店舗運営において、人件費削減や人材不足といった問題は、企業にとってなかなか解決が難しい課題でもあります。また、対面での接客を煩わしいと考える顧客にとっても有人店舗は足が遠のいてしまう理由にもつながります。

そこで注目を集めているのが、無人で店舗運営ができる無人店舗です。今回は、無人店舗を実際に運営するには、企業側や顧客側にどのようなメリットがあり、どのようなポイントに注意すれば成功することができるのか、導入事例もあわせて紹介します。

無人店舗とは

無人店舗とは、レジや店頭における人によるオペレーションを排除した店舗のことで、スマートフォンやIDカード、AIによる本人認証技術や、センサーやカメラを導入することでの防犯技術、商品についているICタグやキャッシュレス決済といったさまざまなデジタル技術を用いて運営されます。

無人店舗というと、店舗にスタッフが誰もいないことを連想しますが、実際には無人店舗といってもさまざまな対応のために最小限の店舗スタッフを配置しています。

また、無人店舗に似た言葉として「レジ無し店舗(ウォークスルー店舗)」というものがありますが、無人店舗のなかには、商品を購入するためのスキャンレジを設置しているところもあるため、無人店舗とレジ無し店舗は異なるものであることを認識しておく必要があります。

無人店舗が注目される背景

無人店舗が注目されるようになった背景には、現在日本が直面している少子高齢化や地方の過疎化に伴う労働人口の減少があげられます。経済産業省の2018年版中小企業白書によると、全ての業種で2009年をピークに従業員数が過剰であると答えた企業よりも、不足していると答えた企業が多くなっています(経済産業省ウェブサイトより)。

これにより、企業側としてもこれまでとは異なる運営方法を用いることが必要となり、無人店舗が注目されるようになりました。無人店舗を採用することで、人手不足の解消につながるだけでなく、過疎化が進む地方においても新たな店舗展開が実現できるとあって、今後大きな需要があると考えられています。

参考:経済産業省 中小企業白書 2018 第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命

無人店舗を導入するメリット

新たな店舗展開の形となる無人店舗の導入は、企業側、消費者側双方にとってのメリットがあります。ここでは、無人店舗を導入するにあたってのメリットを企業側、消費者側両方の視点で紹介します。

無人店舗を導入する企業側のメリット

レジや店頭での人的オペレーションが不要になる無人店舗は、企業側にとって人件費の削減という大きなメリットにつながります。また、企業が持つ不動産のなかで現在活用されていない遊休不動産がある場合には、無人店舗の導入により、使わずにいた不動産を活用することが可能です。

さらに無人店舗はスマートフォンやIDカードなどの本人認証をはじめとしたデジタル技術を活用するため、ユーザーの行動をデータ化して蓄積していくことができます。データ分析を行うことにより、新たな需要の発見につながることも考えられます。

無人店舗を利用する消費者側のメリット

消費者が有人店舗を利用する際、スタッフからの問いかけに対応しなければならなかったり、レジスタッフとのやりとりが必要になったりすることがあり、そのためにレジでの順番待ちの時間が長くなることもあります。無人店舗ではそれらの必要がなくなり、商品購入までをよりスムーズに進めることができます。無人店舗を一度体験してみることで、これまでストレスに感じなかった会計時や店舗内でのやりとりも、実はストレスや手間になっていたと明らかになる場合もあります。

無人店舗のデメリット

人件費の削減や遊休不動産の活用といったメリットのある無人店舗ですが、さまざまなデジタル技術を導入するにあたって、防犯のための人感センサーやカメラ、本人認証のための機器やキャッシュレス決済システムなど、初期費用の負担が必要になるというデメリットもあります。ほかにも、キャッシュレス決済について抵抗感を持つ消費者をどう取り込むか、タバコや酒類といった年齢確認を要する物販や公共料金の支払いといったイレギュラー対応についてどうするかなど、導入前に検討しなければならない事柄が多いことも、無人店舗導入のデメリットのひとつと考えられるでしょう。

無人店舗の導入事例

メリットとデメリット両方を持つ無人店舗ですが、すでに導入を実現している企業もあります。ここでは、無人店舗の導入事例として4つの企業を紹介します。

無人店舗の導入事例
  • TOUCH TO Go:高輪ゲートウェイ店
  • 小学館・ジュンク堂・セキュア:DIME LOUNGE STORE
  • 24:スイーツ専門無人販売所
  • RESTA:#古着de行こか。

TOUCH TO Go:高輪ゲートウェイ店

JR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社の合弁会社で2020年に開業した「株式会社TOUCH TO GO」は、ウォークスルー型の完全キャッシュレス店舗です。

店内に設けたカメラなどの情報から、入店客が手にした商品をリアルタイムに認識し、決済時に商品と購入金額をタッチパネルに表示します。そのため、商品をスキャンしたり、対面でスタッフとやりとりをしたりする必要がなく決済が完了し、顧客とやりとりをする場合には遠隔のコールセンターで行います。(2023年6月時点)

参考:無人決済・セルフレジならTOUCH TO GO | 日本で唯一実用化されている無人決済店舗システムの導入ならTTGにおまかせ。コンビニやスーパーといった実店舗からポップアップストア向けまで幅広く展開しております。

小学館・ジュンク堂・セキュア:DIME LOUNGE STORE

株式会社セキュアと小学館『DIME』編集部、丸善ジュンク堂書店が3社共同で2021年4月にオープンさせたのが、未来型AI無人店舗「DIME LOUNGE STORE」です。

「未来の買い物体験ができる無人型AI店舗」をコンセプトとしており、AI顔認証システムや入退室管理システム、監視カメラシステムといった最新AIを駆使しています。顧客は顔認証で入店後、購入したい商品を手に取ったら、退店ゲートに進むだけで自動的に決済が完了するという画期的なシステムです。(2023年6月時点)

参考:AI STORE LAB 企業様向けページ|SECURE

24:スイーツ専門無人販売所

広島県に本社をかまえるコアセキュリティ株式会社が運営するスイーツ専門無人販売所【24】は、コンビニやスーパーでは置かれていない商品や、写真映えするスイーツ、全国で人気を集めるスイーツをメインに提供しています。無人販売所というだけあって、年中無休24時間好きなときに購入が可能で、支払い方法は現金のほかにQRコード決済にも対応しています。定期的に商品の入れ替えを行い、ホームページやSNSを活用して新商品や新店舗の紹介などの情報発信も行っています。(2023年6月時点)

参考:トゥエンティフォー – 広島県初!スイーツ専門無人販売所

RESTA:#古着de行こか。

中古・新古品の再流通を主軸とした事業を展開する株式会社RESTAによる24時間無人営業の古着専門店が「#古着de行こか。」です。

「買い物時にスタッフから声をかけられたくない」「深夜や早朝に店舗が開いていない」といった顧客の要望に対応した店舗づくりとなっており、リーズナブルな商品提供と会計時の簡素化を図るため、商品価格を1,000円から5,000円まで1,000円単位での均一価格を導入しています。無人営業となるセルフレジでは現金をはじめ、クレジットカードやコード決済に対応しており、1,000円単位での均一価格設定により、硬貨詰まりなどの決済端末の故障リスクも排除しています。(2023年6月時点)

参考:古着でいこか。|廃棄される衣類に新たな価値を与え未来を創る – 株式会社RESTA|ヒトとモノが共に輝く社会を実現する

無人店舗を成功させるポイント

さまざまなメリットを持つ無人店舗の運営を成功させるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。最後に無人店舗を成功させるポイントについて3つ紹介します。

無人店舗を成功させるポイント
  • 利用者情報を登録してもらう
  • 無人店舗で利用できる支払い方法を限定する
  • セキュリティ対策を万全にする

利用者情報を登録してもらう

無人店舗が有人店舗とは異なる大きな特徴として、有人店舗での接客場面のような、顧客との接触機会がないということがあげられます。接触機会がないということは、商品選びに迷う顧客に対して適した商品をすすめたり、不審な行動をしている顧客に対して注意を行ったりすることもできないということになります。そこで無人店舗でも把握しておきたいことは、「誰が店舗を利用しているのか」という利用者情報であり、顧客に情報登録をしてもらうことが重要となります。

利用者情報の登録というと、顧客にとっては個人情報を登録することになるため、なかには登録することに積極的になれない人がいることも考えられます。そのため、「登録することで店舗の最新情報を得られる」「利用頻度によってサービスを用意している」といった顧客特典をはじめ、店舗を利用することでどのような希少価値を得ることができるのかということを明確にしておくとよいでしょう。

無人店舗で利用できる支払い方法を限定する

支払い方法については、キャッシュレス決済にまだ積極的になれない顧客もいることから、キャッシュレスと現金決済の両方を採用したくなりますが、無人店舗においては、支払い方法はキャッシュレス決済のみに絞ることがおすすめです。

現金決済を用いる場合、お釣り間違いや機械の硬貨詰まり、釣り銭不足といった不具合が生じてしまうとスタッフによる対応が必要となり、人材確保や管理といった手間も必要になります。また、現金の場合にはレジ締めや現金回収といった作業も有人で行わなければなりません。

無人店舗で人的オペレーションに統一性を持たせるためには、現金決済は行わず、キャッシュレス決済のみで行うほうが、さまざまな手間を省くことができます。

セキュリティ対策を万全にする

無人店舗で欠かせないのは強固なセキュリティ対策です。無人店舗という利便性を保ったままでセキュリティ対策を行うには、まずはカメラやセンサーといった防犯システムの導入が大切です。防犯カメラは顧客からわざと見えるような場所に設置することで、犯罪の抑止力にもなります。

また、予約制の無人店舗を運営するのであれば、暗証番号や時間で顧客にアクセス権限を付与し、来店時間にあわせて対象の顧客のみが入室できるスマートロックの導入もおすすめです。

まとめ


今回は、無人店舗についての特徴や導入事例、成功するためのポイントについて紹介しました。
企業側にとって人件費削減や人材不足といった問題解決を期待できる無人店舗は、接客を好まない顧客にとってもメリットのある店舗運営といえます。システム導入などの初期費用がかかるデメリットやセキュリティ対策などの解決を図りながら、企業側にも顧客側にも利点のある無人店舗を実現してみてはいかがでしょうか。

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