さまざまな料理やお酒を楽しめる居酒屋は、そのバラエティに富んだ業態から、コンセプトがなくても繁盛しそうな印象があります。しかし、居酒屋の開業を検討する際に、コンセプト作りは今後のお店の成功を左右する非常に重要な要素です。今回は、居酒屋開業にあたってのコンセプト作りの方法や実際の店舗への活かし方を紹介します。
目次
居酒屋の開業にコンセプトはなぜ重要?
「コンセプト」とは、もともとは概念を指す言葉ですが、日本語においては全体を統一する基本思想や骨格のことを指す傾向が強いです。居酒屋の開業においてもコンセプトがあることで、さまざまな要素をコンセプトと関連づけて考えることができるので統一感が保たれます。コンセプトを決めないままでは、具体的な要素を決める際に店名と内装の印象がバラバラであったり、価格帯と立地の釣り合っていなかったりするなど運営そのものに関する問題も生じてしまいます。
また、コンセプトがしっかりしていることは利用客にもメリットがあります。コンセプトが定まっていることでその店舗のよさや価値をダイレクトに知ることができるため、店舗と利用客の価値観が合致すればリピーターへとつながる可能性も高まるのです。
居酒屋のコンセプトを決める方法と手順
コンセプトを決めるにあたって、自分の頭の中だけであれこれと考えていたのでは、いいアイディアは浮かびません。情報を収集し、論理的に筋道を立てて考えていけば、コンセプト決めもスムーズに運びます。ここではコンセプトを決める手順を紹介します。
1.ヒントとなるアイディアを集める
コンセプトを決めるには、まずは飲食業界のトレンドや競合店の動向といった情報収集から始まります。自ら足を運んで競合店を探るのも一つの手ですが、テレビや雑誌、インターネットなどさまざまな媒体を活用して、ヒントになりそうな情報を入手しましょう。
居酒屋の開業だからといって同じ飲食業界の情報だけを集めるのではなく、例えば美容業界やファッション業界などの異なる業界に目を向けると、思わぬところでアイディアとしてつながることがあります。話題を集めている店舗の成功事例などを参考にしながら、多くのヒントを探っていきましょう。
2.「7W2H」の視点からコンセプトを考える
コンセプト作りには、「5W1H」ならぬ「7W2H」の視点が有効だといわれています。コンセプト作りに活かせる「7W2H」の視点とは何か説明していきます。
「Why」なぜ(何のために)居酒屋を開業するのか
居酒屋に限らず、あらゆる分野の開業にあたって、曖昧な動機で開業すると失敗につながるケースが多く見られます。自分が現在持っている動機が「おいしいものが好きだから」などとなんとなく曖昧だと思ったら、その動機についてさらに「なぜおいしいものが好きなのか」と「Why」文を作って自分に質問していきましょう。質問を繰り返していくことで、最終的にいきついた答えが自分の最も求めている価値観であり動機であることに気づくことができます。
「Where」どのエリア・立地で店舗を構えるか
立地の検討は居酒屋の開業にあたって重要な要素です。例えば、高級住宅街や車でしか行けないようなエリアに出店しても、居酒屋がターゲットとするような客層を獲得するのは難しいといえます。
自店で提供するメニューや価格帯と照らし合わせながら、どのような立地が向いているか検討していきましょう。「若者が集まるエリア」というような抽象的なイメージではなく、どの駅から徒歩何分かかり、どのような若者が何の目的で何を交通手段として利用するエリアかなどといったより具体的なイメージを用いるとよいでしょう。
「What」どのようなメニューを提供するのか
メニューの検討では、内容や価格など具体的な設定を考えます。料理の種類やドリンクの数だけでなく、どのような調理法を用いるか、産地はどこを選ぶか、原価率はどのくらいになるかなど、後述するターゲット層に合わせて明確に検討しましょう。材料のこだわりや強みを具体的に知ることで、それが自店のコンセプト作りにつながることにもなります。
「When」いつ開業するか
「いい物件が見つかったら」「いい人材が集まったら」と待つ姿勢でいるのではなく、計画的且つ的確に進めるためにはっきりと開業日を決めて、決めたからにはその日に向かって着実に進んでいきましょう。「開業するんだ」と覚悟を決めることで、物件探しも本気になって動けるものです。
「Who」誰と一緒にやるか
居酒屋を運営するには、自分一人では進めていくことはできません。社員とアルバイトを何名雇えばうまく居酒屋をまわすことができるか、ホールと調理場にどのようなタイプの人材がふさわしいか、顔や雰囲気、性格など具体的にイメージしてみましょう。
「Whom」どのような客層をターゲットにするか
立地や価格帯にも反映できるのが、ターゲット層の選択です。例えば30〜40代の会社員で客単価(顧客一人が一度に支払う金額)は3,000〜4,000円、仕事帰りを狙った18時開店〜ラストオーダー23時など、どのような客層が多く利用するかを具体化することで、それに見合った立地や価格帯も決めることが可能です。
「Which」どれを看板メニューにするか
「What」で考えたメニューの中で、どれを看板メニューとするかを検討しましょう。居酒屋であれば、ドリンクとフードのお得なセットメニューや、平日限定のメニュー、ランチメニューなど複数のシーンでの看板メニューを考えます。
食材の産地や価値、価格帯、SNSで使ってもらえそうなインパクト感などをコンセプトと合わせて考えながら、なぜこのメニューを看板とするのかを利用客から問われたときにはっきりと伝えられるように明確化していくとよいでしょう。
「How」どのように運営していくか
居酒屋を開業したあとで、どのように店舗を宣伝していくか、どのようにメニューを展開していくかという運営方法を考えます。宣伝については、自店の何が売りかを宣伝コピーとして言語化する以外にも、どのような手段で宣伝していくのか、広告宣伝の方法も検討していきましょう。自店の売りを言語化することは、メニュー作成や店舗名など全体的なコンセプトの軸となるので明確にしておくことをおすすめします。
「How much」開業資金・価格設定をどうするか
開業資金の検討は、工事費、設備費、運転資金、家賃など多岐にわたります。家賃は立地や店舗の大きさによって大幅に異なるので、入念に下調べを行い、しっかりとした資金計画を検討しましょう。
価格設定については、メニューの価格帯や仕入原価、仕入れ先、営業時間内に利用客が何回転するかなど、具体的に数値化することで、一日の売上げの見当がついてくるので、競合店を参考にしながら考えるとよいでしょう。
3.コンセプトシートでイメージを整理する
「7W2H」の考え方でコンセプトが明確になってきたら、「コンセプトシート」を使ってそのイメージを整理していきましょう。
コンセプトシートはテンプレートを用意しているWebサイトもありますが、手書きで作成することも可能です。まずは用紙の真ん中に、基本のコンセプトを書きます。その周りに、店舗を構成する8つの項目(立地と物件の内容、ターゲット層、利用客の来店動機、接客やサービスの内容、看板メニューや価格帯・品数、内装と外装、価格帯と支払い方法、販促方法)を用意し、それぞれに書き入れていきましょう。
書き入れる際には文章にするのではなく、「7W2H」の考え方で浮かんできたアイディアを箇条書きにするとわかりやすくまとまります。全ての項目を書き入れたところであらためて見直してみましょう。自分の理想とする全体像がわかる一方で、項目ごとの矛盾などもわかり、さらにブラッシュアップを重ねていくことで、基本思想となるコンセプトの精度がどんどん上がっていくことがわかります。
コンセプトを店づくりに活かすには
考え抜いた自店のコンセプトを店舗に活かすことで、利用客にもコンセプトが伝わり店選びもしやすくなります。コンセプトを店舗に活かすにはどのようなことが考えられるでしょうか。
コンセプトが伝わる外観にする
集客力があるとされる居酒屋は、利用客がエントランスや外観を見ただけでどのようなものを食べられるお店であるかわかるように作り込まれています。新鮮な魚が食べられるお店や、女性客でも気軽に利用できそうな雰囲気のお店など、店名やロゴ以外にも看板デザインや外装などで雰囲気を伝え、利用客に興味を持ってもらうことを意識しましょう。
パッと見ただけで、居酒屋であることやどのようなメニューを売りとしているかがわかれば、その場で来店することはなくても利用客の記憶に残ります。ふとした時に「あの通りに居酒屋があったな」と思い出して来店へとつながる期待も見込めるでしょう。
客席の雰囲気やレイアウトをコンセプトに合わせる
利用客が「また来てみようかな」と思えるように印象に残る店舗にするには、メニューやコンセプトに合わせた空間作りも必要です。和風がコンセプトであれば、アットホームな雰囲気を醸し出す座卓や掘りごたつを設置したり、大衆向けのコンセプトであれば、気軽に利用できるように開放感のある広々とした雰囲気を強調したりするなど、空間とコンセプトを合致させることが重要です。
明るい印象の外観にもかかわらず、店内が暗くて静かな雰囲気であれば、コンセプトが噛み合っていません。また、静かな雰囲気を求めて入店を決めたのに、会話が聞こえないほどに
大音量の音楽が流れていれば、利用客が求めていたお店とは異なるため再来店にはつながらないでしょう。コンセプトとは集客のためのベースとなるものですので、外装も内装もコンセプトに合わせて考えることが重要となります。
コンセプトに特化した「コンセプト居酒屋」も増えている
近年、一つのテーマやコンセプトに特化した「コンセプト居酒屋」が増えています。テーマパークやお化け屋敷のような世界観の居酒屋からゲームが楽しめる居酒屋、タイプスリップしたような昭和風の居酒屋まで、種類はさまざまです。中には一つの食材だけに限定してメニュー作りをしているタイプの居酒屋もあります。
これらの形態に共通するのは、特定の世界観やメニューなどに限定することで、他店舗との明確な差別化を図れるというところです。普段使いの居酒屋には選ばなくても、話題作りとして一度は行ってみようということで利用客から選ばれるのであれば、集客効果としては充分であるといえるでしょう。
まとめ
今回は居酒屋開業にあたってのコンセプトの作り方について説明しました。コンセプトは全体を統一する基本思想です。さまざまな要素を検討する際に迷いが生じても、コンセプトに立ち返ることで何が重要であるかを再確認することができます。
さらに利用客にとっても、外観からコンセプトを知ることができれば容易に店選びをすることができ、価値観がマッチすれば再来店にもつながります。居酒屋開業を決意したら、最初にコンセプトを明確にし、実際の店舗開発へと進んでいきましょう。
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