企業が提供する商品やサービスに満足してもらうには、顧客の内面的な部分に焦点を当ててアプローチすることが大切です。
マーケティングにおいて顧客の心情を表す言葉に「ニーズ」や「ウォンツ」がありますが、これらの違いが曖昧になる人も多いのではないでしょうか。
顧客の心情を汲み取ったマーケティングができると、購入後の満足感が高まるので、継続的な利用につなげられます。今回は、ニーズとウォンツの違いやニーズをウォンツに変換する方法、ウォンツからニーズを把握する方法について詳しく説明します。
目次
ニーズとは?
ニーズとは直訳すると「必要」を意味し、マーケティング用語としては「目的」のことを指します。
たとえば、「気分転換したいので旅行に行きたい」という人の場合、「気分転換したい」状態がニーズになります。また、ニーズは次の2つに分類できます。
- 顕在ニーズ
- 潜在ニーズ
顕在ニーズは「消費者が自分自身で気づいているニーズ」を意味します。
先ほどの旅行の例でいうと「気分転換したい」が該当します。顕在ニーズは顧客自身も言語化できていることが多いので、企業からも察知しやすいのが特徴です。
潜在ニーズは「消費者が気づけていないニーズ」を意味します。
同様に旅行の例でいうと、「最近いつもの調子が出ないけど、なぜだろう?」といった状態が考えられます。このような潜在ニーズがある人に「休日は旅行に出かけて気分転換しませんか?」というキャッチフレーズで旅行プランを提案するマーケティング戦略を実施することで、前向きに検討してもらえる可能性があります。
そのため、マーケティング活動において、顕在ニーズを満たすだけでなく、いかに顧客の潜在ニーズを掘り起こせるかのマーケティング戦略を立てられるかが重要となります。そして、潜在ニーズは顕在ニーズを深堀していくことで見つけ出すことが可能です。
しかし、ニーズを把握するだけでは、「結局、何を提供すれば満足できるか」を察することはできません。商品やサービスの購入につなげるには、ニーズをウォンツに変換する方法を身につけることが大切です。
ウォンツとは?
ウォンツとは直訳すると「欲求」を意味し、マーケティング用語としては「ニーズを満たすための手段」のことを指します。「体を動かしたい」、「旅行に行きたい」、「のどの渇きを潤したい」などがウォンツになります。ニーズでは漫然と何かを欲している状態でしたが、ウォンツになると手に入れたいもの、体験したいことが具体的なのが特徴です。そして、ウォンツは大きく分けて次の3つに分類することができます。
- 基本ウォンツ
- 条件ウォンツ
- 期待ウォンツ
基本ウォンツとは、ニーズ(目的)を満たすために、商品やサービスに求める欲求です。たとえば、「体を動かしたい」というニーズに対して、「スポーツジムに行きたい」というように、多くの場合で最初に連想されるものが基本ウォンツになります。
条件ウォンツとは、基本ウォンツを満たし、さらに理想へ近づくために条件がついた欲求です。先の「スポーツジムに行きたい」という欲求に対して、「インストラクターに指導してもらいたい」という具体的な条件付けがされることが条件ウォンツとなります。
期待ウォンツとは、過去の経験などを元に潜在的に浸透している、求める欲求が満たされることが当然であると期待感が高まっている状態です。スポーツジムの例であれば、「専用の器具で体を鍛えられる」が期待ウォンツになります。
しかし、ウォンツに沿って商品やサービスを提供するだけでは、消費者のニーズを満たせるとは限りません。なぜなら、「体を動かしたい」というウォンツを持っている人がいても、ジムを運営している企業が、専用器具を使って黙々と一人でトレーニングできることを提案するのと、インストラクターがマンツーマンで指導してくれることを提案するのとでは、顧客満足度が変わるからです。そのため、顧客が納得する商品やサービスを提案する際は、ウォンツからニーズを探る方法を知っておくことが大切です。
ニーズとウォンツの違いとは?
ここまでは、ニーズとウォンツそれぞれの特徴を挙げましたが、これらにはどのような違いがあるのでしょうか?下記の表はニーズとウォンツの違いをまとめたものになります。
違い | ニーズ | ウォンツ |
---|---|---|
代替可能かどうか | 代用不可 (例)気分転換をしたいという思い |
代用可能 (例)旅行に行きたい |
価格競争につながるかどうか | 価格競争に陥りづらい | 価格競争に陥りやすい |
調査しやすいかどうか | 調査しづらい | 調査しやすい |
ニーズとシーズの違いとは?
まず、シーズとは「種」を意味し、企業独自が持つ技術やノウハウのことを指します。ニーズとシーズの大きな違いは、ニーズが消費者の欲求という消費者視点であることに対し、シーズは企業が消費者に提供できる価値という企業視点であることです。
シーズをもとに生まれた商品例として「スマートフォン」が挙げられます。スマートフォンは、従来の携帯電話になかった機能やデザインなどに付加価値をつけ販売されました。そして、今では日常生活にかかせないアイテムの1つとなっています。しかし、シーズから生まれる商品やサービスは、新しい市場を作るイメージのため、必ずしも消費者のニーズと一致するとは限らないため、注意が必要です
ニーズをウォンツへ転換する手法とは?
では、顧客が持つニーズをウォンツに転換するにはどうすればよいのでしょうか。
ニーズをウォンツに転換する方法には、次の3つがあります。
- 商品やサービスを認知してもらう
- 選択肢に優位性を持たせる
- 企業のブランド力を高める
以下では、これらの手法について詳しく説明します。
商品やサービスを認知してもらう
どれだけ消費者のニーズを満たす商品やサービスを開発できたとしても、それが認知されていなければ購入を検討してもらえないため、売上を伸ばすのは困難です。
マーケティング業務を自動化するITツールを開発した企業の例で考えてみましょう。
そもそもターゲットが「マーケティング業務が自動化できる」という概念を知らなければ、導入を検討してもらえません。「マーケティング業務を効率化させたい」というニーズがあってもそれを満たす手段を知らないため、いつになってもウォンツに転換できないのです。
そのため、まずは「マーケティングを自動化できるITツールがある」という情報を、潜在的ニーズを持つターゲットに届ける必要があります。広告やチラシ、ダイレクトメールやSNSといった手法をうまく活用すれば、効率的に企業の情報を広められます。
選択肢に優位性を持たせる
ターゲットのニーズを満たす方法は、1つではありません。
先程のマーケティングツールの例で考えると、顧客管理を自動化するツールや営業支援ツールなど、企業の業務を効率化させるものはたくさんあります。これらのツールから自社のツールを選んでもらうには、ほかの選択肢よりも優位性を持たせることが大切です。
たとえば、「他社のツールはインストール型の製品ばかりであるが、自社製品はクラウド型なので、インターネット環境さえあればどこからでも利用できる」「導入してから業務に定着するまでのサポート体制が充実している」といった違いを持たせると、ウォンツがはっきりしていない顧客にも「サービスを利用したい」と思ってもらいやすくなります。
また、他社より優位性を持たせる際は、競合とばかり比較しがちですが、ITツールの発展や市場の多様化により、想定していなかった業種の企業が競合に変化する場合があります。海外企業の参入や企業同士の合併や買収など、市場の動向を注意深く観察することが大切です。
企業のブランド力を高める
消費者がほかの商品・サービスと比較する余地がある場合、まだ企業が十分な優位性を持っているとはいえません。市場においてさらに優位性を高めるには、企業のブランド力を高める必要があります。
たとえば、「ITツールなら○○社のツール」「業務効率化なら○○社のツール」のように、ニーズを持ったタイミングで企業名や商品名を連想できれば、ブランド力が高いといえます。
企業や商品・サービスのブランド力を高めるには、積極的なメディアでの露出や独自の強みを活かした商品の開発など、さまざまなブランディング施策があるので、ほかのマーケティング施策とあわせて実践しましょう。
ウォンツからニーズを把握する方法
顧客に商品やサービスを購入して満足してもらうには、ニーズをウォンツに変換するだけでなく、ウォンツからニーズを把握する方法を知っておくことも大切です。ウォンツからニーズを把握する主な方法は、次の3つです。
- ウォンツからニーズを推測する
- ウォンツを深堀りしていく
- アンケートや調査からニーズを把握する
以下では、これらの方法について詳しく説明します。
ウォンツからニーズを推測する
すでに述べたように、ウォンツは「○○を利用したい」「○○を手に入れたい」という気持ちがはっきりしています。そのため、把握しているウォンツからニーズを推測することで、消費者が本当に求めているものを察知できます。
飲食店を例にすると、お客様が「温かい麦茶をください」と注文したときに、「今日は少し肌寒いので温かいものが飲みたいのではないか」といったニーズを推測することができます。このとき、言葉だけでなくお客様の表情や仕草などを観察するとより推測がしやすくなります。
ニーズが推測できれば、さまざまな提案が可能です。
もし麦茶を提供していない店でも、ニーズを把握して「麦茶はありませんがホットコーヒーかホットウーロン茶ならあります」のような提案ができれば、「では、ホットコーヒーをください」などの注文につなげられます。
飲み物以外でも、「空調の温度を上げる」などのサービスにつなげることで顧客満足度を高めやすくなります。
ウォンツを深堀りしていく
ウォンツに対する質問を繰り返すことで、消費者が抱えるほかのニーズも汲み取れます。
たとえば、上記の「体を温めたいから」という理由に対して、「なぜ体を温めたいのですか」と深堀りします。すると、「外が寒かったから」「冷え性だから」「体を温めてリラックスしたいから」のように、顧客ごとに異なるニーズが見つかります。
それによって、「外気温が低い時期は出入口の温度を高めに設定する」「ひざ掛けの利用を提案する」「顧客が操作できるヒーターを設置する」などの対策を取れば、より多くの消費者に喜ばれやすくなると考えられます。
アンケートや調査からニーズを把握する
消費者ニーズを把握する方法として、実際にアンケートや調査を実施することも効果的です。なぜなら、アンケートやモニター調査によって、消費者自身が言語化できる顕在ニーズを把握するのに効果的だからです。
アンケートやモニター調査から一定の顕在ニーズの傾向を掴むことは可能ですが、定性的な側面の強い潜在ニーズまでを見極めることは困難です。そのため、最終的には、収集した顕在ニーズを掘り下げながら潜在ニーズを推測し、欲しい情報を得られるようにしていくとよいでしょう。
まとめ
ここでは、ニーズとウォンツそれぞれの定義や違い、ニーズウォンツへ転換する方法やウォンツからニーズを把握する方法について説明しました。
どちらも似たような概念ですが、これらを区別して考えながら戦略を考えると、より顧客満足度の高い商品やサービスを提供できるようになります。ここで説明した内容を参考にして、ニーズとウォンツをうまく使い分けて顧客満足度を高める施策を実践しましょう。
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