自社の在庫状況を把握する試算方法のひとつに「在庫回転率」というものがあります。在庫回転率を算出するだけで、在庫の動きがわかるだけでなく、顧客ニーズの把握や欠品リスクを避けられる、在庫管理において重要な要素です。
今回は、在庫回転率について、その計算方法や、在庫回転率を用いた在庫改善方法などについて紹介します。
目次
在庫回転率とは何か?
在庫回転率とは、ある一定の期間にどの程度の在庫が入出庫しているかを表す指標です。計算方法はのちほど説明しますが、この数値が高いほど入出庫のサイクルが速く、数値が低いほど滞留在庫になっているということがわかります。
在庫回転率を知る2つの目的
在庫回転率を把握するのには2つの目的があります。ひとつは、在庫の動向を細かく把握することです。毎日倉庫に通って在庫確認をすることも大切ですが、在庫回転率を算出すると一定の期間における在庫の動向が把握できるため、季節ごとの動きや商品ごとの違いなど多角的な動きを知ることができます。
もうひとつは、余剰在庫を確認するためです。在庫回転率を算出することで、それぞれの在庫のサイクルを知ることができます。同じ商品の現在と過去の在庫回転率を比較すれば余剰在庫であるかどうかを把握できるため、商品の劣化や無駄な倉庫管理コストを防ぐことにもつながります。
在庫回転期間との違い
在庫回転率と似た用語として「在庫回転期間」というものがあります。在庫回転率は一定期間に在庫が入出庫する指標であるのに対し、在庫回転期間とは、現在の在庫がひと回り入れ替わるまでにかかった期間のことを指します。在庫回転期間が3カ月というのは、在庫が一周して入れ替わるのに3カ月かかったということになります。
在庫回転率の計算方法
在庫回転率を算出するには、数量ベースでの計算方法と金額ベースでの計算方法があります。それぞれの計算方法を紹介します。
数量ベースの算出方法
数量ベースでの在庫回転率は、「出庫数÷平均在庫数」で算出することができます。平均在庫数とは、「(期末在庫数+期首在庫数)÷2」で求められます。平均在庫数が200個の商品が、400個売れた(出庫した)とすると在庫回転率は2(2回分回転した)となります。数量ベースでの算出方法は、イメージがしやすく実務的であり現場管理者向けの方法といえます。
金額ベースの算出方法
金額ベースでの在庫回転率は、「商品の売上原価÷平均在庫金額」で算出できます。「商品の売上原価」は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高−期末商品棚卸高」、「平均在庫金額」は「(期末在庫高+期首在庫高)÷2」で求めることができます。
例えば、2022年度の商品の売上原価が210万円、2021年度の期末在庫高が60万円、2022年度の期末在庫高が80万円だった場合、下記のような計算になります。
- 平均在庫金額=(60+80)÷2=70万円
- 在庫回転率=210÷70=3
注目すべきポイントは業種によって違う
在庫回転率とは、ある商品についての在庫の動きを把握するものですが、業種によって着眼点が異なります。
小売業の場合は、ひとつの商品ではなく、ジャンルごとに算出したり、全ての商品をまとめて算出したりすることがあります。また、製造業の場合は、原材料、仕掛品、完成品(製品)と3つの段階にわけて算出しています。その理由は、仕掛品とは製品として完成する前の段階の製品のことを指し、原材料でも完成品でもないため、特に在庫回転期間を短くする必要があるからです。
在庫回転率を知ることのメリットとは?
在庫回転率を算出して数値を把握することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは主に3つのポイントに絞って紹介します。
- 数値化によって在庫の動きがわかりやすくなる
- お客様のニーズを掴みやすい
- 過剰在庫や欠品のリスクを回避できる
数値化によって在庫の動きがわかりやすくなる
先にも説明したように、在庫回転率を算出すると一定の期間における在庫の動向が可視化できます。そのため、動きが速いと見込める商品については生産量を増加したり、滞留していると思われる商品については商品設計の段階から見直しを図ったりするなどの対応が可能になります。
お客様のニーズを掴みやすい
在庫回転率の数値によって、売れ行きの速さを読み取ることができます。回転率が高いということは売れ筋商品であるため仕入れを増やし、反対に回転率が低ければ滞留在庫ということになるため仕入れを減らすといった調整も可能です。つまり、在庫回転率の把握は顧客のニーズの把握につながるということになります。
過剰在庫や欠品のリスクを回避できる
在庫回転率が低い商品を他の商品と同様のタイミングで仕入れを続けてしまうと、過剰在庫につながります。反対に、在庫回転率が高いにもかかわらず、在庫回転率が高くない商品のタイミングで仕入れていれば、欠品につながる恐れもあります。在庫回転率を把握して商品ごとに適切な在庫管理をすることで、場所代などのコストがかかる商品に対して処分するという対応ができ、欠品を防ぐために生産数を増やすなど、さまざまな対策がとれるのです。
在庫回転率の改善のためにできること
商品や店舗にとって適切な在庫回転率を達成することで、安定的な在庫状況をキープできます。在庫回転率を改善するには、どのようなことを心がければよいのか、4つのポイントを紹介します。
- 目標とする在庫回転率の設定
- リードタイムの短縮
- 定期的な在庫状況の把握
- 販売価格が適正であるかの見直し
目標とする在庫回転率の設定
在庫回転率は数値で把握できる実務的な指標ではあり、明確な目標があることで在庫回転率の低い商品を高くするなどの活性化を図れます。例えば、ある商品の年間売上目標が200万円である場合、目標とする在庫平均金額を10万円とするなら、在庫回転率は20と設定すれば、年間売上目標に向けた在庫管理の進め方が具体的になります。
数値の明確化より在庫管理の細かな目標ができ、現場で今やるべき目先の目標がわかるようになるため、スタッフのモチベーションアップも期待できます。
リードタイムの短縮
リードタイムとは、ある商品を発注してから生産し顧客へ納品されるまでにかかる時間を指します。リードタイムが短ければ顧客満足度の向上につながり、反対にリードタイムが長ければ長いほど再発注は見込めず顧客離れにもつながります。リードタイムを短縮するには、工程のどのスケジュールを見直せばよいか、製造スケジュールや配送スケジュールなどを見直してみましょう。リードタイムが短くなり発注数が増えることで、在庫回転率の改善につながります。
定期的な在庫状況の把握
在庫回転率の算出に用いる期間を漠然とした一定期間にするのではなく、月ごと週ごとなど細かくわけて算出することで、季節別やイベント別など多角的な視点で在庫状況を分析することができます。どのようなタイミングでも分析ができるように、定期的に在庫回転率を算出することをひとつの業務として加え、在庫状況を把握しておきましょう。
販売価格が適正であるかの見直し
ある商品の在庫回転率が低く続いている場合、そもそもの販売価格が適正であるかどうかも改善点として検討してみましょう。販売価格の適正化と在庫回転率の関連性については見極めが必要で、2つの観点があります。
ひとつは、販売価格を下げると在庫回転率は上がるものの売上減につながるという点で、もうひとつは、販売価格を現状維持にし在庫回転率が低いままで続くと滞留在庫となり、劣化や在庫のためのコスト増につながってしまうという点です。どちらが適正であるかを見極めて、価格の見直しを検討してみるとよいでしょう。
まとめ
今回は在庫回転率についての計算方法や、在庫回転率を用いた在庫管理の改善方法について紹介しました。
在庫回転率は、在庫の動きを把握し余剰在庫や欠品リスクを避けられる、在庫管理における重要な指標です。在庫回転率の計算方法には数量ベースと金額ベースとがありますが、業種によって着眼点が異なるため、自社の業態にあわせて適正な計算方法を考えるとよいでしょう。
在庫回転率を高めるには数値目標を明確にし、スケジュールや販売価格の見直しを図ることがポイントです。在庫回転率を向上させ、常に安定的な在庫管理が行えるように取り組んでみてはいかがでしょうか。
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