「棚卸し」は、企業のなかで行う確認作業のひとつですが、新社会人や棚卸し自体をしたことがないという人にとっては馴染みがありません。今回は棚卸しの具体的な意味や行う目的、さらに効率的に棚卸しを行う方法なども解説します。

棚卸しとは

「棚卸し」とは、小売店の販売商品・製品あるいは企業で使う消耗品といった物品の在庫数量を確認する作業のことです。物品の数が帳簿上と合っているかを確認するのはもちろん、物品の劣化や寿命、材料となる物の質・状態などを調査することも棚卸しに含まれます。

棚卸しの対象となるのは、以下の通りで「棚卸資産」とも称されます。

●販売を目的とする商品や製品
●仕掛品や原材料といった製造に必要な物
●事務用品や燃料など貯蔵している消耗品

棚卸資産の把握は企業が保有している資産評価にもつながるため、会計上の節目となる期末に行われることが多いです。

なぜ必要?棚卸しを行う理由や目的

作業内容としてはシンプルに聞こえる「棚卸し」ですが、以下では実際に行う理由や目的をさらに深堀していきます。会計担当者だけでなく、棚卸しとは実際に関わりのない方も、一度作業の重要性を確認しておきましょう。

なぜ必要?棚卸しを行う理由や目的
  • 正確な利益を把握するため
  • 在庫を適切に管理するため
  • 在庫状況を正しく知り、リスクを避けるため

正確な利益を把握するため

棚卸しを行う大きな目的のひとつとして、企業の正確な利益を把握することが挙げられます。一見、利益と在庫品の確認は直結しないように思われるかもしれませんが、商品・製品の総売上利益の算出には在庫が必要です。

企業で売ったひとつの商品のみに焦点を当てて例を出すと、商品の売上総利益は「売上総額−仕入れ総額−在庫」で計算できます。そのため、棚卸資産によっては数だけでなく単価を出して金額の計算もしなければいけません。

同じ売上数だとしても在庫の数によって利益の額が変動するため、正確な利益の把握には正確な資産把握をする必要があります。したがって、資産評価を行う棚卸しの作業は財政管理や健全な企業運営においても重要です。

在庫を適切に管理するため

在庫を適切に管理することも棚卸しの目的のひとつです。多くの企業では、商品や消耗品などの在庫数は、販売して減ったり、補充して増えたりと変動するたびに帳簿をつけて管理をします。

帳簿記録は「膨大な量・期間になっている」「手書きや手打ちで管理している」などの理由からミスが起こる可能性もあります。棚卸しによって帳簿と在庫の違いがわかった場合は、原因究明して在庫管理業務の見直しや改善につなげていきましょう。

また、売れ行きが悪い品の「滞留在庫」や未使用が長く続いたり保管環境の悪さによって生まれた「不良在庫」なども洗い出せます。棚卸しによって見通せるようになった商品の動きや状態を加味して、仕入れの量や品目の見直しを行うことも大切です。

在庫管理のポイントについては次の記事でも解説しているので参考にしてみてください。

在庫管理のやり方を一から解説|必要な知識やコツも紹介

飲食店における在庫管理|在庫管理の手順やポイントをわかりやすく解説

在庫状況を正しく知り、リスクを避けるため

棚卸しで在庫状況を把握することは、企業のリスク回避にもつながります。例えば、棚卸しを怠って在庫量を適切に把握できていないと、保管スペースや管理経費を圧迫する過剰在庫が生まれたり、長引いた保管によって品質劣化や価値の低下した在庫ができてしまいます。

特に販売商品の場合、在庫数の過多は長期間の保管が前提となってしまい、仕入れ値が回収しづらくなるだけでなく、品質の良い物を届けられずクレームの原因にもなりかねません。反対に、需要にあっていない過小在庫は販売機会の損失となる可能性があります。

資金繰りを上手に回すためには、在庫数を一定の水準に保つことが大切です。在庫の過不足によって利益の損失やトラブルを招かないように、棚卸しをして在庫状況を正しく知りましょう。また、適正在庫を維持するための方法を解説した記事もあります。

適正在庫とは?計算方法と維持・管理するポイントを計算例付きで解説

棚卸しの方法

棚卸しを行う目的や重要性に触れたあとは、実際に棚卸しを行う方法もさらっておきましょう。以下では、具体的な棚卸しの作業方法を紹介していきます。

棚卸しの方法
  • 実地棚卸し
  • 帳簿棚卸し

実地棚卸し

「実地棚卸し」は、棚卸しを担当する人の目視で保有している在庫の品目と数量を確認していく方法です。期末の棚卸しが必要な日だけでなく、正確な在庫状況や利益を把握・管理したい日にも行われます。

実物を見ながら確実に在庫を調査できる、品質や状態も確認できるといったメリットがありますが、場合によっては多くの時間や人員が必要、ヒューマンエラーが起こる可能性があるといったデメリットもあります。

具体的な実施の手順は以下の通りです。

1.在庫の品目、数量、所在場所、その他の情報(必要があれば単価や状態など)の欄を記載した棚卸し用のリストの準備
2.在庫数を数えてリストに記入
3.必要があればリストの情報を端末へ入力
4.過去つけていた帳簿数との照合・調整

在庫の品目が膨大であれば、担当をブロックごとに分けて行うのも時間短縮の手です。その他、数をカウントする人とリストに記入する人を分業して効率化を狙うなど現場の環境に適した作業方法を見つけましょう。また、数量の確認方法も「リスト方式」と「タグ方式」の2種類があります。

タグ方式

実施棚卸しにおける「タグ方式」は、品目や数量を記したタグ(札)を直接在庫品につけながら棚卸しをする方法です。タグの準備や記入、連番管理などの手間が多いですが、システムの準備などがいらない、現物ごとに先にカウントをするためミスが起こりにくいといったメリットがあります。

リスト方式

「リスト方式」は、在庫管理表など理論上の在庫数量を確認できるリストを用意して、実際の数と比較していく方法です。既にできあがっているリストが必須なため、帳簿管理を行っていることや在庫管理システムを導入していることが前提となります。作業時間が短く済む一方で、比較作業だと先入観でカウント漏れが起こりやすくなるので気をつけましょう。

帳簿棚卸し

実施棚卸しが、その時点での在庫数をすべて数えるのに対して、「帳簿棚卸し」では在庫の数を帳簿上で確認していきます。つまり、商品や消耗品を仕入れた数から売れた分、使った分などを差し引き、残りの数を在庫とカウントします。在庫の変動にあわせて記帳するためリアルタイムの在庫数がわかる、少人数で実施できるのがメリットです。

日々在庫管理を行っている企業や、システムを使っている場合は信頼性が高いですが、そもそも帳簿が実際の在庫数と合っていないと、ミスや差異を気づかずに棚卸しをしてしまうことになります。より確実に棚卸しを行うために実施棚卸しと併せて行うということも検討してみましょう。

棚卸しを行う時期と頻度


毎年度事業を営む会社においては、期末に決算書を作成するため少なくとも年に1回の棚卸しが必要です。正確な決算をするために、棚卸資産を適切に把握しましょう。

1回は最低回数であり、特に年間で棚卸しを実施する回数の規定はありません。企業によっては、「期首」と呼ばれる年度初めと、「期末」と呼ばれる年度末に行う場合や四半期ごとに棚卸しをする場合もあります。棚卸しの頻度を増やすと、初めに把握した在庫の状況と年度末の結果と比べることができ、より正確な利益を計算しやすくなります。

小売業や飲食業など、ある程度保管期限がある商品を常にストックする企業では、月1回の頻度で実施しているケースもあります。棚卸しは商品の数量や品質を適切に管理できる一方で、手間がかかるものなので、頻度は自社の状況や品目を考慮し、バランスを考えて決めるとよいでしょう。

棚卸し在庫の評価額を算出する方法


決算では、棚卸高とも呼ばれる「評価額」の算出が必要です。以下では、棚卸し在庫の評価額を出すための方法を紹介しています。

また、棚卸しの評価方法は、届出書を期日までに税務署へ提出し承認をもらう必要があります。届出をしなかった場合は、「最終仕入原価法」が法定の評価方法になるため注意しましょう。

原価法

原価法は、在庫品となる物を仕入れた際に支払った値段をもとにして、在庫金額を評価する方法です。原価法には、以下の表の通り、いくつかのパターンがあります。

最終仕入原価法 「最後に仕入れた商品の原価(仕入単価)」を棚卸資産の単価として計算する、多くの企業で採用されている方法です。各商品の棚卸し数量にそれぞれの最終仕入単価をかけて、金額を求めます。
時価の概念に近い方法で、物の受け払いをその都度記録する必要がないため、処理が比較的簡単というメリットがあります。
個別法 棚卸資産それぞれの仕入単価を管理する方法です。大量に仕入れる物の管理には不向きですが、宝石といった個別性が強いものや、価値の評価が一様ではない資産の評価方法に採用されています。
先入先出法 先に仕入れた資産から払い出しをしたと仮定して、取得原価を出す方法です。実際の仕入れ額に基づいた評価といえる点や、取得原価が実際の在庫実態に近い評価額になりやすい点がメリットといえます。価格変動や期末の仕入れ価格の影響には対応しにくいので注意しましょう。
総平均法 年または月に取得した棚卸資産の総額を、取得した総数量で割り、年または月当りの平均価格を求める方法です。平均単価に棚卸しの数量をかけて期末の資産を評価します。
市場価格の変動の影響を比較的受けにくい点や、計算がしやすい点がメリットです。
移動平均法 棚卸資産の仕入れのたびに平均単価を算出し、その単価を売上原価として評価額とするものです。メリットとして期末だけではなく期中でも棚卸資産の評価ができることが挙げられます。
売価還元法 販売総額に原価率をかけて棚卸資産の取得単価を求める方法です。比較的単純な評価方法で、最終仕入原価法と比べると価格変動時の実際の価格との差が開きにくい特徴があります。

低価法

原価法の評価額と期末における時価を比べ、より低い時価を採用して評価額を計算する方法です。

棚卸資産の価値は、商品の需要がなくなったり長期保管で品質が悪くなったりすると価値が下がることがあります。価値が落ちた棚卸資産をそのまま計上した決算書は、正しいものとはいえません。

棚卸資産の実態を適切に判断できるように、低価法による評価は税法でも認められているため、このケースの場合は届け出の承認を得て正しいものを出しましょう。他の評価方法に比べて時価評価は抽象的な方法ともいえるため、場合によっては税務上否認されるケースもあり、扱いには注意が必要です。

棚卸しを行う際の注意点

続いては、実際に棚卸しを行うときに注意する点を取り上げていきます。失敗がないよう注意しましょう。

棚卸しを行う際の注意点
  • 棚卸表は最低7年間は保存をする
  • 在庫数だけでなく品質も確認する

棚卸表は最低7年間は保存をする

企業は、棚卸しの結果を表に記載して、その棚卸しを実施した日から最低7年間保存しなければいけません。さらに平成30年4月1日以降の欠損金の生じた事業年度の棚卸し表は、10年間の保存が義務付けられています。

紛失や破棄をしないように、棚卸表の扱いにはよく注意しましょう。保管は一箇所にまとめる、担当が変わる場合は引き継ぎを忘れないといった配慮も大切です。

在庫数だけでなく品質も確認する

棚卸しを行う際は、数量だけでなく品質や状態もしっかり確認しておきましょう。在庫に破損や状態不良などがあり商品として販売できない場合は、経理上「損金」として処理できます。また、次の販売が難しい季節性・イベント性の高い商品や、型落ち品なども損金
扱いとなる可能性があります。発見次第、企業内で報告を上げましょう。

棚卸しを効率的に行う方法

棚卸し作業は、時間や人を要しやり方によってはさまざまな面で負担がかかってしまいます。以下では棚卸しを効率的に行うためのポイントを紹介していきます。

棚卸しを効率的に行う方法
  • ミスを防ぐための工夫をする
  • ルールを統一する
  • 実務を踏まえた計画を立てる

ミスを防ぐための工夫をする

棚卸し作業は、人間の目と手を使って行っていくため、数え間違いや入力ミスといったヒューマンエラーが起こらないとはいい切れません。企業内では予めミスを防止するための工夫を共有しておきましょう。

例えば、「見にくい場所の在庫品の所在を明らかにする」「外箱と中身はしっかり確認する」「転記・記入のミスがないようチェックする」「類似商品の品目の分け方を工夫する」「出荷・返品などの数値のダブルチェックを行う」など、作業ひとつにさまざまな対策が講じられます。実際にミスがあった場合は、それらを共有して改善できる工夫を行いながら棚卸し作業をアップデートしていきましょう。

ルールを統一する

担当する人によって数え方や記録方法が異なると、棚卸しのミスの引き金となります。棚卸しは、企業内で事前にルールを統一して共有しましょう。また、イレギュラーがあった場合などの対応方法もルールにあれば、勝手な判断や行動を減らすことにもつながります。

実務を踏まえた計画を立てる

特に、多くの人員が手作業で棚卸しを行う場合は、人為的なミスの修正にも時間と手間がかかります。棚卸し作業を行う時間に一部人員を割くことで、実際の業務に支障があってはいけません。

閑散時間帯を見計らう、業務時間外をあてる、棚卸し実施日は午後休業とする、といった企業の業務体制にあわせてスムーズに棚卸しができるよう計画を立てていきましょう。

まとめ


棚卸し作業は「在庫を確認する」という単純なものですが、企業にとっては会計や経営に関わる大事な業務のひとつです。会社の環境に適した方法で効率的に行っていきましょう。

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