モノや情報で飽和状態になりつつある市場に革新を起こすには、これまでなかった商品やサービスを生み出して顧客にアピールしなければなりません。

しかし、「革新的な商品やサービスを開発するにはどうすればよいのだろう」「新たなニーズを開拓して市場のシェアを広げる方法を知りたい」と思う人も多いのではないでしょうか。

新たな商品やサービスで市場に革新を起こすには、「プロダクトイノベーション」を意識した戦略を立案するのがおすすめです。今回は、プロダクトイノベーションの概要や市場に与える影響、具体的な手順やイノベーションを起こした商品・サービスについて詳しく説明します。

そもそもプロダクトイノベーションとは?

そもそもプロダクトイノベーションとは、まだ市場にない革新的な製品を開発して、製品で他の企業と差別化を図ることを指します。

プロダクトイノベーションの代表例としては、自動車やテレビ、冷蔵庫や洗濯機といった現代ではどの家庭にもある家電が挙げられます。これらの登場は、市場に革新を起こして人々の生活を大きく変化させました。

また、近年ではiPhoneに代表されるスマートフォンや、iCloudなどのクラウドサービスの登場によって、市場や人々の生活に大きな変化を起こしています。このように、プロダクトイノベーションは、革新的な技術を用いた商品やサービスによって、市場のニーズだけでなく人々の生活にも変化を及ぼします。

プロセスイノベーションとの違い

プロダクトイノベーションと似た言葉に「プロセスイノベーション」があります。どちらもビジネスにおいて革新を起こすものですが、それぞれ意味が異なるので、正しく使い分ける必要があります。

プロセスイノベーションは、商品の生産や流通の段階で革新を起こすことです。

具体例として、以前はマンパワー(人間の労働力)に依存していた製造過程にロボットを導入することで、人件費を削減しつつ生産性を向上させることが挙げられます。代理店や小売店を介して販売していた商品を、企業のECサイトでダイレクトに顧客のもとへ届けるといった変化も、プロセスイノベーションに該当します。

このように、プロダクトイノベーションでは顧客に提供する商品が変わるのに対して、プロセスイノベーションでは提供する商品は変わりません。両者は異なる戦略ですが、それぞれをうまく活用すればさらに売上を伸ばせるでしょう。

プロダクトイノベーション プロセスイノベーション
商品やサービス自体に技術的な革新を起こすこと。 商品の生産・流通工程で革新を起こし、効率化すること。最終的な製品は変わらない

マーケットイノベーションとの違い

プロダクトイノベーションと似た言葉として、「マーケットイノベーション」という言葉があります。

マーケットイノベーションとは、マーケティングにおいて新たな販路を開拓することを指します。どれだけ魅力的な商品を開発しても、それがターゲットとする顧客に届かなければ意味がありません。従来とは違った経路で商品をアピール・販売すれば、より効率的に売上を出せるでしょう。

例えば、地域密着型のパン屋が自店での販売だけでなく、スーパーマーケットでも販売に乗り出し、売上拡大を目指すなどの戦略が挙げられます。

また、プロダクトイノベーションとの違いは、新たな販路を開拓するところから始まるため、イノベーションに対する考え方や市場開拓の進め方が異なる点です。

プロダクトイノベーションが市場に与える影響

先述したように、プロダクトイノベーションは、商品に技術革新を起こすことで人々の生活に大きな変化を与えます。では、具体的にどのような変化を与えているのでしょうか。代表例として、「インターネットの普及」が挙げられます。従来は離れた人とコミュニケーションを取るために、手紙や電話といった手段をとらなければなりませんでした。

しかし、インターネットの登場によって、メールやビデオ通話などを活用して離れた人とコミュニケーションを取れるようになりました。インターネットを活用してリアルタイムに情報伝達できるようになったため、人々の仕事や日常生活に大きな変化を起こしています。一方で、新たに開発された製品の市場が成長することにより、シェアを奪われた企業や業界の市場規模が縮小する可能性も考えられます。

このように、プロダクトイノベーションは、市場での常識を覆すきっかけになるだけでなく、従来の暮らしを大きく変えるほどの可能性も秘めています。

プロダクトイノベーションを起こした商品やサービス事例

プロダクトイノベーションをより具体的にイメージするには、イノベーションを起こした商品やサービスについてさらに詳しく知ることが大切です。以下では、プロダクトイノベーションを起こした商品やサービスを紹介します。

スマートフォン

日本の携帯電話業界では、2000年代まで高い技術力で製造された二つ折りの携帯電話(ガラケー)が市場のシェアを独占していたため、海外企業が参入できない状況でした。しかし、2008年販売開始のiPhoneを筆頭に、スマートフォンの登場によって電話やメール、音楽プレイヤーやインターネット検索、ゲームといったコンテンツが1つのデバイスにまとめられたため、携帯電話市場に大きな変化が起きました。

今では、スマートフォンだけで家電製品の操作やビデオ会議、宿泊施設の予約や会計など、日常生活における幅広いニーズを満たせるようになり、人々の生活は大きく変化しています。この変化に対応できなかった携帯電話事業は、シェアが縮小するとともに売上が減少し、縮小や撤退を余儀なくされています。

参考:いつからスマホって名称?iPhone上陸はいつ?…激動すぎるスマホの歴史を振り返る|

ジェルボール型洗剤

すでに多くの企業が参入している洗剤市場では、他社との差別化が難しくシェアを拡大させにくい分野でした。しかし、2014年にP&G社が販売開始したジェルボール型洗剤の登場により「使用する洗剤を計量せずに洗剤を使える」という利便性を提供することでプロダクトイノベーションを起こしています。

また、ジェルボール型洗剤は、単に家事にかかる時間を削減しただけでなく、「洗剤の詰め替え」「洗剤がこぼれたときの掃除」といった手間も省けています。類似品よりも利便性の高い商品を開発する「類似品型プロダクトイノベーション」に加えて、「より手軽に家事を進めたい」という顧客ニーズに応えた「ニーズ主導型プロダクトイノベーション」を起こした事例だといえます。

プロダクトイノベーションの手法に関しては次項の「プロダクトイノベーションの手法とは?」で解説しています。併せてご覧ください。

参考:洗剤は、鮮度で選ぶ時代へ!「アリエール ジェルボール3D」「ボールド ジェルボール3D」9月上旬に新発売

パソコン・スマホ用メガネ

メガネ市場も、洗剤市場と同様に以前から存在していた商品なので、競合との差別化を図りにくい分野でした。「メガネは視力矯正のために使うもの」というイメージが強かったのも、市場に革新が起きない要因だったと考えられます。

しかし、スマートフォンやパソコンといったデバイスの普及によって、ブルーライトによる影響が懸念されたことから、ある企業は2011年からブルーライトをカットする機能が設けられたメガネを開発しました。それによって、「目を保護するためにメガネを使う」という新たなニーズを掘り起こすことに成功し、市場に革新を起こしました。

参考:担当者に聞く「JINS PC」がヒット商品になったワケ

配車アプリ

従来のタクシー業界は、電話でタクシーを呼んで移動するのが一般的でしたが、2009年にアメリカでプロダクトイノベーションを起こす企業が登場します(日本には2013年に上陸)。

この企業が提供するサービスでは、GPS機能を使って現在地周辺にいるタクシーをマッチングし、待ち時間を抑えてタクシーに乗れるのが特長です。スマートフォンのアプリで、わずか2タップでタクシーを配車できるようになりました。

目的地までの所要時間や概算料金もあらかじめアプリ上に表示されるので、利用者は安心してタクシーを利用できます。支払いは事前に登録したクレジットカードで決済できるため、ドライバーと現金の受け渡しをする必要がありません。

タクシーが到着するまでの待ち時間を削減し、ドライバーとのトラブルを避けつつ利便性の高い移動ができることから、タクシー業界や人々の生活に大きな変化を起こしています。

参考:最近話題のイノベーション事例(製品、サービス、製造工程など)

プロダクトイノベーションの手法とは?

続いて、実際にプロダクトイノベーションを起こすにはどのような方法があるのかを解説します。プロダクトイノベーションには下記の4つのタイプがあります。

プロダクトイノベーションの4つのタイプ

自社にマッチする方法でプロダクトイノベーションを起こすには、4タイプそれぞれの特徴を知る必要があります。以下で詳しく見ていきましょう。

プロダクトイノベーションの手法1:技術主導型

技術主導型のプロダクトイノベーションは、これまでになかった商品を高度な技術で開発する手法です。プロダクトイノベーションと聞くと、技術主導型をイメージする人が多いかもしれません。

具体例として、ミドリムシを活用した新たなエネルギー開発が挙げられます。従来は石油製品などのエネルギーに依存していた企業がこのようなエネルギーを活用すれば、よりクリーンかつ経済的な事業運営が可能になるでしょう。世界規模で導入が進めば、エネルギー市場に大きな変化を起こすかもしれません。

また、MacやiPadなどの製品も、技術主導型のプロダクトイノベーションだといえます。魅力的なデザインや直感的に操作できる利便性、オリジナリティあるコンテンツは他社の発想や技術力では開発できなかったため、競合との差別化を図るとともにシェア拡大に成功しています。

プロダクトイノベーションの手法2:ニーズ主導型

ニーズ主導型は、市場のニーズに応える商品開発をすることでプロダクトイノベーションを起こす手法です。この手法は、技術主導型とは異なり、顧客が抱えている課題や要望を汲み取って新商品の開発に取り組みます。そのため、利便性や機能性が高いものを生み出しやすいのが特長です。

例としては、今では一般的な「ペットボトル入りの緑茶」が挙げられます。

1980年代中盤までは緑茶と言えば家庭で急須を使って飲むのが一般的でした。しかし「いつでもどこでも緑茶を楽しみたい」というニーズに応えるために、研究開発を経て1985年に缶入りの緑茶が、そして1990年にはペットボトル入りの緑茶が誕生したのです。

「飲みかけでもキャップをすることで保存できる」というペットボトルならではの特長を緑茶製造に活かすことで、新たな顧客ニーズを開拓しシェアを拡大できています。また、2000年には「温められるペットボトル入りのお茶」を販売することで、「寒い時期に手を温めつつ長く持ち運びたい」という顧客のニーズに応えることにも成功しています。

参考:日本におけるお茶の飲料化|お茶の歴史|お茶百科

プロダクトイノベーションの手法3:類似品型

類似品型は、すでに市場に出回っているオリジナリティある商品の類似品をつくる方法、より利便性や機能性の高いものを生み出すのが特長です。

具体例として、フィルムを親指で巻き上げてシャッターボタンを押すだけで写真撮影できるインスタントカメラが挙げられます。以前から高性能なカメラはたくさん販売されていましたが、それらは撮影するたびに明るさやピントを調節しなければなりませんでした。

この商品は、そのような設定をすることなく手軽に品質のよい写真が撮れることから、カメラをより手軽に使いたい顧客のシェアを獲得しました。また、安価に入手できることや持ち運びが容易なサイズ感も人気となり、カメラを持っていなかった人たちにまでシェアを広げることに成功しています。

参考:「デジタル化するか、死ぬか?」富士フイルムの“破壊的イノベーション”の鍵はデジタルマーケティング

プロダクトイノベーションの手法4:商品コンセプト型

商品コンセプト型は、あらかじめ商品のコンセプトを明確にしておき、それにもとづいて必要な人材や技術を集め、素材や部品を活用して商品化する手法です。まず革新的なコンセプト自体を決めて、それから開発を行うという手法なので、うまく開発が進まないリスクがあります。しかし、開発が困難であるからこそ、成功した場合に市場に革新を起こす可能性が高くなります。

商品コンセプト型の具体例として、製薬メーカーが全く新しい効果をもたらす新薬を開発することが挙げられます。膨大な費用と時間がかかりますが、開発に成功すれば医療業界や人々の生活に大きな変化を起こし、売上の拡大が見込まれます。

まとめ

ここでは、プロダクトイノベーションの概要や市場に与える影響、プロダクトイノベーションの手法や商品・サービス例について説明しました。
プロダクトイノベーションは頻繁に起こせるものではありませんが、うまくいけば大きく売上を伸ばせるので、時代や市場の変化を注視して、自社の強みを活かせないか考え続けることが大切です。ここで説明した内容を参考にして、市場や人々の生活に革新を起こす商品を開発しましょう。

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