市場にはさまざまな商品やサービスがあふれているため、長期的に売上を維持するためにはシェア率を高める戦略を考えなければなりません。
他社から顧客を獲得するとともに、獲得した顧客を保持し続けるには、「スイッチングコスト」を意識する手法が効果的です。
しかし、「スイッチングコストとは何かよく分からない」「どうすれば他社からのスイッチングを促せるのだろう」と悩む人も多いのではないでしょうか。
本記事では、スイッチングコストの概要やコストの種類、コストごとの商品・サービス例や他社からのスイッチングを促す方法について説明します。
目次
まずはスイッチングコストについて知っておこう
スイッチングコストとは、利用している商品やサービス、ブランドを他社のものに切り替える際に発生する時間・費用・心理的な負担のことです。
スイッチングコストを低くすると、手軽に他社の商品やサービスに切り替えられるので、他社から顧客を流入させやすくなります。反対に、スイッチングコストを高くすると、他社の商品やサービスへ簡単に切り替えにくくなるので、既存顧客を保持して売上を維持しやすくなります。
スイッチングコストが低い | スイッチングコストが高い |
他社の商品やサービスに切り替えやすい | 他社の商品やサービスに切り替えにくい |
市場でのシェアを拡大させるには、販売する商品やサービスの種類や質、価格だけでなく、スイッチングコストを意識した戦略を考える必要があります。
スイッチングコストに含まれる3つの費用とは?
スイッチングコストに含まれる費用は、「金銭的コスト」「物理的コスト」「心理的コスト」の3つに分類できます。
以下では、これらの費用について詳しく説明します。
金銭的コスト
「金銭的コスト」は、他社の商品やサービスに切り替えるときに発生する金銭的な費用です。たとえば、「他社のITツールのほうが使い勝手がよさそうだから購入してみよう」と思った場合、他社のITツールを購入する代金を支払う必要があります。
しかし、「手に入れたいと思っているITツールの価格が30万円もする」のように、金銭的なコストが高いと、簡単に切り替えることはできません。もしITツールを開発・販売する企業が他社から顧客を獲得したいのであれば、どれくらいの金額であれば他社から切り替えてもらえるかを調査・分析して、適正な価格設定をする必要があります。
ただし、価格を低く抑えるほど他社から顧客を獲得しやすくなるものの、あまりにも安く販売しすぎると企業に利益が残りません。顧客を獲得すると同時に、企業にしっかり利益を残せるよう、バランスを考えて価格設定をする必要があります。
物理的コスト
「物理的コスト」は、商品やサービスを切り替える際に生じる移動や手間、時間などのコストです。先ほどのITツールを例にすると、サービスを導入してからセットアップし、各種システムと連携させて実際に仕事で使いこなせるまでにかかった手間や時間が、物理的コストに該当します。
もし「新型のITツールを導入したいけれど、既存システムとの連携をするのに1ヵ月かかる」といった負担が見込まれるのであれば、物理的コストが高いツールということになります。一方、「既存システムとの連携が早く、手厚いサポートもあるので、半日で仕事に活用できるITツール」であれば、物理的コストが低いといえます。
この情報が口コミやレビューでほかの顧客に伝われば、他社からの顧客の獲得に影響を与えるでしょう。なるべく多くの顧客を他社から呼び込むためにも、他社の顧客からみた物理的コストを低く抑える仕組みを整える必要があります。
心理的コスト
「心理的コスト」は、他社の商品やサービスに切り替えることに対して感じる心理的な負担のことです。
ブランド物のバッグを例に当てはめると、「このブランドのデザインや世界観に愛着があるので、他社ブランドに乗り換えたくない」という場合は、心理的コストが高いと考えられます。逆に、「他社のほうが価格が安かったら乗り換えてもいい」と感じる商品は、心理的コストが低いといえます。
自社の顧客にとって、他社に乗り換える際の心理的コストが低い場合、競合にシェアを奪われやすくなります。「他社に乗り換えるのが大変そう」と感じさせることで、自社の売上を維持しやすくなります。
スイッチングコストが高い商品・サービス例
ここまでは、スイッチングコストに含まれる費用について説明しました。では、スイッチングコストが高い商品やサービスにはどのようなものがあるのでしょうか。
以下では、スイッチングコストが高い商品やサービスを紹介します。
スマートフォン
幅広い人々に普及しているスマートフォンは、スイッチングコストが高い商品として代表的です。契約している通信キャリアにもよりますが、他社に乗り換える際に解約手数料や違約金といった金銭的コストが発生するところもあるため、顧客が他社に移りづらくなっています。
また、他社に乗り換える際の手続きにかかる時間や手間といった物理的コストが高いのも、スマートフォンの特徴です。機種を変える場合は、端末代金を支払うだけでなく操作方法も覚えなければならないため、人によっては心理的コストが高いと感じる場合があります。
パソコンにインストールするソフト
パソコンにインストールするソフトは、種類によって高額なものもあるため、金銭的コストが高くなります。また、簡単にインストールできたとしても、使い方を覚えたりほかのシステムと連携させて仕事などに定着させなければならないため、物理的コストも高くなりやすいです。
パソコン操作に詳しい人であれば心理的コストを低く抑えられますが、人によってはソフトを移行させる作業に大きなストレスを感じるかもしれません。このようなハードルの高さがあることから、ソフトウェアを販売する際は、導入の手軽さをアピールするとともにカスタマーサービスを充実させるなど、スイッチングコストを抑える工夫が求められます。
賃貸物件
賃貸物件は、物件選びや契約の締結、敷金や礼金・仲介手数料の支払いなど、さまざまな場面でコストが発生するため、スイッチングコストが高いといえます。
ほかにも、水道光熱の契約や解約、引っ越し業者の選定や貸主とのやりとりなど、日常生活を取り巻くあらゆる部分にコストが生じます。不動産によってはこれらのコストを顧客に負担させるだけでなく、仲介手数料の受け取りや引っ越し業者の斡旋、保険やインターネットの販売代理などで売上を伸ばしているところもあるようです。
しかし、既存顧客に対して他社へのスイッチングコストを高めすぎると、顧客の不満も高まりトラブルにつながる可能性があります。マイナスな口コミやレビューが広がると企業の評判を落としかねないので、注意が必要です。
医療機関
医療機関は、ほかの病院を選ぶ際に通院の手間や不安といった物理的・心理的コストがかかりやすいので、スイッチングコストが高いサービスだといえます。
医療機関を受診する人は「気分が悪い」「体に痛みがある」といった症状を抱えていることが多いです。受診前に不安を抱えている可能性も高いため、「通い慣れた病院を受診し続けたい」と思う人も多いでしょう。
また、医療機関は、「医師と患者」「看護師と患者」のように医療従事者との関係性が強まるほど安心してサービスを利用できるという特長もあります。治療方針やスタッフとの関係に不満がない限り「ほかの医療機関に変えよう」と思われにくいので、患者さんに長く利用してもらえるでしょう。
スイッチングコストが低い商品やサービス例
では、スイッチングコストが低い商品やサービスにはどのようなものがあるのでしょうか。
スイッチングコストが低い商品やサービスには、「類似品の大量生産が可能で、安価に提供できる」という特徴があります。
具体例として、石鹸やティッシュペーパーのような日用品が挙げられます。これらはコストを抑えて大量に生産できるので、それだけ安価に販売しやすいと言えます。また、長期的にニーズが存在する商品でもあるので、「初めて目にしたから試しに使ってみようかな」という感覚で、比較的簡単に手に取ってもらえます。
また、飲食業もスイッチングコストが低くなりやすいです。「○○店は先週行ったばかりだから、今週はほかの店舗に行ってみよう」と考えた経験がある人も多いのではないでしょうか。よほど価格設定の高い飲食店でない限り利用を検討してもらいやすいので、新規顧客を集めやすい業種だといえます。
しかし、スイッチングコストが低いと、一度獲得した顧客が他店に流れやすくなります。飲食店が顧客を保持するためには、クーポンの配布やポイントカードの発行など、リピート顧客を増やす施策に取り組む必要があります。
競合他社からスイッチングを促す方法とは?
効率的に市場のシェアを拡大させるには、競合他社からのスイッチングを促す施策に取り組むことが大切です。競合他社からスイッチングを促す方法は、次の3つです。
以下では、これらの方法について具体例を交えて説明します。
金銭的コストを下げる
先述したように、商品購入やサービス利用にかかる金銭的な負担が増えるほど、顧客を呼び込みにくくなります。そのため、他社からのスイッチングを促すには金銭的コストを下げる施策が効果的です。
たとえば、試供品やサンプル品を提供すれば、金銭的な負担を抑えて商品やサービスを体験できるため、今後の利用につなげやすくなります。「期間限定で入会金免除」のような特典を設ければ、利用するハードルを下げられるので入会者数を増やせるでしょう。
物理的コストを下げる
競合からのスイッチングを促すには、金銭的コストだけでなく物理的コストを下げるのも大切です。
たとえば、書面に記載してもらっていた契約書や同意書をデジタル化すれば、手続きにかかる時間を削減できます。購入した商品を翌日自宅に届けられるサービスを設ければ、その手軽さから多くの顧客を呼び込めるかもしれません。
導入したシステムが定着するまでのサポート体制を充実させれば、短時間で利用開始できるため安心して他社製品から切り替えてもらえるでしょう。
顧客との関係を強くする
上記の方法で他社から顧客をスイッチングさせても、顧客を保持できなければ他社にまたスイッチングしてしまうかもしれません。そのような事態を防ぐには、顧客との関係性を強める必要があります。
顧客との関係性を強めるには、「この企業の商品やサービスを使い続けたい」と思ってもらうことが大切です。購入した商品の活用方法をメールマガジンで配信したり、会員限定のイベント案内をダイレクトメールで送ったりするなど、企業への信頼を強めるアプローチを継続すれば、顧客に商品やサービスを利用し続けてもらえるでしょう。
まとめ
ここでは、スイッチングコストの概要や費用の種類、コストごとの商品・サービス例や競合からのスイッチングを促す方法について説明しました。
競合が多いほど顧客のスイッチングを促すのは難しくなりますが、独自の強みをうまくアピールできれば、顧客の興味や関心を高めて集客につなげることが可能です。ここで説明した内容を参考にして、企業が手がける商品やサービスのシェアを高めましょう。
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