企業にとって、顧客の定着や売上の安定を図る「囲い込み」は重要な戦略のひとつです。見込み顧客との信頼関係を構築し、既存顧客に優良顧客になってもらうためにはどのようなツールを用いて、どのような施策を図ればよいのでしょうか。
今回は、企業における囲い込みの重要性や、囲い込みを図る際におすすめな戦略方法、囲い込みを導入する際の注意点について紹介します。
目次
囲い込みとは?
企業における「囲い込み」とは、既存顧客の維持と、可能性のある見込み顧客を戦略的に取り込むことを指します。新規顧客の獲得は、既存顧客の維持やリピート率向上よりも難しいうえにコストがかかるとされています。そのため、囲い込みの戦略によってコストを抑えつつも利益の安定と増加につなげていくことが重要になります。
囲い込みは、既存顧客といかに良好な関係性を維持できるかがポイントです。リピーターになってもらえたからといって放置するのではなく、自社と関係性を持つことがいかにメリットを得られるかを顧客に理解してもらうことが重要となります。
顧客の囲い込みが重要な理由
顧客の囲い込みが重要な理由を3つ紹介します。
- 顧客の定着を目指せる
- 囲い込みで利益の向上や安定を期待できる
- 顧客情報を蓄積できる
顧客の定着を目指せる
囲い込みが成功すると、既存顧客が継続的に自社の商品・サービスを利用してくれるようになるため、リピート率向上・リピーター増加につながります。リピーターという存在は、自社の売上を支えてくれるだけでなく、口コミなどによって周囲の人に自社の商品・サービスの情報を拡散してくれるというメリットがあります。顧客獲得において、この口コミによる認知拡大という流れは、優良な新規顧客を得るうえでも活躍します。
「口コミマーケティング」については、以下の記事もあわせてご覧ください。
囲い込みで利益の向上や安定を期待できる
既存顧客を維持し、見込み顧客の獲得を目指す囲い込みは、顧客が離脱することなく定期的・継続的に商品・サービスの利用をしてくれることになるため、安定した売上の維持と利益の向上につながります。
既存顧客を囲い込むことと比較して、新規顧客を新たに獲得するには5倍のコストがかかるともいわれています。その理由は、既存顧客はすでに自社の商品・サービスの存在や内容を知っているために、セールスや説明を細かく行う手間がないことにあります。すでに商品・サービスへの信頼を得ている状態から再度購入するまでのプロセスは、認知から購入まで促す必要がある新規顧客に比べて容易なため、一度の売上を作るためにかかるコストが比較的下がるのです。
既存顧客が自社の商品・サービスに対して好印象を持ち、満足してくれることで、より自社にとって有益な優良顧客へと変化する可能性も期待できます。囲い込みにより優良顧客が増えるということは、顧客全体の客単価アップも見込めるのです。
顧客情報を蓄積できる
リピーターとなった顧客からは、購入商品や購入頻度などの顧客情報を継続的に蓄積することができます。長期的に付き合いのある顧客ほど、年単位などの長い期間でデータ化することができるため、販促や新たな商品開発など、マーケティング活動の様々な資料として活用できます。
囲い込みの戦略5選
リピーターとなる顧客の囲い込みを図るためには、どのような方法が有効なのでしょうか。ここでは、囲い込みの戦略として5つを紹介します。
- ポイントの活用
- SNSを駆使する
- インサイドセールスを考える
- カスタマーサクセスのためのツールを使う
- 乗り換えを防ぐ仕組みを設ける
囲い込みの戦略1:ポイントの活用
ポイント制度を導入して、顧客が利用するメリットを作ることは囲い込み戦略の1つです。自社でポイントカードを作成する場合と、Tポイントや楽天ポイント、クレジットカードといった、企業が運営するポイント制のカードに加盟する場合との2つの方法があります。
自社でポイントカードを作成する場合には、来店時や購入時にポイントを付与し、ポイント数に応じた特典を提供するなどの手段が考えられます。紙やプラスチックなどの物理的なポイントカードや、ポイントカードのアプリやウェブサービスの活用もあります。
一方、企業が運営するポイントカードの場合、クレジットカードの利用に応じたポイント付与や複数の店舗で利用できるポイントカードなどがあります。ポイントを多く獲得するために、1社に絞ってポイントカードを利用するケースも考えられるでしょう。
囲い込みの戦略2:SNSを駆使する
X(旧Twitter)やInstagram、Tik TokなどのSNSを活用して、自社の商品・サービスの情報提供を行うことで、見込み客の囲い込みを期待できます。SNSなどのウェブコンテンツを駆使して、見込み顧客に対して中長期的に情報発信を行うことは、マーケティング手法として「リードナーチャリング(見込み客の育成)」と呼ばれており、中長期的なSNS発信により、自社の商品・サービスへの購買意欲を促すプロセスとされています。
例として、服飾店舗でスタッフの着こなし例をInstagramで紹介したり、スタッフが店舗情報をX(旧Twitter)にアップしたりするようなことなどがあげられます。
囲い込みの戦略3:インサイドセールスを考える
顧客と直接対面して営業を行う「フィールドセールス」とは対照的に、メールや電話などを用いて自社内でセールスを行うことを「インサイドセールス」と呼びます。見込み顧客のように、すでに自社の商品・サービスに興味・関心を抱いている顧客に対しては、メールや電話を使って商品・サービスの魅力を直接伝えられる手段であり、定期的な発信がより効果を期待できます。
インサイドセールスは、ヒアリングや適切なアドバイスを行うことで見込み顧客との信頼関係を築くことには適していますが、顧客自身も自覚できていないニーズである「顧客インサイト」を見抜くには不向きであるため、状況に応じて使い分けることも必要でしょう。
囲い込みの戦略4:カスタマーサクセスのためのツールを使う
「カスタマーサクセス」とは、自社の商品・サービスを顧客に長く利用してもらうために継続的かつ積極的に働きかけを行うことです。顧客からの問い合わせなどを受け身で行う「カスタマーサービス」とは異なります。
例えば、顧客の購入した商品・サービスについて特徴や利用方法を説明したり、購入履歴にあわせてアドバイスを行ったりすることがカスタマーサクセスにあたります。中長期的にカスタマーサクセスを続けることで、顧客の囲い込みや信頼関係の構築が期待できます。
囲い込みの戦略5:乗り換えを防ぐ仕組みを設ける
「乗り換えを防ぐ」とは、つまり自社の顧客が競合他社に取られてしまうことを防ぐことです。
「乗り換え防止」は各種携帯電話サービスでの戦略が分かりやすいでしょう。例えば、複数年の継続利用に対して月額料金を割引くことで他社への乗り換えを防ぐ対策や、無料通話分の繰り越しサービスという実質的な値引きで競合との差別化を図るなどの戦略があります。これらは、既存顧客の維持という囲い込み戦略のひとつです。
割引を行う一方で、ある商品から別の商品へ乗り換える際には一定のコストを設けるというスイッチングコストという仕組みもあります。スイッチングコストにはコストを大きくすることで別の商品への乗り換えを防ぐという役割がありますが、それが常態化するとその仕組みを知った新規顧客の獲得が難しくなるというデメリットもあります。
囲い込みを行ううえでの注意点
ここまで、囲い込みの戦略を紹介してきましたが、実際に囲い込みを行う際には気をつけなければならないポイントもあります。最後に、囲い込みを行ううえでの注意点を3つ紹介します。
- 自社のサービスに適した戦略を立てる
- ターゲットを考慮した施策を行う
- ツールやサービスを上手に活用する
自社のサービスに適した戦略を立てる
自社の商品・サービスがB to Bであるか、B to Cであるかによって、適した戦略は異なります。企業を相手としたB to Bであれば、先に紹介した「インサイドセールス」や「カスタマーサクセス」が向いていますし、消費者を相手としたB to Cであれば、SNSで中長期的な情報発信が好ましい場合があります。ただ他社の成功事例や取り組みを真似るだけでなく、自社の商材に適した戦略を立てることが重要です。
ターゲットを考慮した施策を行う
囲い込みを図りたいターゲットを考慮した施策を行うことも重要なポイントです。例えば、長く信頼関係が保たれているような優良顧客に対しては、金銭的な価値だけでなく精神的な価値提供も必要となります。具体的には、優良顧客だけのファンミーティングやイベントへの招待、オリジナルグッズの進呈などが考えられます。
また、会員制サービスやクレジットカードの入会などにおいては、たとえば初年度会費無料というキャンペーンで囲い込みを図ろうとすると、2年目になり会費が有料になった途端に会員の解約が増えるという場合があります。その理由には、企業が図ろうとしている囲い込みの目的と、顧客のニーズがマッチングできていないということが考えられるでしょう。
ターゲットを意識せずに施策を行ってしまうと、期待する効果を得られなかったり、一過性の効果で終わってしまう可能性があります。自社の顧客はどのような人で何を求めているのかを明確にしましょう。
ツールやサービスを上手に活用する
実際に自社で顧客の囲い込みを図る際、営業やマーケティング活動に割ける従業員数は限られているため、従業員ひとりあたりで管理できる顧客数にも限界があります。そこで、限りある従業員数と時間で囲い込みを実践するために、さまざまな用途においてITツールを導入するという選択肢がとられています。
そのツールのうちのひとつが「SFA」と呼ばれるものです。SFAとはSales Force Automation(セールスフォースオートメーション)の略で、「営業の自動化」という意味です。例えば、企業間で商談をはじめてから受注に至るまでの進捗をデジタルデータであらわし、営業活動の効率化を図ります。
もうひとつは「CRM」と呼ばれるものです。CRMは、Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネジメント)の略で、「顧客関係管理」を意味します。CRMは、SFAに似たものとしてとらえられますが、SFAが受注までのプロセスの効率化を図るのに対し、CRMは、顧客データに基づいて、商談履歴以外にも顧客サポートや売上分析といった管理を行う役割となります。
まとめ
今回は、企業にとっての囲い込みの重要性について紹介しました。
囲い込みは、顧客の定着や売上の安定を図るための重要な施策です。SNSやポイントカード、ITツールといった支援ツールを用いて囲い込みを図ることになりますが、それ以外にも見込み顧客との信頼関係を構築し、既存顧客に優良顧客になってもらえるような努力を続けることも必要です。
自社の状況にあわせて、適切な囲い込みの戦略を検討してみてはいかがでしょうか。
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