顧客にとって気軽に注文できて、自宅などでおいしい料理が食べられる、デリバリーに特化したゴーストレストランが近年注目されています。実店舗型のレストランの場合、内装や外装、厨房設備など、開業にあたって必要なものが多くありますが、店舗を持たないゴーストレストランは、どのような段取りを経て開業することができるのでしょうか。今回は、ゴーストレストランについて、その特徴やメリット・デメリット、開業するにあたっての流れについて紹介します。

ゴーストレストランとは?

ゴーストレストランとは、名前から想像すると「実在しないレストラン」のような印象がありますが、キッチンスペースのみを営業スペースとした無店舗型の、デリバリーに特化した業態のレストランを指します。デリバリーに特化していることでコストを抑えられ、手軽に始められるという特徴があります。ほかにも似た業態として「シェアキッチン」「クラウドキッチン」というものがあり、ここでは具体的にどのような違いがあるのかを解説していきます。

シェアキッチンとの違い

シェアキッチンとは、ひとつの厨房スペースを複数の飲食店で “シェア” しながら料理を提供するスタイルの施設を指します。ゴーストレストランという業態の中の1つであり、店内販売だけの店舗もあれば、飲食スペースを設けているところなど、形はさまざまです。

クラウドキッチンとの違い

クラウドキッチンとは、シェアキッチンと同義ともされています。特徴としては客席がなくデリバリーのための調理を行う施設です。また、既存の飲食店の空き時間を利用することもあります。実店舗を持たないため、アプリやインターネット上から注文を受けつけるシステムであるのが特徴です。

ゴーストレストランが増えた背景

ゴーストレストランが増えた背景には、資金面が関係しています。飲食店の開業には、業種によって異なりますが、一般的に500~1,000万円程度の資金が必要とされていて、さらに飲食店の持続率はそれほど高いものでもありません。

つまり、ゴーストレストランはそのようなリスクに対応できるということから注目を集めたといえます。デリバリーに特化した特徴によって、夜だけ営業をしている飲食店の日中の空き時間を間借りしたり、共同で厨房スペースをシェアしたりすることで初期費用を抑えられることから、ゴーストレストランが増えているということが考えられます。

ゴーストレストランを開業するメリット

実店舗を持たずにデリバリー専門で行うというゴーストレストランを開業するのには、どのような利点があるのでしょうか。ここではゴーストレストラン開業によるメリットを3つ解説します。

ゴーストレストランを開業するメリット
  • 初期費用や運用コストを抑えらえる
  • コンセプトやメニューの変更がしやすい
  • 売り上げが天候に左右されない

初期費用や運用コストを抑えらえる

一般的なレストランを開業する場合、客席や内装・外装などさまざまな費用がかかり、設備投資などを含めれば数百万~1,000万円もの費用が必要となります。一方、ゴーストレストランでは、客席を用意する必要がないことから、初期投資を安く抑えられます。さらに居抜き物件を活用したり、先に紹介したクラウドキッチンを利用したりすることで、最低100万円程度から出店が可能です。また、従業員に関しても2人程度で運営ができるため、人件費を抑えることにもつながります。

コンセプトやメニューの変更がしやすい

店舗型の飲食店では、コンセプトの見直しを図りたいとしても、新たなコンセプトにあわせて内装・外装などを一度に変更するには莫大なコストがかかります。一方、ゴーストレストランであれば、コンセプトの見直しで変更が必要なのはメニューくらいのため、さほどコストはかかりません。

そのため、すでにある飲食店が新たなコンセプトを打ち出してみたいという場合などには、万が一それが失敗しても経済的なダメージの少ないゴーストレストランを出店して反応を見るという方法もあります。

こちらの記事では、飲食店におけるコンセプトや考え方、アピール方法について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

飲食店におけるコンセプトとは?考え方やアピール方法も紹介

売り上げが天候に左右されない

店舗型の飲食店の場合、天候によって客足が左右されることがあります。しかし、デリバリーに特化したゴーストレストランの場合は、顧客はアプリやインターネット上から注文すればよいため、雨天で出歩くのが面倒という場合にはむしろ利用者が増えることも期待できます。

ゴーストレストランを開業するデメリット

気軽に開業できそうなゴーストレストランですが、デメリットがあるということも理解する必要があるでしょう。ここでは、ゴーストレストラン開業で考えられるデメリットを3つ紹介します。

ゴーストレストランを開業するデメリット
  • デリバリーに限られるため集客が難しい
  • お客様とのつながりを作りにくい
  • デリバリーサービスのプラットフォーム利用に手数料がかかる

デリバリーに限られるため集客が難しい

デリバリーサービスが普及している現在においても、なかにはデリバリーサービスを利用したことがないという方もいます。そういう方にとってのデリバリーサービスの利用はハードルが高く、顧客になりにくいことが考えられます。また、ゴーストレストランは実店舗を持たないため、通りすがりの顧客の獲得も難しいでしょう。さらに、ゴーストレストランのようなデリバリーサービスも競合は存在することから、メニューに独自性を持たせるなどの差別化の工夫も必要です。

お客様とのつながりを作りにくい

飲食店の場合、コミュニケーションの蓄積でリピーターにつながったり、新たな顧客を連れてきてくれたりするという、顧客との信頼関係の構築も大きな集客ポイントになります。しかし、ゴーストレストランの場合は顧客はインターネット上から注文するだけのため、コミュニケーションを図る機会がないというのが弱みともいえます。そこで、注文の際にメッセージカードを添えたり、SNSを使って店舗の紹介をしたりするなどの、実店舗がないからこその構築方法を考える必要があるでしょう。

デリバリーサービスのプラットフォーム利用に手数料がかかる

ゴーストレストランのなかでも、フードデリバリーサービスの業者として登録するのであれば、手数料が必要です。業者に頼らず自社で配達を行うという場合でも配達スタッフに対する人件費がかかるため、フードデリバリーサービス登録時にかかる配達料や商品掲載料というのは、避けられない費用といえるでしょう。

また、顧客側でも配達手数料は発生しているため、配達コストとメニューの良し悪しに大きな差が生じないような工夫や、競合地域の価格帯や競合の商品の分析が重要です。

ゴーストレストラン開業までの流れ

ゴーストレストランを実際に開業するためには、どのような流れをたどっていけばよいのでしょうか。必要な申請や契約などを詳しく紹介します。

ゴーストレストラン開業までの流れ
  1. キッチンや人材の確保
  2. 必要となる許認可の申請
  3. デリバリーサービスのプラットフォームとの契約

①キッチンや人材の確保

客席や人件費のかからないゴーストレストランとはいえ、厨房スペースや最低限のスタッフは確保しなければなりません。ゴーストレストランのために貸し出している運営会社の物件であれば賃貸契約が必要となり、自店を運営するにあたり、料理提供に関する導線などの確認もあわせて行います。また、配達に関しては、自店で配達員を確保するか、フードデリバリーサービスと契約するかとを検討して決める必要があります。

②必要となる許認可の申請

店舗をもたないゴーストレストランであっても、飲食店と同様に許認可の申請が必要です。火器を用いて調理をする際に必要な「防火管理者」をはじめ、「食品衛生責任者」「飲食店営業許可」も自店で取得しなければなりません。フードデリバリーサービスとの契約を行う際、事業者の名称が異なっていると審査が遅れることも考えられるため、物件の運営会社がそれらの許可を取得していたとしても、自店で取得しておいたほうがトラブルは少ないと考えられます。

③デリバリーサービスのプラットフォームとの契約

デリバリーに特化したゴーストレストランの場合で、自店でスタッフを雇えないのであれば、フードデリバリーサービスとの契約が必要になります。フードデリバリーサービスといっても、審査は容易であっても審査自体が厳しくて時間がかかる場合や、登録するにあたってメニュー数などある程度のハードルがあるものなど、各社さまざまです。自店にあったサービスを比較検討しましょう。

ここまでの開業の流れで、およそ1か月〜2か月が必要になります。自身で決めた開業日から逆算して、いつまでに何を行えばいいのか、目安を把握しておきましょう。

ゴーストレストランを始める際に注意しておきたいポイント

ゴーストレストランの開業を決定する前に、金銭面や運営面において注意しておかなければならないことがあります。最後に、ゴーストレストランを始めるにあたっての注意点を3つ解説します。

開業形態により初期費用が変わる

同じゴーストレストランであっても、どのような状態から開業するかによって、初期費用が変わってきます。下記の表では、設備が全く整っていない状態から始める場合、クラウドキッチンの運営会社と契約して始める場合、すでに飲食店を運営している場合の3つのパターンに分けて紹介してます。

設備が全く整っていない状態から始める場合、物件の確保からキッチン設備など、幅広い準備が必要となります。クラウドキッチンの運営会社と契約して始める場合は、契約費用や店舗の家賃などが必要となります。すでに飲食店を運営している場合、フードデリバリーサービスとの契約費用やタブレットの用意程度で比較的低コストに抑えられるでしょう。

ご自身の開業形態によって、発生する初期費用が変動するため、どのくらいの費用がかかるか下記の表を参考にしてください。

開業形態 必要となる初期費用
設備が全く整っていない状態から始める場合 数百万円〜1,000万円
クラウドキッチンの運営会社と契約して始める場合 100万円程度~
すでに飲食店を運営している場合 数万円

プラットフォーム利用によるコスト発生も見積もっておく

フードデリバリーサービスに登録する際には、売上手数料のほかに、タブレットなどの環境を準備するというコストも発生します。フードデリバリーサービスの売上手数料は30〜35%が目安とされていて、タブレット導入にあたってもアプリの導入などが必要です。

また、ゴーストレストラン運営会社と契約する場合には、売上に応じた売上連動型の賃料が発生する場合もあります。複数社を調べてみて、平均的にかかる費用を開業時や運用時のコストに踏まえておく必要があるでしょう。

市場の変化への対応が必要になる

ゴーストレストランという形態は、近年注目を集めて始めたビジネスモデルのため、新規参入が多いだけでなく、インフラや運営のノウハウなども含めた市場の変化が著しいともいえます。実店舗がないゴーストレストランの場合、競合の動きが見えにくいということもあるため、常に先の動きを予想して市場の動向も踏まえて積極的に情報収集することが重要です。

まとめ

今回は、ゴーストレストランについて、その仕組みやメリット・デメリットについて紹介しました。ゴーストレストランは実店舗を持たないデリバリーに特化した業態であることから、比較的低予算で開業できるメリットがある反面、顧客とのコミュニケーションがインターネット上だけのために集客に困難が伴うというデメリットもあります。

ただし、店舗がない分、コンセプト変更が簡単であり、人件費も抑えられるなどのメリットもあるため、まずは飲食店を始めたい方や、新たな形態に挑戦したいという飲食店の方は、メリット・デメリットに注意しながらチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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