飲食業界や美容業界などで働いていると、「自分の店舗を持ってみたい」と思うこともあるのではないでしょうか。スタッフとしてある程度経験を積んでくると、仕事の技術面だけではなく経営・運営的側面も見えるようになり、店舗経営に興味を持つ方も少なくありません。その一方で、一から店舗を開くことを夢見て店舗経営に取り組む人もたくさんいるようです。
しかし、中には「店舗経営は難しそう」とハードルが高いように感じてしまう人もいるでしょう。店舗経営をするとなると、経営者目線で事業を運営しなければならないので、従業員とは違った考え方や知識を身につけておく必要があります。
そこで本記事では、店舗経営がどのようなものであるか、店舗経営をうまくおこなうためのコツなどについて詳しく説明します。
目次
店舗経営と店舗運営の違いとは?
そもそも、店舗経営とはどういうことをいうのでしょうか。店舗経営に関する知識を深めるためには、店舗運営との違いについても知っておく必要があります。以下では、店舗経営の概要や、店舗運営との違いについて説明します。
店舗経営とは店舗事業を収益化させること
店舗経営は「店舗で収益をあげることを目的とすること」をいいます。店舗経営者は、できる限り大きい収益を出すという意識を持たなければならず、そのためにはどのようにモノや人、サービスを活用すればよいかを考え、実行しなければなりません。
店舗運営とは組織を効率的に機能させること
店舗経営と似たような言葉に「店舗運営」があります。どちらも同じような言葉だと思われがちですが、店舗経営との違いは「収益化を目指しているかどうか」です。「運営」とは「団体が目的とする機能を発揮できるように、組織をまとめ、動かすこと」をいい、組織を効率的に機能させていくことを目的としています。モノや人、サービスを活用することは経営と同じですが、収益を出すためではなく、その組織の機能がより効率的に働くようにするためであることを重視しているのが大きな違いだといえるでしょう。
店舗経営者は体制づくりから始める
店舗経営者は、事業体制の根本となる体制づくりから始めるのが特徴です。店舗経営の目的である収益を伸ばすために、どのような体制や組織にすればよいかを考え、仕組みをつくり上げていく役割を担っています。
収益は顧客のニーズによって大きく左右されるといわれていますが、そのニーズは時代とともに変化していきます。そのため、一度体制を確立したからといって安心することはできず、需要の変化にあわせて店舗側も変わっていかなければなりません。日頃から顧客のニーズにアンテナを張り、どのような商品を取り扱えばよいのか、どのようなサービスを提供すればよいのかを考えながら臨機応変に対応していく必要があります。
店舗運営者はすでに体制が準備されている
一方、店舗運営者には、すでに経営体制が準備されており、その中でより効率的に運営していくことが求められるのが特徴です。店舗の立地や外装や内装、販売する商品や従業員数、営業時間といった与えられた環境のもとで、どのようにすれば円滑に事業を営んでいけるかを考え、実行していく必要があります。
たとえ商品の中にまったく売れないものがあったとしても、店舗運営者には経営方針を変える権限が与えられていないので、最終的な判断は店舗経営者に委ねることになります。
スムーズに店舗経営を始めるポイント
店舗経営をスムーズに始めるためには、以下の3つのポイントを意識しておく必要があります。
これらのポイントを意識して店舗経営を始めれば、スムーズに売上を伸ばせるようになるでしょう。ここからは、店舗経営を始める際のポイントについて詳しく説明します。
事業計画書を作成する
店舗経営を始めようと考える場合、まずは事業計画書を作成するところから始めます。ではなぜ、事業計画書は必要になるのでしょうか。
理由の1つに、融資を受けるために必要だからという点があります。開業する際に必要な資金を金融機関に融資してもらえるかどうかによって、スムーズに事業を始められるかが変わってきます。具体的かつ実現の可能性が高い事業計画書になっているかが大切なので、しっかりと中身を作り込みましょう。
また、店舗経営を始めたいと考えているものの、「経営がうまくいかなかった」、「失敗してしまった」という事態が起こる背景には、計画性のなさや主観的な計画だけでスタートしてしまっているということが考えられます。失敗して後悔することのないよう、計画をしっかり練るという点でも、事業計画書を作ることが役立ちます。
さらに、物件を借りて開業する場合、物件のオーナーに説明資料を求められることもあります。法律上問題ない事業であることや、収益性、持続可能性などを事業計画書で説明します。出資者を募る場合なども、事業計画書を用いて今後の方針について説明する必要があります。加えて、店舗経営を始める際には、家族の理解や協力が必要になる場合もあるので、その説得材料としても使用されます。
これらのほかにも、国や自治体から開業の際に補助金が出る場合もあり、その際の申請に事業計画書の提出が必要になるケースがあります。
開業資金を用意する
「自宅に開業道具がそろっている」というような状況でなければ、開業するためにある程度まとまった資金が必要になるでしょう。
店舗経営をする場合は、テナントを借りる際に資金が必要になります。テナント費は場所や広さなどによって異なりますので、出店したい場所の立地や広さなどの相場をあらかじめ調べておくことが大切です。一度にまとまった資金を準備するのが難しい場合、金融機関の事業融資を利用することも視野にいれておきましょう。日本政策金融公庫の融資を申請する場合、店舗が営業開始できる状態になっていなければ申し込みできないため、テナントを借りられる程度の資金は自己資金として用意しておくとよいでしょう。
目標の原価率を決めておく
原価率は店舗経営の目的である収益の最大化に大きく関わってくるため、重要なポイントの1つです。
原価率とは、売上に対してどれくらい原価がかかっているかの割合のことをいいます。原価率が高いと、どれだけ売上が出たとしても最終的に残る利益は少なくなるので注意が必要です。
文房具屋を経営しているケースで考えてみましょう。仕入れ値が60円の鉛筆Aと、仕入れ値が40円の鉛筆Bがあり、どちらも100円で販売したとします。同じ本数を販売した場合、売上はAとBで同じですが、鉛筆Bの方が原価率が低いため、利益率もよいということになります。
しかし、原価率が下がることで商品やサービスの質まで下がってしまい、結果的に売上が減ってしまっては意味がないので、原価率と商品の質のバランスがとれているかをよく考えることが大切です。できるだけ低い原価率でより高水準のものを提供できるかを考えるのもよいでしょう。
店舗経営をうまく続けるためのコツ
開業することはできても、店舗経営を長く続けていくことは難しいものです。
なるべく健全な店舗経営を長期的に続けられるよう、ここからは、店舗経営をうまく続けていくためのコツについて詳しく説明します。
在庫回転率を把握する
在庫回転率とは、在庫がどれくらいの早さで消化されたかの指標のことをいいます。特に、服飾や雑貨など、仕入れたものをそのまま販売する業種で使われることが多い指標です。回転率が高ければ、仕入れた商品が早く売れているということになります。
基本的に、在庫は古くなればなるほど品質が低下してしまいます。また、保管コストもかかるので、在庫はできるだけ早い販売・短い保管時間にすることが重要です。店舗全体の在庫回転率や在庫回転率の高い商品、低い商品を把握しておくと、回転率の低い商品に対する対策を立てやすくなるでしょう。
適切な顧客管理をおこなう
店舗経営を長続きさせるには、しっかりとした収益が継続的に出せなければなりません。店舗の収益は、顧客に商品やサービスを購入してもらえなければ伸ばせないので、顧客管理はとても重要な業務だといえます。顧客管理には以下の4種類があります。
- 属性…氏名や住所、連絡先や年齢、職業など顧客がどのような人物であるかという基本情報
- 対応履歴…電話やメールでのコンタクト、来店した時の応対や担当したスタッフ、話した内容や使った資料など顧客にどう対応したのかの記録
- 購入履歴…購入した商品やサービス、その個数や頻度、値段といった情報
- 収益性…顧客の購入歴や累計購入額から総合的にどれだけの収益性があるかの記録
顧客管理をすることで、顧客の購入履歴からターゲットを絞って販売促進のメールを送ったり、好みの傾向を分析して興味のありそうな商品の入荷を知らせたりすることができます。顧客からのアクションを待つだけではなく、店舗からアプローチをかけることは、健全な店舗経営をするうえで大切です。しかし、アプローチ方法によっては顧客に不快感を与えてしまう危険性があるので注意が必要となります。適切な顧客管理をすることで、顧客離れを防ぐことも意識しておきましょう。
なお、店舗のレジにPOSレジを導入すれば、分析もスムーズになります。POSレジは売上や客層、稼働状況などといったさまざまな店舗の分析ができる機能の付いたレジのことで、店舗運営と分析を効率化できます。
従業員を適正に管理する
店舗経営に欠かせないのが従業員の協力です。店舗を一緒に盛り上げてくれる従業員が心地よく働ける環境を用意することも店舗経営者の重要な役割だといえます。適正に従業員を管理するためにも、従業員のプロフィールはもちろんのこと、給与や勤務時間、業務内容など従業員を取り巻く環境を適切に把握し、効果的に管理できるようにしておきましょう。
たとえば、アパレルショップの場合、どれくらいの給与を支払っているか、月にどれくらい勤務しているか、来店した顧客に対してどのような声かけやアプローチをしているか、販売成績はどうかなどを一人ひとり把握し、評価できるようにする仕組みを整えることが挙げられます。現場で働いている従業員から、店舗をよりよくしていく手がかりを得る方法もあるので、定期的な面談やミーティングで事業改善のヒントを吸い上げたり、仕事で不満に感じていることはないかを聞いたりすると、店舗全体を改善していくことにつなげられるでしょう。
経営分析をして改善策を練る
収集したデータをもとに経営の状況を分析し、タイムリーに改善していくことも大切。分析すべきデータとして、顧客データ、商品データ、店舗データの3つが挙げられます。
顧客データとは、どのような顧客(年齢や性別など)がメインで利用しているのかということ。これを分析することで、同じような顧客をターゲットとして店舗経営を続けたほうがよいのか、ほかの属性をターゲットとしてアプローチしたほうがよいのかなどを考えるヒントを得られると期待できます。
商品データとは、商品の売れ方のことを指します。売上や利益、商品の消化率などを分析することで、売れない商品をほかの商品と入れ替えたり、売れている商品があれば関連した商品を仕入れて一緒に陳列するといった対策を取ることができます。
複数の店舗を有している場合、店舗ごとの売上や利益率などのデータを比較し、違いを分析することが可能。たとえば、コンビニエンスストアでは、住宅街付近の店舗と高速道路のパーキングエリアの店舗で売れる商品の違いを見つけ、今後の店舗経営に活かすことができます。
常に店舗経営の状況を把握し、分析したデータをもとにスムーズに改善していくことによって、長期的に健全な店舗経営ができるようになるでしょう。
まとめ
ここでは、店舗経営というビジネスの概要やうまく店舗経営をするためのポイントなどについて説明しました。
長期的に売上を伸ばせる店舗経営をするためには、店舗経営に関する知識を深めたうえで、具体性のある計画を立てることが大切です。ここで説明した内容を参考にして、理想とする店舗経営をスムーズに実現できるようにしておきましょう。
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