企業の売上を伸ばすには、商品やサービスの認知度を高め、集客して購入といった行動に結びつけることが大切です。
しかし、商品やサービスを購入・利用してもらっても、リピートしてもらえなければ安定的な売上を上げることができません。そのため、マーケティングの担当者は、自社や自店のファンを増やす戦略も考えなければなりません。
企業や商品・サービスにどれくらい愛着を持っているか、信頼しているかを測定する指標として、「NPS®」があります。
今回は、NPS®に焦点を当てて、指標の概要や計算方法、NPS®を活用するメリットや他社の活用事例について説明します。
目次
そもそもNPS®とは?
そもそもNPS®とは、「ネット・プロモーター・スコア」を省略した言葉で、「顧客ロイヤルティ」を数値化したものです。
上図のように、NPS®は0~10の数値で測定されます。その結果によって、顧客を「批判者」「中立者」「推奨者」のうちどれに該当するか判別します。
顧客ロイヤルティとは、企業や商品・サービスに対する愛着や信頼の程度のことです。
顧客ロイヤルティが高いほど、継続的に商品やサービスを利用してもらいやすくなります。
また、顧客ロイヤルティが高まると、知人や家族などに商品やサービスの利用を薦めてもらいやすくもなります。顧客自身が商品やサービスの広告宣伝をしてくれるので、コストを抑えた集客が可能になるとともに、さらにファンを増やしていくことができます。
NPS®を求める手順
では、NPS®はどのように求めればよいのでしょうか。以下では、NPS®を求める基本的な手順について説明します。
顧客に質問をする
NPS®を求める際は、まず顧客に「あなたは企業の商品・サービスをどの程度、知人や家族に薦めたいですか?」という質問を投げかけます。そして、その程度を0~10の11段階で答えてもらいます。
質問 |
Q.あなたは企業の商品・サービスをどの程度、知人や家族に薦めたいですか?
(0から10までの11段階でお答えください) |
親しい人に商品やサービスに薦めるかどうかという質問をするので、よほど魅力的なものでなければ数値を高めることはできません。
また、質問する際は「この企業の商品・サービスを」の部分を「ブランドを」「この企業のことを」のように使い分けます。ブランドに対する評価を把握したいのか、従業員の自社に対する評価を把握したいのかといった目的によって、適切な質問を設定しましょう。
回答の数値に応じてグループ分けする
質問の回答を得られたら、次は回答の数値に応じてグループ分けします。ここでは先述したように、得られた数値に応じて顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」の3つに分類します。各分類ごとの顧客の特徴は次のようになります。
区分 | 特徴 |
推奨者 | 商品やサービスを愛用しており、周囲にも薦めたいと思っている。 |
中立者 | 商品やサービスについて、他者に薦めたり悪い口コミを広めたりしないが、きっかけがあれば他社に流出する可能性がある。 |
批判者 | 商品・サービスに対して批判的な考えを持っており、悪い口コミを広げる可能性が高い。 |
これらの特徴を把握していれば、企業が取るべき施策を考えやすくなります。
「推奨者」と「批判者」の割合を算出する
顧客のグループ分けができたら、全体の人数に対する推奨者と批判者の割合を算出します。
たとえば、分析する顧客が100人で、推奨者が30人だった場合、推奨者の割合は30%になります。また、批判者の人数が10人だった場合、批判者の割合は10%になります。
「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引く
推奨者の割合と批判者の割合を算出したら、推奨者の割合から批判者の割合を引きます。ここで計算した値がNPS®です。
- NPS® = 推奨者の割合 – 批判者の割合
先ほどの例で考えると、推奨者が30%で批判者が10%だったため、NPS®は、20%ということになります。推奨者の割合よりも批判者の割合が多い場合、NPS®はマイナスになります。その場合、NPS®がプラスに転じるよう、商品やサービスの品質を向上させたり、カスタマーサポートを充実させたりする対策が必要です。
NPS®を活用するメリットとは?
ここまでは、NPS®の測定方法について説明しました。企業がNPS®を活用すると、主に次の3つのメリットが生じます。
以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。
顧客の評価を可視化できる
NPS®は、顧客の評価をたった1つの質問で可視化できます。企業のイメージや商品・サービスに対する認識を簡単に把握できるので、企業が取るべき施策を考えやすいのがメリットです。
また、計算方法や算出した値がどのような意味を持つのかを簡単に周知できるため、社内で目標を統一させることもできます。たとえば、「来季のNPS®の目標を-10%から0%にする」といった目標を設定すれば、目標達成に向け組織で一丸となって施策に取り組めます。
従業員のモチベーションアップにつながる
先述したように、NPS®を活用すれば、組織内で目標を共有してプロジェクトに取り組めます。そのため、NPS®が高まれば従業員のモチベーションアップにつながります。
特に、顧客の顔が見えづらい経理や人事を担当する従業員は、顧客が企業に対してどのようなイメージを持っているのか、企業が扱う商品やサービスがどう思われているのかを把握するのが困難です。
NPS®で数値として顧客の評価が高まったことを把握できれば、「自分の仕事が顧客の評価を高めることに貢献できている」と感じやすくなります。
商品やサービスを競合と比較できる
自社の状況を分析する手法はたくさんありますが、他社の人件費や顧客数などについては正確に可視化できない部分があるため、競合と比較するのは簡単ではありません。しかし、NPS®は世界共通の指標で、導入している企業も一定数あるので、商品やサービスに対する評価を競合と比較できます。
日本では、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションが2020年に業界別のランキング調査を行っているので、興味がある人は確認してみましょう。
NPS®が競合より劣っていれば、どの点が他社と異なるのかを考え、商品やサービスの品質、マーケティング手法などの改善につなげられます。また、NPS®が競合より高ければ、自社のどの部分が他社より優れているかを分析することで、さらに顧客の評価を高める企業へと成長できます。
NPS®と顧客満足度の違い
NPS®と似た指標に「顧客満足度」があります。顧客満足度は以下のように計算を行います。
- 顧客満足度(%) = (「満足」と回答した顧客数 ÷ 回答の総数)×100
2つは、「企業の商品やサービスにどれだけ満足しているかを把握する」という点では共通しています。しかし、NPS®は「家族や友人に薦めたいと思うほど、良いと感じるかを調査するので、実際の業績とも相関しやすい」という特長があります。
NPS®が高いと「再度商品やサービスを購入したい」「他者に薦めたい」と感じる人が多いことになります。つまり、実際に売上に貢献してくれる顧客が多くなるため、業績と連動しやすくなるのです。
一方、顧客満足度が高くても、今後もリピート利用してくれるとは限りません。
NPS®を開発した1社であるSatmetrix社の調査の結果をによれば、過去に解約した顧客のうち、8割が直前の顧客満足度調査で満足と回答をしていたという結果が出ています。
Satmetrixが実施した調査では、解約した顧客の約8割が、直前の顧客満足度調査で「満足」と回答していたという結果が出ています。これは、次のことを表しています。
- 「満足」していてもリピートしてくれるとは限らない
- 「満足」していてもロイヤルカスタマーではない”
引用:「NPS」と顧客満足度調査の違いとは? その算出方法も紹介します | 顧客ロイヤルティを高める「NPS」のはじめかた
つまり、顧客満足度がどれだけ高くても、企業の業績アップにつながらない場合があるという点に、NPS®との大きな違いがあります。
定性的な情報を把握することも大切
ここまでは、NPS®を活用するメリットを説明しました。
NPS®では手軽に顧客の評価を把握できますが、その数値だけでは「なぜこのような評価が出たのか」「どうすれば数値を高められるのか」を考えにくいかもしれません。そのため、NPS®を測定する際は、定性的な情報を把握することも大切です。
具体例として、NPS®で顧客に質問をする際に、「なぜその点数をつけましたか」というフリーコメント欄を設ける方法が挙げられます。
そこで、「従業員の接客に感動したから」というコメントがあれば、接客がNPS®の向上によい影響を与えていることがわかります。「購入した商品がすぐに壊れてしまう」というコメントがあれば、「商品の品質を向上させる」といった対策でNPS®を高められるでしょう。
他社のNPS®活用事例を紹介
NPS®を企業のマーケティングにうまく活用するには、他社のNPS®活用事例を知ることも大切です。
以下では、他社のNPS®活用事例を紹介します。
ソフトウェア開発会社の事例
ある海外のソフトウェア開発会社の事例です。この企業は、他部署との連携がうまくできていないことを課題としていました。
そこで、NPS®で他部門と目標を共有するとともに、部門間の連携や協力を強めるチームをつくり、組織で一丸となってプロジェクトに取り組める仕組みを構築しました。
その結果、主力とするソフトウェアのNPS®を50%高めることに成功しました。
さらに、NPS®の向上とともに、サポート体制の満足度向上やサポート業務の効率化といった効果も得られており、高い業績につなげられています。
参考:NPS 導入事例
美容クリニックの事例
国内大手の美容クリニックは以前から顧客満足度調査をおこなっていましたが、アンケートを顧客に依頼したり、回収したアンケートを集計したりする負担が大きいだけでなく、顧客数が少ないクリニックほど母数が少ないため、満足度が高くなるという課題を抱えていました。
しかし、このクリニックは、NPS®を導入することで調査や分析をインターネット上で完結できるようにして、調査の手間やコストを大幅に削減させました。
クリニックごとに精度の高いNPS®を出せるようにもなったため、店舗ごとの違いが顧客の評価にどう影響しているのかを分析し、運営方針の改善に役立てています。
また、店舗間の競争力を高め、さらに高い業績を出すことにも成功しています。
参考:NPX Pro 導入事例 湘南美容クリニック(SBCメディカルグループ)様
旅行予約サービス事業の事例
インターネット上でツアーや宿泊先などの予約ができる旅行予約サービス事業の事例です。この事業では、カスタマーセンターの担当者にだけ顧客の声が集まっていることに課題を感じていました。
そこで、NPS®を導入し、カスタマーセンター以外の部署にも顧客の声を届けられるようにしたところ、事業の各担当者や現場単位で「マーケティング施策の計画→実施→NPS®の把握→改善」というサイクルを繰り返せるようになりました。
それによって、社内全体で将来の売上や利益を考えた業務ができるようになり、業績を高めることに成功したのです。
参考:NPX Pro 導入事例 楽天トラベル(楽天株式会社)様
まとめ
ここでは、NPS®の概要や算出方法、NPS®を活用するメリットや他社の活用事例について説明しました。
NPS®の質問項目をどう設定するか、どの程度の顧客を調査対象に含めるのかによって得られる数値が変わるため、NPS®で業績を改善させるには、事業規模や顧客数、改善させたい部分に応じて適切な調査ができるようにする必要があります。ここで説明した内容を参考に、NPS®で企業のブランド力や商品・サービスの品質を高めましょう。
※ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。
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