販売戦略における施策として「アップセル」と「クロスセル」という手法があります。顧客単価や売上の向上を目的とする企業において、アップセル・クロスセルの施策を実施することにはどのような意味があり、顧客との関係性についてどのような影響があるのでしょうか。
今回は、アップセル・クロスセルについて、実施することの意味や実施する際のポイントについて解説します。
目次
アップセル・クロスセルとは?
小売における販売戦略の施策として知られているのがアップセルとクロスセルです。いずれも顧客単価向上のためのセールス手法ですが、それぞれどのような意味を持つのか具体的に解説していきます。
アップセルとは
「アップセル(up sell)」とは、顧客が購入した品や購入を検討している商材よりも単価の高いハイクラスの商材を提案し、顧客単価を高めようとする手法です。よく例に挙げられるファーストフード店のハンバーガーの場合、普段顧客がよく注文しているものや今注文しようとしているものを、さらにサイズやランクの高い別の種類のハンバーガーに変えてもらうように促すといったケースが挙げられます。これにより、顧客には味やクオリティ、サービスに対してより高い満足度を得てもらえる可能性があり、お店側もより売上を得ることに繋がります。
他にも、家電量販店であれば、13万円のノートパソコンを持つ顧客に対して、さらに上位の18万円のノートパソコンを購入してもらおうと提案したり、年会費無料のクレジットカードであれば、既存の会員に対しゴールドカード会員に変更してもらうよう促したりすることもアップセルと言えます。
上位バージョンに変更することで、顧客のニーズにより近づける可能性があることを提案し、顧客が満足して購入できるように後押しをします。
クロスセルとは
「クロスセル(cross sell)」とは、抱きあわせ販売のことで、顧客が購入を検討している商材に関連した商材を提案して、一緒に購入してもらおうとする手法です。先ほどのハンバーガーの例で言えば、ポテトやサラダなどのサイドメニュー、ドリンクメニューなど、ハンバーガーと相性のよい商品を一緒に案内し購入を促すなどの方法があります。
他にも、スーパーマーケットではさんまを販売している鮮魚コーナーに相性の良い大根やすだち、大葉などを並べたり、精肉コーナーに焼肉のタレを並べたりして同時購入を勧めることがクロスセルにあたります。
このクロスセルは、相互補完性のある商材の購入を促すもののため、顧客が両方を購入する可能性を期待できます。
アップセルとクロスセルの違いとは?
アップセルとクロスセルは、顧客単価向上が目的である点や顧客に付加価値を与えるという点ではいずれも同じです。双方の違いはここまで説明してきた通りで、アップセルが顧客に対して同じカテゴリ内でハイクラスの商材を購入してもらうことであるのに対し、クロスセルは別カテゴリや顧客がまだ知らない関連商材をあわせて購入してもらうことになります。仮に目的は同じでもまでのアプローチの方法が違うととらえるとよいでしょう。
アップセル・クロスセルを実施する意義
販売戦略において、アップセル・クロスセルを実施することにはどのような意義や効果があるのでしょうか。ここでは、アップセル・クロスセルを実施する意義について3つ解説します。
- アップセル・クロスセルは既存顧客へのアプローチ
- 顧客満足度のアップにつながる
- LTVの向上が期待できる
アップセル・クロスセルは既存顧客へのアプローチ
アップセルやクロスセルは、新規顧客を獲得するための施策というよりも、既存顧客へのアプローチが主目的になります。既存顧客により良い商品やサービスを知ってもらい体験してもらうことで満足度を高め、客単価上昇はもちろん信頼関係を維持することでリピーターとして定着させ、将来的な売上に繋げていきます。
このような既存顧客へのアプローチは「カスタマーサクセス」というマーケティング手法にあたります。情報収集手段が豊富な現代では、競合との比較検討もされやすく、新規顧客の獲得にはよりコストがかかるとされてるため、既存顧客向けの施策が重要になるのです。
顧客満足度のアップにつながる
アップセルは上位商材の購入を促して顧客をより満足させるものであり、クロスセルは相互補完性のある商材を勧めることで顧客に付加価値を与えるものです。いずれも顧客のニーズにより近いものを購入してもらうことで顧客満足度向上を目指します。さらに、顧客が満足することで信頼関係が構築できれば、リピート購入による定期的な売上の獲得も見込めます。
リピーター獲得について詳しくは、下記の記事もあわせてお読みください。
LTVの向上が期待できる
「LTV(Life Time Value)」とは「顧客生涯価値」の意味で、ひとりの顧客が自社の商品・サービスを初めて利用してから利用をやめるまでの期間に、自社がどれだけその顧客から利益を得られたかという、利益の総量をあらわします。顧客が利用をやめるまでの全期間における取引を指しており、リピート購入なども含まれます。
そのため、その期間のなかでアップセルやクロスセルによって一契約ごとの単価が上がるということは、LTV自体の向上にもつながります。また、顧客満足度が上がりリピーターとして定着している状態が長くなるほど購買のチャンスも増えるため、購入回数と購入単価の上昇が期待できるのです。
LTVについて詳しくは、下記の記事もあわせてお読みください。
アップセル・クロスセルの具体的な方法
アップセル・クロスセルを用いて顧客単価の向上を目指すにはどのように進めていけばよいのでしょうか。ここでは、アップセル・クロスセルそれぞれの具体的な方法について紹介します。
アップセルの具体的な方法
1.より高品質・高性能の類似品を勧める
顧客が検討している商材よりも上位の商材を勧める方法は、アップセルで用いられる方法です。先にも紹介したように、ノートパソコンの購入を検討している顧客に対し、より高品質・高性能の商材を紹介し、購入へと促します。
2. キャンペーンや割引サービスの実施
より上位の商材を購入することでポイントを付与するキャンペーンや割引サービスを行います。
3. 無料お試し期間の設置
商品・サービスの購入後、一定の期間を利用料無料にしたり、トライアル料金で提供したりすることもアップセルに含まれます。
クロスセルの具体的な方法
1.顧客の購入目的に関連したオプションを勧める
例として、自転車を購入しにきた顧客に対し、チェーンクリーナーやチェーンオイル、空気入れといったような、自転車に関連する用品を勧める方法はクロスセルの特徴的な販売方法です。
2.他の顧客がよく一緒に購入している商品を勧める
ECサイトでよく見られる例で、自身が購入を検討している商品のページに「他のお客さまはこのような商品もあわせて購入しています」と紹介する方法もクロスセルのひとつです。
3. セット販売を行う
ファストフード店やファミリーレストランなどで「ランチセット」「ドリンクセット」と称して、メインの商品にあわせてドリンクやサイドメニューを販売する方法もクロスセルにあたります。
アップセル・クロスセルを実施する際のポイント
自社の販売戦略としてアップセル・クロスセルを取り入れる際、いくつか気をつけておきたいポイントがあります。最後に、アップセル・クロスセルを実施する際のポイントについて4つ解説します。
- ロイヤルティが高い顧客に向けて実施する
- 顧客が求めているものを理解する
- タイミングを意識する
- 価値を理解してもらう
ロイヤルティが高い顧客に向けて実施する
「顧客ロイヤルティ」とは、企業に対する信頼度や愛着の大きさのことをあらわします。まだ相互の信頼関係を構築できていない、顧客ロイヤルティが低い顧客に対し、アップセルとして上位モデルの商材を紹介しても、相手にとってはただの押し売りととらえられかねません。
反対に、顧客ロイヤルティの高い顧客の場合、長い信頼関係があることから「あの企業の商品・サービスなら大丈夫」と、こちらの提案を受け入れてくれる可能性があります。また、定期的に商品・サービスを購入してくれることや、その商品・サービスを周囲に紹介してくれるケースなどもあります。
顧客ロイヤルティの大きさを測るには、お客様アンケートなどで顧客満足度を調べてみるとよいでしょう。
顧客ロイヤルティに関して詳しくは、下記の記事もあわせてお読みください。
顧客が求めているものを理解する
顧客のニーズにより近づき、顧客に成功体験を与えることで顧客満足度と顧客単価の向上を目指すのがアップセル・クロスセルです。その目的を達成するには、顧客のニーズを適切に把握していなくてはなりません。顧客が今なにを必要としているかを理解し、それらのニーズを満たすことができるよりよい商材を提供することが重要です。目先の売上にとらわれるのではなく、さらに長い信頼関係を維持できるように、顧客目線での提案を心がけるとよいでしょう。
タイミングを意識する
アップセル・クロスセルを行う際は適切なタイミングを意識する必要があります。関係性が構築できていないうちから高額なアップセル・クロスセルを行ったり、頻繁にアップセル・クロスセルで購入を勧めたりしたのでは、顧客に不快な印象を与え、他社製品や他店に移っていってしまう恐れもあります。
顧客は、商材の購入を決断した時点が最も購買意欲が高まるとされています。そのタイミングで上位モデルの商材や関連商品を提案すると、顧客に不快な印象を与えずに購入につながることが期待できるでしょう。
価値を理解してもらう
アップセルやクロスセルでの販促は、顧客側にしてみれば想定よりも高い料金を払うことになります。そのため、なぜ高い料金を払ってまでハイグレードにする必要があるのか、なぜこの商品を一緒に買わなくてはならないのかという、商品の価値を顧客に理解してもらう必要があります。商品の価値や購入したほうがよい理由を理解できないままでは、顧客はただの押し売りだと疑ってしまい、信頼関係にまで影響してしまいます。商品・サービスを手に入れることの価値やメリットを売る側もちゃんと理解し、明確に説明できるよう準備が必要です。
まとめ
今回は、販売戦略における施策である「アップセル・クロスセル」について、実施する意義や具体的な方法を解説しました。
アップセル・クロスセルは、最終的には顧客単価や売上の向上が目的ではありますが、目的を達成するには顧客との長期的な信頼関係が築けていることが前提です。顧客のニーズをきちんと理解し、顧客に対して、商品購入の価値やメリットを適切に説明できるよう、売る側も顧客目線に立って提案をすることが重要です。
信頼関係を維持しながらも双方がメリットを得られるようなアップセル・クロスセルを目指してみましょう。
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