企業が提供する商品やサービスを多くの顧客に購入してもらうには、抱えているニーズを汲み取り、それを満たす施策を実践しなければなりません。顧客の内面を分析する方法として、「ユーザーインサイト」がありますが、「ユーザーインサイトを何のために活用するのか知らない」「ユーザーインサイトをどのように得ればよいか分からない」という人も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、ユーザーインサイトがどのようなものかを説明したうえで、ユーザーインサイトを知る目的や得る方法、活用に成功した企業の事例について説明します。

そもそもユーザーインサイトとは?

ユーザーインサイトとは、「顧客の内側に隠れている本音」のことです

顧客が商品を購入したり店舗に足を運んだりする際は、何らかの目的や理由があるはずです。しかし、人によっては「何となく魅力を感じたから購入した」「特に意味はないけれど店舗に入ってみた」のように、自分自身でも目的や理由がはっきりしていない場合があります。このように、顕在化していない顧客のニーズを「ユーザーインサイト」といいます。

ユーザーインサイトを知るメリットを知っておこう

では、ユーザーインサイトを知るとどのようなメリットがあるのでしょうか?

代表的なものに、次の3つがあげられます。

顧客のニーズを満たしやすくなる

商品やサービスの販売数を伸ばすためには、ターゲット顧客が抱えるニーズとはなにかを突き止めることが重要です。しかし、ニーズを把握しているつもりでも、心の奥底にある悩みや欲求については理解できていないケースもあります。

具体例として女性の来店数が頭打ちとなっている飲食店のケースで考えてみましょう。

これまでは、女性客が来店しないのは「一人で食事をしたくない」という心理がはたらいているためと考えられていました。

しかし、顧客インタビューを通じて、ユーザーインサイトの調査をしたところ、「一人で食事するのは構わないが、一人で飲食店に入るのを見られるのは恥ずかしい」という心理が奥底にあることがわかってきました。この場合は、飲食店の立地を地下や2階に変更するなどが対策として考えられます。

このように、表面的な調査では知り得なかった顧客のニーズをつかみ、商品やサービスの見直しにつなげられるのが、ユーザーインサイトを調査するメリットです。

競合との差別化を図りやすくなる

企業のマーケティング担当者の中には、「競合が多く市場で独自性を出せない」と悩む人も多いのではないでしょうか。広く一般的に知られている顕在ニーズをもとに商品開発をした場合、競合他社と同じプロセスとなるため、価格競争に陥りやすいと言われています。

しかし、ユーザーインサイトを知れば、顧客が持つ潜在的なニーズを発見できるため、他社とは違ったアプローチをしやすくなります。

たとえば、30~40代のマネジメント職に向けてITツールを販売している企業が、ユーザーインサイトで60代からのニーズがあることを他社に先がけて把握すれば、市場で有利な立ち位置を確立できるでしょう。主婦層をターゲットにしていた飲食店が、子ども向けのキャンペーンを開催すれば、家族全員の来店を促して売上を伸ばせるかもしれません。

このように、ユーザーインサイトを把握して他社が注力していない部分を見つけられれば、市場で有利に事業展開しやすくなります。

集客や売上につながるマーケティングを考えやすくなる

先述したように、ユーザーインサイトでは顧客自身が把握していないニーズを明確にできます。そのため、顧客自身がニーズを把握できていなくても、ユーザーインサイトに基づくアプローチができていれば、集客数や売上の向上が期待できます。

たとえば、看板やチラシなどを工夫して「何となく気になって入店したくなる」という外観づくりをしたり、WEBサイトで「ほかの顧客はこのような商品も一緒に購入しています」のように、関連商品を自動的に表示させたりすることが考えられます。

ユーザーインサイトを得る手法とは?

活用することでさまざまなメリットが生じるユーザーインサイトですが、どのように調査して発見すればよいのでしょうか。主な方法として、次の5つが挙げられます。

Googleアナリティクスの活用

Googleアナリティクスは、Googleが提供するアクセス解析ツールで、無料で利用できるのが特徴です。企業のWEBサイトにアクセスする顧客がどのような属性なのか、どのような行動をしたのかを的確に把握できるので、コンテンツやマーケティング施策の改善に役立てられます。

たとえば、「自社は40代女性向けの商品を開発・提供しているが、ECサイトにアクセスする顧客層や購入者層は20代女性が多い」ということが分かったら、「今後は20代女性に向けて積極的にアプローチしよう」などの施策を考えられます。「WEBサイトへのアクセス数は多いが、購入前に離脱する人が多い」という分析結果が出れば、「購入までの導線を分かりやすくする」「決済方法を増やす」のような対策が打てるでしょう。

ヒートマップ

ヒートマップは、企業のWEBサイトにアクセスした顧客が、ページのどの部分を見てどのような操作をしたかを分析するツールです。分析結果はサーモグラフィーのように分かりやすく可視化されるので、顧客の動向や心理を把握するのに役立ちます。

たとえば、商品紹介ページで顧客がどこまでスクロールして情報をチェックしたのかを分析すれば、「ページのどこまで興味を持ってもらえたのか」「どこで興味を失ったのか」を把握できます。顧客がクリックまたはタップした場所を分析すれば、「ボタンの配置や大きさは適切か」「URLが分かりやすく表示されているか」をチェックできます。これらを活用して各ページを改善させれば、商品やサービスに興味を持ってもらい、来店数や購入数をさらに増やせるでしょう。

インタビューやアンケート

ユーザーインサイトを得る方法はオンラインのものが多いですが、インタビューやアンケートでは顧客の生の声を把握できます。質問内容によっては「他社商品との使用感の違い」「今後取り入れてほしい機能」のように、オンラインで得にくいユーザーインサイトが明らかになる場合があるため、ほかの手法とあわせて活用するのがおすすめです。

しかし、質問内容によっては得られるデータが偏ったり、対象者として設定する年齢や性別、居住地によって得られる回答が異なったりするので、質問項目や対象者の選定を慎重におこなう必要があります。ユーザーインサイトをどのように活用したいのか、どの顧客層に商品やサービスを誰に購入してほしいのかを明確にすると、適切な方法で情報を集められるでしょう。

Q&Aサイトでの投稿内容

「Yahoo!知恵袋」「おしえて!goo」などのQ&Aサイトでの投稿内容を分析すれば、ターゲットとする顧客がどのような悩みを抱えているかを把握しやすくなります。

たとえば、自動車を販売する企業では、自動車関連のキーワードでQ&Aサイトをチェックすると「エンジンオイルを長く使うためにはどうすればよいですか?」「中古車を購入する場合、どこで買うのがおすすめですか?」といった質問を見つけられます。顧客がどのような悩みを持ちやすいかを把握していれば、悩みの解消につながる商品やサービスを用意できます。

また、WEBサイトに疑問の解消につながるコンテンツを充実させることで、アクセス数を増やして売上や問い合わせ件数の増加も期待できるでしょう。

ソーシャルリスニング

ソーシャルリスニングは、X(旧Twitter)やFacebook、InstagramなどのSNSを活用して顧客のインサイトを得る方法です。顧客の生の声を集めるという点では、「インタビューやアンケートと同じでは?」と思うかもしれません。ソーシャルリスニングは、これらの方法よりも顧客の正直な意見や感想を集めやすいのが特徴です。

たとえば、「他社のほうが使い勝手がよかった」「接客が悪かったのでもう利用しないかもしれない」のように、インタビューやアンケートでは伝えにくい内容も、SNSであれば簡単に投稿できます。「従来の方法とは違った観点で顧客のインサイトを把握したい」という企業におすすめです。

ソーシャルリスニングの一般的なやり方としては、自社の社名や商品名で検索するパターンが多いです。そのほか、自社のビジネスに関連するキーワードで検索をし、消費者の価値観について知見を得ることも可能です。また、ソーシャルリスニングをより効率的に行うためのツールもあるため、より本格的に試したい方は導入を検討してみましょう。

ユーザーインサイトの活用に成功した企業の事例

ユーザーインサイトをうまく活用するには、他社の活用事例を参考にするのも大切です。

消臭剤を開発・販売する企業

ある消臭剤を開発・販売する企業では、当初「日常生活中の嫌なニオイを消す」というメッセージを発信していましたが、思ったように売上を伸ばせませんでした。

しかし、自社の消臭剤を購入した顧客の自宅に直接訪問し、使用状況やニオイに対する意識といったインサイトを調査したところ、顧客はペットやタバコのニオイに慣れており、あまり気にしていないことが判明したのです。

顧客が自社の消臭剤を「掃除のついでになんとなく利用している」ことが分かったため、その企業は「日常的なリフレッシュ目的」「掃除後の仕上げ」として商品をアピールしました。それによって、より多くの顧客の消臭剤へのニーズを開拓することに成功し、売上を多く伸ばせたのです。

インスタントラーメンを販売する企業

インスタントラーメンのメーカーの事例です。この企業は、若年層の顧客を囲い込めていましたが、シニア層の顧客についてはあまり獲得できていませんでした。

しかし、「本当にシニア層はインスタントラーメンを食べないのか?」という疑問から、調査を実施したところ「健康面には気を遣うが、おいしいものを自由に食べたい」というインサイトを得ることができました。

そこで、健康に配慮しつつ、従来商品よりも高級な材料を使用した上質な味わいを体験できるインスタントラーメンを開発したことで、売上を大きく伸ばしました。

従来は「シニア層はインスタントラーメンを好まない」と思われていましたが、このように、シニア層の食事に対するニーズを的確に把握することで、新商品の開発や売上アップにつながっています。

液体洗剤を開発・販売する企業

液体洗剤の開発・販売を手掛けるある企業では、競合が多いことや市場ニーズが充足しつつあることから、売上が伸び悩んでいました。しかし、インサイトの調査によって、主婦層は汚れが落ちたかどうかを確かめるために、洗濯物の臭いをチェックしていることを把握しました。

これまでは「目に見える汚れが落ちているか」を重視して洗浄力の高さを前面に押し出していましたが、「気になるニオイまで落とす」というアピール方法に変えることで、売上を大きく伸ばすことに成功しています。

まとめ

ここでは、ユーザーインサイトの概要や把握する目的、ユーザーインサイトを得る方法や成功事例について説明しました。

はじめから正確なユーザーインサイト得るのは難しいですが、複数の方法を試すことで企業に適した手法が分かるようになります。ここで説明した内容を参考にして、ユーザーインサイトを活用して集客数や売上を伸ばしましょう。

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