小規模店やカウンターだけの飲食店などでの営業で「ワンオペ」という言葉を耳にすることがあります。飲食店の営業には、開店前の仕込みや清掃、調理や接客、閉店業務などさまざまな業務がありますが、ワンオペでの飲食店の開業を考えるには、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。今回は、ワンオペでの飲食店を成功するコツとして、ワンオペのメリット・デメリットやスタッフへの負担について、さらに開業する際の注意点を詳しく解説します。

ワンオペとは?飲食店営業で必要な業務も解説

「ワンオペ」とは、「ワンオペレーション=One Operation」という和製英語の略称で、飲食店などにおいて、開店から接客、調理、事務などすべてを1人で行うという意味です。飲食店の場合、業態や提供するメニューによって対応可能や席数や客数は異なりますが、広さでいえば8〜10坪、席数なら15席くらいまでが目安です。ワンオペを経験の浅いスタッフに任せる場合にはさらに対応できる座席数は少なくなるでしょう。1人ですべての業務をこなすのはスタッフにとっては負担ですが、人件費などのコストを削減できるため、業務量とコストのバランスを見極めながらワンオペを行うかを判断するとよいでしょう。

ワンオペでの飲食店営業は違法?

飲食店においてのワンオペ営業は違法ではなく、特別に必要な許可もありません。ただし、多忙な飲食店の場合には、労働環境面において注意する必要があります。

厚生労働省のホームページによると、6時間以上の業務を行う場合、少なくとも休憩を45分間取らなければならないと労働基準法34条で定められています。しかし、ワンオペでの営業の場合、急に来客が増えたり、アクシデントが起きたりなど、1人で対応しているうちに休憩を取れなかったということも考えられます。雇用側としては、労働基準法の範囲内での業務をワンオペで行えるかを判断する必要があるでしょう。

出典:労働時間・休憩・休日関係|厚生労働省 (2024年9月17日に利用)

ワンオペで飲食店を営業するメリット

飲食店の業態や広さ、客数などによって、可能かどうかが異なるワンオペでの営業であるとここまで解説しましたが、それでもワンオペを行うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここではワンオペで飲食店を営業するメリットについて4つ解説します。

人件費が削減できる

飲食店において2大費用といわれるのが、人件費と食材費です。その2つをあわせたのが「FLコスト(food and labor cost)」であり、理想的なFLコストは売り上げの6割とされています。つまり、ワンオペを実施することで人件費を抑えられれば、この比率をあげることができ、売り上げが落ちたとしても利益を上げられることに期待ができます。ただし、人件費を削減しすぎるとワンオペでは対応できなくなる可能性もあるため、業務内容や売り上げ予測を確認し、自店で本当にワンオペが可能なのかを判断する必要があります。

FLコスト比率について詳しくは、下記の記事もあわせてお読みください。

FLコスト・比率は飲食店経営で重要?適正数値やコントロール方法を解説

小規模で開業でき、柔軟な対応がしやすい

ワンオペでの運営が可能な飲食店であれば、小規模の物件で開業することができます。そのため、賃料や開業時の施工工事を安く抑えることができ、さらに食材費以外にも什器や備品、水道光熱費なども低コストで済みます。固定費や変動費を抑えることができると損益分岐点も低くなり、人件費もかからないというのがワンオペでのメリットのひとつです。さらに、万が一経営がうまくいかず、見直しが必要となった際にも、ワンオペであればスタッフが少なく、柔軟に対応しやすいというものメリットでしょう。

人手不足を解消できる

人件費の高騰は飲食店に限らず問題となっていますが、さらに飲食業界では人件費を払っても人材が集まらないという問題もあります。PR TIMESに掲載された、「飲食店ドットコム」「飲食店リサーチ」を運営する株式会社シンクロ・フードが2023年6月に行った調査によると、飲食店のなかで人手不足だと回答した店舗は4割を超える結果が出ています。足りていると答えた店舗によっても、なんとか足りていると答えた店舗が3割代であることから、人材確保に余裕があるという店舗はごく少数ともいえるでしょう。そのため、ワンオペ営業は人材確保の問題を削減できることが期待できるというメリットがあります。

参考:【5類移行後初調査】人手不足で飲食店の6割が運営上に影響。コロナ前より利益が増えた店舗は25% | 株式会社シンクロ・フードのプレスリリース 
「飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)調べ」 (2024年9月時点)

自分の裁量で決定できる

同時に働くスタッフが大勢いる店舗の場合、スタッフ同士の意見の対立や伝達ミスといったことで業務に影響があることも考えられます。しかし、ワンオペ営業の場合、すべての業務を自分の裁量で行うことができるため、スタッフ側においても「自分の判断で動きたい」と考える人にとってはワンオペが向いているといえます。また、開業時においても、ワンオペであれば物件探しや内外装選び、コンセプト設定やメニュー設定も1人で行うことができます。

ワンオペで飲食店を営業するデメリット

自分の裁量ですべての業務を行えるのがワンオペのメリットであると解説してきましたが、1人で運営しているが故に起こりうる問題もあります。ここでは、ワンオペの飲食店営業におけるデメリットを5つ解説します。

イレギュラーな事態やトラブルへの対応が難しい

飲食店に限らず、イレギュラーな事態というのは起こりうるものです。厨房やレジ周りの機器の故障への対応や、アルコールを提供する飲食店であれば泥酔客への対応や客同士のトラブル対応、さらにスタッフ本人が体調不良やケガをすることもあります。複数人のスタッフがいる場合ならフォローしあえることでも、ワンオペであれば通常業務が行えなくなり、サービスの質を保つのが難しくなるかもしれません。

注文が集中すると対応が難しい

ワンオペでの営業の場合、注文も調理も片付けもレジも1人でこなさなければならないことはもちろん、料理やドリンクを提供するにも限度があるため、大量注文を受けた場合の対応が難しくなります。さらに、ワンオペを回すことを重視するあまりに、お客様が注文したいのを見過ごしてしまったり、対応がおざなりになったりという機会損失も生じかねません。注文を優先するためにも片付けや皿洗いは後回しにできるように、グラスや食器は多めに用意する工夫も必要でしょう。

経営を見直す余裕がない

特に飲食店に限ったことではありませんが、経営者自身がワンオペとなる場合、毎日の業務に時間をとられてしまい、経営者としての業務の見直しをする余裕がなくなってしまう可能性もあります。飲食業界で続けていくためには、メニューやサービス、コストの見直しを常に図り、社会情勢に機敏に対応していかなければなりません。経営者として状況の見直しを怠ってしまうと、結果的に経営悪化にもつながる恐れがあります。

負担が大きく、離職率が高くなりやすい

飲食店でのワンオペは、先に紹介したような注文時や調理場での対応だけでなく、開店前の掃除や仕込み、閉店後の片付けやレジ締めなど、すべてを1人でこなさなければなりません。さらにトラブル時の対応も自分自身で解決しなければならないため、体力的にも精神的にも非常に大きな負担となります。経営者自身がワンオペで営業しているのであれば多少は納得のうえかもしれませんが、責任感の強いスタッフであれば、体調不良を押してでも業務をし続け、結果的に離職につながることも考えられます。離職率が高くなると、新たに採用したり、新人トレーニングをしたりなどのコストや時間が必要となります。早期離職につながらないためにも、過度な負担にならない業務量の見直しや労働環境の整備などを考えることが重要でしょう。

防犯面のリスクが高い

飲食店だけでなく、ワンオペでの営業は複数スタッフがいるお店に比べて強盗に狙われやすいというリスクがあります。特に深夜に及ぶ飲食店の場合、過去には24時間営業チェーンで深夜に強盗被害があったケースもあります。さらに強盗だけでなく、ワンオペのタイミングを見計らって無銭飲食をされるリスクも考えられるでしょう。

その店がワンオペだとわかると、営業終了後に強盗に狙われるリスクが高まります。レジ締めの際には出入り口の施錠に配慮をしたうえで、現金はレジ内には残さず、金庫へ入れるかコンビニでの売り上げ入金サービスを利用するなど、厳重に現金を守りましょう。さらに防犯カメラやセンサー付きライト、窓の防犯フィルムなどで防犯対策を徹底することもおすすめします。

ワンオペで飲食店を成功につなげるコツ

飲食店での運営をワンオペで軌道にのせたい、成功させたいという場合、どのような点に留意すればよいのでしょうか。ここでは、ワンオペで飲食店を成功につなげるコツについて、4つ解説します。

ワンオペで飲食店を成功につなげるコツ
  • ワンオペでも対応しやすい店づくりをする
  • 効率的なオペレーションになるよう工夫する
  • シンプルなメニューにする
  • デリバリー専門店として運営する

ワンオペでも対応しやすい店づくりをする

ワンオペを前提にして飲食店を行う場合には、店舗レイアウトや動線など、ワンオペでも対応しやすい店づくりが重要です。特に作った料理を毎回各テーブルに運ぶという手間を省くためにも、調理場とカウンターだけの内装であれば、調理したものをすぐに顧客に提供できます。加えて、直接コミュニケーションをとることも可能なため業務の負担軽減だけでなく、接客面ではプラスになるでしょう。

もしテーブル席を設けたいという場合には、発券機の設置や、注文や受け取り、片付けなどをカウンターで顧客自身に来てもらうなど、混雑時もワンオペで負担にならない工夫が必要です。また、厨房内でも食器の収納やゴミ置き場、ストック置き場などゆとりある動線で、忙しい時間帯にも余裕が持てるような仕組みにするとよいでしょう。

効率的なオペレーションになるよう工夫する

先に説明した、フロア内や厨房内の動線の工夫以外にも、デジタルツールを導入することでより効率的なオペレーションを期待できます。たとえば予約管理システムを導入して、ウェブ上だけで予約を受けつけるようにすれば、忙しい営業時間中での電話対応の時間を省くことができます。また、会計時、現金以外にキャッシュレス決済も可能することで、現金だけのレジ対応よりも時間を短縮することもできるでしょう。ただし、このような管理システムの導入にはコストがかかるため、導入する場合としない場合でのコスト面を比較して検討するとよいでしょう。

シンプルなメニューにする

ワンオペにもかかわらずメニューを多く揃えてしまうと、それぞれの仕込みや異なる調理方法によって時間や手間がかかってしまいます。そのため、食材が同じメニューを増やしたり、品数を絞ったりするなど、シンプルなメニュー作りを心がけましょう。食材を限定することで仕込みの手間が省けるだけでなく、食材の保管場所もシンプルにでき、料理の提供スピードや顧客対応の質の向上にも期待ができます。

デリバリー専門店として運営する

「ゴーストレストラン」とも呼ばれているデリバリー専門店は、ホールでの顧客対応が不要なため、ワンオペ営業に適した業態です。さらに、複数のレストランでキッチンをシェアできる「クラウドキッチン」を利用すれば、物件探しなどの手間やリスクも軽減できます。さらにクラウドキッチンによっては、料理を配達ドライバーに渡すまでを担当するスタッフを用意している場所もあるため、ワンオペ営業の業務をサポートしてもらえることで業務負担の軽減にもつながります。

ワンオペで飲食店を営業するうえでの注意点

ワンオペでの飲食店運営について、メリット・デメリットも紹介してきましたが、それを踏まえたうえで営業を始めたいという場合、どのようなことに気をつけていけばよいのでしょうか。最後に、ワンオペで飲食店を営業するうえでの注意点について4つを解説します。

ワンオペで飲食店を営業するうえでの注意点
  • サービスの質を保つ
  • 業務のやり残しを防ぐ
  • 従業員の離職や体調不良に備える
  • 労働基準法を遵守した職場にする

サービスの質を保つ

開店前の仕込みや掃除、営業時の注文や調理や配膳、洗い物や片付け、閉店時のレジ締めなど、すべてを1人でこなさなければならないのがワンオペです。特に顧客対応において、料理提供までの時間がかかったり、接客がおざなりになったりするだけで、顧客満足度の低下から客足が遠のいてしまい、売り上げ低下にまでつながってしまいます。食材の品質維持も顧客満足度には重要で、信頼できる業者選びや調理工程の見直しにより、高品質で効率的な料理の提供を保つ工夫が重要でしょう。

業務のやり残しを防ぐ

ワンオペにおける業務量については先に何度も説明していますが、忙しさのあまり、厨房の片付けや洗い物などの業務が後回しになってしまうこともあるかもしれません。しかし、洗い物がたまった厨房を顧客が目にしたら不快に思うだけでなく、翌日担当するスタッフが対応せざるを得ないことも考えられます。しかし、スタッフによるワンオペでは客の受け入れを断るわけにもいかない場合もあるため、業務の優先順位の確認はもちろんのこと、オペレーションや業務内容の見直しを図るなどで業務を翌日に残さないよう、経営者自身が検討する必要もあるでしょう。

従業員の離職や体調不良に備える

ワンオペ営業におけるスタッフへの過度な負担についてはこれまでも解説してきましたが、実際にパート・アルバイトで働くスタッフの場合、週に数日こなす必要があるでしょう。特に多忙な飲食店であれば、体力的にも精神的にも疲弊してしまい、結果的に離職するスタッフも出てくる恐れもあります。少ないスタッフで回していた場合には業務自体にも影響が出てきますが、常にスタッフ募集していることが多くの目にふれることで、離職率の高い職場だと評判になってしまう恐れもあります。そのため、スタッフの負担を分散できるようなシフト体制や福利厚生の充実を図り、定着率の向上を目指すことが重要です。また、経営者自身によるワンオペの場合も体調には特に留意して、業務量の改善を図りましょう。

労働基準法を遵守した職場にする

飲食店におけるワンオペ営業は、スムーズな顧客対応も重要ですが、なによりスタッフが心身の健康と働きやすさを維持できるような、労働基準法を遵守した環境作りであることが何より重要です。労働時間の過重は労働基準法に抵触すると法的に罰せられる場合もあり、さらにスタッフへの過度な負担によりミスにつながるだけでなく、サービス品質の低下や売り上げ低下、さらにはスタッフ自身の健康への悪影響にもつながります。

スタッフのモチベーションの保持や安全面の確保、さらには売り上げ増加につなげるためにも、労働基準法を遵守した職場作りを徹底しましょう。

参考:・労働基準法(◆昭和22年04月07日法律第49号) (2024年9月時点)

まとめ

今回は、飲食店でのワンオペを成功させるコツを解説しました。開店前の仕込みや掃除、注文や調理、片付けやレジ締めなど、すべてを1人でこなさなければならないワンオペは、顧客満足度やサービス品質の維持はもちろんのこと、過度な業務負担によるスタッフの体調不良や離職を防ぐための対策にも留意しなくてはなりません。そのためにも、業務量やオペレーションそのものの見直しや環境改善を徹底して、ワンオペでも成功できる飲食店の店舗作りを目指してみてはいかがでしょうか。

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