どれだけたくさんの顧客を集めても、1人ひとりから得られる売上が少なければ企業の利益は伸ばせません。それぞれの顧客になるべく多く商品やサービスを購入してもらうには、「生涯顧客価値」を高める必要があります。
しかし、「生涯顧客価値がどのような指標か分からない」「生涯顧客価値を高めるにはどうすればよいのだろう」と悩む人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、生涯顧客価値の概要や重視される理由、生涯顧客価値を高める方法について、具体例を交えて説明します。
目次
生涯顧客価値(LTV)とはどのような指標?
そもそも生涯顧客価値とは、「Lifetime Value(LTV)」を日本語で表現した言葉で、企業と顧客が最初に接点を持ってからその関係が終了するまでに、企業が得られる利益のことです。
企業によっては、1回あたりの取引で得られる売上や利益を重視するかもしれません。
しかし、生涯顧客価値を高めれば、企業が得られる売上や利益を長期的に伸ばせます。
生涯顧客価値の計算方法とは?
生涯顧客価値の計算方法はたくさんありますが、代表的な計算方法として、次があります。
- 生涯顧客価値=平均顧客単価×平均購買頻度×収益率×継続期間
たとえば、以下のケースでは生涯顧客価値がいくらになるか求めてみましょう。
指標名 | 詳細 | 値 |
平均顧客単価 | 1回の購入で顧客1人当たりが支払う金額 | 3万円 |
平均購買頻度 | 1年あたりの購入回数 | 6回/年 |
収益率 | 売上のうち、企業に残る粗利益(売上-原価)の割合 | 50% |
継続期間 | 顧客が購入を継続する期間 | 10年 |
この場合、生涯顧客価値は90万円となります。
- 生涯顧客価値=3万円×6回×50%×10年=90万円
また、上記の式には含まれていませんが、「新規顧客を獲得するための費用」と「既存顧客を維持する費用」もかかります。
生涯顧客価値が、この2つのコストを上回っている場合は、顧客を獲得しても赤字になってしまうため、生涯顧客価値をさらに高めるかコストを削減しなければなりません。
生涯顧客価値が重視される理由を知っておこう
では、生涯顧客価値はなぜ重視されているのでしょうか。その理由として、次の3つが考えられます。
以下では、これらの理由について詳しく説明します。
集客コストを抑えやすくなるから
なるべくたくさん顧客を集めようと、新規顧客の獲得に注力する企業は多いです。
しかし、新規顧客を集めても、商品やサービスの購入金額や購入頻度が少なかったり、すぐに他社に乗り換えられてしまったりすると、新規顧客獲得のために大きなコストを投下し続けなければなりません。
マーケティングには「1:5の法則」という概念があり、新規顧客の獲得にかかるコストは既存顧客を維持するコストの5倍かかるとされています。そのため、新規顧客を集め続ける戦略は企業にとって負担がかかります。生涯顧客価値を高める戦略を取れば、顧客1人あたりが企業と関係を持つ期間が長くなるので、コストを抑えて顧客を維持できます。
参考:1:5の法則/5:25の法則 | Webで活用するマーケティングの法則
市場が飽和状態になりつつあるから
近年、市場にモノが充足してきているため、業種によっては新規顧客を獲得するのが困難になっています。
たとえばスマートフォン市場など、今や多くの人々に行き渡っており、長期的に使用し続ける可能性が高い商材では、他社から顧客を獲得するのが難しいとされています。
先述したように、新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストよりも多くなりやすいです。市場が飽和状態になりつつある現代は、時間や費用をかけて新規顧客を獲得するよりも、既存顧客を大切にしてより長く企業の商品やサービスを利用してもらうアプローチが重要です。
広告宣伝費を適正に保てるから
生涯顧客価値を高めれば、広告宣伝費を適正に保つことも可能です。
顧客を集めるために一時的に多くの費用がかかっても、企業の商品やサービスを長く利用してもらえれば、結果的に少ない広告宣伝費で顧客を獲得・維持することになるからです。
たとえば、1万円の商品の購買頻度が年に1回、収益率が50%、継続期間が1年のケースで考えてみましょう。
- 生涯顧客価値=1万×1回×50%×1年=5000円 です。
この場合、広告宣伝費が5000円を超えると、それだけで赤字になってしまいます。しかし、購買頻度や継続期間を改善できれば、それだけ顧客1人にかけられる広告宣伝費を増やすことができるので、予算を増額し事業拡大することも可能になります。
生涯顧客価値を高める方法とは?
それでは、具体的にどのようにすれば生涯顧客価値を高められるのでしょうか。ここでは、代表的な6つの方法を紹介します。
客単価を高める
客単価は、顧客1人あたりの1回の平均購入金額のことをいいます。客単価が高いほど、企業が得られる売上が上がるため、それだけ生涯顧客価値も高まります。
客単価を高める方法として代表的な手法は、次の2つです。
- クロスセルをおこなう
- アップセルをおこなう
どちらも販売方法が異なりますが、うまく使い分けることで企業の売上を伸ばしやすくなります。
クロスセルをおこなう
クロスセルは、商品やサービスの販売時に、関連する別の商品やサービスを提示して、あわせて購入してもらう方法です。
たとえば、化粧品を販売している企業が、「自社のサプリメントと併用することでより高い美容効果を感じられる」とアピールして、まとめて購入してもらう方法が挙げられます。
クロスセルは、単なる押し売りにならないように注意が必要ですが、きちんと顧客のニーズを満たす商品やサービスを提案できれば、客単価だけでなく顧客満足度も向上させられます。顧客満足度を高めて企業のファンを増やせれば、より長く商品やサービスを利用してもらえるでしょう。
アップセルをおこなう
アップセルは、顧客が購入した商品よりもグレードの高い商品の購入を勧める手法です。クロスセルよりも購入する商品やサービスの種類が限定されがちですが、1回の購入金額を高められるので、客単価アップにつながります。また、特定の商品やサービスを多く購入してもらう方法も、アップセルに該当します。
たとえば、「以前購入した化粧水より有効成分が多く含まれた、価格帯の高い商品を提案する」「化粧水と乳液、美容液がセットになった商品をまとめ買いすると、単品購入よりお得に入手できる」といった施策が考えられます。顧客にお得感を感じてもらいつつ客単価をアップできるので、継続的に売上を出せるでしょう。
商品やサービスを充実させる
生涯顧客価値のアップを狙うなら、商品やサービスの種類を増やすことも有効です。さまざまなニーズに応えられるようにすることで、顧客がこれまでとは違う悩みを抱えたときも、スムーズに購入につなげられます。
洗剤を販売している企業であれば、「漂白効果が高い洗剤」「色落ちしにくい洗剤」「部屋干ししてもニオイが気になりにくい洗剤」のように商品カテゴリを増やすのも1つの手段です。
商品カテゴリを増やせない場合でも「3ヶ月分の詰め替え用パックを用意する」「宅配クリーニングサービスを導入する」などの手法で、生涯顧客価値を高めることが可能です。
ただし、新たに商品やサービスを開発する際は、それなりのコストがかかる場合があります。売上を伸ばせてもコストが高まると生涯顧客価値が低下してしまうので、慎重に検討しなければなりません。
購入頻度を増やす
生涯顧客価値を高めるには、顧客が1年間で購入する回数である「購入頻度」を増やすのも大切です。
具体的な手法として、「ポイントカードを発行してポイントを現金として利用できるようにする」「会員限定クーポンを配布してお得に商品やサービスを購入してもらう」といった方法が挙げられます。
商品の内容量や原材料のランクを落として購入頻度を高める方法もありますが、それでは一時的に生涯顧客価値が高まっても、顧客満足度が低下して他社に流出しかねません。顧客が企業のファンになるよう、商品やサービスの質を高めるのも、購入頻度を増やすために重要な施策です。
既存顧客のアフターサービスを充実させる
購入頻度を増やして生涯顧客価値を高めるには、既存顧客のアフターサービスを充実させるのも重要です。アフターサービスが充実していれば、「また利用したい」と思われやすく、それだけ長く企業と顧客の関係を維持できるからです。
たとえば、「商品を購入してから3日後に、よくある質問への回答や商品の活用方法が記載されたメールマガジンを自動配信する」といった方法が考えられます。購入後に顧客が感じる不満や疑問を軽減するアプローチができれば、安心して商品を使い続けてもらえます。「購入してから1ヵ月後に関連商品を提案するDMを送付する」のような手法を取れば、クロスセルにつながりさらに売上を伸ばせるでしょう。
休眠顧客を再獲得する
生涯顧客価値を高めるためにアプローチするのは、新規顧客や既存顧客だけではありません。最後に商品やサービスを購入してから一定期間リピートしていない「休眠顧客」を再獲得すれば、より多くの顧客から売上を出すことも可能です。
たとえば、「最終購入日から半年経過した顧客に、新商品を案内するメールを送付する」「最終購入日から1年経過した顧客には割引クーポンを付けたDMを送付する」のような施策が考えられます。「しばらく利用していなかったけれど、また購入してみよう」と思ってもらえれば、再度売上を出せるだけでなく、顧客との関係をより長く維持できます。
イベントやキャンペーンを開催する
イベントやキャンペーンの開催も、企業のファンを獲得して生涯顧客価値を高めることにつながります。
「初回利用者は〇%割引」「自社製品の体験イベント」など、新規顧客向けにおこなわれがちな手法ですが、方法によっては既存顧客を維持することも可能です。
具体例として、「会員限定で新メニューの試食イベントを開催する」のような方法が挙げられます。既存会員にとっては新メニューを無料で食べられるというメリットがあり、企業側にも、新メニューの感想を直接聞けるだけでなく、新たな顧客ニーズを発見できるといったメリットが生じます。
インターネットやスマートフォンが普及した現代は、オンラインでのマーケティングが重視されがちですが、このようにオフラインのマーケティングをおこなうことも、生涯顧客価値を高めるうえで重要です。
まとめ
ここでは、生涯顧客価値の概要や計算方法、生涯顧客価値を高める方法について説明しました。
生涯顧客価値を高めるには、長期的な視野でマーケティング手法を計画しなくてはならないため、すぐに効果を感じられないかもしれません。しかし、さまざまな施策を試して効果を検証し、改善するという取り組みを繰り返すことで、生涯顧客価値の高い企業へと成長できます。
ここで説明した内容を参考にして、生涯顧客価値を高めて長期的に集客数や売上を伸ばしましょう。
記事のURLとタイトルをコピーする