため、幅広い消費者層を囲い込む戦略を考えなければなりません。
国産家具メーカーの分析例
国内の家具メーカーは、以前はショールームで商品を販売していたため、買い手の交渉力は高くありませんでした。しかし、近年、インターネット上で価格を比較、購入できるようになったため、買い手の交渉力が増すとともに、代替品の脅威が強まりつつあります。
また、素材にこだわって仕入れするので、売り手の交渉力が高まり利益が残りにくくなっています。経営状態も悪化しており、従来のように品質の高い家具を提供し続けるには、新たな戦略を考えなければなりません。
国内のガラケー業界の分析例
日本の高い技術力によって製造されていたガラケー(ガラパゴス携帯)は、業界内競争を有利に進め海外企業の参入を許しませんでした。しかし、スマートフォンという新規参入の脅威にさらされ、一気に市場のシェアを奪われました。
直感的に操作できるスマートフォンは、ガラケーでは満たしきれない消費者のニーズを満たした「代替品の脅威」の代表例です。不満があれば簡単に機種変更できるという「買い手の交渉力の強さ」も、シェアが急速に縮小した要因だといえるでしょう。
まとめ
ここでは、ファイブフォース分析の概要や要素ごとの特徴、業種ごとの分析例について説明しました。
ファイブフォース分析をする際は、はじめは思ったように分析が進まなかったり売上につながる戦略立案ができなかったりするでしょう。しかし、分析を繰り返して企業に必要な情報をうまく見極められるようになれば、市場で有利なポジションを獲得できる戦略を立てられるようになります。ここで説明した内容を参考にして、ファイブフォース分析を有効活用しましょう。