企業の担当者によっては、「顧客が魅力を感じる商品やサービスを開発すれば、自然と売上が伸びるだろう」と思うかもしれません。しかし、実際に商品やサービスを市場に流通させると、認知を拡大させたりユーザーを増やしたりするのが難しいことに気づくでしょう。
このような状況を客観的に捉え、シェアを拡大させる手法を考えるためには、「キャズム理論」についての知識が役立ちます。
今回は、キャズム理論の概要や企業の置かれている状況を改善させるポイント、市場でシェアを拡大させた企業の事例について詳しく説明します。
目次
そもそもキャズム理論とは?
そもそもキャズムとは「溝」という意味で、マーケティング用語としてはある商品やサービスが登場した際に、シェアを拡大させるために越えなければならない一線のことです。
キャズム理論では、上の図のように顧客を5つに分類し、それぞれで異なるアプローチ方法を考えます。中でも「アーリーアダプター」から「アーリーマジョリティ」に移行させることが、事業を成功させるために重要だと考えられています。
この分類方法は「イノベーター理論」によるものなので、キャズムを超える手法を考えるためには、イノベーター理論も知っておかなければなりません。
イノベーター理論で分類される市場の特徴
先述したように、キャズム理論は、イノベーター理論の分類方法を採用しているのが特徴です。イノベーター理論とは、新しい商品やサービス、ライフスタイルや考え方が市場に浸透する過程を、先ほどの図のように5つに分類する概念です。
企業が商品やサービスのシェアを拡大させる手法を立案するには、イノベーター理論における分類ごとの特徴を理解しておかなければなりません。以下で詳しく説明します。
イノベーター
イノベーターは、斬新な商品やサービスが発売されると、真っ先に購入や契約をする顧客層で、市場の数%しか存在しないのが特徴です。
この顧客層は、単に「新しい商品やサービスを体感したい」と思っているだけでなく、それらの価値を適切に見極められる人が多いです。人によっては「機能や性能を試して楽しみたい」という人もいるため、日常的に使うことを想定して購入するとは限りません。
イノベーターが注目する商品やサービスの例として、新型のスマートフォンやこれまで存在しなかったITツールを販売することなどが挙げられます。斬新さや最先端技術の搭載を前面に押し出すと、イノベーターを多く獲得しやすくなります。
アーリーアダプター
アーリーアダプターは、新たな商品やサービスを早い段階で導入する顧客層を指し、市場の10%前後が該当します。一見イノベーターと同じように思えますが、イノベーターほど最新技術に触れることに重きを置いていないのが特徴です。
アーリーアダプターが重視するのは、「新たな商品やサービスが自らが抱えている課題を解決してくれるか」です。そのため、新商品・新サービスに興味があっても、それらが自身のニーズに合わなければ購入しない場合があります。
そのため、アーリーアダプターにアプローチする際は、商品やサービスの斬新さや先端技術についてアピールするだけでなく、購入して得られるメリットを考えることが大切です。
アーリーマジョリティ
アーリーマジョリティは、「新しいものを手に入れたい」「流行に乗り遅れたくない」と考えているものの、新商品や新サービスの購入に慎重な顧客層です。市場では35%程度がアーリーマジョリティに該当するといわれています。
この層にいる顧客には、「アーリーアダプターの影響を受けやすい」という特徴があります。そのため、「動画サイトでインフルエンサーが使っていた商品」「テレビCMで有名芸能人がアピールしていた」といった理由で商品やサービスに興味を持つことが多いです。
そのため、アーリーマジョリティへのシェアを拡大するには、新たな流行が始まったことや、商品やサービスを利用する合理性やメリット、流行に乗り遅れる可能性があることなどを伝えて購買意欲を高めるのがおすすめです。
レイトマジョリティ
レイトマジョリティは、新しい商品やサービスを導入することに消極的な顧客層のことをいいます。市場では35%程度と、アーリーマジョリティと同程度の顧客が存在します。
また、この層は、自分自身で新商品や新サービスの購入を決めるのではなく、周りの動向をうかがいながら、導入者が多いと判断したタイミングで購入するという特徴があります。どれだけ伝えても、購入に結びつかないことが多いため、購入者数の多さや、購入後に「失敗した」と感じる人が少ないことをアピールすると、うまく売上を伸ばせるでしょう。
ラガード
ラガードは、イノベーター理論の分類の中で最も保守的な層であり、「新商品や新サービスにまったく関心がない」という特徴があります。うまくアピールすることでこの層の売り上げも獲得することができます。
たとえば、すでに商品やサービスが定番になっていることや、ほかの新商品や新サービスと比べて安心して利用できること、歴史が長く信頼できることなどをアピールすると、購入につなげやすくなります。販売初期は購入してもらいにくいかもしれませんが、「創業〇〇年の実績を持つ企業が販売する新商品」のように伝えれば、興味を持ってもらいやすいでしょう。
キャズムを超えるのが難しい理由とは?
ここまでは、イノベーター理論の分類について説明しました。
すでに述べたように、キャズム理論では、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にキャズム(=溝)が存在すると考えます。
適切なアプローチをすれば購入数を増やせそうですが、なぜキャズムを超えるのが難しいと言われているのでしょうか。
それは、イノベーターとアーリーアダプターが「斬新さ」「最新技術」に魅力を感じることに対し、キャズム以降の顧客層は「信頼性」「安全性」「実績」を求める傾向があるからです。販売する商品やサービスが革新的なものであるほど、キャズム以降の層には不安感が高まるため、キャズムを超えにくくなります。
キャズムを超えるためのポイント
それでは、キャズムを超えて新商品や新サービスを市場に広めるにはどうすればよいのでしょうか。キャズムを超えるためのポイントとして、次の2つが挙げられます。
アーリーマジョリティへのアピールを強める
キャズムを超えるためには、まずアーリーマジョリティへのアピールを強めることが大切です。アーリーマジョリティにいる顧客層へのシェアを拡大できれば、以降の領域にいる顧客層の購買意欲向上につなげやすくなるからです。
具体的な手法として、次の3つが考えられます。
- 購入によるリスクを抑える
- 具体的な数字を明示する
- 実績をアピールする
たとえば、新たなビジネスツールを販売する場合、「定着までのサポートを充実させる」「導入実績〇〇件突破」「人件費を平均〇%削減することに成功している」といった情報をアピールすることが考えられます。購入した後の失敗をいかに避けるか、本当に購入しても大丈夫かといった懸念を解消できるアプローチができれば、購入につなげやすくなるでしょう。
ユーザビリティを高める
アーリーマジョリティへのアピールを強めるだけでなく、ユーザビリティを高めるのもキャズムを超えるために重要なポイントです。
イノベーターやアーリーアダプターは、先端技術に関する知識や技術をある程度持っているため、多少使い勝手が悪くても、斬新さや先端技術の搭載といった魅力があれば購入してくれます。
しかし、キャズム以降の顧客は革新的な商品やサービスを使いこなせない人が多いです。ユーザビリティが低いと、購入してもメリットを感じられず「失敗した」と思われかねません。
そのため、「説明書を読まなくても直感的に使用できる」「既存システムとの連携を自動でおこなってくれる」といったようにユーザビリティを高めておくことが大切です。
必要に応じて顧客の意見を取り入れてユーザビリティを改善させながら、システムを更新したり改良品を開発したりすることで、徐々に市場でのシェアを拡大できるでしょう。
キャズムを超えた企業の事例
ここまでは、キャズムを超えるためのポイントについて説明しました。キャズムを超える具体的な手法を考えるには、他社の成功事例を知っておくことも大切です。
以下では、キャズムを超えた2つの企業の事例を紹介します。
フリマアプリの事例
フリーマーケットアプリを手がける企業の事例です。この企業は、今では市場のシェアを広めていますが、サービスを開始した当初はキャズムを超えられずにいました。
その企業は、まずユーザビリティの改善に重点を置いて取り組み、「いかに使いやすいサービスに仕上げるか」を常に意識して事業を運営していました。それによって徐々にアーリーマジョリティのシェアを広め、アプリダウンロード数は200万件に近づいたのです。
その後、アプリのダウンロード数が200万件を突破すると、CMでのアピールに力を入れるようになりました。それによって、「多くの人がダウンロードして使っているアプリ」「世間に広く知られているアプリ」という認識を広め、アーリーマジョリティだけでなくレイトマジョリティにまでシェアを拡大させることに成功しています。
オフィス用コーヒーマシンの事例
オフィス用コーヒーマシンを販売する企業の事例です。こちらの企業は、キャズムを超えることで多くのオフィスにコーヒーマシンのシェアを広めています。
具体的な戦略としては、まずコーヒーマシンを販売する前に、製品に興味を持つ「アーリーアダプター」を集めました。そして、その人がいるオフィスにコーヒーマシンを無料で提供し、オフィスにいる人ほかの従業員も安価で美味しいコーヒーを飲めるようにしたのです。
その後、アーリーアダプターの口コミや、「コーヒーマシンを操作する」という体験によって、アーリーマジョリティやレイトマジョリティであるほかのオフィスの人にも製品の魅力が伝わり、市場でのシェアを広めることに成功しました。「口コミによる納得感」や「実際に製品に触れてみる」という体験によって製品を導入するハードルを下げたことが、キャズムを超えられた大きな要因だといえます。
まとめ
ここでは、キャズム理論の概要やイノベーター理論の分類ごとの特徴、キャズムを超えるためのポイントや市場でのシェア拡大に成功した企業の事例について説明しました。
企業によって開発する新商品や新サービスは異なるため、市場のニーズや商品・サービスの特徴にあわせてキャズムを超える施策を考えなければなりません。ここで説明した内容を参考にして、キャズムを超えて市場でのシェアを拡大しましょう。
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