市場で有利なポジションを獲得して集客数や売上を伸ばすには、競合他社の状況を意識した事業戦略を練る必要があります。しかし、業種によってはたくさんの競合が存在するため、「他社からシェアを獲得できない」「大企業に対抗できる力がない」と悩む人も多いのではないでしょうか。
自社の状況を的確に分析して取るべき施策を実践するには、「ランチェスター法則」に基づいて戦略を考えるとよいでしょう。ここでは、ランチェスター法則の概要や自社の状況を判断するポイントを説明したうえで、事業規模ごとの取るべき戦略やランチェスター法則をうまく活用するコツを紹介します。
目次
そもそもランチェスター法則とは?
そもそもランチェスター法則とは、企業の強弱を「戦闘力」として数学的に表すものです。この法則は、イギリスのランチェスター氏が第一次世界対戦のときに提唱した「ランチェスター戦略」と、第二次世界大戦時のときにランチェスター戦略から進化した「ランチェスター戦略方程式」を組み合わせてつくられています。
ランチェスター法則では、次の計算式が成り立つと言われています。
- 戦闘力=兵数×武器効率
もともと軍事戦略で用いられていたランチェスター法則ですが、この法則はマーケティングと似ている部分があることから、現代のマーケティングでも活用されています。
マーケティングでは、計算式に含まれる要素を次のものに対応させます。
戦闘力 | 営業力 |
兵数 | 従業員数、営業パーソン数、工場の設備数、売り場の面積、座席数など |
武器効率 | 情報収集・活用力、開発力、技術力、商品やサービスの品質、ブランド力、顧客対応力、営業スキルなど |
戦闘力を高めるには、兵数や武器効率を高める必要があります。しかし、競合の数によって重視すべき要素が変わるため、「第一法則」と「第二法則」を使い分けることが大切です。
ランチェスター法則における2つの基本法則
先ほど、1つの計算式で示したランチェスター法則ですが、この法則は「第一法則」と「第二法則」の2つに分かれており、競合の数によって計算式が変わります。
以下では、これら2つの基本法則について詳しく説明します。
第一法則
上述したランチェスター法則の計算式は、競合との1対1で戦うことを想定した「第一法則」に該当します。
もし、自社と競合の武器効率が同じであれば、兵力数が多いほど有利に戦えます。
たとえば、商品やサービスの品質、ブランド力が同等の企業であれば、従業員数や工場の設備数、売り場の面積や座席数が多いほど、シェアを獲得しやすくなります。
しかし、兵数を増やすには、大企業のように多くの経営資源を持たなければなりません。中小企業が限られた資源で大企業と戦うのであれば、大企業の兵力を分けて考え、1点に集中して攻撃する手法が有効です。
第二法則
一方、ランチェスター法則の第二法則は、戦う相手が多い場合に効果的な法則です。
大企業が複数の中小企業と戦うときは、第二法則を活用した戦略を取ると有利に戦いを進められます。第二法則では、次の数式で戦闘力を求めます。
- 戦闘力=武器効率×兵数の2乗
両者の武器効率が同等である場合、兵力が高いほど競争に勝ちやすくなります。
たとえば、技術力や商品の品質が同等であれば、従業員数や売り場の面積、座席数や工場の規模が大きいほど有利に戦えます。
第二法則では、兵数が多いほど大きな力を発揮するため、豊富な資本力を持つ大企業ほど戦闘力が高まります。
自社が強者か弱者かを判断するポイント
ランチェスター法則に含まれる「第一法則」「第二法則」をうまく活用するには、自社が強者か弱者かを的確に判断しなければなりません。これを判断するには、マーケットシェア理論を活用するのがおすすめです。
マーケットシェア理論とは、ランチェスター戦略から導き出された理論で、商品やサービスのシェアの状況ごとに目指すべきシェア率が示されているのが特長です。具体的な目標値は、次のように示されています。
シェアの状況 | 目標とするシェア率 |
市場でのシェアを完全に独占している状態。他社にシェアを奪われる心配はないが、これ以上シェアが伸びると商品やサービスが一般化するため価値が低下する恐れがある。 | 73.9% |
ほかの業種を寄せ付けない圧倒的なシェア率を獲得している状態。市場で強固な地位を確立できる。 | 41.7% |
安定的に市場を独占できるシェア率。業界内での地位を安定させられる。 | 26.1% |
業界内でシェア率の高い企業が混在している状況。市場での順位が頻繁に入れ替わる。 | 19.3% |
市場である程度の影響力を持つ状態。シェアの奪い合いが発生するが、うまくいけば業界内でトップクラスのシェアを獲得できる。 | 10.9% |
競合他社に存在が認められるシェアはあるものの、市場への影響はそこまで大きくない状態。市場で生き残るために最低限必要なシェア率。 | 6.8% |
市場内での存在価値が認められていない状態。市場に新規参入する事業者が目標とするシェア率。 | 2.8% |
マーケットシェア理論では、シェア率26.1%以上であれば「強者」になると言われています。つまり、自社が強者か弱者であるかは、この数値を基準に判断します。
ビジネスで大企業と中小企業が取るべき戦略
市場でのシェア率が高い強者側の企業でも、弱者側の企業がまとまって攻撃してくると、シェアが脅かされる可能性があります。また、中小企業であっても、取るべき戦略を実践すれば、シェアを拡大させられます。
以下では、ビジネスで大企業と中小企業が取るべき戦略について説明します。
中小企業がとるべき戦略
先述したように、中小企業の場合、ランチェスター法則の「第一法則」をもとに事業計画を立案するのが効果的です。なぜなら、大企業と比べると経営資源や事業規模が劣る場合が多く、「兵数」で対抗するのが難しいからです。
中小企業がとるべき戦略の具体例としては、「競合の大企業がまだ手がけていない商品を開発する」「自社独自の強みを活かして、商品の品質を大幅に向上させる」といった手法が挙げられます。
大企業が展開するビジネスの隙間を狙った戦略や、特定の分野に限定した戦略を取れば、潜在顧客の発掘や大企業からの顧客流入を促すことができます。
大企業がとるべき戦略
大企業がランチェスター法則を活用する場合は、「第二法則」を活用して戦略を立案します。大企業には、豊富な経営資源やブランド力といった優位性があるため、それを存分に活かした戦略を取ることで、中小企業とさらに差をつけられます。
たとえば、中小企業が特定の商品に注力して商品開発をした場合、大企業は経営資源を活かして「同じジャンルで豊富な商品ラインナップを用意する」という戦略を取ることで中小企業に対抗できます。
また、豊富な資金力とブランド力を活かして、インターネット広告やテレビCM、チラシやイベント開催といったマーケティングを積極的におこなえば、顧客の注目を集めてシェアを一気に拡大できるでしょう。
ランチェスター法則をうまく活用するコツ
ここまでは、事業規模ごとに取るべき戦略を説明しました。実際にランチェスター法則を用いて戦略を考える場合、次のコツを意識すればより多くのシェアを獲得できます。
以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。
ポイントを絞って事業展開する
特に、ランチェスター法則で「弱者」に分類される企業では、事業展開する市場が増えるほど各市場で発揮できる力が弱くなりやすいです。どの市場でも豊富な経営資源を持つ企業が有利になるため、「結局どの市場でもシェアを獲得できなかった」という結果になる可能性もあります。
しかし、「クラウド上で提供するマーケティング自動化ツールに絞って商品開発をする」「米粉パンに限定してパン屋を経営する」といったように、ポイントを絞って事業展開すれば、企業の強みを活かすとともに、経営資源を集中させることで強者の企業に対抗しやすくなります。
特定の市場でトップを目指す
ポイントを絞って事業展開しても、選んだ市場でトップになれなければ、他社にシェアを脅かされるかもしれません。
ランチェスター法則では、2位以下の企業とあまり差がない単なる1位とは別に、「2位以下の企業に圧倒的な差をつけている企業のこと」のことを「No.1(ナンバーワン)」と定義しています。競合とのトップ争いに脅かされることのない安定した地位を手に入れるためには、2位以下の企業と大きく差をつける戦略を実践しなければなりません。
2位以下の企業と圧倒的な差をつければ、競合は自社と戦おうとする意思を持ちにくくなります。それによってさらにシェアを拡大させ、企業のブランド力や資本力を向上させられます。
1つ下にいる企業との差を広げる
市場のトップを獲得できていない企業でも、シェア率の順位が1つ下の企業と差を広げることで、競合を減らしやすくなります。競合にもたくさんの種類がありますが、すべての競合と戦おうとすると、競合に対抗することばかり意識してしまい、事業を発展させられません。
戦う相手を勝率の高い企業1つに絞れば、時間や費用を抑えつつ競合と差をつけられるので、効率的に有利な立ち位置を築けます。
ランチェスター法則における弱者戦略の事例
ランチェスター法則をさらに詳しく理解するには、他社の事例を知ることが大切です。
まずは、ランチェスター法則における弱者戦略の事例を紹介します。
国内通信事業者の事例
今では「大手通信キャリア」に名を連ねている事業者ですが、この通信事業者は、モバイル業界に参入したときは「弱者」に分類されていました。
しかし、「他社を寄せ付けない料金の安さ」を売りにして事業展開することで、2020年の時点でその差を大きく縮めています。
しかし、通信業界で「強者」にあたる企業も、それに対抗して価格を抑える施策を実施したため、激しいシェア獲得争いはまだ続いています。今後は5GやVR、ARといった技術を活かした戦略をどのように打ち出すかによって、市場のバランスが変わるでしょう。
参考:「通信サービス利用動向調査」から見る、通信業界の市場シェア変化
ハンバーグレストランの事例
1977年に静岡県で設立したあるコーヒーショップは、特定の市場に絞って事業展開することで、シェアの獲得に成功しています。
その店舗では、「メニューをハンバーグに限定して提供する」という施策を実践しました。それによって、「美味しいハンバーグを食べるならこの店舗」というイメージを顧客に与えています。
また、展開する店舗を静岡県に限定することで、「静岡県でしか食べられないハンバーグ」というブランディングもしています。その結果、店舗の存在は全国各地に広まり、多くの人々から支持されるハンバーグチェーン店へと成長しました。
参考:さわやかハンバーグから学ぶ、ファンと口コミが生まれる強いお店の作り方
ランチェスター法則における強者戦略の事例
ランチェスター法則における「強者」の戦略をイメージするには、大企業の事例を知ることが大切です。
以下では、ランチェスター法則における強者戦略の事例を紹介します。
デジタル製品を開発する海外企業の事例
1976年に創業したデジタル製品を開発する、ある海外企業の事例です。この企業は、競合がシェアを獲得した商品を自社製品に応用し、幅広い分野の市場に参入することで事業規模を拡大しています。
具体例として、スマートフォンやタブレット、ポータブルオーディオプレーヤーなどが挙げられます。他社からシェアを獲得するのは簡単ではありませんが、豊富な資金力や開発力などを活かして市場のトップへと上りつめたのは、大企業ならではの戦略だと言えます。
自動車開発企業の事例
国内大手の自動車開発企業は、1995年に発売したハイブリッドカーによって自動車市場のシェアをさらに伸ばすことに成功しました。その後、他社がより安価に入手できるハイブリッドカーを開発・販売しましたが、モデルチェンジすることでさらに低価格で販売し、弱者と差をつけています。
この戦略によってこの企業は国内市場で圧倒的な地位を築きました。その後も、豊富な経営資源や技術力、生産力を活かして新たな自動車を開発し、自動運転車や新たなエネルギーを使った自動車開発に力を入れることでさらに市場での存在感を強めようとしています。
参考:プリウス、ハリアー…ライバル車を徹底研究し販売戦略で勝ったクルマたち
まとめ
ここでは、ランチェスター法則の概要や、自社が強者か弱者かを判断するポイント、事業規模ごとの取るべき戦略やランチェスター法則をうまく活用するコツについて説明しました。
業種や競合の数、現在のシェア率によっては、有利なポジションを獲得できるまでに時間がかかるかもしれません。しかし、ランチェスター法則を活用して取るべき戦略を明確にできれば、徐々にシェアが拡大するでしょう。場合によっては数年にわたってシェアを拡大するケースもあるため、短期・中期・長期それぞれの目標を設定することも大切です。
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