飲食店の経営において、1店舗目が順調に落ち着いてくることで、複数店舗の展開も視野に入ってくるでしょう。しかし、初めての複数店舗展開の場合、どのようなメリットとデメリットがあるのか、どのような対策が必要なのかということも詳しく知っておく必要があります。
そこで今回は、飲食店における複数店舗経営でのありがちな失敗と対策について紹介します。
飲食店が複数店舗を展開するメリット
はじめに、飲食店において複数店舗を展開するのにはどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
- 売上の拡大
- リスク分散
- コスト削減
- 従業員のモチベーション向上
売上の拡大
1店舗だけでの運営よりも、複数店舗での運営のほうが売上は拡大しやすくなります。また、1店舗だけでは立地や客層によって売上にも限度が生じてしまいますが、異なる立地や客層を持つ店舗が複数あることで1店舗だけでは得られなかった新たな可能性が広がっていきます。
リスク分散
1店舗だけの展開では、その店舗の売上の良し悪しがダイレクトに経営に反映されてしまいますが、複数店舗を展開していくことで、1つの店舗の売上が伸びない場合でも他の店舗の売上と相互に補っていくということが可能です。売上減のリスクを少しでも分散させることで、より安定的な経営が期待できます。
コスト削減
食材やその他の飲食に必要な材料を仕入れる場合、大量仕入れであるほうが原価を低く抑えることができます。複数店舗を展開した際には、店舗ごとではなくまとめて仕入れることによりコスト削減はもちろんのこと、仕入れの量が増えることで仕入れ先との関係性構築にもつながりやすくなり、今後のさまざまな交渉や仕入れの融通がききやすくなるなどのメリットも期待できるでしょう。
従業員のモチベーション向上
複数店舗の展開になることで従業員数が増加し、店長などの役職も複数必要となります。従業員にとって入社してから役職につくまでの道筋が明確であれば、キャリアアップに対するイメージがつきやすくなり、モチベーションの向上になります。さらに複数店舗の展開が安定し売上がアップしていけば、役職手当などの待遇面に反映させることもできるので、従業員の労働意欲向上にもつながるでしょう。
飲食店が複数店舗を展開するデメリット
飲食店の複数店舗展開では、デメリットについても把握しておかなければなりません。ここでは、複数店舗を展開する際のデメリットについて説明していきます。
- リスクが大きい
- 経費が増える
- 人材の育成や確保が難しい
- 各店舗の質の管理が難しい
リスクが大きい
1店舗目と同様に、複数店舗の展開をはじめるにあたっても、土地や建物の手配だけでなく、設備の手配、人材の確保など、多額の資金が必要となります。そのため、2店舗目の展開に万が一失敗してしまった場合、状況によっては1店舗目の経営にも影響がおよび、店舗の閉店などの最悪の事態につながることも考えられます。
多額の費用がかかること、大きなリスクがはらんでいることを踏まえ、現在の状況や複数店舗を展開しようとするタイミングなどさまざまな方向に注意を払うことが重要です。
経費が増える
複数店舗になることによって、コストを抑えられるメリットがある反面、家賃や人件費をはじめとしたさまざまな経費が増えていくことも理解しておかなければなりません。経費が増えるということは、複数店舗での売上も上げていかなければ維持は難しいでしょう。また、かかる税金や維持費などは店舗が増えるにつれ複雑化していくということも考慮し、管理方法のシミュレーションなども必要です。
人材の育成や確保が難しい
1店舗目では従業員数が限られているため人材管理は複雑ではありませんでしたが、複数店舗の場合、人材管理が難しくなります。特に2店舗目の展開は複数店舗運営がはじめてということもあり、予測をたてて効率よくシフト管理をしなければ、人手が足りないということも考えられます。複数の店舗に同一の従業員を回す際にも、従業員同士のコミュニケーションが足りずに問題が生じたり、交通費がかさんでしまったりなど、これまでになかった配慮が必要になります。
また、店舗ごとに配置する店長の人選などの人材育成についても考慮しなければ、店長が不在の際にお店が回らなくなるという問題も生じてしまいます。
各店舗の質の管理が難しい
複数店舗を展開していくうちに、人材育成が足りなかったり、店舗ごとの従業員のスキルの差が大きかったりすることで、各店舗のサービスの質を同様に保つことは難しくなります。また、店舗が増えたことですべてに目が行き届かなくなり、ミスの発生や問題点に気づくのが遅れ、最終的には売上に影響してしまうということも考えられるでしょう。
複数の店舗にサービスの質の差が生じないようにするためには、徹底したマニュアル化を進めるという対策が重要になります。
2店舗目の出店を考える適切なタイミングとは?
複数店舗経営のメリット・デメリットを把握し、いよいよ2店舗目の出店に挑戦しようかと考えている場合、どのようなタイミングで出店を進めたらよいのでしょうか。ここでは2店舗目の出店を考える適切なタイミングについて紹介します。
十分な利益が上げられているか
最初の出店と同様に、2店舗目の出店というのは多額な資金を必要とします。そのため、1店舗目の経営がまだ安定していなかったり、十分な利益をあげられていなかったりする状態では、2店舗目の出店というのはリスクが大きいと考えられます。
また、資金を調達するために融資を受けようと考えている場合も、現在の1店舗目の経営状態が大きな判断基準となり、融資が受けられない可能性も考えられるでしょう。仮に融資を受けることができたとしても、その後の返済自体がかえって負担になってしまうこともあります。
店舗を任せられる人材が育っているか
1店舗だけの経営であれば、経営者である自分自身の目も行き届きやすく、店舗管理を行うことも可能ですが、2店舗目となると遠隔地であればなおさら十分に管理することは難しくなります。そのため、従業員を店舗管理者として配置することも必要になってくるでしょう。
1店舗目のときからの人材育成が順調に進んでいれば、その中から適任者を見つけることが可能ですが、適任者が見当たらないとなると、いずれの店舗も同様のサービスの質を保つことができなくなることも考えられます。そうなると、それまで適切なサービスの質を保ってきた1店舗目に対しても評判が落ちてしまい、複数店舗経営自体の失敗になりかねません。2店舗目を確実に任せられる人材の確保が重要です。
ノウハウが揃っているか
1店舗目の経営が順調に進んだら、どのような理由から順調であるかをリスト化して明確にしてみましょう。そこであげられた理由そのものが経営ノウハウとなり、2店舗目の出店時におおいに役立つことになります。お店のコンセプトや内装、メニューなどをそのまま2店舗目にも反映させることで、それらを今後の複数店舗展開時のブランドイメージとして定着させていくことも可能です。
ただし、2店舗目の出店地域やターゲット層が異なれば、1店舗目での経営ノウハウをそのまま活用することはできません。競合の有無や周辺地域の特性といった市場調査を重ねて新たな経営ノウハウとして蓄積していきましょう。
十分な資金が用意できるか
先にも紹介したとおり、複数店舗の出店は十分な資金が必要です。資金の確保ができなければ当然出店はできませんし、2店舗目を出店できたからといって必ずしもその店舗が順調に黒字になるという保証もありません。
今後2店舗目だけでなく、複数店舗経営を視野にいれているのであれば、先に十分な資金の確保ができるかという目星をつけておきましょう。2店舗目の出店後にどの程度までの赤字なら対応できるのか、出店を決意した時点で明確な撤退基準を定めておくことが重要です。それにあわせて、資金の融資が必要になった場合のために具体的な事業計画書の作成も行っておくことがおすすめです。
飲食店の多店舗展開時にありがちな失敗と対策
飲食店が複数店舗を展開する際に起こる失敗としてどのようなものがあり、どのような対策が必要なのでしょうか。最後に、飲食店の多店舗展開時にありがちな失敗と対策について説明します。
損失の穴埋めとして2店舗目を出店してしまった
ここでの失敗例は、最初の出店が順調に進まずに赤字状態になっているにもかかわらず、2店舗目を出店すればその売上から補てんできるはず、という安易な理由で2店舗目を出店してしまうというケースです。1店舗目が順調に進んでいないということは、成功できる経営ノウハウが構築されていないことが明らかであり、2店舗目の成功の確率はかなり低いと考えられます。何より先に1店舗目の売上を伸ばして経営を安定させることが最優先であり、そこから経営ノウハウを蓄積していくことが大切です。
立地選びや物件選びを間違えてしまった
1店舗目の経営が成功し、売上も順調に伸びていることを確信して2店舗目を出店したとしても失敗するケースもあります。その理由のひとつが立地選びや物件選びです。
1店舗目で成功したからといって、そこでのコンセプトやメニュー開発、外観・内装などをそのまま別の地域に活用しても、出店地域の市場や競合店、ターゲット層などの外部要因が異なれば、必ずしもうまくいくとはいえません。1店舗目での成功要因を明確化し、異なる地域であってもなるべく共通するような条件の立地や物件選びを行いましょう。その場合でも、できる限り各店舗が協力しあえるように、往来が難しくならない程度の距離の地域を選ぶことも大切です。
1店舗目とは違う店として出店してしまった
2店舗目の出店を決意して立地選びまで進んだものの、その周辺に競合店が多かったために、1店舗目とはまったく異なる形態の店を出店してしまったというケースもあります。
せっかく1店舗目の経営が順調に進んでいるにもかかわらず、まったく異なる形態のお店を出店したのでは、それまでの成功した経営ノウハウを活かすことができず、結果として失敗につながることも考えられます。それは経営に限らず人材育成にもいえることで、1店舗目との形態が異なることでそれまで育てあげた人材がうまく活用できなくなることもあります。
1店舗目で得られた成功への経営ノウハウを無駄にしないためにも、できる限り同様の形態の店舗で同様のサービスを提供することが順調な複数店舗経営にもつながるでしょう。
2店舗目の赤字により1店舗目の経営も苦しくなった
ここでの失敗例は、2店舗目が順調に進まずにその赤字によって1店舗目の経営にまで影響がおよんでしまうケースです。
1店舗目が順調だからといって2店舗目もすぐに軌道にのるという確証はなく、安定するまでには時間がかかります。しかも、いつかは売上が伸びるはずだと時間を長くかけたところで必ず売上がアップするわけでもありません。
先にも説明しましたが、せっかく成功した1店舗目まで赤字の影響を受けることのないように、2店舗目の赤字がどの程度までなら耐えられるのか、あらかじめ明確な撤退基準を定めておくことが重要です。
まとめ
今回は、飲食店の複数店舗展開におけるメリットやデメリット、失敗例と対策について紹介しました。
1店舗目が順調に進んでいるからといって、何も対策や知識を得ないまま2店舗目を出店しても成功するのは難しいものです。複数店舗展開を視野に入れた時点で、十分な資金の確保や融資の準備といった経営面の確認、1店舗目が成功した理由を経営ノウハウとして蓄積させること、店舗運営を任せられる人材の確保など、念入りな準備が必要です。
2店舗目出店後に万が一順調に進まない場合でも、せっかく成功した1店舗目に影響が出ないように、どの程度の赤字まで対応できるかという撤退基準は必ず定めておきましょう。
自身の複数店舗経営ができる限り成功に結びつくように、思い立った時点から準備をはじめておきましょう。
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