モノや情報が充足しつつある現代は、市場の動向を適切に見極めて、成果につながる事業戦略を考えなければなりません。また、業種によっては競合がたくさんあるため、いかに他社と差別化を図って生き残るかを考えることも大切です。
時代の変化に適応できる企業であり続けるためには、定期的に「環境分析」をおこなう必要があります。環境分析とは、企業の内外の経営環境を分析することを意味します。
環境分析に適したフレームワークとして「PEST分析」が挙げられます。
PEST分析をおこなえば、コントロールが難しい外部環境の分析ができるため、企業が受ける影響や市場の変化を考えつつ取り組むべき施策を考えられます。
今回は、そんなPEST分析に焦点を当てて、分析方法や事例、押さえておくべきポイントを紹介します。
目次
まずはPEST分析について知っておこう
企業内外の環境を的確に分析するためには、まずPEST分析についての知識を深める必要があります。
以下では、PEST分析の概要や必要になる場面について詳しく説明します。
そもそもPEST分析とは?
PEST分析とは、マーケティング分野の第一人者であるフィリップ・コトラー氏が提唱したマクロ分析の手法です。企業が制御できない外部環境(マクロ環境)を分析するフレームワークで、次の4つの観点で環境分析をおこなうのが特徴です。
- Politics(政治)
- Economy(経済)
- Society(社会)
- Technology(技術)
これらの要因は企業が直接コントロールできないので、それぞれの要因が事業にどの程度の影響を与えるのかを分析して、優先順位を考えながらマーケティング手法を立案する必要があります。企業が置かれている状況を客観視すれば、社会的なニーズや市場の変化を予測した戦略を考えられるようになります。
以下では、PEST分析の4つの観点について、具体例を交えて説明します。
Politics(政治)
政治の領域では、政府が打ち出す政策や法改正といった動向をチェックします。
たとえば、働き方改革の推進や消費税増税、法人税の減税といった内容が挙げられます。
政治の状況にも事業に関連するものとそうでないものがあるため、効率的に分析を進めるためには、関連性の高いものに絞って情報を集めることが大切です。
飲食店であれば「受動喫煙防止条例の制定」、小売店であれば「消費税増税」、企業向け製品の開発会社であれば「法人税の減税」のように、事業に大きな影響を与えそうなものから順に挙げましょう。
Economy(経済)
政治と同様に、経済の領域に関しても幅広い情報から事業に関連性の高いものを選択します。着目すべきポイントとして、次のような項目が挙げられます。
- 景気の変化
- GDP
- 雇用に関するデータ
- 賃金の改定
- 物価の動き
- 消費動向指数
これらのデータの収集にはインターネットが便利です。
例えば、人材採用や派遣をしている企業の場合、厚生労働省が発表している「若年者雇用実態調査」、日用品を販売している企業の場合は、総務省が提示している「消費動向指数」といったデータを用いると良いでしょう。
Society(社会)
社会の領域は、消費者の需要に深く関係している部分です。分析する要素には次のようなものがあります。
- 人口動態
- 流行や習慣
- 生活者の慣習
- 社会的事件
- 文化的な背景
- 社会インフラ
- 教育体制
少子高齢化やリモートワークの推進といった変化が起こると、需要が変化して新たな事業展開が求められたり、既存事業の撤退が必要になったりするケースがあります。タイムリーに社会の動向に対応することで、市場で有利な立ち位置を獲得しやすくなります。
Technology(技術)
技術の領域は、今後の消費者の生活や事業の進め方に大きく影響する部分です。分析する要素には次の項目が含まれます。
- クラウド化
- AI
- ドローン技術
- 開発技術
- 生産技術
- マーケティングツール
たとえば、通販サイトでファッションアイテムを販売している企業の場合、「マーケティングツールが普及したため、ツールを導入することで顧客の動向に合わせたプロモーションをおこなう」といった施策を考えられます。
農業においては、「ドローンで農薬を散布することで人材不足を補いつつ効率的に仕事を進められるようになる」といった戦略が立案できます。
PEST分析が必要になる場面とは?
PEST分析が必要になる場面は、「新たな事業に取り組むとき」や「既存ビジネスを転換するとき」など、さまざまな場面があります。
たとえば、これまで開発や販売に注力してきた商品が、法律の改正によって販売規制の対象になることが挙げられます。主力商品を今まで通り売れなくなると、売上が大幅に低下するかもしれません。しかし、販売経路や商品の構造を変えれば、規制されることなく販売し続けられる可能性が高まります。このように「社会のトレンドが変化するタイミング」などで分析することも大切です。
時代の流れに応じてタイムリーな分析ができれば、外部環境の変化に合わせて柔軟に事業方針を転換できます。
PEST分析のやり方をご紹介
PEST分析をマーケティング戦略に役立てるためには、適切な分析を行うことが必要です。まずは、前述した4つの要素の洗い出しと分類から行いましょう。各要素について情報が集まっていなければ分析結果も曖昧なものになってしまう可能性があります。それぞれの要素について情報がまとまったら、以下の手順でより細かく見ていきましょう。
- 各項目を機会と脅威に分ける
- 機会と脅威の時間軸を見極める
- 具体的な戦略に落とし込む
それぞれの工程について詳しく解説していきます。
各項目を機会と脅威に分ける
「PEST」それぞれの観点で企業に与える影響を抽出したら、まずは各要素ごとに、洗い出した項目を「機会」と「脅威」に分類します。業界全体としては「機会」となる要因が自社にとっては「脅威」になったり、一見「脅威」に思えても自社にとっては「機会」になったりする場合があるので、一般的な影響ではなく自社に与える影響を考えることが大切です。
たとえば、「消費税増税」という変化は消費を停滞させるので「脅威」になる可能性が高いです。しかし、魅力的な商品やサービスを他社より手頃な価格で提供している企業であれば、「費用を抑えて手に入れたい」という消費者のニーズにマッチして、売上アップにつながるかもしれません。
他にも、少子高齢化を例にとると若年層の顧客をターゲットとしている企業では顧客の確保するのが難しくなりそうですが、高齢者向けの商品を扱う企業にとっては「機会」になる可能性があります。
PESTで集めた情報と自社の立ち位置を掛け合わせ正確に見ることで、自社にとっての脅威と機会を見極めましょう。
機会と脅威の時間軸を見極める
「PEST」で挙げた要素を「機会」と「脅威」に分類したら、次はそれらの影響が短期的に起きるか長期的に起きるかを見極めます。たとえば、「少子高齢化」であれば、年数をかけて少しずつ影響が出てくるでしょう。一方、「社会情勢の変化によるリモートワークの推進」のように、数か月で影響が出るものもあります。
このように、それぞれの要素が企業に及ぼす影響を時間軸で整理しておかなければ、担当者間で認識がずれたままマーケティング戦略を進めることになってしまいます。集客や売上を高めるマーケティングをおこなうためには、「機会」と「脅威」の時間軸を統一したうえで戦略を練ることが大切です。
具体的な戦略に落とし込む
「機会」と「脅威」の時間軸を明確にしたら、それらを参考に具体的なマーケティング戦略を考えます。
具体例として、「大手通信会社が5年後に5G通信のカバー率を95%にする予定である」という要素に対して、「自社が提供しているVRやAR技術に5G技術を活用して、5年後に5G通信に対応したコンテンツを配信する」といった戦略が挙げられます。ほかにも、「リモートワーク助成金を活用して、今年中にオフィス勤務する社員を30%まで減らす」といったことも考えられます。
PEST分析をするだけでは事業方針を最適化させられないので、「分析結果をマーケティング戦略にどう活かすか」を考えながら分析を進めましょう。
なお、マネケルではPEST分析に活用できる無料のテンプレートを用意しております。以下のボタンからダウンロードできるのでぜひ使ってみてください。
子ども向けプログラミング教材の開発におけるPEST分析
PEST分析をより具体的にイメージするためには、PEST分析の事例を知っておくのが効果的です。以下では、業種別にPEST分析の事例を紹介します。
子ども向けプログラミング教材の開発におけるPEST分析
子ども向けプログラミング教材を開発する企業の場合、次のような分析ができます。
Politics(政治) |
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Economy(経済) |
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Society(社会) |
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Technology(技術) |
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これらの分析結果から、「幼少期からプログラミング教材に触れることで、社会の変化に適応する能力や価値を創出する力を身につけられる。スムーズな就職につなげて高収入を目指せるため、子ども向けプログラミング教材の需要は高まるだろう」という予想ができます。
分析結果を活かして「プログラミング学習をしながらゲームの開発もできる教材」や「プログラミング学習を通して身近なモノを動かせるようになる」といった戦略に応用すれば、社会の動向や消費者のニーズを満たす商品をつくりやすくなるでしょう。
自動車業界におけるPEST分析
自動車業界でPEST分析をした一例を紹介します。
Politics(政治) |
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Economy(経済) |
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Society(社会) |
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Technology(技術) |
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この分析結果から、「ガソリン車のシェアが縮小して自動運転機能を搭載した電気自動車が一般化されると考えられる。若者の車離れが進んでいることから新たな移動手段を確立する必要がある。また、カーシェアリングを導入することで、自動車を維持・管理するコストを抑える必要もある」といった予想ができます。
すでに電気自動車の開発競争が激化していることから、「シェアリングサービスに力を入れる」「新たな移動サービスの開発に力を入れる」といった戦略を考えるのもひとつの方法です。
携帯電話業界におけるPEST分析
携帯電話業界におけるPEST分析の例は、以下のようになります。
Politics(政治) |
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Economy(経済) |
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Society(社会) |
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Technology(技術) |
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携帯電話業界では、利用料金値下げが求められる反面、「より高度な技術を搭載したデバイスを使って充実したコンテンツを楽しみたい」というニーズが高まっています。「複数人で円滑にプロジェクトを進められるツールの開発」「5G技術を活用したエンターテイメントの提供」など、携帯電話を使用するユーザーの多様なニーズをいかに満たすかについて考えることが大切です。
PEST分析を実施する際に押さえておくべきポイント
ここまでは、PEST分析の事例を業種別に紹介しました。これらの事例を参考にして企業の外部環境を分析するのも大切ですが、次の2つのポイントを意識することも重要です。
- 分析する目的を明確にする
- 脅威と機会を転換できるか考える
以下では、PEST分析を実施する際に押さえておくべきポイントについて詳しく説明します。
分析する目的を明確にする
すでに述べたように、PEST分析をする場面は「新たな事業に取り組むとき」「既存ビジネスを転換するとき」「社会のトレンドが変化するタイミング」などさまざまです。
これらのタイミングで必要な情報を集めてうまく分析するためには、PEST分析の目的を明確にしなければなりません。
たとえば、「コーヒーを提供する店舗を新たに展開しよう」と考えている場合、「コーヒーチェーン店に対抗できる施策を考える」といった目的だけでは適切な分析ができません。もし「価格を抑えたコーヒーを提供する」という戦略を導き出すと、安価にコーヒーを販売しているコンビニやファストフード店と競合してしまうからです。
「コーヒーを提供している店舗を洗い出し、自社にとって有利なポジションを見つける」という目標を設定すれば、より幅広い視野で外部環境を分析できます。「コンビニやファストフード店にはない独自ブレンドのメニューをそろえて、コーヒーチェーン店よりも単価は高めに設定する」といった戦略を立てれば、独自の立ち位置を確立できるかもしれません。
脅威と機会を転換できるか考える
目的を持ってPEST分析をしても、分析結果をうまく活用できなければ成果につなげられません。分析結果に基づいた戦略を立てるだけでなく、「脅威を機会に転換できないか」「機会は脅威になりうるか」を考えることで、より精度の高い戦略を導き出せます。
先ほどのコーヒーを提供する店舗の新規展開を例にすると、他店で若年層の獲得に成功している場合、「シニア層に焦点を当てて商品をラインナップする」といった戦略を立案できます。
また、「サブスクリプションサービスを導入して、利用頻度によってはコンビニやファストフード店よりお得にコーヒーを飲めるようにする」といった戦略を立てれば、さらに多くの顧客を獲得できる可能性があります。
まとめ
ここでは、PEST分析の概要や事例、分析する際のポイントについて説明しました。
PEST分析では、必要以上に情報を集める必要はありませんが、集めるべき情報が漏れていないかをチェックすることも大切です。ここで説明した内容を参考にして、市場で有利に事業を展開しましょう。