企業が長期的に利益を出し続けるには、商品やサービスのニーズや売上・顧客数、競合の状況など、時代や市場の変化に応じて柔軟に経営戦略を変えなければなりません。
とくに、「商品やサービスの価格をいくらに設定すべきか」というポイントは、マーケティングの担当者であれば一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。利益を残すために価格を上げすぎると、顧客のニーズがマッチしなくなり、他社に顧客が流れたり売上が減少したりする可能性があります。
そのような事態を防ぎつつ、適切に価格設定をするには、「需要の価格弾力性」を意識した戦略立案が重要です。
今回は、需要の価格弾力性という概念を説明したうえで、需要の価格弾力性の求め方や活用場面について詳しく説明します。
目次
そもそも需要の価格弾力性とは?
そもそも需要の価格弾力性とは、商品やサービスの価格が変動した際に、それらの需要がどの程度変化するかを数値化したものです。
顧客は、「求めている商品やサービスをできるだけ安く手に入れたい」と思う傾向があるため、価格が高騰すれば、それだけ需要も低下しやすくなります。
「需要の価格弾力性が高い」とは、価格の上昇に伴う需要の低下幅が大きいことを意味します。そのため、値上げをする際は、より慎重になる必要があります。
「需要の価格弾力性が低い」とは、商品やサービスの価格が上昇してもそこまで需要が低下しない状態を意味します。この状態であれば、ある程度価格の調整がしやすいと言えます。
需要の価格弾力性が高い | 需要の価格弾力性が低い |
価格が高くなる→需要が大きく減少する 価格が低くなる→需要が大きく増加する |
価格が変動したときの需要の変動幅が小さい |
需要の価格弾力性を正しく把握できれば、企業が扱う商品やサービスそれぞれに適正な価格を設定できます。また、設定した価格と需要のバランスを保つことができるため、円滑な事業運営や将来的な成長も見込めるでしょう。
需要の価格弾力性の求め方
先述したように、需要の価格弾力性が高いか低いかによって、価格設定の変更時に需要がどれくらい変化するかが左右されます。では、需要の価格弾力性はどのように求めればよいのでしょうか。
需要の価格弾力性の計算式は、次のようになります。
- 需要の価格弾力性=需要の変化率(%)÷価格の変化率(%)
「需要の変化率」と「価格の変化率」は、次の計算式で求めます。
- 需要の変化率=(価格変更後の売上数-価格変更前の売上数)÷価格変更前の売上数
- 価格の変化率=(変更後の価格-変更前の価格)÷変更前の価格
ある店舗が価格を変更した時のケースで考えてみましょう。以下のような変化が起きたとします。
価格変更前 | 価格変更後 |
---|---|
売上数:800個 | 売上数:1,000個 |
変更前の価格:600円 | 価格:500円 |
これを先ほどの計算式に当てはめると、
需要の変化率は「(1,000-800)÷800=0.25」
価格の変化率は「(500-600)÷600=-0.16%」
となります。
つまり、この場合の需要の価格弾力性は「0.25÷0.16=1.56」です。
需要の価格弾力性は基準を「1」として考えます。「1」を上回る場合は価格の弾力性が高い状態、逆に「1」を下回る場合は価格の弾力性が低い状態です。
ちなみに、需要の変化率と価格の変化率は「絶対値」で表します。絶対値とは、プラスとマイナス関係なく考えた時の値のことです。絶対値として扱う場合は、マイナスの値もプラスとして扱います。たとえば、マイナス3という値は、絶対値に換算すると3になります。
そのため、需要の価格弾力性を求めた結果がマイナスだとしても、プラスの値に変換する必要があります。今回の例で求めた需要の価格弾力性は1.56のため、価格弾力性は高いといえます。
需要の価格弾力性が高い商品の特徴
需要の価格弾力性は、絶対値で「1」を上回るものが高いと判断します。特徴としては、商品の値上げ、値下げによって需要が大きく変化することが挙げられます。そのため、その商品の需要を調整するには価格調整が有効であると言えます。また、極端な値上げをしてしまうと、商品が売れなくなってしまう恐れがあるため、値上げを検討する場合は注意が必要です。
下記では、需要の価格弾力性が高い商品の特徴を2つ説明します。
嗜好品
嗜好品は、人々の生活に必ずしも必要なものではないので、価格変動が需要に大きな影響を与えやすくなっています。そのため多くの嗜好品は需要の価格弾力性が高いといえます。
たとえば、指輪やネックレスといった貴金属類が挙げられます。これらは日常生活を送るうえで必要なものではないため、価格の変動によって日々の暮らしが脅かされるリスクが少なくなります。そのため、10万円で販売しているネックレスが11万円に価格変動した場合、需要が大きく減少して企業の売上が大幅に減少する可能性があります。
大衆向けの商品
大衆向けの商品も、需要の価格弾力性が高く、価格変動の影響を受けやすいジャンルの商品です。このジャンルの商品は競合が多いため、顧客に幅広い選択肢があることから、値上げによって簡単に他社へ流出してしまいます。
たとえば、洗剤のような日用品が挙げられます。洗剤を開発・販売する企業はたくさんあるため、顧客には豊富な選択肢があります。もし普段使用している洗剤の価格が100円高くなれば、以前と同等の価格で販売している他社の洗剤を選ぶ顧客は多いでしょう。
一方、他社の洗剤よりも100円安く販売すれば、多くの顧客を獲得できる可能性が高まります。
需要の価格弾力性が低い商品の特徴
需要の価格弾力性は、絶対値で「1」を下回るものが低いと判断します。特徴として価格が変化した場合でも需要と供給の変化量が少ないことが挙げられます。そのため、値上がりしても、消費者は値上がりした価格で購入し続ける傾向があります。また、売上個数を増やすための値下げは、売上につながらない恐れがあるので慎重に行う必要があります。
下記では、需要の価格弾力性が低い商品ジャンルとして2つの例を紹介します。
必需品
必需品は、需要の価格弾力性が低い商品ジャンルです。たとえば、医薬品や食料品といった商品が挙げられます。これらは価格に関わらず生活するうえで必要なものなので、値段が変わっても販売数が大幅に変化するとは考えにくいでしょう。
しかし、これは市場全体で考えた価格のことで、「近所に複数のドラッグストアがある」「スーパーマーケットが自宅周辺に複数ある」のように競合が多いと、たとえ必需品であっても価格の安いほうに顧客が流れてしまいます。そのため、価格設定には注意し市場の状況や扱う必需品によっては、需要の価格弾力性が高くなることも知っておきましょう。
オリジナリティのある商品
オリジナリティのある商品は競合が少ないため、価格の変動によって需要が変化しにくいと言えます。
たとえば、高級ランドセルや特定の業種のみが使う工具などが挙げられます。これらは一定の需要があるものの、競合が少ないため、価格が上昇しても販売数が大きく減少することは考えにくい商品です。競合との価格競争に巻き込まれて無理な値下げをする必要がないので、値上げすれば売上や利益を大きく伸ばせるでしょう。
しかし、オリジナリティのある商品は、すでに需要の多くを獲得している可能性が高いため、値下げによって多くの顧客を獲得するのは困難です。時代の変化によって需要がなくなる可能性もあるため、状況によっては商品やサービスの価格設定を見直し、価格改定を行うといいでしょう。
需要の価格弾力性の活用場面
需要の価格弾力性を考えた事業戦略を練るには、この概念を活用する場面を知る必要があります。需要の価格弾力性の活用場面として、次の3つが挙げられます。
以下では、これらの場面について詳しく説明します。
新しい商品やサービスの価格設定をするとき
新たに開発した商品やサービスは、価格をいくらにするかで売上が大きく変わるため、需要の価格弾力性を考慮して設定する必要があります。
たとえば、高級ランドセルのように需要の価格弾力性が低い商品を販売する場合、ランドセル市場の価格相場より高い価格を設定しても、ある程度の売上を出せるでしょう。
一方、洗剤のように需要の価格弾力性が高い市場では、相場より高い価格で販売すると売上が伸び悩む可能性が高いでしょう。需要の価格弾力性が高い商品は、なるべく低価格に設定する必要があります。
ただし、価格設定には仕入れコストや人件費、広告宣伝費やブランド力など、さまざまな要素が影響するので、需要の価格弾力性だけで価格設定をするのは好ましくありません。あくまで価格設定する際の参考として指標を活用しましょう。
商品やサービスの価格を調整するとき
新商品や新サービスを販売するときだけでなく、すでに販売している商品やサービスの価格を調整する際も、需要の価格弾力性を活用します。
具体例として、「値下げキャンペーンを実施して集客数や販売数を増やしたい」と考える場合、需要の価格弾力性が低い商品よりも、高い商品の値引きをしたほうが効率的に目標とする成果を出せます。値下げ効果が高い商品を決める際は、需要の価格弾力性の値が1より大きいものを選ぶのがおすすめです。
小売店の戦略を考えるとき
企業が小売店に商品やサービスの販売を依頼している場合、小売店での販売データを分析して需要の価格弾力性を求めることによって、適正な価格設定をする必要があります。
小売店は、より多くの顧客に店舗を利用してもらうために「特売セール」「割引キャンペーン」といったイベントをおこないがちです。しかし、需要の価格弾力性を考慮することなくこのようなイベントを開催すると、値下げをしても十分な売上を確保できなくなります。
集客数や売上を増やす手法として、値下げのほかに、広告宣伝の方法を変えたり関連商品を提案して顧客1人あたりの購入金額を増やしたりする方法もあります。小売店ごとにうまく売上を伸ばすには、需要の価格弾力性も参考にしながら販売戦略を練ることが大切です。
需要の価格弾力性以外の弾力性
上記で解説した需要の価格弾力性以外にも弾力性を表すものがあります。
下記では4つの弾力性について概要と計算式を紹介します。
概要 | 計算式 | |
---|---|---|
価格の交差弾力性 | 品目Aの価格が変化したときの、その変化が他の品目の需要量へ及ぼす影響力を表す度合い |
価格の交差弾力性 =品目Bの販売量の変化率 ÷品目Aの価格の変化率 |
供給の価格弾力性 | 価格が変化したときに、どのくらい供給量が変化するかを数値化したもの | 供給の価格弾力性 =供給の変化率(%) ÷価格の変化率(%) |
投資の利子弾力性 | 利子率が1%動いたときに、投資が何%動くかを数値化したもの | 投資の利子弾力性 =投資の変化率(%) ÷利子の変化率(%) |
需要の所得弾力性 | 所得が1%変化するとき需要が何%変化するかを数値化したもの | 需要の所得弾力性 =需要の変化率(%) ÷所得の変化率(% |
まとめ
ここでは、需要の価格弾力性の概念や値の求め方、需要の価格弾力性が高い商品と低い商品の特徴、需要の価格弾力性を活用する場面について説明しました。
マーケティングにおいて、商品やサービスの価格は売上を左右する重要な部分なので、自社だけでなく競合の分析もしながら設定する必要があります。
ここで説明した内容を参考にして、企業の商品やサービスをより多く販売できる価格を設定しましょう。
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