商品・サービスを提供する企業をはじめとしたさまざまなビジネスにおいて、対象となる顧客は新規顧客、既存顧客、休眠顧客などさまざまな分類があります。そのなかでも、もっとも価値の高い、顧客のなかでも最上位に位置する顧客である「ロイヤルカスタマー」は、どの業界においても競合の多い現代のビジネスにおいて欠かすことのできない存在です。
今回は、ロイヤルカスタマーがなぜ重要なのかという理由と、分析方法や育成方法について紹介します。
目次
ロイヤルカスタマーとは?優良顧客と何が違う?
ロイヤルカスタマーとは、冒頭で説明したとおり「企業にとってもっとも価値の高い、顧客のなかでも最上位に位置する顧客」のことを指します。自社の商品・サービスを頻繁に購入・利用してくれる、自社の売上に対する貢献度の高い顧客であるため、ロイヤルカスタマーの獲得は非常に重要です。
そこで気になるのは、顧客層の分類としての「優良顧客」との違いです。優良顧客も自社の商品・サービスを頻繁に購入・利用してくれることには変わりはありません。大きな違いは、そこに「愛着心や信頼」があるかどうかにあります。優良顧客の場合、それまで利用していた商品・サービスに不満が生じたり、よりよくお得な商品が競合他社から発売されたりした場合に離れてしまう可能性がありますが、ロイヤルカスタマーはそのような場合でも簡単には競合他社に移ることはないのです。
ロイヤルカスタマーの定義は、自社の商品・サービスの内容によって異なります。週に一度は利用がないとロイヤルカスタマーといえない場合もあれば、年に一度購入してくれるだけでもロイヤルカスタマーとなる商品・サービスもあります。そのため、自社にとってのロイヤルカスタマーの定義は明確にしておくとよいでしょう。
ロイヤルカスタマーの育成が重要な理由
ロイヤルカスタマーは自社の商品・サービスに愛着を持ち、長く貢献してくれる顧客ではありますが、定着させることは簡単ではありません。そこでロイヤルカスタマーの育成が重要となるのですが、具体的にどのような点において重要といえるのかを説明していきます。
- 売上が安定し、LTVが向上する
- 情報発信と新規顧客の開拓を行ってくれる
- ロイヤルカスタマーならではのフィードバックがもらえる
- コスト削減と利益拡大につながる
売上が安定し、LTVが向上する
先にも説明したとおり、ロイヤルカスタマーは自社の商品・サービスに愛着と信頼を抱いている顧客のため、競合他社が出てくるなどの多少のことでは乗り換えることはありません。一度ロイヤルカスタマーとして定着すれば、長期間にわたって売上に貢献してくれる可能性があるのです。LTVとは、一人の顧客が生涯にわたってもたらす利益の総額をあらわす指標のことを指しますが、ロイヤルカスタマーはそのLTVの上昇に大きく関係します。
一度切りや数回の購入・利用で終わる顧客ではなく、長期的に見て大きな売上に繋がることが利点といえます。
情報発信と新規顧客の開拓を行ってくれる
ロイヤルカスタマーは商品・サービスに詳しく、SNSや口コミで商品・サービスのよさを情報発信してくれる可能性も考えられます。口コミというのは、利用者や友人、知人などの生の声であることから企業の一方的な広告宣伝よりも受け手にリアルに伝わりやすいです。
広告宣伝費をかけずに低コストで新規顧客へのプロモーションが図れることから、ロイヤルカスタマーの口コミは情報発信と新規開拓の両方を担ってくれるというメリットがあるのです。
ロイヤルカスタマーならではのフィードバックがもらえる
商品やサービスへの愛着や理解が深いほど、より多く貢献したいという思いや改善のために積極的に意見を伝えたいと考える顧客もいるため、建設的なフィードバックをくれることがあります。利用者ならではの視点でのフィードバックは、商品・サービスの向上に役立つほか、新たな商品開発にも大いに活用できる貴重な意見です。
また、それらの意見を上手く活用して顧客のニーズや傾向を把握できれば、新規開拓にも繋げられるかもしれません。
コスト削減と利益拡大につながる
マーケティングの分野でよくいわれる法則に「1対5の法則」というものがあります。これは、新規顧客を獲得するには、既存顧客の5倍のコストがかかるとされるものです。既存顧客のなかでも長期間にわたり商品・サービスを利用・購入してくれるロイヤルカスタマーは、新規顧客と違って獲得コストがあまりかからず、その結果利益の拡大にもつながります。
ビジネスの状況によって新規開拓への注力が必要なフェーズはありますが、一方で既存の顧客をロイヤルカスタマーへ育成することも、利益につながる点で非常に重要であることが分かります。
ロイヤルカスタマーの育成方法
ロイヤルカスタマーの重要性は認識したものの、自社の商品・サービスにおいてロイヤルカスタマーを維持していくためにはどのような働きかけが必要なのでしょうか。ここでは、ロイヤルカスタマーの育成方法について紹介していきます。
- STEP1:ターゲットとする顧客を決定する
- STEP2:顧客との接点を増やす
- STEP3:顧客体験(CX)を見直し、満足度を高める
- STEP4:効果を分析する
STEP1:ターゲットとする顧客を決定する
ここでのターゲット設定とは、自社にとって誰がロイヤルカスタマーであり、これまでのどの顧客がロイヤルカスタマーとなる可能性があるのかを見定めることです。
ロイヤルカスタマーに関するターゲット設定では、NPS®という指標を用います。NPS®とは、「ネット・プロモーター・スコア」を略した言葉で、企業や商品・サービスに対する愛着や信頼の程度を数値化したものです。顧客を数値化で分類したのち、「批判者」「中立者」「推奨者」の3つに判別します。NPS®については後ほど詳しく解説します。
次にターゲット別にKPIを設定します。KPIはKey Performance Indicatorの略で、「重要業績評価指標」といいます。達成度合いの評価をする指標です。具体的には、継続利用率や顧客単価など数値的目標の設定を細かく行います。
今回の場合は、ロイヤルカスタマーのLTVの上昇と、中立者・批判者をロイヤルカスタマーに転換させること、が目標になり得ます。
NPS®について詳しくは、以下のページもあわせてお読みください。
STEP2:顧客との接点を増やす
続いて、顧客との接点を増やす施策をします。先のNPS®という指標の数値が低かった場合、原因の1つとして顧客と接する機会が少ないことが考えられます。接点を増やすには、メルマガ配信やLINE公式アプリなどを用いて定期的に情報発信を行いましょう。また、自社の商品・サービスを購入し利用するなかで、どのタイミングで接点が増やせるかを検討する「カスタマージャーニーマップ」の作成もおすすめです。
カスタマージャーニーマップについては下記のページでも詳しく解説しています。
STEP3:顧客体験(CX)を見直し、満足度を高める
顧客にとって、自社の商品・サービスの購入・利用について情報収集した時点から、実際に購入し利用して以降のアフターサービスまで、すべてが価値になります。この顧客体験のひとつひとつのなかで、顧客の期待を超える体験を提供できたとき、顧客体験の満足度の向上につながります。
期待通りであれば、満足ではあるもののそれだけでは満たされたことにはなりません。期待を超えることで感動につながり、愛着心が芽生え、ロイヤルカスタマーにつながる可能性ができるのです。
また期待以下の結果になってしまっている場合は、当然ながら満足度も低いと考えられます。実際に顧客がどのように感じているのか、アンケートや直接インタビューを行い、顧客の満足度を定期的に確認することも大切です。
STEP4:効果を分析する
ロイヤルカスタマーを育成・獲得するためには、これまでのステップで行ってきたような施策を継続的に行うことが重要です。ただし、結果や効果を見ずにただ続けているだけでは本当に意味のある施策を行えているのか判断ができません。そこで、行った施策にあわせて購入回数や購入金額などの分析を行い、これまで想定してきたロイヤルカスタマーとしての定義とズレが生じていないか、数字的な結果が出ているかなどをこまめにチェックしましょう。
そのなかで、自社の商品・サービスをこれまで長期的に利用してきた顧客が購入をやめるなど突如変化が生じた場合は、その原因がなにかできる限り分析を行いましょう。原因が顧客個人の環境の変化などではなく商品やサービスにある場合、放置していれば他の重要な顧客までも失ってしまうことになりかねません。丁寧にヒアリングをすることで自社の課題を見つけ、対策を繰り返し行うことで精度をあげていきましょう。
顧客ロイヤルティを測り、管理する手法
顧客ロイヤルティを測り、管理するにはどのような手法があるのかを先に説明した用語をもとに説明していきます。
なお、その前段階である「顧客ロイヤルティを高める手法や計測方法」については、こちらの記事で解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
LTV
先にも少し触れた通り、LTV(Life Time Value)は「顧客生涯価値」のことで、顧客が生涯において商品・サービスを利用し続けることで自社に対してどの程度の利益をもたらすかを示す指標です。売上や購入頻度が高い顧客や、長期的な利用をしている顧客はLTVが高くなります。
ただし、LTVが高い顧客のなかでも、自社の商品・サービスに不満は持ちながらも、競合他社の商品・サービスを探すのが面倒であったり、セールのときだけ購入していたりする顧客も含まれていることもあります。そのため、LTVが高い顧客が必ずロイヤルカスタマーであると判断するのは難しく、その場合にはここで紹介する他の指標もあわせて判断するとよいでしょう。
NPS®
NPS®とは先にも紹介したように、「ネット・プロモーター・スコア」を略した言葉で、企業や商品・サービスに対する愛着や信頼の程度を数値化したものです。算出する手順としては、自社の商品・サービスについて友人・知人に勧める可能性があるかを0点〜10点のなかで評価してもらいます。そして、0〜6は批判者、7と8は中立者、9と10は推奨者であると分類します。推奨者の割合から批判者の割合を引いて出た値がNPS®となります。
NPS®で調査を行った場合には、推奨者はロイヤルカスタマーであるか、今後ロイヤルカスタマーになる可能性があると考えてもよいでしょう。そして、点数をつけた理由を聞くことで購入動機や不満の要素が明らかとなり、さらに今後の継続購入の有無についても回答してもらうことで、アプローチ方法がより明確になります。
RFM分析
「RFM分析」は、「Recency(最終購入日)」「Frequency(購入頻度)」「Monetary(購入金額)」の3つの指標で、顧客を分析する方法です。この指標により、顧客を「優良顧客」、「休眠顧客」、「見込み客」、「新規顧客」、「離反客」などと分類することができます。また、各顧客の購入実績によって分類するものであるため、顧客それぞれの購入タイミングやニーズといった情報も明確にできます。
ただし、これだけでは商品・サービスに対する愛着や信頼度は把握できないため、ほかの分析方法とあわせて分析を行うとよいでしょう。
CRM
CRMは「Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」の略で、顧客とスタッフや、顧客と企業との関係を管理する手法を指します。購入データにより年齢・性別・住所で顧客を分類してグループ化し、そのグループごとに適したアプローチを継続していきます。CRMはあくまで顧客側目線で望む商品・サービスを考えていく手法であり、関係構築が必要な手法であるため、長期的かつ継続的に進める必要があります。なにより、顧客との確かな信頼関係を築き上げることでできる手法がCRMです。
CRMについては、こちらの記事でより詳細に解説しています。
ロイヤルカスタマーの獲得・育成に成功した事例
ロイヤルカスタマーを獲得することは一朝一夕でできるものではありません。どのような手法を取り入れて獲得していけばよいのか、最後に、ロイヤルカスタマーの獲得・育成に成功した企業の事例を紹介します。
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
スターバックスでは、同社初のロイヤリティプログラムに「STARBUCKS REWARDS(スターバックス リワード)」(以下「スターバックス リワード」)というものがあります。ウェブ登録済みのスターバックスカードで商品を購入することで、カードを使った顧客は「STAR(スター)」を集めることができます。そして公式アプリまたはウェブサイトで発行できる「Reward eTicket(リワードeチケット)」に交換でき、フード、コーヒー豆などの商品1つ(持ち帰り価格756円/店内価格770円)と交換ができるほか、年に約1万回実施されているコーヒーセミナーの先行予約、ドリンクにプラスしたカスタマイズができるなどのサービスを受けられる仕組みとなっています。
全国展開で店舗を多く持っており、ユーザーが利用できる機会が多いことから、店舗の特性にマッチした仕組みといえるでしょう。
(2022年10月時点)
参考:Starbucks® Rewardsとは|スターバックス コーヒー ジャパン
チューリッヒ保険会社
チューリッヒ保険会社は、契約有無に関わらず、一般消費者からの声を自社サービスや商品に反映させる取り組み「Consumer Opinion Forum」を継続しており、NPS®調査を導入するなど、お客様の声を受け止める体制作りに力を入れています。
電話受付までの時間短縮や、ウェブサイトのログインページがわかりにくいという不満に対して、サイト内導線の改善を図っており、積極的なユーザビリティの向上によってロイヤルカスタマーの獲得・育成を行っています。
(2022年10月時点)
参考:2021下半期(10~3月)お客さま本位の取組状況_R最終版
The Place of Tokyo
The Place of Tokyoは、ウェディング総合情報サイト「みんなのウェディング」の2021年の結婚式場口コミランキングで、東京都のゲスト満足度、東京都の料理部門など5部門で第1位を受賞しています。口コミランキングが高いということは、実際に利用した顧客の満足度が高い式場といえるでしょう。式場の屋上に設置されたルーフトップバーでは、ここで結婚式を挙げたカップルに永久の会員証が発行される特別なバーが用意されています。
結婚式自体はカップルにとって1度切りものでも、継続的なお付き合いができるような工夫によってロイヤルカスタマーの獲得に繋げています。
(2022年10月時点)
参考:新着情報 | 【公式】東京都 港区の結婚式場ならThe Place of Tokyo
まとめ
今回は、ロイヤルカスタマーがなぜ重要なのかという理由と、分析方法や育成方法について紹介しました。
ロイヤルカスタマーは、商品・サービスを提供する企業などにおいて、もっとも価値の高い、顧客のなかでも最上位に位置する顧客です。長期的な利用により、安定した売上の確保や口コミによる新規顧客の獲得など、自社の商品・サービスに高い貢献度を持っています。
自社の商品・サービスに対して高い愛着や信頼を抱いている顧客だからこそ、購入頻度や購入金額、満足度などを細かく分析し、不満がありそうな場合にはこまめにヒアリングを行うなど長期的かつ定期的な施策を行うことが重要です。ひとりでも多くのロイヤルカスタマーを育成しながら、今後のビジネス発展につなげてみてはいかがでしょうか。
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