企業が開発する商品やサービスに対して、多くの顧客に興味を持ってもらい、来店や購入といった行動に結びつけるには、顧客の内面的な変化を意識してアプローチすることが大切です。しかし、消費者の心理状態は可視化しづらいため、「顧客が何を考えているか分からない」「どうすれば興味や関心を高められるか知りたい」と思う人も多いのではないでしょうか。

顧客が商品やサービスを認知してから購入するまでに至る心理プロセスを表すものに「AIDMAモデル」があります。ここでは、AIDMAモデルの概要や活用するメリット、AIDMAモデルの各ステップを実現する方法や他社の成功事例について説明します。

そもそもAIDMAモデルとは?

そもそもAIDMAモデルとは、アメリカのローランド・ホールが提唱した「顧客の消費行動における心理プロセスを可視化したもの」です。このモデルでは、顧客の心理プロセスが次の5つに分けられています。

  1. Attention:認知
  2. Interest:興味
  3. Desire:購買欲求
  4. Memory:記憶
  5. Action:購買行動

AIDMAモデルを活用すると、顧客が商品やサービスを認知してから購入するまでの心理変化に応じて戦略を考えられます。目に見えない顧客の感情を汲み取ったアプローチができることから、マーケティング戦略として活動に取り入れている企業は多いでしょう。

参考:AIDMA(アイドマ)とは・意味|創造と変革のMBA グロービス経営大学院

AIDMAモデルの5ステップと実践方法を知ろう

AIDMAモデルの5ステップ

先述したように、AIDMAモデルでは顧客の心理変化が5つのプロセスに分けられています。また、上の表のように、AIDMAモデルの購入を決定させるプロセスは次の3つにまとめることもできます。

  • 認知段階:商品やサービスの存在を知る段階(Attention:注目)
  • 感情段階:商品やサービスが好きか、使ってみたいかを判断する段階
    (Interest:興味、Desire:欲求、Memory:記憶)
  • 行動段階:商品やサービスを購入・使用する段階(Action:行動)

AIDMAモデルで、顧客がどの段階にいるかを大まかに把握できれば、顧客の購入状態にあわせて来店や購入につながるマーケティング戦略をおこないやすくなるでしょう。

以下では、購買行動プロセスごとの特長や具体的なマーケティング手法について説明します。

ステップ1:Attention(認知)

「Attention:認知」は、顧客が企業の商品やサービスの存在に気づく段階です。どれだけ魅力的な商品やサービスを開発しても、存在が知られなければ購入を検討してもらうことすらできません。そのため、まずは商品やサービスがあることを認識してもらう必要があります。

商品やサービスの存在を知らせるマーケティング手法には、次の方法があります。

  • テレビCMやラジオCM
  • チラシ配布
  • 看板や旗の設置
  • 新聞広告やWeb広告
  • イベントへの出店

ほかにも顧客への認知を促進するマーケティング手法はたくさんありますが、ターゲットとする顧客により多く情報が届く手法を選ぶことが大切です。

たとえば、20代女性にファッションアイテムの存在を知らせたいのであれば、「Instagram広告を活用して情報発信する」のような方法が考えられます。

ここでターゲットに対してうまく情報を届けられれば、次の段階「Interest:興味」につなげやすくなります。

ステップ2:Interest(興味)

「Interest:興味」は、顧客が認知した商品やサービスに対して、興味や関心を持つ段階です。

たとえ「Attention:認知」の段階で認知してもらえても、興味や関心を引けなければ購入してもらうことはできません。そのため、この段階では次のような施策に取り組む必要があります。

  • どうすればダイレクトメールを開封してくれるか
  • どうすれば看板に興味を持ってくれるか
  • どうすれば口コミやレビューを見てくれるか

先ほどのファッションアイテムを例にすると、「目を惹くデザインのDMをつくる」「口コミを見て来店したら特典を受けられるようにする」といった手法が挙げられます。うまく顧客の興味を高めれば、次の段階である「購買欲求」を高めやすくなります。

ステップ3:Desire(購買欲求)

「Desire:購買欲求」は、「商品やサービスを利用してみたい」と思う段階です。

顧客に「購入したい」という欲求を持たせるには、ターゲットのニーズを理解し、それを刺激する必要があります。

先ほどのファッションアイテムであれば「一着あるとフォーマルにもプライベートにも重宝する」などの訴求をすることで「購入したい」と思ってもらえる可能性が高くなるかもしれません。同時に「初回購入時は〇%割引」のようなお得なキャンペーンをすれば、さらに購入に結びつけやすくなるでしょう。

ステップ4:Memory(記憶)

「Memory:記憶」は、購買意欲が高まった顧客のさらに先の状態です。購買意欲を持つと同時に購入に結び付くのが理想ですが、すべての顧客がそのように行動するわけではありません。

中には、商品やサービスについてさらに詳しく調べてみようと思う人もいれば、購入をいつの間にか忘れてしまう人もいるでしょう。

そのため、この段階では、なるべく購買意欲が高い状態を長く維持させたり、忘れてしまった購買意欲を思い出させたりする施策が重要になります。CMやダイレクトメール、無料サンプル・サービスの利用者向けのキャンペーン情報などをさまざまな媒体を通じて、商品やサービスの存在を忘れられないようにリマインドして顧客が購買行動を起こすように促しましょう。

先ほどのファッションアイテムを例にすると、新商品に関するチラシを配布した1週間後に再度同じ商品のチラシを配布したり、カスタマーセンターに問い合わせをした顧客に対して一定期間後に関連商品の案内メールを送ったりする方法が挙げられます。

このように、情報発信を通じて欲しいという気持ちを活性化する施策を実施したり、商品やサービスを思い出させたりすることで、購入につなげやすくなるでしょう。

ステップ5:Action(購買行動)

「Action:購買行動」は、その名の通り顧客が購入や契約に至る段階です。このゴールに到達させるためには、消費者の心にある障壁をいかに取り除くかが大切です。

先ほどのファッションアイテムを販売する企業であれば、スタッフ教育に力を入れ、接客の品質を高めることで「この店なら安心して購入できる」と思ってもらいやすくなります。

また、購入した商品に長期間保証がついていれば、「購入した後にトラブルがあってもしっかり対応してもらえる」と感じてもらえるでしょう。このように、うまく顧客の購買行動を後押しできれば、売上アップにつながります。

AIDMAモデルを活用するメリット

ここまでは、AIDMAモデルに含まれる各ステップについて説明しました。では、AIDMAモデルを活用するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。主なメリットとしては次の2つがあります。

  • 顧客の心理状態に適したアプローチができる
  • 自社の状況を客観視できる

以下では、AIDMAモデルを活用するこれらのメリットについて詳しく説明します。

顧客の心理状態に適したアプローチができる

先述したように、AIDMAモデルを活用すると、顧客の心理状態の変化にあわせてマーケティング手法を考えられます。顧客が企業の商品やサービスを認知しているか、どれくらい興味や関心を持っているかに応じて適切なアプローチができるので、計画的に集客数や購入数を増やせます。

たとえば、商品やサービスについて知らない人に、購入方法やアフターサービスについて書かれたチラシを配布しても、なかなか興味を持ってもらえないでしょう。

この場合は、顧客がAIDMAモデルの「Attention:認知」の段階にあると考えられるため、商品やサービスが顧客が抱える悩みにどう役立つのかを説明することで、興味や関心を高めることが可能です。

自社の状況を客観視できる

AIDMAモデルでは、顧客の心理状態に応じたアプローチができるだけでなく、自社が各プロセスにおいてどのようなマーケティングをしているかを客観視することも可能です。

たとえば、飲食店が来店を促すWeb広告を配信しており、「広告のクリック数は多いけれど、来店する顧客数が少ない」という現状になっているとします。

この状況から、AIDMAモデルに照らし合わせて考えると、広告に興味を持ってもらうことはできているが、「Desire:購買欲求」の段階に課題があると考えられます。

次の施策としては、「来店時にWeb広告のクーポンを提示してくれたらドリンク1杯サービス」のような特典を設け、来店数アップを狙うなどが考えられます。

このように、AIDMAモデルを活用すると、自社のマーケティングの弱みも見つけられます。うまく分析して改善すれば、より集客数や売上を向上させられるでしょう。

AIDMAモデルの成功事例を紹介

AIDMAモデルをより具体的にイメージするには、具体的な活用事例を知るのも大切です。
以下では、AIDMAモデルの成功事例を紹介します。

化粧品メーカーの成功事例

ここでは、化粧品メーカーの成功事例を紹介していきます。化粧品メーカーの成功事例をAIDMAモデルに当てはめると、以下のような流れで消費者の購買心理は変化していきます。

Attention(認知)

消費者がテレビCMやチラシを通じて商品や企業のことを認知する

Interest(興味)

テレビCMやチラシで、商品の詳細な情報や利用者の声を見ることで、商品に興味を持つ

Desire(購買欲求)

テレビCMやチラシで無料サンプルを配布していることを知り、商品を試してみたいと思いサンプルを請求する

Memory(記憶)

無料サンプルを使用した消費者向けのダイレクトメールでお得なキャンペーン情報を知り、機会があれば購入したいと思う

Action(購買行動)

インターネットで簡単に注文できることやまとめて購入すると20%OFFのキャンペーンが実施していたため、いい機会だと思い、商品の購入をする

化粧品メーカーの成功事例は、ターゲット層が見る時間帯にテレビCMを配信してた点や消費者に商品サンプルを使ってもらい、商品の良さを知ってもらうことで購入につなげている点が消費者心理を把握したマーケティングと言えるでしょう。

飲料メーカーの成功事例

次に、飲料メーカーの成功事例を紹介していきます。飲料メーカーの成功事例をAIDMAモデルに当てはめると、以下のような流れで消費者の購買心理は変化していきます。

Attention(認知)

他社の果汁系の缶チューハイとパッケージで差別化が図られていたため、売り場で消費者が新しい商品だと認知する

Interest(興味)

「レモン」だけに特化した缶チューハイを販売していたことや異なるアルコール度数、味の展開がされていたため、消費者は興味を持った

Desire(購買欲求)

最初は地域限定で販売を開始したため、販売していない地域の消費者も購入したいと思うようになる

Memory(記憶)

全国での販売決定にあわせて、テレビCMも放送され、消費者の記憶に残った

Action(購買行動)

期間限定で缶チューハイとおつまみを無料で提供するイベントを恵比寿で開催し、消費行動を促した

飲料メーカーの成功事例は、これまでの缶チューハイとはコンセプトが異なるパッケージで販売することで、消費者に商品への興味を持たせたことや商品を手に取る機会を設けて、消費行動を促したことが消費者心理を把握したマーケティングと言えるでしょう。

AIDMAモデルに似ているフレームワーク

最後にAIDMAモデルとその他の購買行動モデルの違いについて解説していきます。それぞれのモデルの違いを理解して、適切なモデルを活用しましょう。

AIDMAモデルとAISASモデルの違い

AIDMAモデルと似たフレームワークに「AISASモデル」があります。AIDMAモデルは1920年代に提唱された購買行動モデルですが、AISASモデルはインターネット普及後の1995年に大手広告代理店の電通が提唱した顧客の消費行動を可視化したモデルです。AISASモデルは、以下のような流れで消費者の購買心理が変化していきます。

  1. Attention(認知)
  2. Interest(興味)
  3. Search(検索)
  4. Action(購買行動)
  5. Shere(共有)

このモデルは、AIDMAモデルの「Desire(購買欲求)」「Memory(記憶)」が「Search(検索)」に置き換えられているのが特徴です。また、「Action(購買行動)」の後に「Shere(共有)」が追加されているという違いもあります。

AISASモデルにおける「Search(検索)」は、商品やサービスを認知した顧客が、検索エンジンやSNSで詳しく調べようとする段階です。「Shere(共有)」は、商品やサービスを購入・利用した顧客が、SNSや口コミサイトにレビューを投稿してほかの顧客に情報を伝える行動を指します。

さらに、AISASモデルでは、顧客がインターネット上に投稿した情報がほかのユーザーに届くことで、興味を持ったユーザーが商品やサービスを求めるようになるという好循環が生まれるのも特徴です。

参考:AISASモデルとは?理論の特徴と購買行動プロセス、関連モデルをご紹介 | BizHint(ビズヒント)- クラウド活用と生産性向上の専門サイト

その他の購買行動モデルをご紹介

上記では、「AIDMAモデル」と「AISASモデル」について解説してきましたが、購買行動モデルは他にもいくつか種類があります。ここでは、購買行動モデルについて3つ紹介します。

まず、1つ目の購買行動モデルは、「SIPS(シップス)」です。SIPSとは、消費者の共感や拡散を想定したソーシャルメディアに対応した購買行動モデルのことを指し、以下の頭文字を取ったものになります。

  • Sympathize(共感する)
  • Identify(確認する)
  • Participate(参加する)
  • Share&Spread(共有と拡散する)

たとえば、企業が所有しているSNSアカウントから商品情報やキャンペーン情報の発信を行ったものを、消費者が共感し拡散してもらうことで、商品の購入やサービスの利用を促します。

次に、2つ目の購買行動モデルは、「AIDA(アイダ)」です。AIDAとは、消費者が商品の情報を得てから、行動までの心理過程を明確にしたもので、以下の頭文字を取ったものになります。

  • Attention(注意)
  • Interest(興味・関心)
  • Desire(欲求)
  • Action(行動)

「AIDMAモデル」と比較して「Memory(記憶)」の要素がないため、広告発信をしてからテンポよく、消費者を商品やサービスの購買に導くモデルです。

最後に3つ目の購買行動モデルは、「DECAX(デキャックス)」です。DECAXとは、消費者の発見から始まる購買モデルということが特徴的で、以下の頭文字を取ったものになります。

  • Discovery(発見)
  • Engage(関係構築)
  • Check(確認)
  • Action(行動)
  • Experience(体験して共感)

消費者が商品を発見することで始まる購買モデルのため、消費者にとって有益な情報を提供するなど、うまく活用できれば、コストをかけずに集客を行うことが可能です。

AIDMAモデルは古くて使えないと考えるのは誤り

現代はAISASモデルをはじめ、消費者行動を説明するための新しいモデルが登場しています。そのため、「AIDMAモデルはもう古くて使えないのでは?」と考える人もいるかもしれません。

しかし、これらのモデルはAIDMAモデルから派生していることがほとんどとされています。時代が変化しても購買における消費者の心理変化プロセスには大きな違いはないと考えられているので、まずはAIDMAモデルをしっかりと理解してから、その他のモデルを活用していくことが大切です。

参考:AIDMA(アイドマ)の法則はもう古い?AISAS・AISCEAS・AIDCASとの違いとは? | Tayori Blog

まとめ


ここでは、AIDMAモデルの概要や、各ステップの特長や実践方法、他社の成功事例について説明しました。
顧客の内面を理解してマーケティングするには、顧客数や売上を分析するだけでなく、アンケートやヒアリングなどを通して、顧客が企業の商品やサービスに対しどのような印象を持っているかを把握することも大切です。ここで説明した内容を参考にして、AIDMAモデルに沿って顧客のニーズを満たすマーケティングを実践しましょう。

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