飲食店の開業にあたって、事業計画書という書面の作成が必要になることがあります。事業計画書の作成については明確に内容を書かなければならないため、事前準備や知識が必要です。今回は、飲食店向け事業計画書の書き方について、書くべき内容やテンプレートについて紹介します。
事業計画書とは
事業計画書とは、新規事業をはじめるにあたって、どのように運営するのかの具体的な事業内容を示す計画書のことです。事業計画書を誰が読んでも事業内容やどのように収益を上げるのかという収支計画内容が把握できるように作ります。主に新規事業において金融機関より融資を受ける際に必要となります。
事業計画書の目的や役割
事業計画書を作成する目的は、事業の全体像を明確にして、将来的な目標実現のための具体的な計画を示していくことにあります。事業計画書は、経営における意思決定の規準となるものであり、経営に必要な資金的な支援や融資を受ける際に相手から信頼を獲得するために必要となります。そのため、融資の審査を行う担当者に向けて説得力のある内容であるか、ということが重要です。
また、事業計画書という形にしていく中で、自分のビジネスの在り方やアイデアを客観視することができる点も、事業計画書を作る意味として挙げられます。アイデアをより具体的に考え整理するきっかけになるため、改善点や不足している点を見つめ直し、やるべきことを明確にできます。
事業計画書を作り始めるタイミング
事業計画書は、事業を開始する前に作成する必要があります。具体的なタイミングや手順は下記の通りです。
- 起業準備
- 事業計画書作成
- 資金計画
- 起業計画の具体化
- 起業→事業開始
起業準備を始めたら同時進行で作成していくことになります。事業の具体的な計画を明記するのが事業計画書であり、事業を行う場所や物件などを決めていかなければ記載できないため、同時進行が必要となります。
事業計画書の形式やテンプレート
事業計画書は、決まった書式や用紙はありません。だからといって、白紙に最初から手書きで書き進めるというのは簡単ではないでしょう。その際に活用したいのがテンプレートです。テンプレートがあれば、どのような内容をどの順番で書けばいいのかがひと目でわかり、頭で整理しながら書き進めていくことができます。インターネットでもテンプレートをダウンロードできるさまざまなサイトがあるので、検索してみるとよいでしょう。
参考:各種書式ダウンロード|中小企業事業|日本政策金融公庫(2023年7月時点)
参考:事業計画書 – 無料テンプレート公開中 – 楽しもう Office(2023年7月時点)
事業計画書の書き方と項目
では、実際に事業計画書を書くにあたってどのように進めていけばよいのでしょうか。まずはテンプレートに沿って、自分の考えるように記入してみます。そのうえで、専門家や同じように起業している知人などに目を通してもらい、不明点をつぶしていきましょう。
事業計画書は、興味を持ってもらえる内容であること、要点がしっかりまとまっていること、数字に関しては達成できる根拠がある数字であるのかということが重要です。興味を持ってもらうには、自身が事業を始めたいと思った気持ちを言葉に表したり、言葉で表現できないことは画像や図表を用いたりして、相手に伝わるような工夫をしましょう。数字に関しては、どのような計画であれば達成できるのか、といったわかりやすい説明を加えるとよいでしょう。
なお、事業計画書に書く項目は主に以下の9つがあります。
- 企業の概要や創業の動機・目標
- 経営者の経歴
- 事業内容やコンセプト
- 取り扱う商品やサービス
- ターゲット
- 商品の仕入れや生産方法
- 販売計画:組織や従業員
- 必要な資金や調達方法
- 損益計算の予測
それぞれ詳しく解説します。
1.企業の概要や創業の動機・目標
まず、企業の概要と、創業の動機としてなぜ自身が開業したいと考えたのかという、開業に至る経緯を具体的に紹介します。「憩いの場所になれるようなカフェを作りたい」「自慢の手料理でたくさんの人を笑顔にしたい」など、なぜそのお店を始めたいと思ったのかを考え、さらに「この事業を応援したい」と思ってもらえるようなビジョンや目標を記載していきましょう。世の中にとって自分の事業が意味のある存在であり、社会貢献できることをアピールしましょう。もし予め創業計画書を作成していた場合は、その内容を参考にしながら記載していくとよいでしょう。
また、その事業でどのようなことを目標としてどのようなことを達成し、今後どのように事業を発展させていきたいのかということも説明していきます。ここは、融資を受ける際の審査担当者や支援者に対して共感を得てもらい、自身の事業に協力的な姿勢になってもらうことが大きな目的です。
2.経営者の経歴
起業する自分自身または経営者の職歴を時系列で記入します。履歴書を記入するのと同様に、これまでどのような企業でどのような経験をしたのか、何を学びどのようなスキルを得てきたのか、なぜその道を進んできたのかなどを、相手にうまく伝わるように具体的に紹介していきます。記入すべき項目は以下の通りです。
過去に経験した業務やスキルの年月と内容
過去にどのような業務経験があり、どのようなことを学び習得してきたのかが分かるように、業務の内容も細かく記入しましょう。今後事業を行っていく中でそれらの経験やスキルが活かせるということをアピールする必要があります。
(記入例) | |
年月 | 内容 |
平成○年○月~ | 株式会社○○入社 居酒屋チェーンでホール担当(3年) |
平成○年○月~ | 株式会社○○入社 洋食チェーンA店でホール・キッチン担当(4年) |
平成○年○月~ | A店で副店長に就任し、キッチンと採用・人材教育、店舗経営業務を担当(2年) |
令和○年○月 | 退職予定 |
過去の事業経験の有無
過去に事業を経営したことがある場合や現在も続けている場合は、それらの年月や内容も記載しておきましょう。廃業した過去がある場合でも、その経験が次の事業で活きることをアピールすることができます。
(記入例) | |
過去の事業経験 | ✔事業経営の経験はない。
・事業を経営していたことがあり、現在もその事業を続けている。 (⇒事業内容: ) ・事業を経営していたことがあるが、既にその事業をやめている。 (⇒やめた時期: 年 月) |
取得資格や知的財産権など
これまでに取得した資格や知的財産権などについて記入します。特に飲食店運営や店舗経営に関係する資格を取得している場合は必ず記入を忘れないようにしましょう。飲食店に関係する資格には以下のようなものがあります。
- 調理師免許
- ソムリエ
- 食品衛生責任者
- 防火管理者
- 簿記
また、創業に向けて準備したことがわかればそれも評価に繋がります。
記入例 | |
取得資格 | ・調理師免許(平成◯年◯月取得) ・普通運転免許(平成◯年◯月取得) |
知的財産権等 | 特に無し |
3.事業内容やコンセプト
次に必要な項目は、事業内容とコンセプトです。事業内容とは、どのような商品・サービスを提供する事業であるのかという具体的な内容です。コンセプトとは、その商品・サービスにどのような魅力があり、どのような方法でどのようなターゲットに提供したいのか、というような事業の特徴を明確化したものです。
たとえば、カフェで居心地の良さやゆっくりコーヒーを楽しんでリラックスできるような空間を提供したいという場合は、「まるでもう1つの自分の部屋のようにゆったりくつろげるカフェ」などのコンセプトが考えられます。
事業計画書作成時だけでなく、飲食店を開業するにあたってターゲット設定やコンセプトの明確化は非常に重要ですので、事業計画書作成にあわせて考えていきましょう。
飲食店におけるコンセプト設定については、下記もあわせてお読みください。
4.取り扱う商品やサービス
先の「企業の概要」で記載した取り扱い商品やサービスの内容をさらに具体的に説明していきます。飲食店の取り扱い商品、提供するメニュー内容や特色、店舗のセールスポイントなど細かく設定していきましょう。この項目は、お客様が来店するであろうことや、競合に勝てる店舗であると伝えることが重要です。また、最初に書いた創業の動機から経歴、コンセプトなどとマッチしているかという点も重要です。
たとえば、先に述べた例のように、くつろげるカフェをコンセプトにした場合はゆっくり時間をかけて楽しめるドリンクや料理を提供することが考えられます。またそれにあわせて、座り心地のよい椅子や程よい暗さの照明など、お客様の使用するものや空間、内装も工夫を凝らしていることをアピールしましょう。
記入例 | |
取扱商品やサービス内容 | 朝:モーニングメニュー3種 600円~900円 |
昼:ドリンクメニュー 300円~700円 | |
昼:ケーキメニュー5種 400円~600円 | |
その他:テイクアウトメニュー |
5.ターゲット
ターゲットとは、自店が狙いとする顧客の属性や人数、居住地域など詳細を想定することです。事業計画書作成とあわせてターゲット設定を具体化することで、自店のメニューづくりや内外装の想定をより明確にすることができるので、ここはしっかりと組み立てていきましょう。ターゲットになるであろう顧客が店舗を利用する動機は何かを考えることが大切です。
たとえば、先ほどから取り上げているカフェの場合、「静かな空間で美味しいコーヒーを飲みながら読書がしたい」「お出かけの途中で飲物を飲みながら休憩したい」などと思っている人がターゲットとして考えられます。年代や性別、店舗の立地、シチュエーションなどの要素も含めて、ターゲット層を明確にしておきましょう。
6.商品の仕入れや生産方法
商品の仕入れ先や外注先、生産方法などについてもまとめていきます。飲食店の場合は、どのような食材をどのようにどこから仕入れるのか、安定して仕入れることが可能であるのか、どのような環境で調理(生産)を行うのか、支払い条件はどのようになっているかなどを明記していきます。
さらに、全体的な売上と仕入れの割合や売上の回収方法、仕入先への支払い手段などの売上計画についても具体的に記入します。特に仕入れ先については事業計画書作成時点で決定していることで、融資担当者や支援者に対して真剣味を伝えることができます。
7.販売計画:組織や従業員
自店を運営するにあたっての組織体制や、どのポジションにどのくらいの従業員が必要か、雇用形態や待遇、募集方法なども具体的に記載します。組織体制や従業員の計画は、自店の運営に必要な業務を具体化することで、正確に数値化していくことができます。従業員については最初は最小限の人数にしておき、運営が安定してきたタイミングで人数を増やしていくのが現実的な進め方です。
8.必要な資金や調達方法
必要な資金とは、飲食店経営にあたって必要となる店舗や設備などの借入費用、内装工事費用、仕入れ費用、広告費用、そのほかにかかる諸経費などを指します。設備資金と運転資金に分けて、これらの費用や調達方法をまとめた資金計画を立てましょう。
資金の調達方法については、なぜ借入が必要なのかを融資担当者や支援者に伝わるように詳細を記載し、資金調達計画が明確になるようにしましょう。
また、個人の借り入れ状況についてもまとめておきましょう。事業に関連した借入の他、住宅ローンや教育ローン、車などのローン、カードローンなどを全て書きます。
お借入先名 | お使いみち | お借入残高 | 年間返済額 |
○○銀行○○支店 | □事業 □住宅 ✔車 □教育 □カード □その他 | ○○万円 | ○○万円 |
○○銀行○○支店 | □事業 ✔住宅 □車 □教育 □カード □その他 | ○○万円 | ○○万円 |
9.損益計算の予測
事業開始後の売上と経費の推移を見通して、収支計画をもとに損益計画を立てましょう。当初1年間の月ごとの損益計算書を作成していきます。つまり、これから事業を行っていく中でどのくらいのお金が入ってきて、またどのくらい出ていくのかを割り出します。
なかでも利益の計画は事業の見通しとして重視されるポイントです。利益計算は下記のような項目をもとに予測していきます。
- 売上(売上計画によって算出した金額)
- 原材料費(食材などに関わる費用)
- 人件費(社員・スタッフへの給与などの費用)
- 家賃
- 水道光熱費
- 販促費(広告やチラシなどの販売促進に使う費用)
- 減価償却費(パソコンなどの長期で使用する固定資産を、その耐用年数にあわせて配分し期ごとで計上する費用)
- その他経費
売上高から費用の合計を差し引いたものが「営業利益」となります。損益計算では、この営業利益までを算出しておきましょう。また、この営業利益をもとにして、法人税などの税や借り入れの返済などの金額もあわせて計算し、資金繰りや返済の計画も立てましょう。
市場や競合の調査・分析
- 市場調査と分析
- 競合調査と分析
出店しようとしている場所の市場や競合店の調査・分析は、競合との差別化を図る際に非常に重要となります。市場を知ることで自店があるべきポジショニングがしやすくなり、どのような強みがあるかを把握することができます。詳しく説明していきます。
市場調査と分析
市場の調査と分析とは、出店しようとしているエリアの特徴を具体的に把握することです。自店がどのような商品・サービスを提供するかによって、そのエリアにはどのくらい需要があるか、どのくらい費用をかけるエリアであるか、どのくらいの頻度で利用するか、など顧客対象のニーズを分析していきます。それにより、競合と自店とのポジショニングの把握や、自店の強みと弱みもより明確になります。
市場調査についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
競合調査と分析
競合となる店舗の調査と分析は、差別化を図るにあたって非常に重要です。自店の商品・サービスの質や価格、当社の強み・弱みに対して、競合店舗にはどのような特徴があるかを分析していきます。ここでは、主観は入れず、あくまでしっかり調査・分析したという根拠がわかることがポイントになります。
事業計画書を作成するときのポイント
良い事業計画を作るためには、以下のようなポイントを意識することが大切です。
- 要点を抑えて分かりやすく記載する
- スケジュールを立て進めていく
- 根拠や実現できるであろう数値を記載する
それぞれ解説していきます。
要点を抑えて分かりやすく記載する
事業計画書では内容を明確に書くことは大切ですが、必ずしも長く詳しく書かれた物が良いというわけではありません。要点を抑えて、伝える必要がある内容がわかりやすく明確になっているかを意識しましょう。自分以外に計画書を読む人がいることを考えて、読みやすさに問題が無いか注意してみてください。必要に応じて、写真を取り入れるなどの視覚的な工夫をしてみるのもよいでしょう。
スケジュールを立て進めていく
融資を受ける場合、融資が実施されるまでにはある程度の時間がかかります。その期間にもできる事は多くあるため、融資を受けるまでにどのような準備を進めておくのか、スケジュールを立てましょう。事業計画書に取り掛かるタイミングや店舗の準備などを踏まえて、いつから何をしておくべきなのか明確にしておきましょう。
根拠や実現できるであろう数値を記載する
事業計画書では、資金や売上などをはじめさまざまな数値を記載する場面が多くあります。これらの数値や計画は、その根拠となる要因や実現可能であることを示す必要があります。特に売上などに関しては、店舗の規模感や立地、周辺地域の人口や交通アクセス、競合の状況など、あらゆる環境を考慮することで、未来のこととはいえ現実的な数字を見出すことができるでしょう。既に確定している要素から考えて非現実的な計画を立てないようすることが大切です。
まとめ
今回は、飲食店向けの事業計画書の記入方法について紹介しました。
事業計画書は、事業をどのように運営するのかの具体的な内容を示す計画書です。経営者の経歴や事業の内容とコンセプトなどの項目で事業の紹介をし、市場調査・分析や販売計画、数値計画でより具体的に現実的な根拠を持って事業の計画を説明していきます。インターネットなどでテンプレートが用意されているので、参考にしながら自身の事業の紹介をしていきましょう。
事業計画書は、融資担当者や支援者が目を通して「これなら協力したい」と思ってもらえることが重要です。自身がその事業でどのようなことを目標として、今後どのように事業を発展させていきたいのかということを言葉や数字にして、自分の想いが伝わるような、心に刺さる事業計画書を作成してみてはいかがでしょうか。
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