どれだけ魅力的な商品やサービスを開発しても、事業を展開する市場を間違えると、思ったように売上を伸ばせなくなります。企業が参入する市場を適切に分析するためには、「セグメンテーション」をおこなうことが大切です。
しかし、「そもそもセグメンテーション分析を知らない」「セグメンテーション分析をどのように進めればよいか分からない」という人も多いのではないでしょうか。企業が有利に事業展開できる市場を見つけられるよう、ここではセグメンテーション分析の概要や重要視される理由、市場の分類方法や成功事例について詳しく説明します。
目次
セグメンテーションとセグメンテーション分析とは?
まずは「セグメンテーション」という概念を理解し、それを踏まえてセグメンテーション分析とは何を行うのかを最初に知っておきましょう。
セグメンテーションとは
セグメンテーションとは、STP分析の一つで「市場や顧客をニーズや性質ごとに細分化してグループ分けすること」を指します。
STP分析は、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の3つの要素から成り立つマーケティング戦略のフレームワークです。3つの軸によって、市場における自社や競合の立ち位置、顧客との関係性がどのようになっているかを把握します。
セグメンテーションでは一般的に、年齢や性別、職業や趣味などの切り口でグループ分けするケースが多いです。
STP分析についてより詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみてください。
セグメンテーション分析とは
グループごとにどのようなニーズを持った消費者が多いのか、競合がどれくらい存在するのか」を分析することを「セグメンテーション分析」といいます。
たとえば、「自社が設定しているエリアでは若年層向けに化粧水を販売している企業が多いが、シニア層をターゲットとした商品は少ない」といった分析ができれば、「シニア層向けの化粧水の開発と販売に力を入れる」のような戦略を考えられるでしょう。
分析によって有利に事業展開できる市場を見つければ、競合との競争を避けつつ売上を伸ばすことが可能です。
セグメンテーション分析が重要視される理由
有利な市場を見つけるために重要なセグメンテーション分析ですが、なぜ重要視されているのでしょうか。その理由として、次の3つが考えられます。
- 消費者のニーズが多様化している
- IT技術の発展
- 利益を最大限引き出すため
消費者のニーズが多様化している
以前は、商品やサービスを開発すれば売れる時代でした。しかし、近年はモノや情報が充実しているため、ただ作っただけでは売れにくくなっています。これまでは商品やサービスのアピール方法として、新聞広告や雑誌広告、テレビCMやラジオCMといったいわゆる「4マス広告」が主流でした。しかし、消費者のニーズが多様化した現代は、大衆向けのマス広告だけでは購買意欲を引き出せなくなっています。
このような状況下で企業の商品やサービスに魅力を感じてもらうには、「セグメンテーション分析」によって市場や顧客を細かく分類し、ターゲットを絞り込むことが重要です。
IT技術の発展
消費者のニーズが多様化しただけでなく、インターネットやスマートフォンなどの普及、さまざまなツールの開発といった「IT技術の発展」も、セグメンテーション分析が重要視される理由のひとつです。
マーケティングにおいては、ツールを活用することで消費者の興味や関心、購買履歴などの情報を正確に把握できます。多くの企業でこのようなツールが導入されるようになったため、従来のマーケティング手法では競合とうまく戦えなくなりつつあります。
消費者の動向を的確に把握して事業を展開するためにも、今後はマーケティングツールの活用が不可欠になるでしょう。
利益を最大限引き出すため
セグメンテーション分析によって市場や顧客にあったマーケティングを行えるようになると、無駄を減らして効率的にリソースを活用できるようになります。その結果、かかるコストや時間を抑え、利益の最大化にもつながります。
細分化したセグメントや、その中でさらに絞った特定のターゲットの特徴を把握できれば、その顧客層のニーズを意識したアプローチができます。ターゲットが求める物事に対し、的確に情報を発信することで、成約率や満足度の向上を図ることができるでしょう。
セグメンテーション分析における市場の分類方法
ここまでは、セグメンテーション分析の概要や重要視される理由について説明しました。冒頭でもセグメンテーションの方法について触れましたが、実際に分析する際は市場の分類方法をよく理解しておかなければなりません。セグメンテーション分析では、市場を次の4つに分類します。
以下では、それぞれの分類方法について、詳しく説明します。
地理的変数(ジオグラフィック変数)
地理的変数では、次の観点で市場を分類します。
- 国
- 都道府県
- 市町村
- 気候
- 人口密度
- 交通手段
- 政府の規制
- エリア独自の文化
たとえば暖房器具を販売する企業の場合、「販売するエリアは東北地方、購入してから自宅に持ち帰りやすいよう、駅周辺の店舗で販売する。ある程度の売上を確保できたら北海道にも出店エリアを拡大するとともに、オンライン販売も導入して積雪量の多い北陸や山陰地方の消費者にも商品を届けられるようにする」といった戦略が考えられます。
なお、通販サイトを運営している場合は、販売対象は基本的に全国になるので、地理的変数をそこまで考慮しなくてよいかもしれません。一方、飲食店や鍼灸院など、実店舗でなければ商品やサービスを提供しにくい業種では、地理的変数を入念にチェックして出店エリアを検討する必要があります。
人口動態変数(デモグラフィック変数)
人口動態変数では、次の観点で市場を分類します。
- 年齢
- 性別
- 家族構成
- 家庭のライフサイクル
- 年収
- 職業
出店エリアに子育て世帯が多ければ、マンションや一軒家、子供用品やキッズスペースの充実といったニーズが高まるでしょう。事務職が多いエリアであれば事務用品が、工場勤務の人が多ければ、作業用品のニーズが高いかもしれません。
年齢や性別、家族構成や年収といった情報は、国勢調査や民間企業の調査などを活用することで精度の高い情報を手軽に入手できます。信頼性の高いデータを活用してマーケティング戦略に活かせば、売上アップや集客につなげられるでしょう。
心理的変数(サイコグラフィック変数)
心理的変数では、次の観点で市場を分類します。
- ライフスタイル
- 価値観
- 好み
- 性格
たとえば、「自社のサイトではオンラインでファッション用品を販売しているが、アクセスする消費者は20代の女性が多く、ペットに興味を持っている人が多い」のような分析結果が考えられます。この情報から、「WEBページにペットのイラストを盛り込む」「ペットと一緒に楽しめるファッションアイテムを開発する」といった戦略を導きだせるでしょう。
心理的変数は、人口動態変数のように統計では把握しきれないため、情報の精度を高めるのは困難です。しかし、最近はインターネット上で消費者の行動履歴を簡単に把握できるようになっています。データを活用して分析すれば、的確な需要予測をもとに集客や売上アップにつながるマーケティング戦略を立案できるでしょう。
しかし、先述したように消費者のニーズは多様化しているため、定量的なデータのみを分析してマーケティングをしても、必ずしも成果が出るとは限りません。必要に応じてアンケートやヒアリングをおこなうなど、消費者の生の声を集めることも大切です。
行動変数(ビヘイビアル)
行動変数では、次の観点で市場を分類します。
- 購入回数
- 購入金額
- 購入した商品やサービスの種類
- 商品やサービスへの要望
- 商品やサービスへの理解度
- 顧客の反応
行動変数の具体例として、「30代男性が新商品を最も多く購入している」のような情報が挙げられます。このことから、「30代の男性に対して、メールマガジンやDMで新商品の案内を積極的におこなう」などの戦略が立案できます。
また、「50代男性からは、商品の使い方に関するカスタマーセンターへの問い合わせが増えている」といった分析結果が出れば、「シニア層に向けて新商品の説明会を開催する」のような戦略につなげることも可能です。
セグメンテーション分析で必要な判断基準
セグメンテーション分析を行う際、市場の細分化やグループ化は意味や有効性があるかを意識する必要があります。セグメンテーション分析における判断基準として、以下の4Rがあるので、絞り込んだセグメントがそれぞれの基準を満たしているかを確認しましょう。
優先順位(Rank) | 細分化したセグメントの中で、自社の事業や経営戦略にとって優先度が高いものかを確認します。 |
規模の有効性(Realistic) | 対象となるセグメントの市場規模がどのくらいで、今後の成長や利益の獲得が見込めるのかを確認します。 |
到達可能性(Reach) | 対象のセグメントに対して、自社の商品やサービスを提供できるかどうかの判断や、その難易度や課題を確認します。 |
測定可能性(Reslionse) | 対象のセグメントから、測定や分析を行うための情報を得られるか確認します。市場規模や特性、購買力などのデータを数値として測定でき、有効性の判断や将来的な善につなげられるかが重要です。 |
セグメンテーション分析の成功事例を紹介
ここまでは、セグメンテーション分析をする際の市場の分類方法について説明しました。セグメンテーション分析についての理解をさらに深めるには、成功事例を知っておくことも大切です。
以下では、セグメンテーション分析の成功事例を紹介します。
外回りをする営業向けのノートパソコン拡販事例
家電製品全般を開発する大手メーカーの事例です。
こちらの企業はもともとビジネスユースのパソコンを中心に開発し、シェアを伸ばしていました。しかし1990年代終盤に、パソコン市場で音楽やインターネットを楽しみたい個人の需要が高まるにつれて、徐々に売上が低迷し、一時はパソコン事業の撤退を検討するほどになりました。
そこで、この企業は法人向けニーズで市場のセグメンテーションを行い、思い切ってターゲットを「外回りの営業職」に絞りました。外出先でも快適にノートパソコンを使用できるよう、バッテリーの持ち時間を長くしたり、軽さや薄さにこだわったりするといった工夫を施しています。高輝度のモニターは屋外でも使いやすくなっており、防水性や外部からの衝撃にも強いためロングセラー商品へと成長しました。
受験用学習アプリ拡販事例
オンライン学習アプリを開発した企業の事例です。
この企業は、セグメンテーション分析で「都心では予備校に通う高校生が多いが、地方になると予備校に通う人が少なくなる」という結果を導き出しました。それによって、地理的変数を「地方」とし、人口動態変数を「大学受験を目指す高校生」、心理的変数を「手厚い受験指導を必要としている」と設定したのです。
このようなターゲットを設定したうえで、企業は「質の高い講師の授業をインターネットを利用して低価格で受けられるサービス」を提供しました。その結果、大手予備校が獲得しきれなかった学生を集めることに成功しています。
電子タバコの拡販事例
世界中で事業展開する海外の企業は、地理的変数を日本に設定し、火を使わない喫煙具をヒットさせています。
この企業は、世界的に禁煙が推進される中で、日本の禁煙対策に関する法整備が遅れているという地理的変数に着目するとともに、「周囲の人に配慮する気持ちが強い」という日本人ならではの心理的変数を活かしたマーケティング戦略を実践しています。「強い匂いや煙、有害物質を大幅に削減できる」という商品の特長と消費者のニーズがマッチしたため、多くの喫煙者が手に取るようになりました。
アメリカにおけるバイクの拡販事例
アメリカでは、「バイクといえばハーレーダビッドソン」といってもよいほど、他社が参入する余地がない状況でしたが、日本のバイク・自動車メーカーは、アメリカのバイク市場に参入して成功を収めています。
以前は「バイクといえばワイルドな性格の人が大型の車体を長時間乗り回す」というイメージが強かったのですが、このメーカーは、セグメンテーション分析で「現在バイクに乗っていない一般市民」をターゲットに設定しました。
それによって、大型バイクを必要としない市民の「日常生活の手軽な移動手段を手に入れたい」というニーズを満たし、バイク市場で大きなシェアを獲得することに成功しました。
まとめ
ここでは、セグメンテーション分析の概要や重要性、市場の分類方法や成功事例について説明しました。
セグメンテーション分析では、各分類ごとにさらに市場細分化しなければならないため、調査や分析に時間がかかるかもしれません。しかし、消費者の細かいニーズを発見して市場で有利に事業展開するためには、情報を集めることが大切です。
ここで説明した内容を参考にして、セグメンテーション分析によって集客や売上を伸ばすマーケティング戦略を考えられるようにしましょう。
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