企業のビジネスを幅広い地域に展開する経営手法として「チェーン方式」の活用があります。
ファミリーレストランやコンビニのように、チェーンストアで効率的に販売エリアを拡大できれば、より多くの顧客を獲得して売上を伸ばせるでしょう。
しかし、「そもそもチェーンストアとはどのような仕組み?」「チェーンストアを運営するとどのようなメリットがあるの?」といった疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、チェーンストアの概要やチェーン方式の種類、チェーンストアを運営するメリットを説明します。
目次
そもそもチェーンストアとは?
そもそもチェーンストアとは、「同一・類似商品を扱う多数の店舗を、中央本社や本部企業が経営・管理するという小売業の経営形態」です。チェーンストアを展開する業種は、小売店や飲食店、サービス業などさまざまです。チェーン方式にもいくつかのタイプがありますが、すべてまとめて「チェーンストア」と呼んでいます。
また、チェーンストアは「マスマーチャンダイジング」というビジネスモデルに当てはまります。多くの店舗で同一・類似商品を扱うことで、不特定多数の顧客に、効率的かつ効果的に商品を大量に販売するモデルのことです。
チェーンストアは「チェーンストア理論」というアメリカで提唱された考え方が基盤になっている経営手法です。チェーンストア理論が日本に現れたのは1960年代のことです。チェーンストア理論では、経営戦略の立案や商品・サービスの開発、人事や会計といった中枢的な業務を本社に集約することで、店舗側がオペレーションに注力できるため、業務の効率化やコストを抑えた事業運営を可能にしています。
参考:チェーンストア理論(チェーンストアリロン)とは | BtoB 受発注の用語集
チェーンストアとスーパーマーケットの違いとは
「スーパーマーケット」もチェーンストアと混同されがちですが、チェーンストアがビジネスモデルの1つである一方で、スーパーマーケットは小売業態の1つです。よって、スーパーマーケットの中にも、チェーンストアとして展開しているケースもあります。なお、スーパーマーケットはもともと「マーケット(市場)」を超えるという意味で、経済産業省では以下のように定義されています。
- 販売額の70%以上を食料品が占める
- 売り場の面積が250平方メートル以上
- セルフサービス方式であること
チェーンストアに含まれるチェーン方式の種類
チェーンストアはその経営形態によって、レギュラーチェーン、ボランタリーチェーン、フランチャイズチェーンという3種類のチェーン方式に分かれています。一般的にはそれらを区別せずに扱われていることも多いですが、それぞれで店舗と本部の関係性などが異なります。以下では、それぞれのチェーン方式の特徴について説明します。
レギュラーチェーン
レギュラーチェーンは、企業の本社直営のチェーンストアでコーポレートチェーンや直営店とも呼ばれます。展開する店舗はすべて企業の資本によるもので、各店舗の経営方針は本社や本部が統括しています。
このチェーン方式は、どの店舗でも統一感のある運営ができるので、提供する商品の品質や顧客へのサービスを均一化しやすいのがメリットです。企業に対するイメージや信頼感、愛着といったブランド力を高めやすいので、飲食店やエステサロンといった業種に向いています。
しかし、店舗が独自に運営方針を変更できないので、地域のニーズにあわせて柔軟に商品やサービス、価格などを変えられないのがデメリットです。店舗によっては企業の商品・サービスの売上が伸びないので、戦略的に事業を拡大させる必要があります。
ボランタリーチェーン
ボランタリーチェーンは、独立した店舗同士が手を結び、1つの組織として事業を展開するチェーン方式です。
代表例としては、関東中心にスーパーマーケットを運営している「三徳」グループの独立部門であるCGCジャパンや、全国の病院や大学などの施設内に出店する「ヤマザキYショップ」が挙げられます。
この方式は、チェーン契約を結んだ店舗で仕入れや商品開発、販売促進といった業務を共同でおこなうため、コストを抑えて効率的な事業経営ができるというメリットがあります。経営ノウハウを共有して各店舗の業績を伸ばすことで、全体的な売上の増加も期待できます。
また、レギュラーチェーンのように「本社と店舗」といった上下関係が生じにくいのも、ボランタリーチェーンのよいところです。本社にコントロールされず独自の経営方針を維持できるので、顧客ニーズの変化や店舗の売上などに応じて柔軟な施策を実施できます。加盟店が1つの組織として自発的に集まることもあり、店舗同士の繋がりがフランチャイズ形式などよりも強くなりやすいです。
一方で、ボランタリーチェーンでは各店舗と本部の関係がフラットなことから統制する本部機能が弱くなりがちなため、運営を進める中でサービスが不均一になるなどトラブルが生じるリスクがあります。
ボランタリーチェーンを採用する際は、「どの店舗とチェーン契約を結ぶのか」「契約後はどのような方針で事業運営するのか」「トラブルが生じたらどのように対処するのか」といった点を入念に考えなければなりません。
参考:ボランタリー・チェーンとは何か?コンビニのフランチャイズとは違う連携のカタチ
コンビニFCシステムのほころび、ボランタリーチェーンは再注目されるか – BCN+R
フランチャイズチェーン
フランチャイズチェーンは、「本社と加盟店がフランチャイズ契約を結ぶことで運営する店舗」のことです。代表例として、コンビニやハウスクリーニング事業が挙げられます。
このチェーン方式は、各店舗が独自の資金で店舗の立ち上げや運営をするものの、本社企業の管理監督のもとで事業運営するのが特徴です。
本社には、事業を拡大するための時間や費用を抑えてビジネスを拡大できるというメリットがあり、店舗には本社が持つ経営ノウハウを活かして安定的な経営ができるといったメリットがあります。
また、店舗は本社の商号や商標も使用できるので、ブランド力を活かして顧客を集められるのも、フランチャイズチェーンのメリットです。
しかし、フランチャイズ契約を結ぶと、加盟店の店舗は本社に契約金を支払わなければなりません。売上などに応じて本社に一定の対価を支払う必要もあるので、対価の割合によっては店舗の経営が厳しくなる場合があります。また、店舗で働く従業員は、本社の従業員としてではなく店舗の従業員として採用されるので、人材管理の責任も高くなります。
商勢圏ごとのチェーンストアの種類
- ローカル・チェーン
- リージョナル・チェーン
- ナショナル・チェーン
店舗を利用する顧客が生活するエリアのことを「商圏」といいますが、チェーンストアでは、特定のエリア内に複数の店舗を配置し、シェア獲得を目指します。このような地域を「商勢圏」と呼びます。
チェーンストアはこの商勢圏によってもいくつかの種類に分けることができます。
ローカル・チェーン
ローカル・チェーンとは、1つの商勢圏に11以上の店舗を展開するチェーンストアです。「ローカル」という名称から「都心から離れた場所に展開するチェーンストアのことでは?」と思うかもしれません。しかし、出店エリアに関わらず商勢圏内の店舗数が11以上あれば、ローカル・チェーンということになります。
そんなローカル・チェーンには、1つの商勢圏内に店舗を多く展開するため、物流や販売促進を効率化させられるというメリットがあります。コストを抑えて広範囲の顧客に企業の商品やサービスをアピールできるため、効率的にブランド力を高めることが可能です。
リージョナル・チェーン
一方、リージョナル・チェーンは、2つ以上の商勢圏に店舗を展開するチェーンストアの種類で、ローカル・チェーンを2つ以上展開していることになります。
企業によっては複数のローカル・チェーンが隣接している場合もありますが、商圏同士が離れているほうが企業の商品やサービスをアピールできる範囲が広くなります。
リージョナル・チェーンのメリットは、幅広いエリアの中から商圏を限定して店舗を展開できることです。たとえば、「東京都と大阪府」「中国地方と四国地方」のようにエリアを絞って出店する方法が挙げられます。これによって、地域のニーズにあわせた商品開発や広告宣伝が可能になるとともに、店舗を密集させて知名度を高められます。
コストを抑えた事業展開とブランド力のさらなる向上が見込めるので、「ローカル・チェーンで好業績が出たので次の商勢圏に事業を拡大させたい」という企業に向いています。
ナショナル・チェーン
ナショナル・チェーンは、2つ以上のリージョナル・チェーンを持つチェーンストアのことです。これは、4つ以上のローカル・チェーンを持つ企業ともいえますが、全国各地に幅広くチェーンストアを展開する企業を指すのが一般的です。
ナショナル・チェーンでは、リージョナル・チェーンよりもさらに広範囲の顧客層を獲得できるため、企業としての売上をさらに伸ばしやすくなります。認知度も全国的に広まるので、信頼感や安心感も高まって、より多くの顧客を呼び込めるでしょう。
しかし、リージョナル・チェーンをナショナル・チェーンに成長させるのは簡単ではありません。豊富な資金力だけでなく、各エリアや店舗を管理する人材を育成したり、円滑な経営をするための仕組みを整えたりしなければならないので、長期的な視野で戦略を練る必要があります。
チェーンストアを運営するメリットとは?
チェーンストアの運営は簡単ではありませんが、この方法で事業を拡大すると次の5つのメリットが生じます。
- 仕入れコストを削減できる
- 安定的なサービスを提供できる
- 店舗開設費用・ノウハウを蓄積するコストを削減できる
- 効率的な事業運営が可能になる
- 各店舗の情報を一元化できる
以下では、これらのメリットを詳しく説明します。
仕入れコストを削減できる
チェーンストアでは、仕入れを本社など各店舗をまとめる部門に統一させられるため、一度に多量の仕入れをすることでコストを抑えられます。仕入れコストを抑えれば販売価格も下げやすくなるので、より多くの顧客を獲得できるでしょう。
たとえば、100店舗のチェーンストアを運営する企業の仕入れ額が、1店舗あたり50万円だったとします。その企業がチェーンストアを200店舗に増やした場合、仕入れの総量が増えた分、仕入れ先との価格交渉を有利に進めやすくなります。
もし、1店舗あたりの仕入れ額を40万円に抑えられれば、企業の総仕入れ額は5,000万円から4,000万円に軽減します。これによって、店舗に残る利益が増えやすくなるので、企業をさらに成長させられるでしょう。
安定的なサービスを提供できる
チェーンストアを展開すれば、店舗ごとの運営方法や人材管理方法などを本社や本部企業で統括できます。本社からの指示も統一できるので、各店舗が提供するサービスが均一になり、安定的なサービス提供が可能になります。
どの店舗でも同じサービスを同じクオリティで利用できるということは、企業にとっては顧客の信頼獲得に繋げられます。また、定期的にそのサービスを求める顧客からの売上も期待でき、ファン作りやブランディングなど経営におけるさまざまなメリットになります。
店舗開設費用・ノウハウを蓄積するコストを削減できる
チェーンストア運営は、仕入れ額だけでなく、店舗開設費用やノウハウを蓄積するコストも削減できます。
たとえば、家具や調理器具、商品陳列棚や各種備品などを統一させたり、既存資源を活用したりすれば、費用を抑えて店舗をオープンさせられます。陳列する商品の種類や価格設定といったノウハウを各店舗で共有すれば、短期間で目標とする売上を出せるでしょう。
効率的な事業運営が可能になる
先述したように、チェーンストアでは本社と店舗が持つ役割が分かれているのが一般的なので、効率的な事業運営が可能です。たとえば、本社で売上管理や人材確保をおこない、店舗は接客や販売といった業務に注力することが挙げられます。
また、本社と店舗の情報伝達手段が明確になっていれば、マニュアルの変更や注意点の共有などをタイムリーにおこなえます。本社と店舗が離れていてもお互いの認識を統一したうえで運営できるので、効率的に売上やブランド力を高められるでしょう。
各店舗の情報を一元化できる
チェーンストアを展開すれば、各店舗の情報を本社で集約することも可能です。集約した情報を分析して経営戦略の改善に活かせば、売上や集客数を伸ばしやすくなります。
たとえば、各店舗の売上や顧客層、在庫数やクレームといった情報が挙げられます。すべての店舗でこれらを分析すれば、「30代女性のスイーツの売上が伸びているから、同じ顧客層に向けた広告宣伝を増やそう」「全店舗に共通する接客に関するクレームが入ったので、すぐに情報を共有するとともに改善させよう」といった戦略につなげられるでしょう。
チェーンストアを運営するデメリットとは?
チェーンストアによる経営にはデメリットも存在します。
まず挙げられるのがコストの問題です。新規出店時の設備投資や、店舗数が多いほど必要になる人員の採用など、あらゆるコストが発生し、それらを回収できるだけの利益を出す必要もあります。採用したスタッフには、マニュアルなどで統制できる部分はあってもある程度の教育も必要となり、時間もかかってしまいます。
本部統制が難しいことも課題として挙げられます。チェーン店では本部による統制によってさまざまな仕組みや価値の統一化を行います。フランチャイズ形式などのように、コーポレートチェーンほど強く統制ができない傾向にあるチェーン店では、うまく統一化できない要素が生まれてしまう可能性があります。
また、商圏が同じチェーン店同士では顧客の奪い合いになってしまう可能性もあるため、出店する場所や他のチェーン店との位置関係なども考慮する必要があります。
これらの課題を認識したうえで、新規出店や契約をするタイミング、諸々のコストと利益とのバランス、本部の統制の仕組みや他のチェーン店との関係性など問題が無いかなどをよく確認し見極めることが大切です。
まとめ
ここでは、チェーンストアの概要やチェーン方式・商勢圏ごとの種類、チェーンストアのメリットを説明しました。
どのチェーン方式を選ぶかによって、事業運営の方法や得られる売上が変わるので、チェーンストアの運営をする際は入念なシミュレーションをおこなうことが大切です。ここで説明した内容を参考にして、企業の売上やブランド力向上につながるチェーンストア運営をしましょう。