商圏分析は、新規出店の候補地選定や販促活動の最適化、品揃えの検討をするときなどさまざまな場面で利用されます。商圏分析から得られる情報は業種や業態を問わず、マーケティング施策に役立つものばかりです。

ただし、正しい方法や流れに沿っていないと本来得られるはずの効果を低下させる可能性もあります。そこで、本記事では商圏分析の概要や活用方法、流れ、効果的な分析のコツなどについて詳しく解説します。

商圏分析とは

商圏分析とは、企業や店舗が商取引の対象とする地域の範囲内で、居住または訪問する人の属性や嗜好などをデータに基づき分析する手法のことです。出店戦略や販促計画などをつくる際に利用されるケースが多く、主に国勢調査データなどの統計指標や顧客データなどを活用して地図上でマッピングし、商圏を把握していきます。

商圏分析についてさらに理解を深めるためにも、ここでは商圏分析が必要な理由と把握できる内容についてみていきましょう。

商圏分析はなぜ必要なのか

出店戦略や販促計画をつくるときに商圏分析が必要な理由は、商取引の対象となる地域の「現在の状態」を把握するためです。大型店や競合店の出店、人口の増減など地域を取り巻く情勢は刻一刻と変化しています。

そのため、自社に関する商圏分析をしていない企業はその変化に気づけず、ある日突然経営が行き詰まったり思ったよりも売上が伸びなかったりといった事態を招くケースもあります。

商圏分析で何を知ることができるのか

商圏分析では、マーケティング戦略を立てるうえで欠かせないさまざまな情報を得られます。例えば、新規出店を検討するエリアの客層や見込み来店数、特性など競合店舗との差別化に要するデータの取得が可能です。そのため、ハフモデル分析や重回帰分析を用いて売上予測を立てることも可能になります。

また、既存店舗においても商圏内の人口や地域特性、競合店舗の状況などを参考に来店客数の予測や売上予測をすることもできます。その他、昼夜間人口や事業所特性、消費支出特性といった多様な情報は、設備投資や店舗運営において戦略を立てるための重要な判断材料として役に立ちます。

ハフモデル分析

商圏分析の手法の1つにハフモデル分析があります。1960年代にカリフォルニア大学のDavid Huff博士が考案したモデル式で、消費者が店舗に行く確率を店舗面積や居住地との距離から割り出し、競合の状況を加味して集客力や売上高の予測に活用する手法です。

ハフモデルでは、「消費者は近くて大きい店舗に足を向けやすい」という消費者動向の傾向を前提としており、店舗面積が周囲の店舗より広いほど来店率は高くなり、店舗への距離が遠くなるほど来店率は低くなる、という考え方を元に分析します。

重回帰分析

重回帰分析も商圏分析の1つとして活用されます。複数の要因から得られる結果を予測する手法で、「売上」という結果を予測するために、その要因になる店舗や商圏にまつわる複数の変動する情報を組み合わせて分析するということになります。

例えば、飲食店であれば店舗面積や立地、座席数、駐車可能台数といった店舗の情報と、その店舗の商圏となる地域の情報というさまざまな項目からその地域のニーズを割り出し、将来の売上予測や新規店舗出店のポテンシャルを図ることができます。

商圏分析の活用方法

エリア特性や消費者動向を可視化できる商圏分析の活用方法は、大きく「新規店舗の開発」のためと「販売促進」のため、の2つにわかれます。

ここでは、それぞれの活用方法について詳しく解説していきます。

新規店舗の開発を行う

商圏分析は、新規店舗の開発に要する調査方法として用いられます。

商圏分析では人口や世帯数などの分布を把握できるため、ターゲット層がアクセスしやすいであろう立地の選定が可能です。また、競合店舗の影響が少ない出店場所を探す・選ぶ際にも商圏分析が役立ちます。

さらに、建設計画や将来推計人口などをもとにエリア周辺の人口変動を予測し、出店によってどの程度の利益を見込めるかの算定にも利用できます。

チラシやDM、ポスティングなどで販売促進を行う

商圏分析によってエリアごとの重要性が見極められ、チラシやDM、ポスティングなどの販売促進に役立てることもできます。

例えば、商圏分析を行わずエリア全体に販売促進をかけるとなると、効果の大小に関わらずアプローチすることになり、非効率な施策になりかねません。それでは、本来は不要な場所にも販促投資をすることにもなりかねません。しかし、商圏分析によって住民の属性傾向や、どこにどんな人がいるのかを把握すれば、販促投資をするべきエリアを絞り込むことができます。

結果として販促活動の無駄が減り、余計なコストや時間をかけることのない効率的な施策のみを実施できます。

商圏分析の流れ4ステップ

商圏分析の活用方法が決まったあとは、次の4つのステップによって分析を進めます。

商圏分析の流れ
  1. 顧客データを収集する
  2. 商圏の範囲を把握する
  3. 商圏内の公的統計の情報を調査する
  4. データをまとめたレポートの作成を行う

ここでは、ステップごとの詳しい内容について解説します。

1.顧客データを収集する

商圏分析を実施する際は、まず居住情報や属性情報といった顧客データの収集から始めます。

商圏の対象となる範囲の人口や世帯数は国勢調査データによって把握が可能です。一方、居住情報や属性情報などの顧客データは独自の調査によって収集しなければなりません。

ポイントカードの利用者情報を活用したり、企業情報に関するデータベースを利用したり、さまざまな角度から自社の見込み客となりえる顧客データを集めましょう。

2.商圏の範囲を地図上で把握する

収集した顧客データをもとに、実際の商圏となる範囲を地図上で把握します。商圏とは見込み客が住む範囲を意味し、商圏の把握ができているのかは、集客や店舗の販促活動にも影響してきます。

ただし、商圏の範囲は業種や業態、地域、人口、経済状況などによっても大きく変化します。そこで、顧客データをもとにした「実勢商圏」を地図上に割り出すことで、有効性の高い商圏を見出すことができます。

実勢商圏とは、実際に店舗に来店した顧客がいる範囲のことです。業種によって定義は変わってきますが、一般的には顧客の「70〜90%」を含む範囲を対象とし、プロモーションや情報収集を行う範囲として設定することが多くなっています。

3.商圏内の公的統計の情報を調査する

設定した商圏の特性を知るためにも、商圏内の公的統計の情報を調査します。例えば、総務省統計局が提供する無料のWEBサービスである「地図で見る統計(統計GIS)」などを利用すれば、商圏内の人口や世帯特性などの情報が得られます。

さらに、年収別の世帯数が住宅の所有形態別に算出される「年収推計データ」を活用すれば、商圏内の富裕度特性についての把握も可能です。エリアごとの潜在的な購買力に応じたマーケティング施策の立案に役立ちます。

参考:地図で見る統計(統計GIS) | 政府統計の総合窓口

4.データをまとめたレポートの作成を行う

調査した商圏内の統計情報と地図をレポート化することで、商圏特性がよりわかりやすくなります。

また、レポート化する際は「年代別」や「住宅世帯別」といったように、自社の業態や目的に応じて分類分けすることで、さまざまなマーケティング施策の材料としてデータの参照や使い分けがしやすくなるでしょう。

データ自体は引き出しやすいものも増え、多様になってきますので、「いかに目的に沿ったものに絞って編集するのか」がレポート化する際には重要な点です。その絞り込みが商圏分析の意義に影響してくる点は意識しておきましょう。

商圏分析ができる無料ツール

前述の商圏分析の流れを自社で進める場合、分析やレポート作成に多くの時間と手間を要します。そこでおすすめするのが商圏分析ツールです。

ツールを活用することで、分析やレポート作成にかかる作業を効率化でき、結果にもとづく新たな戦略の策定に時間を充てられます。ここでは、無料で使える「RESAS」と「jSTAT MAP」の2ツールについて解説します。

RESAS

「RESAS(リーサス)」とは、産業構造や人口、人の流れなどのビッグデータを地図やグラフによってわかりやすく表示するシステムです。「地域経済分析システム」とも呼ばれ、経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が地方創生への取り組みを情報面から支援するために提供しています。

RESASは特定地域の問題点や特色を知る手掛かりとなるため、自社の課題や問題点の抽出に役立ちます。また、2022年2月時点では自治体だけでなく企業や一般に向けても無料公開されており、誰でも利用可能です。

参考:トップページ – RESAS 地域経済分析システム

jSTAT MAP

「jSTAT MAP」とは、総務省が提供する政府統計の総合窓口「e-Stat」で公開されている地理情報システムです。Googleマップ上に「出店地」や「商圏」などの基本情報を設定するだけで、年齢別人口や世帯数、人口・世帯数増減といったデータを取得できます。

さらに、自社の商圏を地図に落とし込めるだけでなく、総務省が提供する国勢調査など各調査データを地図に落とし込んだレポートの作成が可能です。2022年2月時点、jSTAT MAPは誰でも無料で利用できます。

参考:jSTAT MAP

効果的な商圏分析のコツ

自社のビジネス拡大に役立つ商圏分析の効果を高めるには、いくつかのコツがあります。主に、次の2つが挙げられます。

  • 継続して行いPDCAを回す
  • 商圏はデータで捉えられない情報も活用することが大切

自社のビジネスに役に立つデータを見極めて効率的に分析するためにも、ここではそれぞれのコツについてみていきましょう。

継続して行いPDCAを回す

商圏分析の効果を高めるには、継続的な実施によってPDCAを回す必要があります。

PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の頭文字を取った略語で、製造業などの品質管理によく使用される手法です。PDCAのサイクルを繰り返すことで実行すべき内容が常に明らかになり、評価ポイントもわかりやすくなるのです。

商圏におけるエリアの状況は日々変化します。そのため、過去データに頼った1つの分析結果だけを拠り所にしていても、継続的な効果は望めません。

定期的な情報収集によってデータを蓄積・更新し、PDCAを短いサイクルで回すことで戦略の精度が高まります。その結果として、商圏内の経済活動や競合他社などの変化にも気付くことができ、適宜状況を把握できれば柔軟に対応することができます。

商圏はデータで捉えられない情報も活用することが大切

商圏における効果的な分析には、データで捉えられない情報の活用も欠かせません。例えば、商圏を歪める要因となる「商圏バリア」には注意が必要です。

商圏バリアとは「お客様の来店を妨げるインフラ面や物理面の障害」を意味します。たとえば、坂道や線路、山、川、中央分離帯のある道路などは商圏バリアに該当しやすい要素です。各地点からの店舗へのアクセスの時間などのデータも重要ですが「線路が通っていいて向こう側からは人が来にくい」であるとか「傾斜の強い坂があり徒歩では人が歩きにくい道がある」などの商圏バリアは、把握しておく必要があります。

例に挙げた通り、商圏バリアは地図上ではわからないケースが多くあります。そのため、正しく商圏を把握するには現地へ実際に足を運び、バリアとなる要素を洗い出し記録しておく必要があります。

GPSデータを用いた商圏分析が可能!「オリコミサービス」(PR)

新規店舗や販売促進などの場面で利用されることの多い商圏分析。多角的視点からの商圏分析は経営判断の材料にもなるような有効なデータが得られるものの、データの鮮度や精度を保つには多くの工数を要するのも事実です。

そこで、おすすめするのが「オリコミサービス」。エリアの分析に関するさまざまな知見やノウハウを持つオリコミサービスでは、数あるデータの中でどのようなデータを使えば早く安く精度を上げることができるのかの提案を受けられます。

また、国勢調査などの公的統計データの場合、5年ごとの更新周期となるため最新データの取得が難しいケースもありますが、オリコミサービスが保有するデータは鮮度が高いことも特徴です。人の動きを把握できるGPSデータをもとに使用した商圏分析を行っているため、その時々で店舗と店舗を取り巻く環境に最適な商圏やターゲットの把握に繋がります。

さらに、商圏分析に限らずアナログ・デジタル双方において適切な販促・集客手法の提案も行っており、多面的なアプローチによってサポートしてくれます。

まとめ

自社を取り巻く情勢をいち早く知るためには、商圏分析による情報収集が欠かせません。エリア特性や消費者動向などの情報を必要とする「新規店舗の開発」や「販売促進」の場面では、正しい流れに沿った商圏分析が自社における課題や問題の洗い出しに役立ちます。

ただし「継続的なPDCA」や「目的に合ったデータ利用」などの商圏分析の効果を高めるコツを押さえていないと、正しい情報を得られない可能性もあります。自社の状況によっては、商圏分析に関する多くの知見やノウハウを持つプロに相談してみてもよいでしょう。

商圏分析から得られる情報を上手く活用し、消費者ニーズに応えるマーケティング施策の立案に役立ててみてください。

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