自社の商品・サービスについて顧客が価値を感じているかどうかという指標が顧客満足度です。顧客満足度が高いほど売上向上にもつながる重要な指標となります。では、顧客満足度の向上を図るには、どのようなことに注意し、どのような手順をおって進めていけばよいのでしょうか。

今回は、顧客満足度を上げる具体例と、実行の手順、成功事例をあわせて紹介します。

顧客満足度とは?

顧客満足度とは、顧客が自社の商品・サービスに対してどの程度満足しているのかを示す指標です。マーケティング用語ではCustomer Satisfaction(CS)とあらわすこともあります。

顧客満足度が高ければ高いほど、顧客は自社の商品・サービスについて価値を感じ、好印象を抱いているということになるため、売上向上にもつながります。

商品・サービスの課題を知り、改善を図るためには顧客満足度の把握が必要です。調査方法としては、アンケート調査やヒアリング、SNSなどの口コミがあげられます。

購入前に行う顧客満足度を上げる具体例

顧客が自社の商品・サービスを購入する前に、顧客満足度を上げるために行える施策にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、購入前に行う顧客満足度を上げる具体例を4つ紹介します。

購入前に行う顧客満足度を上げる具体例
  • 期待値を超えるサービスを提供する
  • 商品・サービス・接客品質の向上
  • ダイナミックプライシング
  • ホスピタリティ

期待値を超えるサービスを提供する

顧客満足度は、商品やサービスの価値が顧客の期待値を上回ったときに向上します。食事であれば「おいしい」、商品であれば「使いやすい」などといった機能的な価値を提供しつつ、さらに顧客の期待以上に満足できる付加価値を提供することがポイントです。

顧客満足度向上のための施策には、注意が必要な点が2つあります。それは「動機づけ要因」「衛生要因」の2種類です。

動機づけ要因とは、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、満たされなかったとしても満足度が下がることはないという、満足感に関する要因のことを指します。

一方で衛生要因とは、不満に関する要因のことであり、満たされることで不満は解消されるものの満足度は上がることはなく、さらに満たされなければ満足度は下がるというものです。つまり、あたりまえのことを提供してもらえないと満足度は下がり、すでに不満を抱いている顧客は、不満が解消されたとしても満足度向上につながるような感動は生まれにくいということになります。

商品・サービス・接客品質の向上

商品・サービスの質を向上させると、顧客が利用した際の満足度が上がります。一方で、商品・サービスの品質を一定に保っておくままでは、品質が上がった競合他社に劣ってしまうことも考えられ、競合と比較して自社への満足度が下がった顧客が他社に乗り換えてしまう恐れもあります。

それは接客サービスでも同様で、顧客と直に接する機会の多い企業の場合は、従業員の接客教育を怠らないような心がけが重要となります。いずれにしても、自社の商品・サービスに対する品質向上は常に意識をしておくことが必要です。

ダイナミックプライシング

「ダイナミックプライシング」とは、経済環境にあわせて価格を変動させる方法です。例としては、テーマパークやホテル、旅館などのように、平日と休日、閑散期と繁忙期など利用日にあわせて利用料金を変更するものがあげられます。

この目的は、料金体系の固定化に不満を感じる顧客に対して、満足度を向上させることにあります。出費を抑えたい顧客には、平日や閑散期の安いタイミングに利用してもらうことで料金への不満を抑えることができます。また、企業にとっても需要が低い平日の利用者を増やすことができ、本来集客や売上があまり見込めない時期でも売上を確保することが期待できます。

ホスピタリティ

顧客の立場を理解して、心から相手を大切に思う気持ちが「ホスピタリティ」です。サービス業においては「おもてなしの心」ともいわれます。ホスピタリティが従業員に根づいていることで、不測の事態が起きた場合にも、その場面にあった対応をとることができます。

例えば、遊園地にいるキャラクターの着ぐるみが、普段なら周囲の子どもたちにあわせて一緒にはしゃぐように見せる場面でも、近くに眠っている赤ちゃんを見つけると、周囲に対して静かにしてもらうようなしぐさをみせて赤ちゃんが起きないようにする、というような配慮もホスピタリティといえるでしょう。

ホテルや旅館では、チェックアウト後の常連客の部屋を確認して、室内温度や家具の配置などを記録して次の滞在に活かすこともあるとされています。

このように、期待値を超えるような配慮も、顧客満足度向上につながるといえます。

購入後に行う顧客満足度を上げる具体例

次に、自社の商品・サービスを顧客が購入したあとに顧客満足度を上げる施策にはどのようなものがあるか、具体例を2つ紹介します。

購入後に行う顧客満足度を上げる具体例
  • カスタマーサクセス
  • 適切な情報提供・アフターフォロー

カスタマーサクセス

「カスタマーサクセス」とは、顧客が商品・サービスを購入した後、受動的に顧客の反応を待つのではなく、自社の商品・サービスを使った顧客が成功へつながるように、自社が能動的に顧客と関わっていくことを指します。そのため、自社の商品・サービスについて顧客がどのような不満を抱くかを事前に予測しておき、スピーディーにフォローをしていくことで、顧客満足度を向上させ、継続的な利用につなげていきます。

カスタマーサクセスは能動的に顧客と関わっていくことから、より上位のモデルに乗り換えてもらうアップセルや関連商品を勧めるクロスセルにもつながります。フォローが手厚くなることでコストや時間もかかるため、まずはアンケートやSNSの口コミから顧客の要望を拾い集めるなど、効率的に情報を得ることもポイントです。

適切な情報提供・アフターフォロー

顧客満足度の向上には、メルマガやSNSなどでの積極的かつ継続的な情報提供やサポートが重要です。それにより既存顧客だけでなく、潜在的な見込み顧客にもアプローチでき、新規顧客獲得にもつながります。

ただし、一方的な情報提供だけでなく、顧客の疑問や悩みにすぐに対応し、解消できるような問い合わせフォームなどの仕組みを作ることも必要です。電話やメール、チャットなど複数の問い合わせ手段を設けておけば、顧客の生活スタイルにあわせて質問や相談ができ、顧客満足度向上につながります。

取り組みを変えて顧客満足度を上げる具体策

これまではうまくいかなかった顧客満足度向上の取り組みに変化を加えることで、顧客満足度が上がるというケースもあります。ここでは、取り組みを変えることで顧客満足度を上げる具体策を紹介します。

取り組みを変えて顧客満足度を上げる具体策
  • CRMツールの活用
  • NPS®の活用
  • 従業員満足度の向上

CRMツールの活用

CRMツールとは、顧客情報を可視化して管理するツールのことです。CRMで管理できる情報には、氏名や住所、連絡先といったものだけでなく、これまでの購買履歴や商談履歴、顧客のニーズなど、総合的なデータが含まれます。総合的なデータを蓄積して新たなキャンペーンや提案に生かすことで、顧客との関係性を維持でき、顧客満足度向上にむすびつけることもできます。

CRMツール

具体的には、会員制サービスでの退会率が高い原因をCRMを用いて精査してみるなどの活用方法があります。利用回数の少ない会員が退会率が高いことがわかれば、再来店特典やプレゼントの進呈など再来店を促すアプローチを分析から得られた適切なタイミングで行い、利用率をあげるというようなことも考えられます。

CRMについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

CRMとは顧客関係管理のこと|機能やメリット、ツールの選び方をご紹介!

NPS®の活用

NPS®とは、「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」の略で、「企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか」という顧客ロイヤルティを数値として評価する方法です。

NPS®

顧客に10段階で答えるアンケートを実施して、9~10点の顧客を「推奨者」、7~8点を「中立者」、0~6点を「批判者」と分類し、全体における推奨者の割合から、批判者の割合を引いて出た数値がNPS®の値となります。これらの値を参考に、現状の顧客満足度の分布を分析し、改善点の洗い出しに繋げます。

「NPS®」や「NPS®と顧客満足度の違い」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

NPS®とはどのような指標?計算方法やメリット、活用事例を紹介

従業員満足度の向上

従業員満足度と顧客満足度はサービス・プロフィット・チェーンというフレームワークに含まれるものです。サービス・プロフィット・チェーンとは、マネジメントの第一人者とされるヘスケットらが提唱したフレームワークで、従業員満足度が高ければ、サービスや接客の品質も上がり、顧客満足度向上につながるとされています。
サービス・プロフィット・チェーン

従業員満足度が向上すれば、離職率の低下や生産性の向上に繋がり、ひいてはサービスの高品質化を期待できます。サービスレベルが上がることで顧客満足度向上を招き、それによって業績が上がればまた社内サービス・環境の改善ができるというサイクルになります。

従業員満足度の向上には、従業員のモチベーション維持が重要となります。一定の成績をあげた従業員には表彰制度を取り入れるなどすると効果が期待できます。

顧客満足度を上げる他社の成功事例


どのようなことをすれば顧客満足度を上げられるのかは、実際の事例を見ることでヒントを得ることができます。ここでは、さまざまな企業が実際に顧客満足度を向上させることに成功した事例をご紹介します。

ソニー損保 保険株式会社

ソニー損保では、契約数や売上ではなく、顧客満足度の向上を軸とした経営戦略を取り入れています。

さまざまな生活スタイルにあわせ「事故対応や保険の相談について、仕事を終えた夜や早朝、土日に相談したい」などの声に答えて、2022年度以降から「24時間365日事故対応サービス」の提供を開始しました。

ほかにも、顧客からの意見についての改善状況を伝える仕組みを整えるなどの取り組みが顧客満足度を向上させ、公益財団法人日本生産性本部サービス産業生産性協議会が実施した「2022 年度JCSI(日本版顧客満足度指数)」の調査では、損害保険業界において3年連続で1位となっています。

(2023年5月時点)

参考:事故受付から事故解決までソニー損保といつでもつながる「24時間365日事故対応サービス」の提供開始|ソニー損害保険株式会社のプレスリリース
参考:「お客様とソニー損保のコミュニケーションサイト」のリニューアル|ソニー損害保険株式会社のプレスリリース
参考:JCSI(日本版顧客満足度指数)の調査において、3年連続で損害保険業界1位となりました。|ソニー損害保険株式会社のプレスリリース

再春館製薬所

再春館製薬所では、リピーターの顧客満足度の向上に力を入れています。お客様対応を行う社員は「お客様プリーザー(PLEASER)」と呼ばれており、応対した顧客宛に手書きのメッセージを商品に同封する対応を行っています。顧客からの声を分析する「お客様満足室」の社員は毎週会議を開き、改善できる箇所は迅速に対応するという仕組みもあります。

それにより売上の9割はリピーターで、さらにその6割は5年以上の購入歴という顧客の定着ぶりにつながっています。NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が2019年に発表した『NPS®ベンチマーク調査2018「通販化粧品部門」』では再春館製薬所が1位を受賞しています。

(2023年5月時点)

参考:通販化粧品部門 第1位 株式会社再春館製薬所様 ~お客様に最高の商品とサービスを提供。豊かな人生を送るお手伝いをしていく~ – NPSソリューション | NTTコム オンライン
参考:NTTコム オンライン、通販化粧品業界を対象にしたNPS®ベンチマーク調査2018の結果を発表|NTTコム オンラインのプレスリリース

東京ヤクルトスワローズ

株式会社ヤクルト球団は、株式会社エモーションテックの顧客データ分析サービス「EmotionTech CX」を導入し、東京ヤクルトスワローズ公式ファンクラブ「Swallows CREW(スワローズクルー)」のニーズを調査しました。発端は、ファンクラブ向けのユニホームを減らすことを検討していたことでしたが、その調査結果から「Swallows CREW(スワローズクルー)向けのユニホームが欲しい」という声があるとわかり、継続を決めました。

さらに首都圏以外に在住のファンから「ファンクラブ特典の招待券を使う機会がない」という不満が上がっていることがわかり、遠方のファンのために、地方開催の試合の特典の拡充を図りました。それらの結果、2014年度から2016年度において会員数が2.5倍になり、チケット売上と本拠地の神宮球場の来場者数の増加にも成功しています。

(2023年5月時点)

参考:株式会社ヤクルト球団 | 株式会社エモーションテック
参考:ヤクルトはいかにファンの声を拾い上げるのか?NPSを活かしたファンクラブ運営術 | SELECK [セレック]

顧客満足度を上げるための手順

自社の商品・サービスに対する顧客満足度を向上させるには、どのような流れで進めたらよいのでしょうか。最後に、顧客満足度を上げるための手順を3段階にわけて紹介します。

顧客満足度を上げるための手順
  1. アンケートなどによる顧客満足度の調査
  2. 顧客満足度の指標となる目標設定
  3. 施策の選定と効果測定

アンケートなどによる顧客満足度の調査

まずは現状把握をするために、定量調査と定性調査によるアプローチを行います。定量調査で代表的なのはアンケート調査です。現在の商品・サービスへの満足度を数値で答えてもらうことで、信頼性の目安を把握することができます。一方の定性調査では、インタビューなどで顧客から直接意見を聞き出します。30分程度のインタビューを行い、アンケートだけでは聞けない本音や期待を掘り下げていきましょう。

定期的な顧客満足度調査により、自社目線では気づけない顧客ニーズを把握することができます。また、回答内容と顧客情報を照らしあわせることで、より効果的なデータ活用が可能です。

顧客満足度の指標となる目標設定

次に、目標達成のための指標の設定を行います。「重要な業績評価の指標」を意味する「Key Performance Indicator」を略し「KPI」と呼びます。顧客満足度に関するKPIには、顧客維持率や解約率、顧客紹介数などがあります。また、顧客からの声を5段階評価などで回答してもらい、「大変満足は5、大変不満は1」というように数値化することもできます。

ほかにも、先に説明したNPS®などを併用することで、さらに具体的な顧客満足度の指数化が可能です。

施策の選定と効果測定

先に行ったアンケート調査結果や目標設定から、改善点を洗い出します。

特に「価格が高い」という顧客からの声があがった場合、その情報だけを鵜呑みにしてただ価格を下げるだけでは顧客満足度にはつながらない可能性があるため注意しましょう。価格が高いと感じている要因には、商品の質や内容量などが関係しています。これらの様々な要素のどこに問題があり「価格が高い」と感じさせてしまっているのか、顧客の期待とのギャップを探る必要があります。

そうして分析による改善を繰り返すことで、目標と実績のギャップが小さくなり、あらためて顧客満足度の向上が成功したといえるようになります。そのためアンケート調査は定期的に実施し、改善の効果を検証することがポイントです。新たに採用した施策についても、アンケートによって評価してもらうことで、顧客の需要の把握につながります。

まとめ

今回は、顧客満足度を向上させるための施策や手順について紹介しました。顧客満足度は高ければ高いほど、自社の商品・サービスについて顧客が価値を感じているということになり、売上向上にもつながります。購入前や購入後のタイミングによっても必要な施策は異なるため、具体例を参考にしながら、自社の商品・サービスの顧客満足度向上を目指してみてはいかがでしょうか。

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