店舗の運営や販売活動をより円滑にするには、VMDを取り入れると効果が見込めるといわれています。VMDとは、視覚的要素に着目した戦略であるとされていますが、具体的にどのような手法で、どのような効果を得られるのでしょうか。今回はVMDについて、基本的な意味と効果的な実践方法について、どのような業界に取り入れられているのか具体例もあわせながら紹介していきます。
目次
VMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)とは?
VMDは「Visual Merchandising」(ヴィジュアルマーチャンダイジング)の略で、視覚的な要素(ヴィジュアル)に着目した販売戦略のことを指します。つまり、顧客が商品を見やすく、選びやすく、買いやすくするための販売戦略であるといえます。
たとえば、アパレル業界でマネキンに販売商品である衣類を着せて店頭やショーウィンドウに陳列し、通りがかりの人の目を引いて興味をわかせることもVMDのひとつです。
店舗で商品を見たり購入を検討したりする顧客に対して、適切な売り場づくりや空間づくりができているかどうかは売上や店舗のイメージにつながります。そのためVMDでは、ただ顧客の求める商品を取り扱うだけでなく「その商品を欲しい顧客に対してわかりやすく陳列されているか」「興味を引く展示方法になっているか」「他に気になった商品も思わず手にとりたくなる見せ方ができているか」などの観点で売り場づくりを行います。
なお、このような店舗のディスプレイや内装におけるVMDを推奨する職種を「Visual Merchandiser(ビジュアル・マーチャンダイザー)」と呼ぶこともありますが、こちらも略称は同じVMDです。よってVMDと言っても、戦略そのものを指す場合と職種を指している場合があることは注意しましょう。
また、似たような言葉に「MD(マーチャンダイジング)」というものもあります。MDについては下記の記事で紹介しているのであわせてお読みください。
VMDとディスプレイ(DP)の違い
視覚的要素という点で考えると、「ディスプレイ」もVMDのひとつであるようにも思えます。しかし、ディスプレイは売り場の装飾や陳列そのもののことを指しており、商品が魅力的に見えることが目的です。一方VMDの場合は、単なる飾りつけとして商品を見せることではなく、販売につなげることが目的となります。そのため、単に装飾や見栄えにこだわるだけでなく、商品が売れるためにどのような見せ方をするべきか、何が必要かということを考慮しなくてはなりません。
VMDを活用している業種と具体例
視覚的要素に焦点をあてるVMDは、顧客の店舗での滞在時間を長くし、購買までつなげることが目的です。そのため、アパレル業界以外にも、スーパーマーケットやインテリアショップ、化粧品専門店などの小売業や、カーディーラーなどでも活用されているマーケティング戦略方法です。
VMDが小売店においてどのように取り入れられているかというと、例えばアパレル店の場合、特に売り込みたいアイテムを店舗正面に配置し、商品の素材や形、デザインが顧客にわかりやすくなるような陳列をしています。他にも、店舗の雰囲気や取り扱う商品、客層のイメージにあわせた内装や什器を用意して、売り場全体の雰囲気作りを工夫したり、販売スタッフの研修でサービスレベルを上げたりすることもVMDといえます。
また、スーパーマーケットでは、野菜や果物がより色鮮やかに新鮮に見えるようにスポットライトをあてて、買い物客の購買意欲を高める工夫をしています。
さらに、ある化粧品専門店では、お店のコンセプトや雰囲気が伝わるようなポスターを店頭に配置したことで、通りすがりの人が気兼ねなく入店できるようになったというケースもあります。
VMDに期待できる効果
店舗がVMDを取り入れることで期待できる効果は、主に以下の通りです。
- 売上の向上
- 顧客満足度の向上
- ブランドイメージが伝わる
- 業務効率の向上
VMDによって、顧客が求めている商品や興味を持つであろう商品を効果的に見せることができれば、その分購買率もあがることが期待できます。これは新規の顧客に限った話ではありません。買い物時の「探しやすさ」や「買いやすさ」は顧客満足度の向上にもつながるため、「今回利用しやすかったからまたこのお店に来たい」と思ってもらえればリピーター獲得にも貢献します。また、VMDはうまく行えばお店のコンセプトやイメージを表現するうえでも活用でき、顧客にブランドイメージを伝える手段にもなり得ます。ブランドイメージに共感してもらえれば、購買やリピーター化、ファンづくりにもつながるでしょう。
他にも、店舗を運営する側にとっては業務効率の向上も期待できます。売り場を整えることで商品の陳列場所や情報が顧客に適切に伝われば、スタッフが案内したり問い合わせに対応したりするための時間や手間を減らすことができます。
VMDで顧客の利用しやすい店舗作りを行うことは、顧客と店舗側の双方にとって利点になるといえるでしょう。
VMDを構成する3つの要素
視覚的要素に着目した販売戦略であるVMDは、3つの要素から構成されています。それらをバランスよく実践していくことにより、顧客にとって「見やすく・選びやすく・買いやすい」店舗づくりにつながります。ここではVMDを構成する3つの要素について紹介します。
- VP(ヴィジュアル・プレゼンテーション)
- PP(ポイント・プレゼンテーション)
- IP(アイテム・プレゼンテーション)
VP(ヴィジュアル・プレゼンテーション)
VPとは、「Visual Presentation(ビジュアル・プレゼンテーション)」の略称のことで、自店のコンセプトやブランドイメージ、または季節ごとのテーマや世界観などを視覚的に表現することを指します。店舗にとっては顔のような役割を持ち、外装や入り口付近などにおいて顧客にアピールすることで、来店を誘導することが目的となります。
PP(ポイント・プレゼンテーション)
PPは「Point Presentation(ポイント・プレゼンテーション)」の略で、店内の区画や分類されたコーナーごとにおすすめ商品をセレクトし、それぞれの区画の顔としてアピールすることを指します。例として、小売店で各区画に設置する大型の什器やアパレルショップでのマネキンがPPにあたります。
PPでは、店舗で顧客がどのように回遊するか、どこへどのように誘導したいかという導線を意識して陳列方法やアピールの手段を考えます。店舗の入口から各商品の売り場、レジ周り、壁、コーナー、目線の高さなど、店舗のあらゆる部分をうまく活用して、顧客が店内を回遊したくなる売り場づくりを行います。
PPは、その区画やコーナーに置いている商品のジャンルがわかる目印として、顧客が求めている商品にたどり着きやすくする他、各区画で顧客の興味を引いて足をとめ、滞在時間を伸ばすことも狙いとなります。
IP(アイテム・プレゼンテーション)
IPとは「Item Presentation(アイテム・プレゼンテーション)」の略で、「アイテム」という名前の通り個々の商品の見せ方について考える手法です。IPでは顧客に商品を手に取ってもらうことが目的であるため、商品ひとつひとつが見やすく選びやすいことが重要です。そのためには、商品の種類やジャンル、カラー、価格、シーズンなどの分類で規則性を持たせて陳列し、商品を手に取りやすい売り場を作る必要があります。また、商品1つ1つを分類してまとまりで陳列することで、同じの分類の商品同士で比較検討がしやすくなり、顧客の購入を促すことにもつながります。
VMDを効果的に実践するポイントとは?
視覚的要素に着目したVMDを、自店の販売戦略の中心として効果的に活かしていくには、どのような点を考慮したらよいのでしょうか。最後にVMDを効果的に実践するためのポイントを4つ紹介します。
- コンセプトやターゲットを明確にする
- 顧客視点で陳列やレイアウトを考える
- 商品ディスプレイは基本の構成を意識する
- AIDMAの法則を取り入れる
コンセプトやターゲットを明確にする
VMDに限らずマーケティング全体としても重要なポイントといえるのが、コンセプトやターゲットの明確化です。コンセプトやターゲットが不明確だと、視覚的要素に限らず、店舗全体のまとまりがなくなってしまいます。ブランドイメージも踏まえながらコンセプトやターゲットを明確にすることで、統一感のある店舗展開につながっていきます。
顧客視点で陳列やレイアウトを考える
VMDを取り入れる際の基本として、顧客視点で考えるということがあげられます。先にも説明したように、VMDは業務効率の向上にもつながるため、顧客だけでなく店舗側にとってもメリットのある販売戦略ではありますが、顧客が商品を見やすく、選びやすく、買いやすくなることで、購買意欲へと結びつけることがVMDの目的です。顧客が買いまわりをしやすい導線になっているか、商品が手に取りやすく見やすい配置になっているかなど、顧客視点で考えながらレイアウトを考えていくとよいでしょう。
商品ディスプレイは基本の構成を意識する
商品の魅力を表現するためのディスプレイには、常に意識しなければならない基本的な法則が存在します。
- 左右対称(シンメトリー)、場合によっては左右非対称(アシンメトリー)にし、美しさを意識すること
- 特定の商品だけを目立たせたいときには、インパクトの大きな繰り返し(リピート)を意識すること
- 形やサイズが異なる商品を一度に配置したいときには、まとまりが出る三角形(トライアングル)を意識すること
上記の3点を意識したディスプレイにすることで、顧客の目を引く効果が見込めます。
店舗ディスプレイのコツについて詳しくは、下記の記事もあわせてお読みください。
AIDMAの法則を取り入れる
AIDMA(アイドマ)とは、「Attention(注意)」、「Interest(関心)」、「Desire(欲求)」、「Memory(記憶)」「Action(行動)」の頭文字を取った言葉で、顧客の購買行動のプロセスを指したものです。
- Attention(注意)=店舗を発見してもらう
- Interest(関心)=店内商品に関心を抱いてもらう
- Desire(欲求)=購買意欲を持ってもらう
- Memory(記憶)=店舗や商品について記憶に留めてもらう
- Action(行動)=購買意欲を後押しする
以上のプロセスを意識しながらVMDを進めることで、より効果的な販売戦略につながります。
AIDMAについて詳しくは、下記の記事もあわせてお読みください。
まとめ
今回は、VMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)について、基本的な説明と効果的な実践方法について紹介しました。視覚的要素に着目した販売戦略は、顧客が商品を見やすく、選びやすく、買いやすくなることが目的であり、現在さまざまな業種で取り入れられています。売上や顧客満足度の向上だけでなく、スタッフ側の業務効率の向上にもつながるため、多くの効果を期待できますが、何より顧客目線で考えることがVMDの基本です。自店のコンセプトやブランドイメージを明確にしながら、より効果的なVMDを進めてみてはいかがでしょうか。
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