市場において競合他社の数が増えるほど集客数や販売数を伸ばすのは難しくなります。言い換えれば、競合が少ない市場を見つけてうまく商品やサービスを販売すれば、シェアを獲得して売上を伸ばすことが可能です。
そのようなマーケティング戦略を「ニッチ戦略」と呼びます。今回は、ニッチ戦略の概要やメリット・デメリット、ニッチ戦略に成功した他社の事例について説明します。
そもそもニッチ戦略とは?
そもそもニッチ戦略とは、他社の競争が起きない隙間(ニッチ)な市場に焦点を当てて事業展開する手法です。
モノやサービスが充実しつつある現代は、さまざまな工夫をしてオリジナリティを出し、競合との差別化を図る必要があります。しかし、競争が激しいがゆえに価格競争になりやすく、販売数が増えても企業に利益が残りにくいため、長期的に事業を維持するのは困難です。
ニッチ戦略によって競合他社が介入していない市場や商品で事業展開すれば、このような事態を避けつつ企業が目標とする利益を上げることが可能です。
また、ニッチ戦略と似た手法に「差別化戦略」があります。差別化戦略は、市場で競争優位性を獲得するために自社の独自性をアピールする手法です。競合企業との競争を避ける戦略であるニッチ戦略とは違い、差別化戦略は競合との違いをアピールし、シェアを奪うことを目的としています。
ニッチ戦略 | 差別化戦略 |
他社との競争が起きない隙間(ニッチ)な市場に注力し、生き残ろうとする | 他社からシェアを奪うことを目的に、自社と他社の違いや優位性をアピールする |
マーケティング戦略の担当者であれば、2つの違いをよく理解しておく必要があります。
差別化戦略についてはこちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
ニッチ戦略を導入するメリット
ニッチ戦略を導入して事業展開することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットとして、次の4つがあります。
- 高い収益性が期待できる
- 競合との競争を避けやすい
- 価格競争に巻き込まれにくい
- 知名度やファンを獲得しやすくなる
以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。
ニッチ戦略のメリット1:高い収益性が期待できる
大衆向けの販売戦略とは違い、ニッチ戦略では顧客の細かいニーズを満たす商品やサービスを開発・販売するので、市場でのシェアを独占しやすくなります。加えて、資金力や技術力のある大手企業が参入していない市場のため、中小企業や新規事業者でも事業化しやすいというメリットもあります。多くの顧客を獲得できればそれだけ集客数や販売数も増えるので、高い収益性が期待できます。
たとえば、ポケットに入るサイズの糖度計や塩分計を販売し業績を伸ばしている企業の例が挙げられます。これまで市場では事業者が使うためにつくられたサイズの大きい測定器がたくさん販売されていましたが、個人が手軽に使える機種を開発したことで、「自宅にある食べ物の糖度や塩分を計りたい」という新しい顧客のニーズを掘り起こすことができました。
このように、顧客の潜在的なニーズをうまく汲み取った商品を開発・販売すれば、新しい市場のシェアを独占し、売上を伸ばすことも可能です。
ニッチ戦略のメリット2:競合との競争を避けやすい
先述したように、市場にはさまざまな企業が事業展開しているため、顧客を獲得するのは簡単ではありません。特に、スマートフォン市場やアパレル市場のようにすでに多くの企業が顧客の需要を満たしている分野では、売上を伸ばすのは難しいと考えられます。
しかし、ニッチ戦略で事業展開すれば、競合が少ない(いない)分野で商品やサービスを販売できるため、競争を避けやすくなります。「他社より魅力を感じてもらうために、大幅な割引をする」「莫大な広告宣伝費をかけて顧客に商品やサービスの情報をアピールする」のように、企業に負担がかかる施策を控えられるので、費用を抑えて売上を伸ばせるでしょう。
ニッチ戦略のメリット3:価格競争に巻き込まれにくい
ニッチ戦略では、競合が少ない市場に事業展開するため、価格競争を避けやすくなります。販売価格を極端に下げる必要がなくなるので、目標とする利益をしっかり残せるでしょう。
一般的に、他社との競争が激しくなれば、最終的に価格競争になる可能性が高くなります。同じような商品やサービスであれば、安価であるほど顧客に選ばれやすいからです。
しかし、販売価格を下げるほど売上が少なくなるので、仕入れコストや人件費といった費用を抑えない限り、利益を伸ばすのは難しくなります。コストを抑えるために商品やサービスの品質を下げると、顧客満足度が下がるだけでなく企業としてのブランド力も低下しかねません。収益性の低い状態が続くと、長期的に事業を存続させられないので、価格競争はなるべく避けたいものです。
ニッチ戦略のメリット4:知名度やファンを獲得しやすくなる
ニッチ戦略によって価格競争を避け、企業に残る利益を増やせば、それだけ新たな商品・サービスの開発やPRなどに予算を割きやすくなります。魅力的な商品やサービスの情報が多くの顧客に広まれば、知名度が高まりさらに集客数や売上を伸ばせるでしょう。
また、ニッチ戦略では他社にない独自性を出せるため、多くのファンを獲得することにもつながります。「中東文化を味わえる飲食店なら○○」「離島から取り寄せた厳選食材を堪能するなら○○」のように、「ここでしか体験できない」と思わせるアピールができれば、企業や店舗のブランド力はさらに高まるでしょう。
ニッチ戦略のデメリットとは?
ニッチ戦略を導入して事業展開するメリットはたくさんありますが、一方でどのようなデメリットがあるのでしょうか。主なデメリットとして、次の3つがあります。
- 参入する市場が成長できない可能性がある
- 競合が参入してくる可能性がある
- 先行事例がないためのでコストがかかる
以下では、これらのデメリットについて詳しく説明します。
ニッチ戦略のデメリット1:参入する市場が成長しない可能性がある
競合が少ない市場で事業展開すれば、ニッチ戦略が成功するわけではありません。ニッチ戦略である程度売上を出せても、企業に十分な利益が残るほど市場が成長しない可能性があります。
「健康志向のラーメン店を住宅街に出店したけれど、開店費用を回収できるほどの売上が出なかった」のように、投資したお金を回収できないと大きな損失を抱えることになります。ニッチ戦略を成功させるためにも、アンケートやヒアリングなどで市場のニーズを調査し、計画的に事業展開することが大切です。
市場調査についてはこちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
ニッチ戦略のデメリット2:競合が参入してくる可能性がある
もしニッチ戦略で展開した事業が成功しても、将来的に売上を出し続けられるとは限りません。
「出店した当時は多くの顧客を獲得できていたけれど、競合が増えてシェアを奪われてしまった」のように、当初はニッチな分野であっても、市場規模が拡大するとともに競合が参入してくる可能性があるからです。
最近は、1つの企業が複数の事業を展開したり、他の企業を買収して異業種の事業に参入したりする企業が数多くあります。市場で独自のポジションを守り続けるためには、ニッチ戦略をとりながら差別化戦略も同時に考える必要があります。
ニッチ戦略のデメリット3:先行事例がないのでコストがかかる
すでに多くの企業が参入している市場であれば、さまざまな事例を分析したうえで戦略を考えられます。しかし、ニッチ戦略は他社が参入した先行事例がないため、市場調査や開発する商品・サービスの選定、流通方法やアピール方法などを、限られた情報から考えなければなりません。
また、ニッチ戦略で事業を展開しても、売上が伸びなければその原因を調査・分析して、改善策を練って再度実践するといった流れを繰り返す必要があります。場合によっては費用がかさんで投資金額を回収できなくなることもあるので、予算や期間を設定して計画的に戦略を実践しなければなりません。
ニッチ戦略に成功した事例を紹介
ここまでは、ニッチ戦略のメリットデメリットについて説明しました。ニッチ戦略について理解を深めるには、企業の成功事例を知ることも大切です。
以下では、ニッチ戦略に成功した企業の事例を紹介します。
株式会社ATAGO|ポケット糖度計・塩分計の製造
ポケット糖度計やポケット塩分計を開発・販売している株式会社ATAGOの事例です。この企業では、市場に事業用の大きいサイズの糖度計や塩分計が多く存在している中、ポケットに入るサイズの糖度計や塩分計を開発しました。手軽に扱えるサイズの機器を販売することにより、「自宅にある果物・野菜の糖分や食事の塩分を計りたい」という顧客のニーズに応えることができました。
また、株式会社ATAGOでは、日本だけでなく145か国以上の国と取引を行っており、海外でもニッチ戦略の成果を挙げています。市場や消費者のニーズにいち早く気づき、独自の技術を活用することで日本だけでなく数多くの国との取引につながっています。
参考:株式会社アタゴ|経営のヒント|ニッチ市場のグローバル戦略は”先手必勝”
参考:株式会社アタゴ | 老舗の「液体の濃度を測る」専門メーカー
株式会社ユーグレナ|ミドリムシ関連商品の開発・販売
ミドリムシ関連商品を開発・販売する株式会社ユーグレナの事例です。株式会社ユーグレナは、「ミドリムシ」というニッチな分野において、化粧品や食品、バイオ燃料や家畜の餌などを開発して売上を伸ばしています。これらの分野は以前から多くの企業が参入していますが、先ほどの事例のように企業独自の強みを活かすことで、これまで満たせていなかった顧客のニーズを開拓し、シェアを獲得しています。
また、以前は日本国内に限って事業展開していましたが、この企業は海外でもニッチ戦略の成果を出しているのが特長です。食料問題や栄養不足、ガソリンに代わるクリーンなエネルギーは、世界全体で解消すべき課題となっています。独自の技術を世界でも活用することで、より幅広いシェアを獲得しつつ社会問題の解消にも貢献することができています。
株式会社ブシロード|トレーディングカードゲームの販売
トレーディングカードゲームやデジタルゲームの販売、アニメの企画・制作を中心に行っている株式会社ブシロードの事例です。ここでは、トレーディングカードゲームの販売に注目して紹介していきます。株式会社ブシロードでは、2007年ごろからエンタメ業界のなかでもトレーディングカードゲームに特化したビジネス戦略を展開してきました。トレーディングカードゲームとは、キャラクターが印刷された紙製のカードを使用して、対戦を行うゲームのことを指します。
市場をセグメントして、他社があまり参入しておらず、自社の強みが活かせるポジションで勝負したことがシェアの獲得に成功につながったと言えるでしょう。
参考:ブシロード企業サイト|会社情報・採用情報
参考:株式会社ブシロード|Top Interview|奇策と挑戦心で新しい市場を開拓 日本おアニメ、ゲームを世界へいざなう
日東電工株式会社|包装材料・半導体関連材料などの製造
包装材料・半導体関連材料などの製造を行っている日東電工株式会社の事例です。日東電工株式会社の具体的な商品には、常温では粘着力があり、加熱するだけで簡単にはがすことができる熱はく離シートやどんな角度からでも見やすいモバイル機器を実現するIPS広視野偏光板があります。
また、日東電工株式会社では、自社の強みを活かすことのできるニッチ市場で、グローバルシェアNo.1を目指す「グローバルニッチトップ戦略」と、各国・エリアの市場において特有のニーズに応じた製品を提供してトップシェアを狙う「エリアニッチトップ戦略」の2つの戦略に分けて実践しています。
変化しながら成長するマーケットを見極めながら、企業独自の強みを活用することで日本だけでなく、海外でも事業展開にもつながっています。
参考:Nitto独自のビジネスモデル ー「三新活動」「ニッチトップ戦略」 | Nitto 日東電工株式会社
参考:3分でわかるNitto | 採用情報 |Nitto 日東電工株式会社
ニッチ戦略を実行し成功させるためのポイント
最後にニッチ戦略を実行し成功させるためのポイントを2つ紹介します。どのようなことを意識することでニッチ戦略を成功へと近づけられるのでしょうか。
ニッチ戦略を実行するポイント1:意見や課題から見つける
ニッチ戦略を導入するデメリットでも解説しましたが、ニッチ戦略で参入しようとしている市場には、商品やサービスなどの先行事例がなく、市場の成長予想も不明確です。そのため、消費者の潜在的にあるニーズや課題から、ニッチ市場を見つけることが成功に近づくためのポイントです。また、競合が多い市場の中からユーザーが解決できていないニーズを探しだすこともニッチ市場の発見につながります。
ニッチ戦略を実行するポイント2:ニッチ市場の特徴を知り分析する
ニッチ戦略を成功させるには、ニッチ市場の特徴を知り、分析することが重要です。まず、上記でも解説したように、ニッチ市場の特徴は市場規模が小さく、大手企業が参入しづらいという特徴があります。そのため、1度自社でニッチ市場を確立してしまえば、市場を独占することも可能です。
ニッチ市場の分析を行う一例としては、ポジショニングマップを活用して参入しようとしている市場を分析します。ポジショニングマップとは、縦軸と横軸のそれぞれに「価格」や「ターゲット」などの要素を用いて、自社が参入できそうなポジションを探す手法です。例えば、価格が高く、子供向けのサービスを提供している競合がいなければ、そこがニッチ戦略として自社が狙うポジションになります。
参入しようとしている市場について、顧客ニーズやユーザー属性などを分析して、シェアを獲得できるようにしていきましょう。
まとめ
ここでは、ニッチ戦略の概要やメリット・デメリット、他社の成功事例について説明しました。
一見リスクが高い戦略のように思えますが、入念な市場調査と分析によって他社が介入していない分野を発見できれば、売上を大幅に伸ばせるかもしれません。「どの分野に挑戦すればよいかわからない」と思うかもしれませんが、ニッチ戦略で成功している企業のように、自社の強みを活かして他社と差別化できる方法を考えると、魅力的な商品やサービス開発につながります。
ここで説明した内容を参考にして、ニッチ戦略を成功させましょう。
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