アパレルショップには店舗ビジネスやネットショップなど様々な形態がありますが、個人でアパレルショップを経営したい場合、どのような知識や準備が必要になるのでしょうか。
今回は、個人でアパレルショップを経営したいという方に向けて、アパレル業界の基礎知識や経営を始めるにあたって必要な準備などを解説します。
アパレルショップ経営者とは?
アパレルショップ経営者は、様々な業務を行っていく上で必要な知識や経験が求められることになります。ここではまず、アパレルショップを経営する人が日々何をしているのか、実際の業務内容や必要なこと、アパレル経営に向いていると思われる人の特徴を紹介します。
実際の業務内容
アパレルショップ経営者が日々行わなければならない業務内容として主に以下のようなものが挙げられます。
接客・販売
路面店などの実店舗を構えている場合に特に重要となるのが接客と販売です。よい商品を顧客に提供することはどの店舗ビジネスでも当然のことですが、アパレルショップの場合、時にはアドバイザーとしての役割も果たします。なんとなくコミュニケーションを取るのではなく、会話の中で顧客の悩みや理想を推測したり、顧客が手に取る商品からニーズを確認したりと様々な事を考えながら接客を行う事が大切です。
ネットショップの場合でも、顔が見えないからこそ、どうしたら顧客にネットショップでの滞留時間を楽しんでもらえるかという工夫が重要になります。また、ネットショップでは問い合わせフォームや商品の口コミページなどを設けることで直接対面しない場合でも顧客のニーズを把握・分析することが可能です。
いずれの場合も顧客とのコミュニケーションスキルが重要となります。
仕入れ・管理
商品を販売するには、商品の仕入れ・管理は欠かせない業務です。アパレルショップの場合、ファッションのトレンドをいち早く把握しておくことが重要となります。いち早く情報をキャッチすることで、どの時期に何を仕入れたら良いのかがわかるだけでなく、顧客に対して発信者的役割を果たす際に大きく役立ちます。
仕入れに関しては、自身で商品をデザイン・制作するのか、商品を仕入れて販売するのかを、自店を立ち上げる際に決めておく必要があります。仕入れて販売する場合には、ネット経由か実際に買いつけに出向くのかなどの仕入れルートを確保しておくことも重要です。
ディスプレイの調整
実店舗でのアパレルショップでは、顧客が空間を楽しめるような工夫が必要です。中でも、商品がより美しく魅力的に見えるディスプレイの調整は、売上にも大きく影響を与えます。陳列棚の整理やマネキンのコーディネイトの調整、店内の装飾や照明の点検などといった日々の確認だけでなく、季節ごとの確認によって、顧客に飽きさせない店舗作りを行います。
ディスプレイは、その年のおすすめファッションやトレンドを発信する役割があるため、常に最新情報を取り入れることが必要です。
店舗のマネジメント・ブランディング
アパレルショップの経営者である以上、商品を販売するだけでなく店舗のマネジメントは重要な業務です。毎日の売上管理や実店舗の賃料の管理、ショップスタッフを雇っているのであれば勤怠管理など、経営者として店舗全体のことは常に把握しておかなくてはなりません。
また、店舗のブランディングも重要です。ブランディングとは、店舗のビジョンや商品イメージを明確にすることで、顧客からの信頼や共感を得られる重要な要素です。顧客からのブランドイメージを高めることで他社との差別化やファンづくりにもつながります。そのため、常にアンテナを張りめぐらして顧客満足につながる情報を見分ける能力も必要になります。
参考:ブランドイメージとは?ブランド価値を向上させる戦略と事例を徹底解説
経験や知識の必要性
アパレルショップの経営者は、ファッションや流行に敏感でセンスがあれば良いわけではなく、店舗経営をしていくための資金の管理、マーケティングやバイヤーとしての能力など、経営者としての幅広い知識が必要になります。
アパレルショップの経営者は主に、ファッションや服飾の専門学校や大学を卒業し、その後大手アパレル企業やアパレルショップに就職してから独立開業して経営者になるという流れがメインでした。しかし、インターネットが一般化し、近年ではSNSの普及で個人でも情報発信や情報入手が簡単にできるようになり、アパレルショップ開業という機会を多くの人が持てるようになりました。そのため、アパレルショップ運営や販売が未経験という人でも自らブランドを立ち上げてインターネット上で販売するという小規模ビジネスの手法が増えてきています。
向いている人の特徴
アパレルショップは顧客とのやりとりが必須である以上、何よりコミュニケーション能力の有無は重要なポイントです。しかし、ショップスタッフではなく経営者である以上は、コミュニケーションや販売の中で起こるさまざまなリスクに対する臨機応変さが必要となります。
アパレルショップでは、実店舗・ネットショップいずれにおいても顧客からのクレームや問い合わせというのは日々発生します。対面での接客機会のないネットショップの場合は顧客のインターネット環境により商品の色味が違うというクレームや、発送した商品や手続きを間違えてしまうミスも想定されるでしょう。そのような時でも顧客の理解を得られるよう冷静に対処したり、ショップスタッフに対するリーダーシップ性を持っていたりする人であれば、顧客からもショップスタッフからも信頼を得られやすく、アパレルショップ経営が向いているといえるでしょう。
アパレルショップを経営する方法
実際にアパレルショップを経営するには、どのようなことから始めたら良いのでしょうか。主に2つの方法が考えられます。
実店舗を構える
アパレルショップは顧客が商品を実際に手に取る機会を要することから、実店舗で開業するパターンが一般的に考えられます。自宅の一部を改装して開業するという方法もありますが、多くは賃貸物件を見つけて開業するということが多いでしょう。賃貸物件は当然賃料がかかりますが、それ以外にも内装・外装費、ディスプレイなどの什器の手配、ショップスタッフを雇うのであれば人件費も必要になります。実店舗を持つことは顧客とのコミュニケーションを楽しめることが魅力のひとつですが、運転資金と時間の確保ができるかどうかがポイントでしょう。
ショップスタッフを雇う場合にも、どの業務を任せるかによって必要な人数も変わるため、人材の適正を見極めてできるだけ少ない人数でも回せるような人材確保も重要です。
ネットショップを立ち上げる
資金の確保が重要となる実店舗に比べ、店舗を持たないネットショップは賃料などの負担がない分低コストで始められます。ネットショップ運営のためのサービスサイトも多く存在しているため、ネットショップ運営が未経験の人や専門知識がないという人も気軽に始められるでしょう。
ネットショップの場合は、自身の地域だけでなく日本国内や世界中の人が販売対象となる場合もあるため、商圏の分析や立地を調査する必要がないというのも魅力です。多くの人が情報収集手段としているSNSを活用することで、開業時の告知や集客から販売に至るまで低コストで幅広い層にアプローチできるのもネットショップならではといえます。
アパレルショップの経営に必要な準備
アパレルショップの経営を決心したら、次に必要となるのは経営に向けての準備です。どのようなことが必要となるのか紹介します。
スキルの獲得
アパレルショップを経営するには、スキルも必要になります。スキル獲得の手段にはどのようなものがあるのでしょうか。
学校やアパレル企業で学ぶ
ファッション業界での活躍を目指す人が集まるファッションや服飾の専門学校・大学は、アパレルショップ経営者を目指すなら視野に入れておくべき道のひとつといえるでしょう。ファッションや服飾の専門学校・大学は、デザイナー・パタンナーなどの技術職のコースや、バイヤーや営業を目指す流通系のコースなど、目的に応じてさまざまな技術を習得することができます。
また、専門学校・大学を卒業しなくても、アパレル企業に就職することでアパレルショップ経営のノウハウを実践的に学ぶという方法もあります。一般のショップスタッフとして働いたとしても、接客だけでなく売上管理や仕入れなど全体的な流れを知ることができます。
資格を取得する
アパレルショップの経営者として必須の資格ではありませんが、専門的知識を身につけたい場合におすすめの資格があります。
・ファッションビジネス能力検定
「ファッションビジネス能力検定」は(一財)日本ファッション教育振興協会が主催する検定試験です。商品企画や生産・流通といった多岐に渡るファッションの知識を判定します。2、3級はマークシート方式、1級は記述・選択方式で、同サイトでは公式テキストの販売もあります。
(2022年2月時点)
・ファッション販売能力検定
「ファッション販売能力検定」も同じく(一財)日本ファッション教育振興協会が主催する検定試験です。ファッション販売という業界で必要な専門的スキルや技術が身につきます。2級は商品知識や販売知識などの専門教育を2年程度履修したレベル、1級検定になると、専門学校で2年履修した後にショップ実務3年経験したのと同等レベルです。
(2022年2月時点)
・リテールマーケティング(販売士)検定試験
「リテールマーケティング(販売士)検定試験」は、日本商工会議所が主催する検定試験です。こちらも1・2・3級に分かれており、販売・接客技術だけでなく、企画立案や在庫管理、マーケティングや店舗管理など経営者に必要な幅広い知識を得られます。公式サイトでは関連書籍やそれぞれの級の学習方法などが詳しく掲載されています。
(2022年2月時点)
開業資金の調達
アパレルショップ開業には、実店舗では特に開業資金が必要です。実店舗を構える際の開業資金の目安は規模や立地により400万〜1,500万円、ネットショップであってもサイト開設等々で数万円からの運営費用がかかります。
いずれもどのくらいの規模を想定しているかによりますが、自費での資金調達が難しい場合は、クラウドファンディングで資金調達を図ることも有効です。開業するにあたっての熱意や今後の目標などをユーザーに共感してもらえれば多くの応援を得られる可能性もあります。
コンセプトを踏まえたブランド名やロゴを決める
店舗開業するにあたって、自店のコンセプトを明確にし、ブランド名やブランドロゴを作成しましょう。特に店舗のコンセプトは必ず決めておきます。コンセプトがないと、今後のさまざまな決定事項や選択が必要な場合にブレが生じてしまいます。また、自店をアピールする際にもコンセプトがないままでは、お店やブランドは何を訴求したいのかということが顧客に伝わらず、共感を得られにくくなります。
また、ブランド名やブランドロゴを決める際にはあらかじめ商標登録を検索してすでに登録されている名称でないかどうかを必ず確認し、ブランド名を決めたら必ず自店のブランド名も商標登録しておきましょう。商標登録というのはそのブランド名という商標を保護する制度であり、もし自店のブランド名をこの先何年使っていたとしても、新たにそのブランド名を別の人が商標登録してしまった場合、ブランド名を使えなくなる可能性もあります。
アパレルショップの経営戦略
- コストやリスクは極力抑える
- ターゲットにあった商品価格にする
- SNSを活用する
アパレルショップを開業後、どのような経営戦略が重要かを最後に説明していきます。
コストやリスクは極力抑える
コストとは、賃料、仕入れの費用、人件費、宣伝費、ネットショップの運営費、サーバーレンタル料など、さまざまな日々かかるランニングコストのことを指します。日々必要となる費用ではあるものの、極力抑えられるように過剰にかかっているものはないかを常に確認しておきましょう。
また、アパレルショップでは商品の仕入れが欠かせませんが、シーズンごとのトレンドがあるため同じ商品を長く取り扱って販売するというのは業界的に意外と難しいものです。商品の需要の見極めが困難な場合、多くの在庫を抱えてしまうとリスクも高くなります。さらに在庫を保管するスペースの賃料もかかるうえ、長く保管することで商品の劣化が起こり、処分や安く販売せざるを得ないなど利益が悪化してしまうケースも考えられます。
ターゲットにあった商品価格にする
開業にあたって自店のコンセプトやターゲット層が明確になったら、そのターゲット層に適した商品価格を設定しましょう。20代が購買可能な価格と、40代が購買可能な価格はそれぞれの世代のライフスタイルや収入によって大きく異なり、購買不可能と感じた時点で顧客の再来店は難しくなります。
競合となる店舗や市場調査などから適正価格を割り出すことはできますが、一度の調査だけで商品価格を設定するのは簡単ではありません。何度も価格改定を繰り返しながら、顧客のニーズにマッチするような改善を図っていくと良いでしょう。
SNSを活用する
アライドアーキテクツ社による2020年に約2,900名のインターネットユーザーを対象に調査した「SNSをきっかけとした購買行動や口コミ行動の実態調査」では、「SNSの情報をきっかけや参考に、初めて利用するお店(小売店や飲食店)に実際に足を運んだことがあるか」の回答として、Instagramユーザーの50.5%、X(旧Twitter)ユーザーの46.0%、Facebookユーザーの44.4%が「ある」と回答しました。(アライドアーキテクツ株式会社調べ)
ネットショップでのアパレルショップ開業は、日本国内や世界の人々に閲覧してもらえる可能性があるほか、SNSを活用した情報発信をすることで拡散力も加わり、さらに多くのユーザーに対して自店の存在をアピールできる可能性が見込まれます。
参考:【2020年最新版】5大SNSユーザーによる「SNSをきっかけとした購買行動・口コミ行動調査結果」公開!(Twitter、Instagram、Facebook、LINE、YouTube)
まとめ
今回は、個人でアパレルショップの経営者になる方法を紹介しました。
アパレルショップは顧客との接点が強い環境にあるため、経営者ともなるとファッションセンスだけでなく、さまざまな状況やクレームやミスなど突発的な出来事に対しても冷静に判断して対処できる能力が重要になります。
ファッションデザインや流通の知識については、ファッション・服飾の専門学校に通ったり、自ら資格試験での勉強をしたり、または実際にアパレル業界に就職することで身につけることができます。
しかし、どのようなアクシデントや今後の情勢の変化にも対応できる能力や冷静さは勉強だけでは身につきません。自身にどのようなスキルがあり何が向いているのかを冷静に考えて、今後のアパレルショップの開業を目指してみてはいかがでしょうか。
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