たくさんの顧客に受け入れられる商品を開発するためには、どのような方針でプロジェクトを進めるかを明確にすることが大切です。商品開発の基準となる概念として、「マーケットイン」「プロダクトアウト」があります。これらは意味が似ているため、「両者の区別がつきにくい」と感じる人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、マーケットインとプロダクトアウトそれぞれの概念について説明するとともに、メリット・デメリットや適切な使い方について詳しく説明します。

マーケットインとプロダクトアウトの違い


マーケットインとプロダクトアウトは、商品やサービスの開発における考え方や手法としてそれぞれ取り入れられています。まずは2つの違いを知っておきましょう。

マーケットインとは


マーケットインとは「消費者や顧客のニーズを徹底的に分析したうえで商品開発すること」を意味します。

つまり、「こういう製品があればいいのに」「こういう悩みが解決できる物が欲しい」といった、市場に対する顧客のニーズを事前の調査などによって把握し、顧客が本当に求めているものを開発しようとする考え方です。

1970年代までは国内の様々な市場がまだ未成熟であったため、「自社が良いと思う商品を作れば売れる」という時代でした。しかし、生産技術が発達し、モノやサービスが充足しつつある近年は、消費者の抱えるニーズを無視した商品を生産しても、売上を上げるのは難しくなっています。

また、インターネットやスマートフォンが普及し、各社の商品の特徴や価格、口コミなどを簡単に比較できるようになりました。企業が一方的に発信する情報を鵜呑みにせず、購入するかを慎重に判断されるようになった点も、近年の消費トレンドの1つです。

このような背景から、現代では数多くの企業が「消費者や顧客が何を求めているのか」を調査するマーケットインを採用し、製品を生産しています。

POSシステムを活用して消費者の需要に合わせた商品開発をするコンビニエンスストアや多品種を小ロットで生産する自動車メーカーはマーケットインを採用しています。

顕在化していない顧客のニーズを探るためには「ユーザーインサイト」と呼ばれる分析方法も重要です。詳しくはこちらの記事で解説しているので合わせてお読みください。

ユーザーインサイトを知る目的とは?調査方法もあわせて紹介

カスタマーインとの違い

マーケットインから更に発展した考え方として、「カスタマーイン」があります。カスタマーインでは、市場のニーズをベースに捉えているマーケットイン以上に顧客を優先し、顧客ひとりひとりのニーズに沿った商品開発を行います。例として、オーダーメイドなど顧客が自ら求めるものを選択できる仕組みも、カスタマーインの考え方によってより細かい顧客単位でのニーズに対応する動きが出てきています。

プロダクトアウトとは

プロダクトアウトは、市場のニーズを調査してから商品開発するマーケットインとは違い、企業や店舗が何を作りたいのか、何を作れるのかを考えて商品開発することです。

顧客目線であるマーケットインとは対照的に、プロダクトアウトは「自社の目線で魅力的に感じるかどうか」という視点で商品開発をします。

たとえば、ウォークマンで音楽をどこでも気軽に聞けるようにしたSONYのような企業は、プロダクトアウトを採用していると言えます。

市場のニーズをまったく調査しないわけではありませんが、基本的に企業や店舗の考えをもとに商品開発を進めるのがプロダクトアウトの特徴です。

参考:プロダクトアウト・マーケットインとは?誤用されがちな両者を解説

マーケットインのメリットとデメリット


マーケットインとプロダクトアウトの違いを解説しましたが、それぞれにメリットとデメリットが存在します。企業や製品、サービスによってどちらの手法を取り入れるべきかなどは変わってくるため、それぞれの利点やマイナスになってしまう可能性のある点を把握しておきましょう。まずはマーケットインのメリットとデメリットについて解説します。

マーケットインのメリット

マーケットインとプロダクトアウトの違いを知るためには、マーケットインにどのようなメリットがあるかを知っておくのも大切です。マーケットインのメリットは、次の2つです。

  • 消費者や顧客のニーズを満たしやすい
  • 売上予測を立てやすい

以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。

消費者や顧客のニーズを満たしやすい

先述したように、マーケットインでは消費者や顧客のニーズを調査してから商品開発します。ターゲット層が抱えるニーズを明確にしたうえで開発に取り組むので、商品を購入した人に満足してもらいやすいでしょう。

また、ユーザーニーズとずれることなく商品開発を行える分、やるべきこととやらなくてもよいことが分かるので、開発にかかる試行錯誤の時間やコストなどの無駄を削減することにも繋がります。

たとえば、アウトドア用品のメーカーが市場のリサーチを行い「ソロキャンプに興味を持つ若年層の女性が密かに増えている」ということが分かれば、「力をいれなくても扱いやすいキャンプ用品を開発する」などの施策を考えられます。

同様に、洋菓子店が市場調査を実施し、「近隣に幼稚園や保育園、小学校が多く、母親同士でスイーツを食べたいというニーズがある」ということが分かれば、「月ごとに限定スイーツを販売する」「自宅に持ち帰って家族で味わえるスイーツを開発する」などの戦略を実践すると、より多くのターゲットに満足してもらえるでしょう。

なお、顧客のニーズや市場の調査を行う際は、マーケティング戦略においてよく使われるフレームワークにあてはめて進めていくとスムーズです。下記の記事で詳しく解説していますのであわせてお読みください。

マーケティング戦略に役立つフレームワークを場面ごとに紹介します!

売上予測を立てやすい

消費者や顧客のニーズを満たす商品開発ができれば、それだけ企業や店舗のファンを増やすことにつながります。ファンを獲得すると継続的に商品を購入してもらえるため、売上予測を立てやすくなります。

たとえば、「今月は商品が100個売れたけれど商品が欠品してしまった。このペースなら来月は150個売れそうだから仕入れの量を増やそう」のように見通しを持った仕入れをすれば、過剰在庫を避けてしっかりと売上を出せるでしょう。

また、商品ラインナップを増やす際も、「前年販売した夏のファッションアイテムが〇個売れており、関連商品についての問い合わせが多かったから、類似したアイテムを開発すれば同じくらい売れそうだ」などと分析すれば、売上予測に基づいて適正な開発コストを計算できるので、店舗に利益を残しやすくなります。

マーケットインのデメリット

活用するメリットが大きいマーケットインですが、一方で次のデメリットもあります。

  • 革新的な商品が生まれにくい
  • 爆発的なヒットが期待できない

以下では、これらのデメリットについて詳しく説明します。

革新的な商品が生まれにくい

業界における競争が激しい場合は、マーケットインで商品開発をしても、すでに似たような商品が市場に存在している可能性があります。

また、より大多数の消費者が抱えるニーズを満たすような商品開発をするため、これまでになかった革新的な製品が生まれにくい点もデメリットです。

また、他社との差別化が難しくなれば、価格競争に陥る可能性も高まります。せっかく市場のニーズを満たせる商品開発をしても、価格を抑えたぶん企業や店舗に残る利益が少なくなるので、事業が成長するスピードが低下します。「斬新な商品を開発して他社との差別化を図りたい」という企業や店舗の場合、マーケットインは不向きかもしれません。

爆発的なヒットが期待しにくい

マーケットインでは徹底的な市場調査によってニーズを満たす商品開発をするので、プロジェクトが失敗するリスクを抑えられます。

しかし、先述したように、マーケットインで開発した商品は他社と類似しやすいため、予想を超えるような爆発的なヒットを生むのは難しいでしょう。

マーケットインで長期的に売上を出し続けるためには、定期的に新商品を開発したり既存商品をアップグレードしたりするといった施策に取り組むと良いでしょう。

プロダクトアウトのメリットとデメリット


続いて、プロダクトアウトのメリットとデメリットについて解説していきます。

プロダクトアウトのメリット

プロダクトアウトで商品開発をするメリットには、次の2つがあります。

  • 企業の強みを発揮させやすい
  • 今までにないヒット商品が生まれる可能性がある

以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。

企業の強みを発揮させやすい

先述したように、プロダクトアウトは、企業の強みを活かした商品開発を考えるという特徴があります。

企業ならではの知識や技術を発揮して商品を作るので、他社に真似されにくいだけでなく価格競争にもなりにくいメリットがあります。

また、オリジナリティある商品を開発すると、商品だけでなく企業の認知度も広まります。話題性が高まれば、企業のブランド力もアップするため、信頼性や愛着を強められます。

市場でシェアが拡大すると、「液晶テレビなら○○社」「日焼け止めクリームなら○○社」のように、消費者や顧客がニーズを持ったと同時に直感的に企業を連想してもらえます。そのまま来店や売上につながるケースもあるため、マーケティングコストを抑えつつ売上を維持できるでしょう。

今までにないヒット商品が生まれる可能性がある

プロダクトアウトの考え方で商品開発すると、これまで市場に存在しなかった画期的な商品が生まれる可能性があります。それが市場のニーズとマッチした場合、マーケットインで作った商品よりも大幅に売上が伸びるかもしれません。

たとえば、「ハンディーファン」のように持ち運べる扇風機や、「乳児用の液体ミルク」のような既存製品の概念を大きく変えるものなどが挙げられます。プロダクトアウトで生み出したヒットした商品は一時的に売上を伸ばすものが多いですが、もし長期的なブームを巻き起こせれば、市場において独自の地位を確立できるでしょう。

プロダクトアウトのデメリット

ここまでは、プロダクトアウトのメリットについて説明しました。マーケットインにもデメリットがあったように、プロダクトアウトにも次のデメリットがあります。

  • 思ったように売上が伸びない場合がある
  • 余計なコストがかかるかもしれない

以下では、プロダクトアウトのデメリットについて詳しく説明します。

思ったように売上が伸びない場合がある

マーケットインとは違い、プロダクトアウトでは市場のニーズを調査したうえで商品開発するわけではないので、開発した商品が思ったように売れない場合があります。開発した時点では「市場に受け入れられるだろう」と考えても、予想通りに売れなければ過剰な在庫を抱えたり開発コストを回収できなくなったりするかもしれません。

商品によっては、膨大なコストをかけて開発するものもあるでしょう。もし社運をかけて莫大な投資をして作った商品がうまく売れなければ、企業や店舗を存続させるのが難しくなる場合があります。リスクを抑えて挑戦を避けるのは望ましくありませんが、企業や店舗の資源がどれくらいあるかを考えて商品開発を計画することが大切です。

余計なコストがかかるかもしれない

プロダクトアウトで開発した商品が売れなかった場合、開発コストを回収できないだけでなく、売れなかった原因を分析するための時間や費用もかかります。

開発した商品が市場のニーズとどれだけマッチしていたかを調査する場合、アンケート作成や配布、集計などに費用や時間がかかります。ヒアリングするのであれば、会場の設定や現地への移動といった手間が生じるでしょう。分析することまで考えずに商品開発すると、今後の商品開発に活かせなくなるので、事前に評価方法や分析方法を決めておきましょう。

マーケットインとプロダクトアウトの適切な使い方

ここまでは、マーケットインとプロダクトアウトそれぞれの特徴やメリットデメリットについて説明しました。

一連の説明を聞くと、「プロダクトアウトは顧客のニーズを無視しているので良くないのでは?」と考える人もいるかも知れませんが、それは必ずしも正しいとはいえません。

プロダクトアウトであっても、顧客自身がまだ気づいていない潜在的な欲求を叶えるものであれば、大きなヒット商品に化けることがあります。

どちらが良くてどちらが悪いという考え方ではなく、場合に応じて使い分けや両方の考え方を融合してみると良いでしょう。例えば、次の2つのような取り入れ方が挙げられます。

  • マーケットインでニーズを捉え、プロダクトアウトで商品開発する
  • プロダクトアウトでアイデアを出し、マーケットインで商品を決める

前者は、開発する商品を決めてもニーズを持った消費者や顧客を見つけられなかったり、過去に開発した商品で改善点や想定していないニーズが見つかったりした場合に用います。たとえば、キッチン用品や掃除用品のように、すでにニーズが顕在化している分野で、より利便性の高い商品を開発したいときにおすすめです。

一方、後者は、開発する商品のアイデアをいくつか出したうえで市場のニーズを調査し、その結果に基づいて最終的に商品を絞り込む方法です。たとえば、AIを活用した革新的なマーケティングツールを開発した場合、あらかじめいくつかの機能をターゲット層に試してもらい、より反応が良かったものを本格的に作り込んで販売する方法が挙げられます。

このように、マーケットインとプロダクトアウトは、企業が抱えている課題や目的に沿って使い分けることが大切です。

まとめ

ここでは、マーケットインとプロダクトアウトそれぞれの特徴やメリット・デメリット、商品開発における適切な使い方について説明しました。

それぞれ商品やサービスを開発する際の視点が異なりますが、プロジェクトごとに適切な手法を選べるよう慎重に検討することが大切です。ここで説明した内容を参考にして、企業の課題や目的に応じてマーケットインとプロダクトアウトをうまく活用し、売上やシェアの拡大を目指しましょう。

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