「FLコスト」とは食材費と人件費を合計した費用を指し、飲食店経営において最終的な利益を左右する重要な要素の1つです。FLコストの重要性については理解しながらも「具体的な改善方法がわからない」や「業界別で異なるためわかりづらい」と感じる方も多いでしょう。
そこで本記事では、FLコストやFL比率に関する概要や目安、コントロール方法、その他の重要指標などについて詳しく解説します。
目次
FLコスト・FL比率とは?
飲食店の経営は「料理の質が良ければ必ず繁盛する」といった簡単なものではありません。安定的な経営をするには、コストに対する意識と管理によって利益を確保する必要があります。
意識や管理における重要な指標となるのが「FLコスト(エフエルコスト)」と「FLコスト比率(エフエルコストヒリツ)」であり、いずれも利益に直結します。ここでは、それぞれの意味や適正数値・計算式についてみていきましょう。
FLコストとは
FLコストのFは「Food(食材費)」、Lは「Labor(人件費)」を合計した費用を意味します。計算方法は次のとおりです。
- FLコスト=食材費+人件費
従業員を雇用し料理を提供することで売上をあげる飲食店においては、経費の大半が食材費と人件費で占めると言われています。そのため、FLコストをどれだけ抑えられるかによって、最終的に得られる利益が大きく変わります。飲食店の経営によって利益を得るには、FLコストの定期的な確認が欠かせません。
FL比率とは
飲食店におけるもう1つの重要な経営指標として「FL比率(FLコスト比率)」が挙げられます。FL比率とは、売上高に対するFLコストの割合を意味し、次の計算式で求められます。
- FL比率(%)=(食材費+人件費)÷売上高×100
どんなに売上があっても、FL比率が高すぎると利益は残りません。よって、安定的な飲食店経営にはFL比率の最適化がマストであり、経営戦略の軸として据える必要があります。
FL比率の適正数値
一般的にFL比率は「60%以下」が理想の数値とされます。具体的には「食材費24%~40%」と「人件費20%~35%」の合計60%以下が目安とされ、比率が60%を超えるとリスクを背負った経営状態と言われています。
例えば、月の売上高が300万円の飲食店の場合、食材費・人件費の比率をそれぞれ30%と仮定して、FL比率を60%以下に抑えると「材料費90万円」、「人件費90万円」が目安となります。ただし、提供するメニューや立地、ジャンルなどによっては、目安や理想値が多少異なります。
ここでは「利益率の高い店舗のFL比率」と「業態別に見る目安」について確認しましょう。
参考:飲食店経営に欠かせない、FLコストとFLコスト比率とは?業態ごとの適正値管理を解説|フーズチャネル
利益率の高い店舗のFL比率
利益率の高い店舗ほど、FL比率は低い傾向にあります。一方、小規模な飲食店でFL比率が60%を超えてくると利益が出づらい状況となり、最悪の場合は赤字となるケースも考えられます。
そこで、FL比率が低く利益率の高い店舗の状態を理解するためにも、比率別の特徴を表にまとめています。自社のFL比率を算出し、現在の状態を知るきっかけとしてみてください。
FL比率50%以下 | 超優良店と判断できる。食材費と人件費のいずれも高いレベルでコントロールできている状態。 |
FL比率50~55% | 優良店と判断できる。食材費と人件費のいずれもバランスがとれている状態。 |
FL比率55~60% | 一般店と判断できる。ただし、人件費のコントロールができていない可能性が高く、改善の余地がある状態。 |
FL比率60~65% | 危険店と判断できる。食材費と人件費のいずれもコントロールできておらず、赤字転落の可能性がある状態。 |
FL比率65%以上 | 超危険店と判断できる。現在のままでは経営破綻がいつ起きてもおかしくない状態。 |
参考:飲食店のFL比率・FLコスト(食材費・人件費)・営業利益率の目標値は?~経営指標解説|CASIO HANJO TOWN
業態別に見るFL比率の目安
FL比率は60%以下が理想とお伝えしました。ただし、比率は業界や業態によって微妙に異なります。
そこで、各業界におけるFL比率の目安を表にまとめました。自身の店舗が属する業態の特性に合わせ、FL比率60%以下をぜひ目指してみてください。
業態 | F(食材費) | L(人件費) |
---|---|---|
焼肉屋 | 40% | 20% |
ラーメン屋 | 30~35% | 25~30% |
居酒屋 | 28~35% | 25~32% |
ファストフード | 40%~45% | 20%~25% |
レストラン | 31~35% | 27~29% |
カフェ | 24~35% | 25~36% |
参考:飲食店経営においてFLコストの管理なしに成功はない!大切なことを解説します!
参考:飲食店経営に欠かせない、FLコストとFLコスト比率とは?業態ごとの適正値管理を解説|フーズチャネル
それぞれのコストを目標値にコントロールする方法
業態別に見るFL比率の目安などを確認し、大きく乖離している状態であればすぐにでもコストダウンに取り掛かる必要があります。ただし「何から取り掛かればよいのかわからない」といった方も多いのではないでしょうか。
そこで「Food(食材費)」と「Labor(人件費)」におけるそれぞれのコントロール方法について詳しく解説します。
Food=食材費の管理方法
FLコストの「Food(食材費)」を下げる方法として、次の2つが挙げられます。
- 仕入れの原価率を下げる
- 廃棄ロスや一品にかける材料費を減らす
食材費は業態によって目安が変わるものの、これらはどの業種においても削減を目指せる要素ばかりです。ここでは、各方法の詳しい内容を解説します。
仕入れの原価率を下げる
食材の原価率が下がれば、おのずとFLコストが下がります。手っ取り早い方法としては、食材を購入する場所の変更です。
具体的には「業務用食材店で食材を購入をする」や「農家と直接契約をして仕入れる」などが挙げられ、それほど手間もかからず取り組めます。ただし、食材を購入する場所の変更によって食材の原価を下げ、原価率を下げることができたとしても料理の質を落としてしまうと、客離れを引き起こす可能性があるため注意が必要です。
廃棄ロスや一品にかける材料費を減らす
食材の廃棄ロスを減らすことは、FLコストの低下に直結します。飲食店において廃棄される食材の例は次のとおりです。
- 鮮度の劣化や期限切れとなった食材の廃棄
- お客様の食べ残し
- 調理師の育成に使った食品
なかでも、コントロールしやすいのは「鮮度の劣化や期限切れとなった食材」です。例えば、鮮度の劣化による廃棄を防ぐには「生で提供する野菜や魚を焼き物や煮物に転用する」など、調理方法・メニューの変更で対応できます。
そして、食材の鮮度や状態は消費期限内、賞味期限内であっても管理状況によって大きく変わってきます。そのため、発注のタイミング・仕入れ先などの工夫をして、期限切れの食材を減らすことや適切な管理の徹底をするようにしましょう。
また、食材費の管理方法では、扱う食材の「品数」を抑えて、一品にかける食材費を削減することも重要です。例えば「食材の種類を絞って調理方法や味付けでメニュー数を増やす」や「鮮度が劣化した場合の転用方法を考える」といった取り組みによって、品数の削減を見込めます。
Labor=人件費の管理方法
FLコストの「Labor(人件費)」を下げる方法として、次の2つが挙げられます。
- 従業員・アルバイトのシフト
- 機械やシステムの導入
人件費の削減において重要なポイントは「作業効率」です。ただ人を減らすのではなく、効率のよい働き方を追求しながら取り組まなければなりません。ここでは、管理方法ごとの詳しい内容をみていきましょう。
従業員・アルバイトのシフトを適正な数に調整
人件費を抑えるには、売上など現状に即した形で従業員やアルバイトのシフトを適正な時間・数に調整する必要があります。ただし、調整する際は過去の売上や人件費などデータを細かく分析し、根拠を持って見直すことが重要です。
例えば、過去のデータを遡ると時期や時間帯によって来店客の数に大きな差があるケースも少なくありません。取得したデータをもとに来店予測を立て、シフトの人数を増減させるのも有効な方法の1つです。また、来店数が少ない曜日は店休日にしたり、営業時間を短縮したりといった根本的な見直しも検討しましょう。
ただし、人件費の削減に力を入れるがあまりに従業員の負担となるような施策をとると、返って雇用が安定しなくなる可能性もあります。また、従業員の採用に関して、募集などで人件費が発生するため、同じ従業員を長期間にわたり雇用できることが望ましいでしょう。
機械やシステムの導入
前述の通り、人件費の削減には「作業効率の向上」が欠かせず、新たな機械やシステムの導入は高い効果を期待できます。たとえば「セルフオーダーシステム」「自動券売機」「お水のセルフサービス化」といったシステムや仕組みの導入は、人件費の削減に直結します。
また、調理に関わる作業の機械化も検討してみてください。「自動調理器」「業務用スライサー」「食洗器」などは人件費の削減はもちろんのこと、料理の品質安定や安全性の確保も期待できます。
デジタル化とセルフオーダーシステムについては、それぞれの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
FLコスト以外に飲食店経営において重要な指標
ここまで、飲食店経営において重要な指標としてFLコストやFL比率に関する内容を解説しました。FLコストやFL比率と同様に重要な指標として、次の2つが挙げられます。
- 営業利益率
- FLRコスト(Rent=家賃)
営業利益率とFLRは、いずれも利益に直結する指標であり、安定的な飲食店経営に欠かせません。それぞれの詳しい内容を解説します。
営業利益率
営業利益率とは、売上高に対する営業利益の割合です。営業利益は、粗利から経営活動で生じる費用の「販売管理費」を引いた金額を意味します。飲食店における営業利益率の平均は「約8%」とされ、中には「30%」という高い営業利益率を誇る飲食店も存在します。
営業利益率を高めるには、食材費や人件費はそのままに売上を高めるような施策が必要です。「高級感を出して単価を上げる」や「盛り付けによってお値打ち感を高める」といったお客様の満足度を上げながら食材費や人件費をコントロールできるアイデアを検討してみてください。
FLRコスト(Rent=家賃)
FLに賃料を示す「R(Rent)」を加えた「FLRコスト」も重要な指標の1つといえます。FLRコストの算出方法は次のとおりです。
- FLRコスト比率(%)=(食材費+人件費+賃料)÷売上×100
飲食店経営で必ずといっていいほど生じる家賃は、売上の増減に関わらず毎月発生します。そのため、FLコストを削減できたとしても賃料が高すぎると「想定していたよりも利益が残らない」といった事態にもなりかねません。
一般的にFLR比率は「約70%」が目安とされ、すなわち賃料の比率は「約10%」に抑える必要があります。よって、これから飲食店を始める方は、物件の契約前にFLRコストを事前に算出することをおすすめします。また、すでに飲食店経営を始めている場合、FLRコストの値によっては家賃交渉や店舗移転などの検討も必要です。
参考:飲食店のFLコストとは~FL利率や営業利益率の重要性を知って経営をスムーズに|POS+(ポスタス)店舗運営お役立ち情報
まとめ
飲食店の安定的な経営に欠かせない「FLコスト」の管理。変化が著しい飲食店業界においては、まず「FLコスト60%以下」を前提の目標値として、強靭な経営基盤を築く必要があります。
現在「FLコストをあまり気にしていない」や「目標値との大きな乖離がある」といった場合は、すぐにでも「Food(食材費)」と「Labor(人件費)」のコントロール方法を見出し、実践することをおすすめします。
また「FL比率」や「FLR比率」などを定期的に確認できる環境をつくり、自社を取り巻く変化にいち早く気付ける状態をつくりましょう。
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