自社で在庫管理を行う際、在庫数を適切に把握していないと受発注時にミスが生じたり、取引先とのトラブルが起きたりする恐れがあります。そのときに役立つ在庫管理方法のひとつが「在庫引当」という考え方です。

今回は、在庫引当について、考え方やメリット、活用方法などを詳しく紹介します。

在庫引当(Inventory Reservation)とは何か?

在庫引当とは、注文を受けた段階で発注をくれた顧客の分の在庫を在庫数から差し引いておくことを指します。英語では「Inventory Reservation(在庫予約)」と呼びます。例えば、自店に在庫が50個あり、顧客のAさんから20個注文を受けたとしたら、まだ発送していない状態でも20個を差し引いた30個を次の顧客へ販売できる在庫として扱うという考え方です。20個は確定的な販売数のため、その在庫からは販売できません。

在庫引当の考え方(ロジック)とタイミング

在庫引当とは、どのような考え方であり、厳密にはどういった流れで活用したらよいのでしょうか。ここでは在庫引当の考え方とタイミングについて紹介します。

在庫には3つの種類がある

まず在庫管理において、在庫とは以下の3種類に分けて考えます。

  • 総在庫数(実在庫数):現在、目の前に実際にある在庫数
  • 有効在庫数:顧客への販売が決まっておらず、予定もないフリーな在庫数
  • 引当在庫数:受注済などで販売先や用途が決まっている在庫数

引当在庫については、顧客からの予約がすでに入った数だけでなく、予約が入るだろうという予定数の把握も必要となるため、ここからさらに「計画在庫」「確定在庫」の2種類に分けて考える方法もあります。

考え方とタイミング

受注(引当) 出荷数 総在庫数 有効在庫数
4月1日 100個 100個
4月5日 20個 100個 80個
4月10日 20個 80個 80個
4月15日 30個 80個 50個
4月20日 50個 30個 50個 0個
4月25日 20個 0個 欠品(-20個)

上記の表は、在庫引当の考え方を踏まえた場合の在庫数の流れです。

4月1日には総在庫数、有効在庫数ともに100個、まだ注文を受けていない状態だったとします。4月5日に受注が20個となった場合、出荷が済んでいないので総在庫数は100個のままで有効在庫数が80個となります。4月10日に出荷となることで、総在庫数と有効在庫数ともに80個になります。

4月15日に30個発注を受けたので有効在庫数は50個、さらに4月20日に50個の注文を受けたのでこの時点で有効在庫数は0個なのですが、4月25日に20個発注を受けてしまい、その時点では有効在庫数は−20個、つまり欠品となってしまいます。

この例から見てもわかるように、有効在庫数を正確に把握しておくことで、「4月20日に有効在庫数が0個となった時点やそれ以前で、在庫を補充しておけば欠品は免れることができる」ということになります。

在庫引当を把握する重要性

在庫管理で在庫引当の考え方を用いるのにはどのような理由があるのでしょうか。ここでは在庫引当を把握することの重要性について紹介します。

在庫引当を把握する重要性
  • 納品できなければお客様の信用を失う
  • 販売機会の損失を防ぐ

納品できなければお客様の信用を失う

先に紹介した在庫数を表す図表では、在庫引当による管理を行わず有効在庫数がわかっていなかったために、4月25日の時点で欠品を起こしてしまいました。つまり、4月25日に注文をいただいた顧客に対して納品できないか納期が遅れるということになります。受注したにもかかわらず正常に納品できないため、顧客の信用を失うということにもつながりかねません。

今回の表で紹介したような少量の在庫管理であれば、記憶しながら進めることもできるかもしれませんが、何千個・何百種などの在庫や複数の顧客を管理する必要がある場合、在庫引当の把握は重要といえます。

販売機会の損失を防ぐ

注文を受ける時点で在庫切れを起こしていると、販売機会を損失してしまうということになります。前回の注文が入った時点で有効在庫数を早期に把握しておけば、その時点で補充が必要な在庫数がわかり欠品前の補充が可能になります。

在庫管理を行うメリット

在庫引当の考え方を取り入れるということは、それまでの在庫管理にひと手間増えてしまうということでもあります。なぜそれでも在庫引当が重要なのか、在庫引当によって在庫管理を行うメリットを把握しておきましょう。

在庫管理を行うメリット
  • コスト削減につながる
  • 欠品を防止できる

コスト削減につながる

もし在庫引当を行わず、曖昧な有効在庫数で在庫管理を行っている場合、「欠品を起こしてトラブルにならないように」といった心理がはたらき、必要よりも多くの在庫を持ってしまう可能性があります。その結果、在庫過多となり売れずに残った在庫の品質が劣化して廃棄をせざるを得なくなったり、保管スペースが必要となる管理費が必要以上にかかったりしてしまいます。このように、在庫引当を行い有効在庫数を厳密に把握しておくことは不要なコストの削減にもつながるのです。

欠品を防止できる

先にも紹介したように、有効在庫数を早期に把握しておくことで適切な在庫補充が可能となり、欠品というリスクを回避することができます。有効在庫数をリアルタイムでこまめに更新し、常に確認できる状態にして需要と供給のバランスを把握できるようにすることがポイントです。

在庫引当を管理する具体的な方法

在庫引当を取り入れて在庫管理をするにはどうしたらよいのでしょうか。在庫引当で管理をする具体的な方法を紹介します。

エクセルで入力する

比較的簡単に導入できるのは、エクセルで管理を行う方法です。紙で管理を行う場合、少数の在庫であれば、用紙に表を作り注文を受けるごとに倉庫に行き、在庫数を数えて直接記入するという方法も可能ではあります。しかし、管理すべき在庫の数や種類が多い場合や、書き間違い、読み間違いなど人的ミスを防ぐには、エクセルで入力を行うほうが管理しやすくなります。

関数やエクセルの機能を有効活用すれば、数値入力やグラフ化、分析も効率的に行うことができます。他にも在庫管理ソフトは出回っていますが、新規導入にコストがかかることも多いため、エクセルがすでにパソコンにインストールされているのであれば、まずは自社の在庫管理に対応できるか運用してみるとよいでしょう。

在庫管理システムを使う

在庫管理システムを導入すれば、在庫数の管理だけでなく、棚卸し業務などの在庫管理におけるさまざまな業務をデータ化して行うことができます。先に紹介したエクセルは在庫管理専門のソフトではないため、在庫管理システムの方がより必要な機能や効率的に運用できる仕組みが備わっています。

また、在庫管理システムであればエクセルのように関数に対する知識がなくても管理が可能で、入力や関数設置などにおける人的なミスの削減にも繋げられます。コストはかかりますが、欠品や過剰在庫を防ぎ、適切な管理をするには在庫管理システムの導入は大きな効果が期待できます。

在庫引当をする際の注意点

最後に、在庫管理システムを導入して在庫引当を行う際の注意点を紹介します。

入力は正確に行う

在庫管理システムの場合は、エクセルや手書きのように入力ミスや読み間違い、書き間違いなどの人的ミスが起きにくく、正確な在庫管理に繋げられます。それでも在庫管理システムで入力や設定などを行うのは人間なので、ミスがゼロとは限りません。数字を間違えて入力したり、受発注の伝票の処理を忘れたりすることのないよう、手前でのミスが起きないように注意が必要です。

エクセルや紙で管理する場合は、これまで何度も説明している通り人的なミスが起きないようできる限り工夫しましょう。2次チェックを行う仕組みを取り入れたり、確認の機会を増やしたりと、現実的なことから取り組むとよいでしょう。ただし、管理を行えるスタッフの数や知識など制限もあるため、実際に運用する中でシステムの導入も視野に入れておきましょう。

また、導入する在庫管理システムによっては、手入力ではなくバーコードをスキャンするだけで在庫数がわかるシステムもあるため、より正確な管理を求める場合はそちらの導入も検討してみてもよいでしょう。

在庫がある場所や数量を把握しておく

根本的なことですが、今必要としている商品が倉庫内にあるのか、遠方の倉庫にあるのか、取り寄せが必要なのか、どこにどのくらいの数量の在庫があるのかを正確に把握しておくことは非常に重要です。顧客からの発注があった場合に、在庫管理システムで在庫引当を行って正確に受注できたとしても、納品までの日数を正しく伝え、確実に納品できるよう手配する必要があります。在庫数の正しい数字の把握だけでなく、その在庫がどこにあり、どのように手配できるか、という点もあわせて常に確認できる体制を整えておきましょう。

まとめ

今回は、在庫引当についての考え方やメリット、具体的な方法について紹介しました。在庫引当は、在庫管理を正確にし欠品や過剰在庫を防ぐことにも繋がります。

紙やエクセルで手入力で行う以外にも、在庫管理システムを導入して行う方法があり、コスト面や人員などの条件によって、それぞれ導入や運用のハードルは異なります。管理する在庫数や規模などによって適切な方法を検討していきましょう。

顧客からの信用を得るためには、間違いのない納品が不可欠です。在庫引当を用いてより適切な在庫管理を進めてみてはいかがでしょうか。

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