製造に関わる一連の流れには、部品の調達から製造、販売を通じて顧客の手もとに届くまでの段階があり、これをサプライチェーンと呼びます。その流れのなかでコスト削減や生産効率化を図るのがSCMです。
SCMを導入するには自社の製造担当、倉庫管理担当から関連業者まで全体的な情報共有がポイントとなります。今回は、SCMとは具体的にどのようなことをあらわすのか、メリットやデメリットと、導入時の注意点もあわせて具体的に解説していきます。
SCM(サプライチェーンマネジメント)とは
SCM(サプライチェーンマネジメント・Supply Chain Management)とは、サプライチェーンの効率化、最適化を図る手法のことを指します。具体的にどういったことを指すのかを解説します。
SCMシステムとは
サプライチェーンとは、製造する製品に関する部品の調達から製造、販売を経て顧客に製品が届くまでの流れのことで、SCMはこのサプライチェーンを管理することを指します。製造担当、倉庫管理担当、運送業者、小売業者などサプライチェーンに関わる企業同士が連携して情報共有をし、コスト削減や生産の効率化、過剰在庫の防止など全体的な最適化を行います。
SCMを行うために、専用のソフトウェアを導入することで部品調達から管理、計画、輸送などを一元管理化するのがSCMシステムです。SCMシステムの導入により、リードタイムの短縮化や物流網の効率化などを図ります。
「生産管理」や「ERP」との違い
SCMが製造から販売までの一連の流れを各部門や企業同士で連携してマネジメントすることであるのに対し、「生産管理」は製品を生産する部門に対する管理のことを指します。
また、業務システムに関する言葉に「ERP」というものがあります。ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、企業内の最適化を実現するために資源管理を行う基幹業務システムを意味しています。
SCMが注目を集めている背景
SCMという言葉は、1980年代にアメリカで誕生しました。その後、日本では2000年代初めにITを導入する動きが活発化することでSCMが注目されるようになりました。また、企業活動のグローバル化以外にも、暗号技術を用いたブロックチェーンの登場、海外ユーザーをターゲットとしたECサイトの普及などで海外企業との関わりが多くなることにより、情報の一元管理化が一層重要とされるようになりました。
さらに近年では、需要やトレンド予測を行うことで適切に製品を供給するためのビッグデータの活用や、製品の製造工程や流通工程を世間に正しく伝えられる説明責任の観点からも、SCMは重要とされています。
このように、急速な技術革新と顧客のグローバル化によって、正確に迅速に商品・サービスを提供できるようにSCMが注目されているともいえるでしょう。
SCM導入のメリット
自社にSCMを導入することで、どのような効果を期待することができるでしょうか。ここでは、SCM導入のメリットについて3点解説します。
- 在庫が最適化される
- 物流のコストを削減できる
- 各プロセスが迅速化される
SCM導入のメリット1:在庫が最適化される
製造や生産の部門において、必要な部品が調達されなければ納期の遅延が発生してしまいます。また、発注の情報が適切に伝達されないことで、商品の欠品または商品の過剰となり、無駄なコストにつながってしまいます。このような過少在庫や過剰在庫の防止のための正確な在庫状況の把握や、需要と供給のバランスを正確に把握するためにSCMが活躍します。
SCM導入のメリット2:物流のコストを削減できる
SCM導入で、製品の在庫状況をリアルタイムで把握し、適切な供給プロセスを構築することによって、異なる小売店舗への配送を同一の配送業者で行えるようになることで物流コスト削減を期待できます。また、製造側だけでなく販売店舗まで一連のサプライチェーンが情報を共有できれば、必要なものを必要な分だけ、必要な場所に届けることができることから、在庫管理に対するコストも削減が可能です。
このような物流フローの最適化により、コスト削減を目指すことを目的にサプライチェーンに関わる「サードパーティ・ロジスティクス企業」も見受けられます。
SCM導入のメリット3:各プロセスが迅速化される
製品にかかわる部品の調達や製造、在庫管理、出荷などそれぞれのプロセスには、必要とする所要時間(リードタイム)があります。SCM導入によって、それぞれのプロセスのリードタイムをあらかじめ予測し、生産計画に加えることによって各プロセスの効率化を図ることができ、サプライチェーンに関わる企業すべてが情報把握できれば、すべてのプロセスにおいてリードタイムの削減が期待できます。
SCM導入のデメリット
SCM導入ではデメリットも存在します。導入前に理解し、自社にどのような影響があるかを把握しておきましょう。ここではSCM導入のデメリットを2つ紹介します。
- 多くのコストがかかる
- 適切に行わないと非効率になる可能性がある
SCM導入のデメリット1:多くのコストがかかる
どのような種類のシステムを導入する場合でも、コストはかかってくるものですが、なかでもSCM導入においてはサプライチェーン全体を管理するシステムであるため、高額なコストがかかることを理解しておく必要があります。関連各社への導入が必要になることと、サプライチェーンの環境によっては必要とするシステムがより複雑になります。
また、初期費用だけでなく、運用保守のためのコストや人的コストも考慮しておかなければなりません。
SCM導入のデメリット2:適切に行わないと非効率になる可能性がある
SCMで管理する業務は、製品に関する部品の調達から製造、販売を経て顧客に製品が届くまでの流れのすべてが含まれます。それには自社だけではなく、サプライチェーンに関わる関連企業も含まれています。そのような広範囲に渡る業務を把握して仕組みを構築するには、適切に把握しなければかえって複雑で非効率になってしまうことも考えられます。
また、仕組みを構築できたからといって、SCM自体や仕組みを把握して管理できる人材がいなければ運用することも難しくなります。SCMシステムの導入にあたっても、高品質・高価格のものが自社のSCMに向いているとは限りません。自社が解決すべき課題や、それにあったシステムはどのようなものであるかを、複数のシステム製品を比較しながら、適切に選定する必要があるでしょう。
SCM導入のポイント
自社が関連しているサプライチェーンにおいてSCMを導入するには、どのようなことに考慮をしておかなければならないのでしょうか。最後にSCM導入についてのポイントを紹介します。
- 導入のステップを考え準備する
- システムの比較を行う
- インダストリー4.0に対応する
導入のステップを考え準備する
自社が関連しているサプライチェーンで解決しなければならない問題などを事前に明確にして、充分な準備を進めておかなければ、効率的なSCMの導入はできません。そこで、以下のようなことを導入のステップとして進めてみましょう。
- 現在のサプライチェーンで解決すべき課題は何か、導入の目的を明確にする
- SCM導入から運用保守までを行う担当者を決定する
- SCMシステムサービスの検討、比較を行う
- 実際に導入した場合の効果測定を行う
システムの比較を行う
サプライチェーンにあわせたSCMの仕組みを構築するには、SCMに関する理解とともに多くの時間と労力が必要となります。SCM理解のスキルを持つ人材確保はもちろん必要ですが、導入を急ぐ前にそもそもSCM導入は自社のサプライチェーンに必要なのかどうかという検討をしてみましょう。
また、SCMシステムサービスのいくつかに資料請求を行ってみるのもよいでしょう。SCMシステムサービスといっても、以下の例のようにさまざまな特徴があります。
- 需要予測の精度向上とリードタイム削減に特化したサービス
- 在庫管理や生産部門など自社の基幹系システムと連携してデータの送受信を自動化してくれるサービス
- サプライチェーンを一元管理し、分析を行うサービス
資料請求によって現在の自社の課題や目的にあったサービスはどれかを比較検討してみましょう。
インダストリー4.0に対応する
「インダストリー4.0」とは、ドイツ政府が発表した産業政策で「第4次産業革命」という意味を持ち、製造業において新しいテクノロジーを応用していくことを指します。システム同士の通信やAI、自動化、センサーなどさまざまな技術を通して、製造におけるプロセスのさらなる効率化、高速化を進めます。
たとえばアパレルであれば、顧客が依頼したデザイン、素材やサイズ、機能性などをデータ化してインターネット経由で情報をつなぎ、製造を行うというものです。これにより、原材料費などのコスト削減をしながら、顧客ごとの希望にあわせたオーダーメイドの製品を大量に納品する「マス・カスタマイゼーション」も実現できます。
このように、SCMにおいてインダストリー4.0を構築することで、従来のSCMよりも計画的で整合性のある生産モデルを目指すことができます。
まとめ
今回は、SCM(サプライチェーンマネジメント)導入について解説しました。SCM導入により、サプライチェーンに関わる企業同士が情報共有でき、コスト削減や生産の効率化、過剰在庫の防止などが期待できます。ただし、サプライチェーンが複雑であるほど、SCMの構築にはコストと時間を要し、適切な導入でなければかえって非効率にもなってしまいます。自社の課題を明確にし、適切なSCMの検討を進めてみましょう。
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