飲食店を経営するために必要なこととは?

「飲食店を開業するには、具体的にどうすればよいのだろう?」
「飲食店経営をするうえで、必要な資格や準備物とはなんだろうか?」

飲食店経営をしたことがない人にとっては、このような疑問や悩みを抱える人は多いもの。実際にはこれらの事前知識がないままに飲食店経営を始めることもできますが、必要な手続きが漏れていたり、思っていたような利益を上げられず廃業に追い込まれる可能性が高くなってしまいます。

飲食店経営をする前には、取得すべき資格や申請すべき事項、店舗をオープンさせるための資金や開店までの手順など、知っておくべき知識がたくさんあります。ここでは、飲食店経営に必要な知識を身につけたうえで開業できるよう、項目ごとにわかりやすく説明します。

開業までの流れや必要な資格を解説

飲食店を開店させるための流れは、以下の7つのようになっています。
飲食店開業までの流れ
飲食店経営をスムーズに始めるためには、これらの流れを理解したうえで計画的に準備を進めていくことが大切です。ここからは、飲食店を開店させるまでの流れにおけるそれぞれの工程について詳しく説明します。

①コンセプトを考える

飲食店経営をするにはいくつかの手順がありますが、コンセプトを考えることは最も重要なポイントだと言ってよいでしょう。それは、コンセプトを明確にしておくことで、店舗の運営方針に一貫性を持たせられるからです。

実際にコンセプトを考える際に意識しておくべきポイントは、以下の9つです。

Why そもそもなぜ飲食店経営をするのか
When いつ飲食店をオープンするか
Where どのエリアでどのような飲食店を開くか
Who どのようなメンバーで飲食店を運営するか
Whom どのような層に向けて飲食店を運営するか
What どのようなメニューやサービスを提供するか
Which 重点的にアピールする商品はどれか
How どのように飲食店の認知度を広めるか
How much どれくらいの時間と費用をかけて飲食店を開くか

これら1つひとつのポイントを具体的に考えておくことで、お客様に店舗のイメージを持ってもらいやすくなります。また、将来的に運営方針で悩んだときも、これらのコンセプトに基づいて適切な判断を下せるので、安定的な店舗運営がしやすくなります。反対に、コンセプトが曖昧なままではターゲットとなる顧客のイメージが掴めなかったり、メニューやサービスの内容や価格設定などが顧客にあわなかったりと、経営上のリスクや失敗に繋がってしまう可能性があります。表の項目を参考に、できるだけ細かく具体的にコンセプトを詰めていくことが大切です。

なお、コンセプトを考える際は机のうえだけですべて完結するわけではありません。出店する候補となる地域に足を運び、道行く人にはどのような人が多いのか、どのような料理が好まれるのか、競合となりうる飲食店はあるのか、といった情報を調査することも、コンセプトを考える工程に取り入れましょう。

②事業計画をつくり物件を決める

コンセプトができたら事業計画をつくりましょう。事業計画が具体的に立案できていれば、飲食店経営を始めたあとの運営をスムーズに進めることにつながります。開業するために必要な資金や売上の見込み、運営にかかる経費などを根拠を考えながら具体的に算出しておきましょう。

事業計画は銀行から融資を受けるうえでも必要になります。飲食店経営を始めるためにまとまった資金を融資してもらう必要があるという人は、しっかりと計画を立てておきましょう。

事業計画書の書き方について詳しくしりたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。

飲食店向け事業計画書の書き方!テンプレートや書くべきことを紹介

また、資金調達前のこの段階で物件選びも進めましょう。物件の家賃やエリア、業種などの情報は融資を受けるうえでも必要になります。そのため、契約したい物件を見つけたら先に仮押さえをしておきましょう。

予算や立地などのすべての条件が魅力的な物件や、店舗のコンセプトに適した物件を探すのは簡単ではありません。時間や費用がかかることもあるため、なるべく余裕を持って物件探しを始めておくことが大切です。

③メニューを開発する

メニュー開発も早い段階で進めておくとよいでしょう。提供するメニューによって必要な食材や設備にかかる費用も、事前にある程度把握できれば資金調達の参考になります。

メニューを決める際は、店舗のコンセプトに適しているかを常に意識しておくことが大切です。店舗として打ち出したい売りと、ターゲットとなる顧客が求めているものを考えながら、メニューの種類や使用する食材などを具体的に決めていきましょう。なお、利益ができるだけ残るような原価率になっているかなど、費用や価格の面も細かく確認しておくこともメニュー開発の重要な要素です。

また、メニューは競合と比較される要素にもなるので、他のお店とかぶるような定番商品ばかりになっていないか、差別化できるメニューがあるか、なども考えておきましょう。

④資金調達をおこなう

事業計画が整い必要な費用などがわかったら、資金調達をおこないます。飲食店経営をするために必要な資金は店舗によって大きく異なりますが、開業するための資金はもちろん、店舗の売上が安定するまでの運営費用や生活費は十分まかなえるようにしておきましょう。

資金調達は、自己資金だけでは足りないケースも多いです。状況に応じて金融機関や補助金、助成金などの制度を使って融資を受けることも検討する必要があります。

⑤設備や備品を購入する

設備や備品を購入する際は、事前に何をどれくらい購入するかを計画しておくことが大切です。買い忘れが発生したりむやみに買い増しを繰り返してしまうと、準備に時間がかかるだけでなく、場合によっては予算超過にも繋がります。将来も見据えながら計画的に進めましょう。

また、1つ1つの設備や備品も、店舗の外装や内装と同様にお客様に与える印象を大きく変化させます。そのため、設備や備品を選ぶ際も、店舗のコンセプトを意識しながら統一感を持たせられるようにしましょう。

⑥開業に必要な申請や手続きをおこなう

ある程度開業の準備が整ったら、開業に必要な申請や手続きをおこないます。たとえば「飲食店営業許可」の申請は、飲食店経営をするすべての人が保健所に申請しなければなりません。個人で飲食店経営をする場合は、税務署に「個人事業主の開業届出書」を提出する必要があります。

経営する飲食店によっては、消防署や警察署などでの手続きも必要です。手続きを忘れてしまうと思わぬペナルティが発生してしまう危険性があるので、余裕を持って漏れなく申請や手続きをおこなえるようにしておきましょう。

⑦スタッフの採用・育成をおこなう

スムーズに飲食店経営をするには、必要なスタッフを確保しておかなければなりません。スタッフを採用する方法には、家族や知人に声をかけたり、広告やハローワークに求人を出したりする方法があります。時期によってはすぐにスタッフを確保できないこともありえるので、余裕を持って人材確保をおこなうことが大切です。

また、事前にスタッフのトレーニングをおこなうことも必要です。開店直前に採用しても、うまく働けず現場が混乱してしまう可能性があるので、開店前から余裕をもってスタッフを育成しておきましょう。必要に応じてマニュアルを用意しておくと、経営者が不在であってもルールやコンセプトに沿った店舗運営やサービスの提供ができるようになります。

飲食店経営に必要な資格

飲食店経営にあたって、以下の2つの資格を取得しておく必要があります。

飲食店経営に必要な資格
  • 食品衛生責任者
  • 防火管理者

また、必須の資格以外にも取得しておけばお店のアピールになるような資格も存在します。ここでは、飲食店経営において必須である「食品衛生責任者」と「防火管理者」の取得方法やなぜ必要とされるのか、その他に取っておくとよい資格には何があるのかを解説します。

食品衛生責任者

食品衛生責任者は、食品衛生に関する仕事を運営管理する役割を持つ人に取得が義務付けられている資格です。この資格を持った人がいないにも関わらず飲食店経営をすることは認められていないので、忘れずに取得しておく必要があります。

食品衛生責任者の資格を取得するためには、各都道府県が定期的に開催している食品衛生責任者養成講習会を受講しなければなりません。資格取得試験と聞くとハードルが高いように感じるかもしれませんが、公衆衛生学や衛生法規、食品衛生学の講習は1日ですべて受講できます。資格取得に多くの時間を割けないという人でも取得しやすいので、あらかじめ講習会の日程を確認しておきましょう。資格取得にかかる費用は10,000円程度です。

なお、調理師や栄養士、製菓衛生師や食品衛生監視員といった所定の資格を持っている人は講習会の受講が免除されるので、事前に要件を確認しておくとよいでしょう。

防火管理者

飲食店経営をする場合、必ずと言ってよいほど火や電気を使うため、火災のリスクはゼロではありません。そのため、店舗の収容人数が30人以上であれば「防火管理者」を選任しておくことが義務付けられています。防火管理者は、営業開始までに所轄の消防署に届け出ることになっています。店舗の収容人数には、お客様だけでなく従業員も含まれているので、営業開始までに防火管理者の選任が必要かどうかを確認しておきましょう。

また、防火管理者には甲種と乙種の2種類があります。防火管理者を選任する義務がある場合、甲種と乙種どちらに該当するかを把握しておくことが大切です。具体的な基準は、以下のようになります。

  • 延床面積が300平米以上:甲種防火管理者
  • 延床面積が300平米未満:乙種防火管理者

事前に店舗の延床面積が決まっていれば、どちらを取得すればよいかを判断しやすいです。まだ物件が決まっていない人や、将来的に店舗を拡大する予定がある人は、甲種防火管理者を取得しておくことで防火管理者としてのすべての要件を満たせます。

店のアピールになりやすい資格

飲食店を経営するうえで必須というわけではないものの、取得しているとお店の宣伝やアピールポイントに繋がる資格もあります。

例えば、店舗でお酒を提供する場合には「お酒にまつわる資格」が候補となります。カクテルやワイン、ビールなど、お酒の種類などにあわせてソムリエやアドバイザーなどと呼ばれる資格や検定が存在します。特定のお酒などに関してさまざまな知識を有していることの証明になるので、店舗の売りになるほか、料理に合ったお酒をおすすめできるようになるなど、サービスレベルの向上にも繋がります。

その他にも、栄養や調理法などの知識を証明する「調理師免許」や、日本料理や中国料理などのジャンルごとに分けられた専門的な免許もあります。

資格の種類はさまざまで、それぞれ取得方法や費用なども異なるため、提供する料理やコンセプトなどにあわせて取得しておくと良さそうな資格があるか調べておきましょう。

飲食店経営に必要な申請

届出 届出先 対象となる店舗 届け出る時期の目安
食品営業許可申請 保健所 全店舗 店舗が完成する10日~2週間前
防火管理者選任届 消防署 収容人数が30人以上の場合 営業開始まで
火を使用する設備等の設置届 消防署 火を使用する設備を設置する場合 設備設置前まで
防火対象設備使用開始届 消防署 建物や建物の一部を新たに使用し始める場合 使用開始7日前まで
深夜酒類提供飲食店営業開始届出書 警察署 深夜12時以降お酒を提供する場合 開業10日前まで
風俗営業許可申請 警察署 スナック・キャバクラなど接待行為をおこなう場合 開業の約2ヶ月前
個人事業の開廃業等届出書 税務署 個人で開業する場合 開業してから1カ月以内

飲食店経営をスタートするには、資格の取得だけでなく、関係各所へ必要な申請をおこなわなければなりません。

たとえば、食品営業許可申請は、飲食店経営をするすべての店舗が保健所に届け出る必要があります。また、建物や建物の一部を新たに使用し始める場合は、消防署に届け出る義務が生じますし、経営をするのが個人であれば、税務署に個人事業の開廃業等届出書を提出しなければなりません。このように、店舗の形態によって必要な申請が異なるため、事前にどの手続きが必要かを知っておくことが大切です。

飲食店開業に必要な資金は?

飲食店経営をするには、開業するにあたって必要な資金について知っておくことも大切。場合によっては、借入れをおこなうことで開業資金をまかなわなければならないケースもあるため、あらかじめどれくらいの資金が必要かを計算しておきましょう。

ちなみに、日本政策金融公庫の国民生活事業が2018年4月から同年9月にかけて融資した企業のうち、融資時点で開業後1年以内の企業を対象におこなったアンケートによると、開業費用の平均値は1,055万円となっています。どのエリアで飲食店経営をするのか、物件を賃貸するのか、リフォームするのかなど、人によって必要な資金は異なります。しかし、一般的に飲食店経営を始める人がどれくらいの資金を必要としているのかを把握しておくことで、準備すべき資金を考えやすくなるでしょう。

ここからは、飲食店経営を始めるために必要な資金について、詳しく説明します。

出典:日本政策金融公庫 2019年度新規開業実態調査

店舗の取得や工事に必要な費用

飲食店経営をするには、店舗を取得しなければなりません。すでに店舗にする物件を所有している人は取得費用を節約できますが、多くの人は飲食店を開業するために物件を探さなければなりません。

物件を借りるための費用として家賃が注目されがちですが、初回契約時に敷金(保証金)を求められるケースが一般的。保証金の相場は家賃の10~12ヵ月分と言われているため、家賃によってはある程度の資金が必要になる場合があります。物件の契約に費用をかけすぎると、そのほかの部分に資金を回せなくなる危険性があるので、あらかじめ物件を取得するためにどれくらい費用をかけられるかを決めておきましょう。

また、店舗によっては物件を取得するだけでなく、リフォームをするケースもありえます。リフォームする程度によっても一定の資金が必要なので、物件取得費用とあわせて考えておくことが大切です。

運転資金

飲食店経営を長期的に継続するためには、運転資金を確保しておくことも大切です。それは、たとえ飲食店をオープンできたとしても、その後の経費をまかなえなず経営が苦しくなることも考えられるからです。飲食店経営を軌道に乗せるためには半年程度かかると言われているため、余裕を持って準備しておきましょう。

もちろん、開業直後にうまく利益を出せるケースもあるでしょう。しかし、万が一資金が少なくなってしまうと、適切な経営判断ができずうまく利益を出せなくなる危険性があります。長期的な視野で飲食店経営をするためにも、やはり余裕を持った資金準備が重要です。

自分の生活費

飲食店経営のことばかり考えていると、自分の生活費を確保するのを忘れてしまいがちです。たとえ飲食店が運営できていたとしても、自分の生活を維持できなければ飲食店の経営どころではなくなってしまいます。

生活費にどれくらいの資金が必要かは、人によって違うもの。そのため、家賃や水道光熱費、食費や教育費用など、日常生活を安定させるためにどれくらいの費用がかかっているかを把握しておくことが大切です。生活に関しても、運転資金と同様に飲食店経営が軌道に乗るとされている半年程度を目安に用意しておくと、余裕を持って経営できるでしょう。

まとめ

ここでは、飲食店経営をするために取得すべき資格や申請すべき事項、店舗をオープンさせるために必要な資金や開店までの手順について説明しました。これらの知識を身につけておくことで、効率的に開店準備を進められるだけでなく、将来的に健全な飲食店経営を維持しやすくなるでしょう。

経営する飲食店のジャンルや規模などによって、考えるべきコンセプトや準備する資金、必要な手続きに違いがあります。しかし、大まかな流れはどの飲食店においても共通しているので、基本的な知識を身につけておくことは重要です。ここで説明した内容を参考にして、余裕を持って開店準備を進められるようにしておきましょう。

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