近年、インターネットやスマートフォンが幅広く普及したことから、ビジネスにおいてもこれらを活用する重要性は高まっています。
特に、店舗型のビジネスにおいては、実店舗に訪れる顧客とオンラインで店舗のWEBサイトにアクセスする顧客をうまく結び付け、顧客の利便性を高めるとともに売上の取りこぼしを少なくする「オムニチャネル化」で成功する企業が増えています。
しかし、中には「そもそもオムニチャネルって何だろう」「オムニチャネル化することによってどんな変化が起こるのだろう」と思う人もいるのではないでしょうか。そこで今回は、オムニチャネルの概要やほかのチャネル形態との違い、オムニチャネル化のメリットデメリットや他社の導入事例について詳しく説明します。
目次
そもそもオムニチャネルとは?
そもそもオムニチャネルとは、「あらゆるメディアで顧客との接点をつくり、購入に至るまでの経路を意識させない手法」のことです。
インターネットの発達により、「店舗で商品の品質を確認し、欲しい商品を見つけたらその店舗ではなくネットで割安価格で手に入れる購買方法(ショールーミング)」が一般化し、多くの店舗が悩まされていました。
せっかく魅力的な商品を並べていても最終的に顧客が購入してくれないので、売上につながらず利益を出せなくなる店舗が増えたのです。
しかし、オムニチャネル化することによって、顧客は店舗にいながら店舗のWEBサイトで商品を購入したり、SNSから1クリックで商品を注文してコンビニで受け取ったりできるようになりました。
顧客の利便性を高めるとともに、店舗が売上を維持しやすくなることから、今後はオムニチャネル化する店舗は増えるでしょう。
オムニチャネルとその他のチャネル形態の違い
オムニチャネルは、上の図のようにいくつかの販売チャネルが進化したことでできた形態です。オムニチャネルに関する理解を深めるためには、これらの特徴や違いを知っておく必要があります。
1990年代までは多くの企業が「シングルチャネル」でビジネスを展開していました。
「携帯電話は販売店でしか手に入れられない」や「〇〇県の特産品はカタログからの申し込みでしか手に入れられない」のように、顧客が求める商品の販売経路が1つのチャネルに限定されている状況だったのです。
つぎに2000年に入るとネット通販専門企業が登場し、従来よりも幅広い選択肢から商品を購入できる「マルチチャネル」へと進化しました。
2005年頃になると、実店舗、カタログ通販、ECサイトが連携し、「店舗から離れているからECサイトで購入する」「商品を手に取って選びたいから店舗に足を運ぶ」のように、同じ企業の商品でも顧客が好みの経路から購入できる「クロスチャネル」へと進化しました。
そして、2010年に入るとさらにデジタル化が進み、顧客は好きなときに好みの経路で商品を購入し、ライフサイクルにあわせて好きな場所で商品を受け取れる「オムニチャネル」へと進化したのです。
オムニチャネルとO2O、OMOの違い
さまざまな販売経路を統合するオムニチャネル化ですが、似たような概念に「O2O」や「OMO」があります。
O2Oは「Online to Offline」を省略した言葉で、通販サイトやSNSといったオンラインから実店舗のようなオフラインへと顧客を誘導する戦略です。
たとえば、「SNSで配布したクーポンを店舗に持参したら会計金額から〇%割引」のような手法が挙げられます。
オムニチャネルでは、オンラインとオフライン両方で購入を可能にして売上を伸ばす目的があることから、O2Oとは違った戦略となっています。
OMOは「Online Merges with Offline」を省略した言葉で、オンラインとオフラインを連携させることで顧客体験の向上を図る戦略です。
具体例として、「実店舗で商品に添付されているコードを読み取ると、スマートフォンで詳細情報を確認できる」「購入履歴をもとに実店舗においてあるおすすめの商品をスマートフォンに表示させる」といった手法が挙げられます。
一見オムニチャネル化と似た戦略ですが、OMOは「オンラインとオフラインを融合させて顧客体験を向上させる手法」であるのに対して、オムニチャネル化は、「販売チャネル一つひとつは区別されているが、最終的にはそれらの境界を意識させることなく商品の購入を促す手法」という違いがあります。
オムニチャネルが注目されるようになった背景
多様なマーケティング手法が登場する中で、なぜオムニチャネルが注目されるようになったのでしょうか。その背景として、次の2つが挙げられます。
以下では、これらの要因を掘り下げて説明します。
スマートフォンやSNSの普及
インターネットやスマートフォンが普及した現代は、いつでもどこでも商品やサービスを検索して購入できるようになっています。先述したように、実店舗で見た商品をインターネットで検索して購入する顧客が増えたこともあり、売上が減少した店舗も多いでしょう。
インターネット上では、ECサイトやSNS、ブログや動画サイトなど、さまざまな媒体で商品やサービスの情報を入手し比較検討できます。多様な媒体を渡り歩く顧客の動向を意識しつつ店舗の売上を伸ばすためには、複数の販売チャネルを用意して、顧客が「購入したい」と思ったタイミングで購入できる仕組みを用意する必要性が高まったのです。
テクノロジーの進化
IT技術の進化によって、さまざまな媒体を使用する顧客の動向を把握できるようになったのも、オムニチャネル化が注目される背景のひとつです。
たとえば、アクセス分析ツールを活用すれば、「自社の商品をコンビニで受け取る顧客が多い」「SNSからECサイトにアクセスして商品を購入する顧客が多い」といった情報を把握できます。このように、顧客の動向を的確に把握すれば、「どのチャネルを用意すべきか」「力を入れるべきチャネルは何か」を判断しやすくなります。
テクノロジーをうまく活用すれば売上を伸ばしやすくなることから、今後はオムニチャネル化を導入する店舗はさらに増えるでしょう。
オムニチャネル化のメリットとは?
効果的なマーケティング戦略として注目を集めるオムニチャネルですが、オムニチャネル化にはどのようなメリットがあるのでしょうか?オムニチャネル化のメリットとして、次の3つが挙げられます。
以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。
顧客にとっての利便性が高くなる
先述したようにオムニチャネル化すると、店舗が提供する商品をいつでもどこでも手にいられるようになります。
「店舗に行ってみたけれど在庫が無くて手に入れられなかった」「商品を自宅まで持ち運ぶのが大変そうなので購入をあきらめた」といったことが起こりにくくなるので、顧客の利便性を高められます。利便性が高まれば「もう一度この店舗の商品を購入しよう」と思ってもらいやすいので、リピーターを増やして安定的な売上を出すことにもつながるでしょう。
購入に至るまでの一連のデータが手に入る
各チャネルが連携されていなかった頃は、それぞれのチャネルでどれくらいの顧客が利用しており、顧客がどのような導線で購入したのかを把握するのが困難でした。
しかし、オムニチャネル化によって各チャネルのデータを連携すれば、「SNSで口コミを見て店舗の通販サイトにアクセスした顧客が多い」「カタログを見てカスタマーセンターに電話連絡し、自宅に商品を宅配してもらう顧客が多い」といったデータをより的確に入手できます。
データをうまく分析すれば、「SNSでのアピールに力を入れる」「コンビニ受け取りを選択できるようにする」のように顧客のニーズに合ったマーケティング戦略を実践でき、売上をさらに伸ばせるでしょう。
業務を効率化させられる
オムニチャネル化すれば、顧客の利便性を高めるとともに、店舗の業務効率化にもつなげられます。
たとえば、「在庫管理業務を自動化する」「すべてのチャネルからの受注管理を一元化する」といった戦略を実施することで、従来の業務がさらに円滑になるでしょう。従業員の業務負担を減らせば、長く働き続けてもらえるだけでなく、経営資源を適切に割り当てられるので、さらに生産性の高い店舗運営ができるかもしれません。
オムニチャネル化のデメリットとは?
メリットが多いオムニチャネル化ですが、一方で次の2つのデメリットもあります。
以下では、これらのデメリットについて詳しく説明します。
顧客がオンラインに流れただけになる可能性がある
SNSや通販サイトなど、多様なチャネルを統合させても、結局顧客がオンライン化して実店舗の売上が低下する可能性があります。
顧客の利便性が高まっても、店舗がショールームになり、購入はほかのECサイトになってしまうとオムニチャネル化した意味がなくなってしまいます。オムニチャネル化する際は、実店舗で購入した人のみ受け取れる特典を用意したり、実店舗で購入した商品が当日自宅に届く仕組みを用意したりするなど、実店舗が果たす役割やほかのチャネルとの連携方法を入念に考えておく必要があります。
顧客に認知されるには工夫が必要
オムニチャネル化しても、そのことを顧客に認知してもらえなければ売上を伸ばすことはできません。SNSで店舗の最新情報を入手できることや、店舗だけでなくコンビニや自宅で商品を受け取れることなどを説明することで、徐々に認知度を拡大させることが大切です。
また、店舗を利用する顧客への説明だけでなく、「WEB広告の出稿」「検索エンジンで店舗のWEBサイトが上位表示される工夫をする」といった手法も重要です。オフラインとオンラインの情報発信を組み合わせてオムニチャネル化をアピールすれば、より多くの顧客を獲得できるでしょう。
オムニチャネル化に成功した店舗の事例
ここまでは、オムニチャネル化のメリットデメリットについて説明しました。オムニチャネル化についてさらに理解を深めるには、実際にオムニチャネル化に成功した店舗の事例を知っておくことも大切です。
以下では、オムニチャネル化の成功事例について詳しく説明します。
アパレルメーカー
ある大手アパレルメーカーでは、オンラインでの商品購入を促すために、「オンライン限定商品」を販売しています。LINEのチャットボットでは、人気商品を案内したり在庫を確認したりできるので、より利便性の高い購入体験をしてもらえます。
また、コーディネートを提案してくれるコンテンツを用意したのも、顧客の支持を集めた要因です。たくさんの商品の中から選ぶべきアイテムを手軽に見つけられるため、よりスムーズに購入に結びつけられます。
家具・生活雑貨小売店
ある家具・生活雑貨小売店では、独自のスマートフォンアプリを開発して販売チャネルを増やしています。アプリでは、ニュース配信や在庫検索機能といったショッピングに役立つコンテンツが充実しているのが特長です。
また、実店舗に足を運ぶだけでポイントを増やせるため、オンラインの顧客をオフラインへと誘導させることにも成功しています。店舗に近づくだけでお得なクーポンや最新情報を受け取れる仕組みも設けているので、より多くの顧客を実店舗に呼び込めています。
まとめ
ここでは、オムニチャネル化の概要やメリットデメリット、施策に成功した企業の種類について説明しました。
ここで説明した内容を参考にして、オムニチャネル化でより多くの顧客を集め、売上アップにつなげましょう。