企業が開発した製品は、導入してからの時期によって販売数や売上などが変わります。このような変化に応じてマーケティング戦略を練るためには、「製品ライフサイクル理論」を把握することが大切です。

しかし、「製品ライフサイクル理論という言葉を初めて聞いた」「時期によってマーケティング手法をどのように変えればよいか分からない」という人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、製品ライフサイクル理論の概要について説明するとともに、時期ごとの事例や具体的なマーケティング手法を紹介します。

そもそも製品ライフサイクル理論とは?

製品ライフサイクル理論
そもそも製品ライフサイクル理論とは、「製品が販売されてから終了するまでの期間によって、適したマーケティング手法が異なる」という考え方です。プロダクトライフサイクル(Product Life Cycle)とも呼ばれています。

製品ライフサイクルは、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つの時期に分けられます。人間が「赤ちゃん」「子ども」「大人」「お年寄り」のように成長・変化するように、製品においても同じようなステップを踏むと考えるのです。「飽和期」を追加して5つのステップで考える場合もあります。

製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)のそれぞれの時期に応じてマーケティング戦略を最適化できれば、製品の認知・販売をより効率的かつ効果的に行えるようになり、コスト削減や売上の最大化に繋がります。また、撤退の時期を正確に見極めることができれば、採算の取れない事業から早期撤退したり新たな事業に転換できたりします。

以下では、製品ライフサイクルの時期ごとに、事例やマーケティング手法を紹介します。

製品ライフサイクルの段階1:導入期

製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)における導入期とは、「製品が市場に投入されたばかりの時期」を指します。

どれだけ魅力的な製品を開発しても、消費者がそのことを知らなければすぐに売上を伸ばすことはできません。そのため、導入期では「いかに消費者に製品について知ってもらうか」を最優先に考えたマーケティング戦略をおこなうことが大切です。

たとえば、「新たに開発した製品の試供品を配布して、使用感を体感してもらう」といったマーケティング手法が挙げられます。いきなり新製品を購入するのはハードルが高いですが、試供品で使い心地を試すことにより購入後のイメージを持ってもらえるので、購入につなげやすくなります。

導入期にある製品の事例

導入期にある製品の事例として代表的なものが「自動運転機能付きの自動車」です。運転をサポートする仕組みを設けた自動車は市場に出回っていますが、自動運転機能付きの自動車はまだ一般に流通していません。しかし、自動運転タクシーのように、試験的に導入されている自動運転機能付き自動車はいくつか存在します。

自動運転機能付き自動車が普及するまでには、インフラの整備をはじめさまざまな課題が立ちはだかっているため、本格的な導入までしばらく時間がかかるかもしれません。ですが、各自動車メーカーや関連企業は、今後の導入に向けて展示会などで消費者に試乗してもらったり、動画などでアピールしたりすることで、消費者の興味や関心を高めています。そのため、販売開始してからの導入期も、消費者にとってスムーズに受け入れられると期待できます。

導入期に適したマーケティング手法とは?

すでにお伝えしたように、導入期では消費者に製品を認知してもらい、興味や関心を高めるマーケティング戦略が必要になります。市場調査や行った施策の反響などから需要を把握することが大切です。具体的なマーケティング手法として、次の7つが挙げられます。

  • 折込チラシ
  • フリーペーパー折込
  • チラシ配布
  • フリーペーパー広告
  • ローカル雑誌広告
  • 雑誌広告
  • イベント開催

認知度を高めるマーケティング手法はほかにもたくさんありますが、大切なのは市場規模やターゲット層に合わせて適切な方法を選ぶことです。「シニア層をターゲットにするのであれば新聞への折込チラシ」「店舗周辺の通行人をターゲットにするのであればイベント開催」のように、うまくマーケティング戦略を使い分けましょう。

製品ライフサイクルの段階2:成長期


製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)における成長期は、「消費者の興味や関心が高まり売上が伸びる一方で、新規参入する競合他社が増える時期」です。

この時期は、市場において製品が十分に認知され売上と利益が伸び、製品需要も高まります。そのため、競合との競争に負けないよう、いかにシェアを拡大させ、市場でのポジションを確立するかが大切になります。また、話題性を高めて新規顧客を集めるとともに、リピート顧客を増やす施策を実施することも重要です。リピート顧客が増えれば、製品の継続利用を促すとともに、他社への流出を避けやすくなるからです。製品に付加価値をつけ、ブランディングに努めることが重要です。

成長期にある製品の事例

都内にあるホットケーキを主力商品とする喫茶店では、競合が多い中で2つのオリジナリティを出すことにより、市場で独自のポジションを築き上げています。

1つ目は、ホットケーキを石窯で焼いて提供していることです。オーブンとは違った厳密な温度管理によって作られた食感のよいホットケーキは、他店で簡単に味わうことができません。

2つ目は、ホットケーキの生地にバニラアイスとリコッタチーズが入っていることです。甘いだけのホットケーキでは飽きられる可能性もありですが、ほんのりと塩味を感じる味付けにすることで、「また食べてみたい」と感じてもらいやすくなっています。

このように、競合の多い業界でも、他社と明確に差別化できるような工夫をこらすことで市場で独自のポジションを確立してシェアを伸ばせるでしょう。

参考:製品ライフサイクルとは? 初心者のためのマーケティング講座 – STUDY HACKER|これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディア

成長期に適したマーケティング手法とは?

先述したように、成長期は他社との差別化を図るとともに、新規顧客やリピート顧客を増やす施策が効果的です。

新規顧客を呼び込むマーケティングとして、次の方法が挙げられます。

  • テレビCMや新聞広告などのマス広告
  • 電車中吊り広告
  • 駅構内広告
  • バス広告
  • タクシー広告
  • ラッピング広告
  • 大型ビジョン広告(人通りの多い場所に設置されたディスプレイでの広告)

導入期のマーケティングでは認知促進を目的としていましたが、成長期では認知だけでなく来店や購入を促進する必要があるため、より多くの広告費をかけるのがおすすめです。

また、リピート顧客を増やすマーケティングとして、次の方法が挙げられます。

  • DM(ダイレクトメール)
  • メールマガジン
  • カタログ通販
  • ポイントカードの発行
  • 会員登録

先述した事例のように、「また店舗を利用したい」と思わせる商品やサービスを提供することが前提ですが、これらの手法を組み合わせれば、さらに多くのリピート顧客を獲得できるでしょう。

製品ライフサイクルの段階3:成熟期


製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)における成熟期は、市場でのシェアや競合他社との競争が落ち着いてくる時期です。

製品として市場がピークを迎えた状態で、一定の売上は得られても成長期ほどの大きな売上の拡大は起きにくいと言えます。市場の開拓が少ない分、新たな投資の必要がなくなり利益が安定していくケースもあれば、競合の競争が加速し利益が圧迫されることもあります。

市場におけるシェアが安定した時期ではあるものの、わずかな違いによって競合にシェアを奪われてしまう可能性があるので、「確立したポジションをいかに守るか」が大切になります。

成熟期にある製品の事例

成熟期にある製品として、「スマートフォン」が挙げられます。スマートフォンは発売されてから急速にシェアが拡大し、今では子どもや高齢者にまで普及しつつあります。

人々の日常生活に広く行き渡っていますが、今後は5G通信の普及に伴って新たなスマートフォンの開発が求められると予想されます。すでに多くの企業が開発に取り組んでいることから、スマートフォンを手がける企業にとっては、ポジションをいかに守るかが重要になります。

成熟期に適したマーケティング手法とは?

先述したように、成熟期では消費者に製品がある程度行き渡っていることから、いかに市場でのポジションを守り続けるかが大切になります。そのため、この時期では競合他社の動向を研究したり、いかに自社製品を長く使い続けてもらうかを考えたりする必要があります。

具体例として、「割引キャンペーンを実施して他社よりもお得に製品を手に入れられるようにする」「定期的にクーポンを配布して認知や購入を促す」といった戦略が挙げられます。マーケティングによって顧客を維持できれば、成熟期でも長く売上を安定させられるでしょう。

製品ライフサイクルの段階4:飽和期


製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)における飽和期は、製品の市場価格や需要が下がるとともに売上も伸び悩んでくる時期です。

製品の価値が低下するため、他社と激しい価格競争になる場合があります。市場においてポジションを守れたとしても大きな利益が出せないので、企業によっては苦しい状況になるかもしれません。

また、これまで紹介した手法で認知度や集客、販売促進をしても反応が得にくくなるのも、飽和期の特徴です。効果が乏しいにも関わらず従来通りのマーケティングをすると、余計なコストがかかって企業に残る利益がさらに少なくなるので注意が必要です。

飽和期にある製品の事例

飽和期にある製品として代表的なものに「液晶テレビ」が挙げられます。アナログ放送が終了して地上デジタル放送へと移行する時期では、液晶テレビに高い需要がありました。しかし、液晶テレビはすでに多くの家庭に普及しており、買い替えや新生活の準備といったタイミングがなければ新たに購入してもらうのは難しくなっています。

また、最近は海外製品の流入やネット販売の一般化によって、液晶テレビを格安で手に入れられます。価格競争をしたところで企業に残る利益は限定的になるので、市場で生き残り利益を出し続けるのは簡単ではありません。

飽和期に適したマーケティング手法とは?

マーケティングによる認知拡大や販売促進の効果が限定的になる「飽和期」では、積極的な広告戦略を抑えるとともに、いかに市場で生き残り続けるかを考えることが大切です。

上記の液晶テレビを例にすると、「画質を抑えて手ごろな価格で販売する」のように性能を抑え価格を下げることや、「冷蔵庫や洗濯機とセットにして液晶テレビを割安で販売する」といったパッケージ戦略が挙げられます。

一方で、「4Kや8K対応のマルチ録画システムを設けた液晶テレビを販売する」「大型液晶に特化したテレビを販売する」のように特定のニーズに特化する手法も有効です。多様化する消費者のニーズから適切な市場を見つけられれば、企業の強みを活かして売上を伸ばせるでしょう。

製品ライフサイクルの段階5:衰退期


製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)における衰退期は、自社だけでなく競合企業の製品も売上が落ちてくる時期です。

認知や販売を促進するマーケティングの効果は飽和期よりも低くなるので、少しずつ事業からの撤退を考える必要があります。

もちろん、有名な炭酸飲料のような「ロングセラー商品」や、タピオカドリンクのような「ブーム再燃商品」もあるかもしれません。しかし、一般的にはどの製品にも衰退期は訪れるとされているため、製品がどの時期にあるのかを客観的に見極めることが大切です。

衰退期にあるサービスの事例

2000年に入ってすぐにリリースされたあるSNSでは、わずか数年で1,000万人もの会員数を獲得しました。しかし、2010年を過ぎると海外企業が手がけるSNSが市場に参入したことによって、徐々にシェアを奪われました。

また、スマートフォンへの対応も遅れたため、さらに利用者離れが加速しました。この状況から、その企業ではスマートフォンで楽しめるゲーム開発にシフトチェンジし、業績を回復させることに成功しています。

衰退期に適したマーケティング手法とは?

上記の事例のように、衰退期では事業の業績やシェアといった推移を見ながら経営方針の転換を検討しなければなりません。

製品が衰退すると、消費者に「事業が失敗している」というイメージを持たれかねません。そのため、適切な時期に既存事業から撤退し、方針を転換する必要があります。「企業が持つ強みを活かして新たな製品を開発する」など、既存製品に代わるものを提供すれば、消費者に新たな価値を提供するとともに、業績を改善させられるかもしれません。

衰退期に特別なマーケティングをおこなう必要はありませんが、事業方針を転換する際は、デザインや使用方法を継承するなど、これまで築き上げたブランドイメージをうまく引き継ぐことが大切です。

まとめ


ここでは、製品ライフサイクル理論の概要を説明するとともに、それぞれの時期ごとの事例やマーケティング手法について説明しました。

時期ごとに適切な事業展開をするためには、製品がどの時期にあるのかを客観的に把握することが大切です。製品ライフサイクル(プロダクトライフサイクル)の考え方をもとに、それぞれの時期と自社製品の立ち位置を確認しながら適切なマーケティング戦略を立案し、コスト削減や利益拡大を目指しましょう。

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