飲食店の経営において、食材や消耗品などの在庫を適切に管理できる仕組み作りは重要です。在庫管理を蔑ろにしているとコストがかさんだり、衛生面のリスクが高まったりといった事態にもなりかねません。

そこで、当記事では飲食店の経営における在庫管理の重要性や導入方法、ツールなどについて詳しく解説します。

飲食店にとって在庫管理が重要な理由

飲食店において在庫管理が重要となる理由として、次の2つが挙げられます。

  • 食材などの仕入れコストを必要最小限に抑えることができる
  • 食品ロス防止や衛生面の対策につながる

いずれも、飲食店の経営において欠かせない要素です。ここでは、それぞれの詳しい内容について解説します。

食材などの仕入れコストを必要最小限に抑えることができる

在庫の正確な管理は、仕入れを原因としたコスト高騰や廃棄食材の抑制につながります。また、仕入れが不足したことによる機会損失の発生も防げるでしょう。さらに、食材だけでなく割り箸や洗剤といった消耗品類の適切な在庫管理も、同じくコストダウンや機会損失の回避といった効果を期待できます。

食品ロス防止や衛生面の対策につながる

適切な在庫管理は、衛生面の対策にもつながります。食材の消費期限の管理が正確にできていることで、傷んだ食材を誤って使用するリスクが抑えられます。また、消費期限の細やかなチェック体制が整っていれば、廃棄処分になってしまう食材を減らすことにも繋がるでしょう。

在庫管理の徹底により食品ロスの防止を実現できていることをアピールして評判が広がれば、お客様からのイメージアップも期待できます。

飲食店における在庫管理の手順

適切に在庫を管理するには、正しい手順を覚えルール化する必要があります。ここでは、飲食店における在庫管理の手順を次の3つに分けて解説します。

飲食店における在庫管理の手順
  • 在庫状況の整理
  • 適正在庫の把握
  • 棚卸

手順ごとの詳しい内容についてみていきましょう。

在庫状況の整理

今はまだ適切に在庫管理ができていないという店舗の場合は、在庫の整理から取り組み現状の把握から着手しましょう。特に、食材の場合は在庫量だけでなく「消費期限(シェルフライフ)」と「賞味期限(ホールディングタイム)」を同時に確認する必要があります。

適正在庫の把握

在庫状況の整理ができたら、季節や天候などを考慮した過去のデータから、月・週・日と適正在庫量を把握しましょう。「いつ」「どのくらい」「どのようなタイミングで」など、食材を実際に使用する時期や量を基準に、必要な在庫数を割り出します。また、食材や消耗品ごとに「消費するペース」や「鮮度を保てる時間」なども考慮しながら、適切な在庫量を検討しましょう。

なお、想定よりも多くの売上があがると在庫切れを起こす可能性も考えられます。そのため、予備在庫も含めて店舗にとって適正な数を定めることが大切です。

棚卸

棚卸は、実際の在庫数を数えて現状を把握することで、最新の在庫数を更新するために欠かせない作業です。適正在庫を把握するためにも、月に「1〜2回程度」の頻度で定期的に実施する必要があります。

また、棚卸を通して消費傾向の変化を可視化できるので、在庫ロスや機会損失を減らしやすくなります。さらに、棚卸しの際は在庫数の確認だけでなく、衛生状態や保管方法も併せて確認してみてください。

在庫管理を効果的に行うポイント

在庫管理をより効果的に行うには、次のポイントを押さえておきましょう。

在庫管理を効果的に行うポイント
  • 在庫管理手順の明確化(マニュアル化)
  • 定期的に棚卸を行う
  • 保管場所を固定して管理する
  • 先入れ先出しを徹底する
  • 在庫管理表や棚卸表を用意する
  • 在庫管理を売上分析(ABC分析)に活用する

これらのポイントをルールとして定めて従業員にも徹底することで、より在庫管理の精度を高められるでしょう。ここでは、それぞれの詳しい内容について解説します。

在庫管理手順の明確化(マニュアル化)

在庫管理の精度を高めるためには、手順を明確にし、スタッフ全員が共通の認識を持てるようにマニュアルに落とし込むことが大切です。例えば、「アイテムごとの確認項目」や「発注スパン」などをマニュアル化することで作業が平準化され、実施者の違いによる差が生じにくくなります。

定期的に棚卸を行う

棚卸を定期的に行うことで、在庫に関連する正確なデータを得られます。集計期間が統一されていないと数字にブレが生じてしまい、得られるデータの信憑性も低下します。

また、売上に対する直接的な原価の割合を表す「原価率」や売上から製造原価を差し引いた「粗利額」などを把握するためにも、月初や月末といった特定の日に実施するのがおすすめです。

保管場所を固定して管理する

保管場所をアイテムごとに固定すると、より在庫管理がしやすくなります。たとえば、肉や魚、野菜、果物といったように食材の種類で区分すると確認すべきポイントがわかりやすくなり、人為的なミスの減少にもつながるでしょう。

異なるカテゴリーの食品同士が接触しないように保管場所を区分して、在庫管理の簡素化と衛生面の対策につなげましょう。

先入れ先出しを徹底する

先入れ先出しの徹底は品質管理のうえでも重要なポイントの1つです。

先入れ先出しとは、古い食材から先に使用する方法を意味します。先入れ先出しをルール化できると古い食材から消費できる仕組みができるため、鮮度の維持にも効果的です。

また、食材を取り出す際の手間を減らすような工夫を取り入れることで、ルールを徹底しやすくなります。具体的には「食材ごとに決まった位置に置く」ことや「使用頻度の多い食材を近くに配置する」などが挙げられます。

さらに、期限や鮮度などを一目見てわかるようにラベリングシールを貼るのも有効な方法の1つです。

在庫管理表や棚卸表を用意する

在庫管理の内容を記録する方法として、数量や金額などを一覧にして記入する「在庫管理表」や「棚卸表」などがあると便利です。在庫管理表や棚卸表を用意すれば管理すべきアイテムや消費期限などが明らかになります。

また、在庫管理表や棚卸表に記録することで、スタッフ間での在庫状況の共有もしやすくなります。継続的に使用すればデータとして蓄積され、適正在庫を検討する判断材料の1つとしても役立てられるでしょう。

在庫管理を売上分析(ABC分析)に活用する

在庫を把握して管理することは過去から現在の実績を可視化するだけでなく、今後の在庫の動きを予測するうえでも役立ちます。

在庫管理を売上分析に使用する手法の1つに「ABC分析」があります。ABC分析とは売上高をベースにアイテムをカテゴリ・グループ分けする方法です。

まずは、使用する食材などの売上高を算出します。次に、売上が高い順番に並べ替えましょう。上位から累積額を計算し、A、B、Cのグループに分けましょう。グループごとにルールを決めて在庫管理をすると確認頻度や発注頻度をおおまかにまとめられます。

具体的には、売上構成比の高いAグループは「常に欠品しないように意識する」、Bグループは「定期的に発注する」、Cグループは「在庫が切れたら発注する」といったように区別できます。

ABC分析をはじめ、飲食店で活用できるさまざまな分析方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

飲食店の売上向上のヒントとは|ABC分析など売上の分析方法を解説

在庫管理を効率化する方法

在庫管理にはある程度の時間と手間がかかるのも事実です。ここでは、在庫管理を効率化する方法として、次の3つをご紹介します。

在庫管理を効率化する方法
  • 在庫管理表をデジタル化する
  • 在庫管理システムを活用する
  • 在庫管理アプリを活用する

それぞれの詳しい内容について解説します。

在庫管理表をデジタル化する

在庫管理表は、Microsoft社が開発して販売する表計算ソフトの「Excel」などを利用してデジタル化すると、計算などを簡素化できます。表を自作するにはある程度のスキルが必要になりますが、インターネットで無料配布される在庫管理表のテンプレートを活用するとより気軽に導入できるでしょう。

ただし、在庫管理表のテンプレートを活用する際はセキュリティ面での配慮も必要です。提供先が不明なサイトからテンプレートをダウンロードすると、ウイルスなどに感染する危険性もあるので注意しましょう。

在庫管理システムを活用する

在庫管理システムを活用すれば、在庫管理に関する作業を全体的に効率化できます。システム導入によって、在庫量のリアルタイム監視や入力作業の簡略化などさまざまな効果を期待できます。

ただし、月額使用料などが発生することもあるため、Excelによる管理よりもコストがかかる可能性があります。さらに、導入したシステムを従業員が使いこなせるようになるまでの教育にもコストが生じるかもしれません。

そのため、使える機能や総合的なコストが店舗に見合っているかよく吟味して導入しましょう。マニュアル作成や研修などを仕組み化し、教育期間短縮の工夫をするなど、システム以外の部分でコストを抑えるのもよいでしょう。

在庫管理アプリを活用する

在庫管理アプリは、その名の通りスマートフォンやタブレットなどで利用できるアプリ型の在庫管理システムです。スマ―トフォンやタブレットを普段から使い慣れている人であれば直感的に操作しやすく、スムーズに導入できる可能性があります。

また、アプリは在庫管理システムと同様の機能を備えながらも、リーズナブルな価格設定のサービスも存在します。使用できる機能はアプリごとに異なるため、自社の実情に沿っているかを確認しながら導入を検討しましょう。

なお、セキュリティ面のチェックも重要です。アプリを提供する会社の信用度も併せて確認しておきましょう。

まとめ

飲食店において在庫管理を徹底することは、食材などの仕入れコストを抑えるのはもちろんのこと、食品ロス防止や衛生面の対策につながります。経営者や管理者だけでなく、従業員全員が同じ認識を持って在庫管理に取り組むことが大切です。

今回ご紹介した在庫管理のポイントを参考に、必要に応じてルール化やシステム導入を検討して、効率的に在庫管理を行える体制を整えていきましょう。

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